めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第二十一話:時詠の決意

突如乱入してきた善吉と名瀬。

そして善吉は時詠に勝負してくれと頼み込み……時詠はそれを受けた。

 

「じゃあ、行くぜ時詠」

 

「ああ……」

 

だが、それを見ている13組の13人。

名瀬も加えて、人数も戻ってきたが……

 

「名瀬、お前」

 

「……今の人吉じゃ、無理だ。なら手っ取り早く強くするには」

 

「それで霞を選んだってか?……逆効果だと思うがねえ」

 

高千穂がそういうのも理由がある。

彼も、いやここで時詠と戦ったものは皆わかっていることだ。

 

「ああ、それと人吉」

 

「ん?」

 

「怪我に気を付けろ」

 

「何を」

 

その瞬間、善吉は目の前に来ていた時詠に反応できなかった。

驚く中で……時詠は、右手の人差指で善吉の額を軽く突く。

 

「今のでもうやられてるぞ?」

 

「!?」

 

慌てて善吉はバックステップ。

だが……

 

「遅い」

 

追いかけるように時詠は迫る。

善吉はその時詠に対し、目を細め右の回し蹴り。

それは洗練された動きであり、とても素人のものではない。

さらに時詠の動きを目でしっかり追っているのだ……宗像との戦いは、彼を成長させている。

 

(だけど)

 

逆に言えば、時詠には善吉の動きもしっかり見えている。

宗像との超高速戦闘、先の高千穂の超反応を間近で見たせいだろう。

いや……時詠自身もトキの力を使うために、神様と地獄の特訓をしてきているからだ。

 

 

 

(俺のは本当に本を、この場合漫画か? 読んでなきゃわからないだろうな……)

 

 

 

努力家な善吉のことだ。

以前都城との戦いで見せたことで、時詠がどんな格闘技を扱っているか予想してきているはず。

もっとも、あてはまるものがあればだが……時詠は善吉の蹴りを避ける。

 

避け続ける

 

攻撃はせず、ただ善吉の……猛攻撃を避け続けていた。

粉塵が舞い上がるほど、善吉の蹴りは鋭い。

鋭いが……避ける。

 

(刀も人吉は弾く、だっけ……俺は正直、尊敬する)

 

宗像との戦いで見せた善吉の強さ、その想いを貫く信念。

それは、時詠が一番興奮したシーンだった。

その彼が、今目の前にいる……13組の13人とはまた別で

 

(……俺は)

 

と、急に善吉の脚が出なくなった。

どうやら怒っているように見える。

 

「霞てめえ! なんで攻撃してこねえだよ!」

 

「……ちょっと考え事があって」

 

「カッ! 随分余裕じゃねえか!」

 

善吉の言葉。

彼は……正直、時詠の得体のしれない感じに恐怖していた。

あの地下13階で見せた戦いを、善吉は忘れない。

しかしそれで引き下がるわけにはいかないのだ。

 

(霞がなんだろうと、俺は!)

 

と、時詠が両腕を前に突き出す。

そして……体を、左右にゆっくり揺らし始めた。

いつもの、時詠の構えである。

 

(……あの構え)

 

名瀬はそんな時詠の動きを全て見ている。

実際、善吉の方はあまり見ていないようにも感じられた。

 

「人吉」

 

「?」

 

「先に謝っておくよ……ごめん」

 

「な、なんだよ急に」

 

「完膚なきまで」

 

目を、細める時詠。

空気が……静まり返る。

 

 

 

「叩き潰す」

 

 

 

瞬間、善吉は寒気を感じ両腕で前を覆う。

そこへ突き刺さる痛み。

時詠から感じられた気配……それに、善吉は勝手に腕が動く感じがしていた。

 

「っ!?」

 

しかし善吉は吹き飛ばずしっかり地面に足をつけている。

今のは時詠が右の手刀を放ったようだが……顔面コースである。

だが、善吉が感じたのは……違う。

 

(寒気!?)

 

阿久根と戦ったとき、宗像と戦ったとき。

それぞれでいろいろな、戦いの気配……そのどれとも違う、寒気。

 

(腕が……)

 

それだけではない。

時詠に突かれた両腕……それが、力が抜けるかのように落ちたのだ。

善吉の意思が伝わっていないのか、両腕はだらっと落ちたまま。

 

「くっ!」

 

すぐさま蹴りを主体に体を動かす善吉。

それでも、腕が動かないせいで体のバランスがうまくとれず……さっきよりばらつきが見れる。

時詠はそのまま……善吉の蹴りを空振りさせる。

蹴り合いなどいらない、空振りさせ続ければ善吉は自滅していくだろう。

さらに時詠はそこへ裏拳による当身を喰らわせる。

 

「がっ!」

 

吹き飛ぶ善吉。

だが、その背後に……すでに時詠がいた。

いつ移動したのか、見えないメンバーもいる中……右手の手刀で善吉を地面にたたきつける。

善吉が受身もとれず、床でバウンドする瞬間。

時詠は両腕を前で軽く交差させるように回し

 

 

 

北斗有情断迅拳

 

 

 

左右交互に旋回しながら手刀を繰り出し、最後に真横に大きく切り裂く。

駆け抜けた後……善吉は、立ち上がることはなかった。

本来の北斗有情断迅拳ならば、ここで善吉は……おそらくあまり人に見せれない顔のままはじけ飛んでいる。

だが、時詠もさすがに秘孔を突くことはしていなかった。

僅かにずらしてはいるものの、その鋭い突きの連打は善吉の意識を刈り取るのに十分だ。

 

(人吉……ここでもう一度、倒れて這い上がってくれ)

 

時詠は構えを解く。

善吉は気絶しているのか、ピクリとも動かない。

 

「……名瀬先輩、これでいいんですか?」

 

「ああ、人吉も色々わかっただろうさ………………俺もな」

 

「?」

 

ぽつりと名瀬が言った言葉。

時詠にはよくわからなかったが、とりあえず善吉を介抱することに。

だが、先ほどの時詠の動きに高千穂と宗像、裏の六人は心を奪われたかのように呆けていた。

 

それほどまでに、華麗な動き

 

善吉を抱き上げ、見えないように軽く秘孔を突く。

これで回復力を多少あげれるはずだ。

 

「……う」

 

「人吉、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……霞、やっぱお前すげえな」

 

ゆっくり身を起こす善吉。

どうやら秘孔の効力である程度は問題ないようだ……痛みをごまかした程度だが。

 

「そんなことないさ」

 

「いやっ、あの動きはデビルかっけーよ!」

 

「……あはは、ありがとう」

 

善吉は時詠の動きを素直にすごいと感じているのか、かなり声に力が入っている。

だが時詠から言わせてもらえば、善吉はあの宗像とあそこまで戦い合った人間。

ぶっちゃけると

 

 

 

(最近……普通の定義がよくわからねえんだよなあ)

 

 

 

なので逆に時詠からすれば、善吉の方こそデビルかっけーと言いたい。

それは転生前に何度も思っていたことだった。

 

「しかし、こんなのでよかったのかな?」

 

「十分だぜ! 名瀬先輩から頼ま……頼んで今強化してもらってるしよ、これも修行なんだ」

 

一瞬言い直した善吉は、背後にチラッと注射器を見せた名瀬にびびったらしい。

しかし、名瀬はどうして時詠を相手にしたのか。

名瀬を見ると、何やらジッと時詠を見ている。

 

「な、名瀬先輩?」

 

「……霞、お前のことは大体わかった」

 

「?」

 

「霞~今度はお前の動きを見きってやるからな!」

 

それだけ言い、唐突に名瀬は善吉を引っ張るように連れていく。

善吉はありがとなと声をかけ……二人は出ていった。

 

「霞君、君は……」

 

「宗像先輩、人吉は強いですね」

 

「え?」

 

(そう……俺は神様に能力もらってなきゃ、ここに立つことすらできないから)

 

善吉は、めだかのそばに居続ける。

それがどれだけ茨の道かを、幼いころから知りつつもだ。

 

(……彼だって才能はある、でも俺は……努力もせず、手に入れただけ)

 

無論、下地を作るための努力はした。

だが……それだけだ。

 

(北斗、神拳……俺は)

 

今、なんのために戦っているのか。

それは、簡単なことだ。

 

「先輩方」

 

「?」

 

「……俺が過負荷と戦うのは、もう一つ別の理由があるんです」

 

時詠はそう切り出し、口を開く。

 

「転校してきた過負荷の中に、自分の姉がいるんです」

 

「姉だって!?」

 

高千穂が驚きの声。

他のメンバーも、さすがに驚いているようだ。

 

「はい……」

 

「霞、お前……昔から過負荷と一緒に暮らしてたってのか?」

 

「……俺は逃げたんです、姉から。でも、姉さんは俺を追ってきている」

 

その言葉が、とても弱弱しい。

ここ数日だけ一緒にいた彼らでさえ、時詠がこういった声を出すことにも驚きのようだ。

しかし、時詠は伏せていた顔を上げる。

 

「今度は、逃げない……だから俺は真正面から、ぶつかるんです」

 

「だから最初俺たちに声をかけてきたのも、そっからか?」

 

「……本当は私的なことに先輩方を巻き込みたくはないのですが、他に……頼れなくて」

 

「にひひっ! 気にするな霞! 俺たちは先輩だぜ?」

 

高千穂に対し、少し沈んだ時詠の声。

それを一蹴するかのごとく明るい声を出すのは……糸島だ。

 

「お前は俺らを頼ってくれたよな? そんなデリケートな問題によ……アブノーマルの俺らを」

 

「そうです、本来私たちを利用するならともかく……頼られるなど、なかったですから」

 

「うん……正直、嬉しい、と思ってる」

 

百町も筑前も。

 

「何より、組の違う私たちを先輩としてみてくれる霞君を助けてあげたいので」

 

「そうだな、大切な後輩の悩みを放っておけん」

 

鶴御崎も、上峰も。

 

「霞には沈んでる姿は似合わねえってな」

 

「僕たちにとって……君は生徒会の彼らともまた違う、大切な存在だからね」

 

「……私も気に入ってるからねー」

 

高千穂も、宗像も、湯前も。

13組の彼らは、時詠と出会ったことでまた一つ変わっていった。

生徒会のメンバーとの出会いとは違う、また別の形。

 

(……ああ、なんかスッキリした)

 

胸にある、ぬぐえない何か。

それを今……ぶちまけた。

転生したとか、トキの力……だが、今時詠はここにいるのだ。

 

 

 

家族がいる、信頼できる友達がいる

 

 

 

時詠が言ったことは、黙っていた姉の存在。

敵である過負荷にいるということで、害を負わされた彼らは許さないのではと。

しかし……いらぬ心配だったようだ。

 

「先輩方、俺は姉さんと向き合います……過負荷とか、じゃない。大切な家族ですから」

 

スッと、普段の顔に戻っていた。

それを見た彼らは……頷く。

 

(後ろで支えてくれる人がいる……なら俺は、戦える)

 

もう前のようにはならない。

そして……もう一度、時詠は姉と一緒に笑い合いたいと。

 

「俺は、過負荷の連中とも……決して分かり合えない、とは思えないんです」

 

「……それは僕ら以上に厳しい道じゃないかな?」

 

宗像は声を出す。

時詠には、その意味がなんとなく分かっていた。

特に彼のアブノーマルは、マイナスに近いものだから。

 

「皆さんと訓練を始める前、俺はすでに過負荷のメンバーと接触していました」

 

「……続けろよ」

 

高千穂は腕を組んだまま。

ジッと時詠を見ている。

 

「生徒会のメンバーは強力な戦力を組み込むこと、自身の強化……いえ、凶化を選択しました」

 

「ふむ……確かに至極当然といえばそうですが」

 

百町は口元に手を当てる。

それに時詠は頷くが

 

「だけど、それだけじゃだめなんです……過負荷と向き合うのは、立ち向かう心と体だけじゃ」

 

「……君はどうするの?」

 

湯前はガムを膨らますのをやめる。

その声は、他のメンバーが効いたことのないような真剣なものに聞こえていた。

 

 

 

「立ち向かうんじゃなく、受け止める……そのための心と体も必要なんだって」

 

 

 

最初から相手を否定することではない。

だから立ち向かのでなく……それを理解するためにも。

 

「今の箱庭学園は、過負荷を追い出すことで一杯でしょうね」

 

「……まあ、そうだろうな。お前の言っていた内容があるなら」

 

「鶴御崎先輩、俺だってそう思います……でも追い出したって、彼らは変わらない」

 

「!?」

 

その言葉に一同は目を見開く。

そして気づく……変わらなければ、追い出したところでいずれ

 

「また、どっかで同じようなことをするか戻ってくるか……なら、今が逆にチャンスだって」

 

「……やな奴を追い出してはい終わり、ではいかないってことか」

 

「はい……だけど過負荷と戦う生徒会がどう思っているのかが……」

 

「霞君、私は君の言ってること……いいと思えますよ」

 

上峰がほほ笑む。

 

「あの生徒会長のことはいろいろ聞いていますし」

 

「うん、私も心配ない、と思う」

 

筑前は髪をかき分け、そう答えた。

時詠には……そんな言葉も、すごく嬉しいのだ。

 

「はい、俺も信じています……正しすぎる生徒会ってのを」

 

「だな……それに、俺はあの都城をブッ飛ばしたお前や黒神がいるならなんの心配もしてねーぜ?」

 

「そ、それを言わないで下さいよ高千穂先輩!? 結構気にしてるんですから!」

 

「俺もブッ飛ばされたからな」

 

「ぐっ……先輩方、意地悪です」

 

高千穂が笑いながら時詠の首に腕を回し、そこに鶴御崎がボソッと言う。

時詠は酷くばつの悪そうな顔になっていく。

その言葉と顔に他のみんなが笑い……あの湯前も、口元が少し穏やかなものになっていた。

 

「ごめんください~」

 

突然声が響く。

一同がそちらを向くと

 

「あっ、霞君発見!」

 

「古賀先輩?」

 

なんと古賀だった。

しかし彼女は入院用の姿で……まだ体は治りきっていないはずだが、どうしたのだろうか。

 

「ってあれ……元13組の13人ほとんどいるじゃん! 裏の六人まで!」

 

「古賀じゃねえか……もう体はいいのか?」

 

「高千穂先輩……はい、少しずつですが。でも霞君がいないと思ったらみんないっしょだったんだね」

 

「おうおう、古賀まで来るとはいよいよそろってきたなここも」

 

糸島が苦笑しながらそういう。

確かに、先ほどまで名瀬もいたのだからある意味学園にいる元13組の13人勢ぞろいだ。

 

「ん、でも今日はちょっと別件……霞君、ちょっと軍艦塔に来てほしいんだ」

 

「……他の人たちは特訓中では?」

 

「今は休んでるけど、少し用事があるの……いいかな?」

 

「わ、わかりました……みなさんすみません、今日は」

 

「大丈夫ですよ、今日は私たちも引き上げますから」

 

百町がそう言い、他のメンバーも特に異論はないらしい。

なのでこのまま解散することに。

 

「では、また次回もお願いします」

 

「それじゃ霞君借りてくね~」

 

霞は一同に頭を下げ、そのまま古賀と共に出ていく。

用事とはいったい何なのか。

二人は軍艦塔へ向かって歩いて行った。




リアルの事情などで遅くなり申し訳ありません。
次回は少し時詠の過去が出てきます。
そして今後、時詠は過負荷とどう向き合うか……ご期待ください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

「命は投げ捨てるもの」

時詠がこうならないといいなあ。

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