めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第二十話:悲しき異常

温泉から上がった一向。

もう帰宅すること言うことで、エレベーターへむかうが

 

「……湯前先輩、少しいいでしょうか?」

 

訓練の続きは明日ということになり……ふと、時詠は湯前を呼び止める。

彼女は相変わらず無気力な目を向けてくる中、百町は彼女に「少し話していってみては?」と声をかけた。

湯前は予定もないのか、どうでもいいのか……時詠の誘いに乗るようだ。

最後に出ていく高千穂がとてもいい笑顔で去っていく中、二人だけがそこに残った。

 

「それで用件は?」

 

「貴方のアブノーマルについて」

 

「へーわかったのー?」

 

「……まあ、正直に言います。自分の使う拳法と貴方のは似たようなものですし」

 

「……」

 

時詠は自身の見解を話していく。

自身が使う北斗神拳での戦い方は、激流を制するは静水。

だが彼女は……その静水なのだと。

自身の攻撃はないが、あらゆる激流の流れに身を任せ……受け流す。

なので攻撃は効かず逆に相手へ攻撃もしない。

どっちにもつかない、故の【宙ぶらりん】ではと。

そのため、もしかしたら精神的な攻撃には滅法弱いのではないかと時詠は考えている。

物理攻撃無効であるなら、あの螺子の攻撃は精神的なものだったのではと。

すると

 

「すごいねーよくわかったねー」

 

あっさり答える彼女。

だが、時詠にはどうもそれだけには思えない。

 

「言葉まで流すなよ、湯前 音眼」

 

「……」

 

「どうして俺をしっかり見ないんだ?」

 

「協力するのも仲間なのも設定。その方が楽じゃない?」

 

声は変わらない。

しかし、時詠は続ける。

 

「この世の中、面白くない?」

 

「どうかなーつまらないかなー」

 

「死にたいと思う?」

 

「死ぬのもいいかなー」

 

彼女の声は変わらない。

ずっと変わらない。

持っているものは生まれつきのものであり、制御する気があるのか、それともないのか。

時詠は目を細める。

 

 

 

「俺が天国に連れて行ってあげよう……と言ったら、どうします?」

 

「それもいいねー」

 

 

 

少し威圧を込めても、流されているようだ。

彼女にとって生きるのも設定。

本当に流れていくだけの人生。

人それぞれとはいえ、そんなものに意味があるのだろうか。

 

(……これで過負荷じゃない、んだよな……どっかで幸せになりたいと)

 

湯前もそのはず。

だから裏の6人といえど、13組所属なのだ。

自身の姉を知っているからこそ、過負荷でないともわかるのだが……

 

(ちぇっ……一度死んだ身から言えば、なんて幸福な人だ)

 

それでも時詠が湯前に親近感を抱けるのは、彼女のアブノーマルによるものか。

今の彼女はどうしたいのかわからない。

しかし、幸せになりたいのであればまだ……

 

「先輩、帰りのエレベーターお願いします」

 

「いいよー」

 

とりあえず今日は戻ることにする。

なので、階段でなく……数少ないエレベーターを使える湯前に頼み込んだ。

すでに他のメンバーは皆上に上がったらしい。

エレベーターのパネルを湯前は適当に押しているように見えるが……あっさり、開く。

 

「入ろう」

 

「はい」

 

二人はそのまま乗り込んだ。

ドアが閉まり、独特の音と共に上昇していく感覚。

 

「君はやっぱり変わってるね」

 

「そうですか?」

 

「私たちに声をかける人はいないから」

 

「そこは人間、いろんな奴がいますし……個性じゃないかと」

 

「個性ね」

 

湯前が珍しくよくしゃべると。

先ほど百町はそう感じていたのだろう。

 

「ついた」

 

一階に到達し、ドアが開く。

すでに帰った後か……誰もいない。

 

「先輩はこれからどうするんですか?」

 

「んー特に何も。家でも何もしてないし」

 

「……送っていきますよ、さすがに遅いですし」

 

「そう。じゃあ帰ろ」

 

あっさり答える。

やはりすることも特になさそうだった。

時詠は鞄を持ち直し、湯前と一緒に校門を出る。

 

「二人は一緒に帰るようですね」

 

「……いい、のかな?」

 

「これぞ青春だな!」

 

百町、筑前、糸島が小声で言っている。

他のメンバーも後ろにいるようだが……どうやら隠れて様子をうかがっているらしい。

 

「で、霞はどんな感じだ?」

 

「ふむ……湯前を家に送る、と言っているな」

 

「さすがにこの距離では私たちでは聞こえませんからね……」

 

鶴御崎のサイボーグとしての能力は、鉄球を溶かすだけではないようだ。

ある程度聴力も上がっているらしい。

 

「……しかし、こう言っては何だがいいのかい?」

 

「宗像~お前だって気になるだろ?」

 

高千穂がそういうが、宗像は無表情。

どっちかといえば、彼はあまり関わるのはまずいと思ってるようだ。

と、そんなことをやっている13組の13人とは別で……時詠と湯前は家路に。

 

「先輩、一人暮らしなんですか……」

 

「そう。親も私がそばにいたらねー」

 

「……俺も一人暮らしですが、違うと思いますよ?」

 

湯前は自宅ではなく、アパートらしい。

一人暮らしだが、両親の仕送りだけで生活していると。

 

「今年の一年はみんな元気だね」

 

「そうですか……いや、そうですね」

 

「会長も会計も庶務も……君も」

 

湯前がこんなにしゃべるとは予想外だった。

時詠もてっきり冥加がさらに寡黙になった感じを予想していたのだが……

 

「先輩は、結構おしゃべりなんですね」

 

「意外?」

 

「ええかなり……でも、だんまりよりずっといいです」

 

「そう」

 

感情がこもっていない声。

だが、ちゃんと受け答えはできるだけいい。

 

「でも先輩方はこれからどうするんですか?」

 

「どうもこうもないよー計画がないならもう」

 

「……先輩も、変わろうと思えば変われると思います」

 

「そうかなー」

 

歩きながら会話していく中、どうやら彼女の住むアパートに着いたようだ。

しかし……中々年季がありそうなアパート。

 

「あ、結構近くなんですね」

 

「そうなの?」

 

「はい、俺はあっちなので」

 

意外に近くに住んでいたことに驚くが、湯前は特に変わらないようだ。

湯前はそのまま時詠を見るが

 

「なんなら、これから学園に行くとき迎えに行きましょうか?」

 

と、冗談っぽく時詠はいう。

普通断られると思っていたのだが

 

「いいよー」

 

「……え?」

 

「迎えあると楽だし……どうせ暇だから」

 

湯前はあっさり許可をだす。

というより、無気力な彼女は普段何もしていないのだろうか?

 

「先輩?」

 

「私にこんなたくさん話してくれるのは君ぐらいかもねー」

 

「なら今度、俺の友達も紹介します。みんなで色々話しませんか?」

 

時詠は湯前に聞いてみた。

正直に言えば、彼女なら同じ13組でもある冥加とも……ノーマルの鬼瀬とも友達になってくれるのではと。

同じ女性といっても、やはり人には相性がある。

 

「まあいいけど」

 

「そうですか、彼女たちも喜ぶと思いますし!」

 

「……君って意外に強引なんだね」

 

「それが必要な時は」

 

苦笑しながら時詠はそう答えた。

湯前は表情が変わっていないが、それでも拒否は感じられない。

少しずつでいいが、わかっていこう。

 

「ではまた明日……おやすみなさい」

 

「待ってるねー」

 

そう言い、時詠は自身のマンションへ向かい歩き出す。

と、それを後ろから見ていた面々は

 

「青春だなあ」

 

それぞれがぼやいたようだ。

しかし、彼らも時詠と接することで色々なことが見えた。

繋がりもまた、増えていくことに……今はまだ気づいていないが。

そうして翌日……時詠は湯前のアパートに来ていたのだが

 

「おはよー」

 

「着替えてください」

 

何を見たのかは言わず、そそくさと湯前を追い返す。

しばらくドアの前で待ち……彼女が、まあ普段の格好なのでそのまま登校する。

といっても……やはり行きかう人々の視線を彼女一人が集めているのだが。

 

「……先輩」

 

「なに?」

 

「視線が」

 

「いつものことだよ」

 

本当に気にならないのだろうか?

しかし……こういった部分も、やはり彼女のアブノーマルに関係しているのか。

身なりに無頓着、というものでもない。

 

(こりゃ裏の6人の中で一番厄介だなあ)

 

そう思いつつ、時詠と湯前は校門から時計塔地下へ向かう。

湯前と他愛のない会話をしながら、彼女も色々TVを見ているのか話は弾む。

と、再びエレベーターに乗り込み……11階についた。

 

「おはようございます」

 

すでに他のメンバーはそろっており……今日の相手は

 

 

 

「待ってたぜ霞……今日は俺だからな!」

 

「……今度は、負けないからね」

 

 

 

『棘毛布』の高千穂 仕種。

『髪々の黄昏』の筑前 優鳥。

もう準備は万端だ。

 

「……では」

 

時詠も、ここに来る前に少しだけ体をほぐしてある。

湯前はいったん時詠から離れるようだ。

 

「お願いします」

 

「行くぜ!」

 

「行くよ」

 

互いに構え、先制は……筑前。

彼女が再び髪を伸ばし、それが時詠に向かう。

不規則な髪の束が前と左右、上空から迫ってくる中

 

「ユクゾッ」

 

北斗無想流舞で即座に脱出し、そのまま髪を伸ばしたままの筑前に迫る。

だが……その前に立ちはだかっていたのは高千穂。

 

「お前ならそう来ると思ったぜ」

 

「せいっ!」

 

時詠の右ストレート。

その攻撃は常人では見きれぬもの……だが、高千穂はしっかり反応していた。

右腕を下から左腕で弾かれ、右の回し蹴り。

しかし時詠はすでに後退しており、その蹴りは空を切る。

 

「ひゅ~……さすだがぜお前」

 

「いえいえ……高千穂先輩、反応速すぎですって」

 

と、再び筑前の髪が時詠に。

この二人も前衛後衛がしっかりできており、意外に隙がない……が

 

「髪が貴方を引き寄せる!」

 

時詠が避けた筑前の髪をつかみ、思いっきり引き寄せる。

これで体勢を崩す……と思いきや

 

「残念♪」

 

髪が伸び続け、引いたはずが……筑前はその場から動かせない。

逆に一瞬動きを止めたことで、伸び続けた髪が時詠をぐるっと巻き付いていく。

 

「っ!?」

 

「もらったぜ」

 

そこへ歩み寄るように……違う、そう見えるだけ。

スッと踏み込んでいた高千穂。

その右膝蹴りが時詠に叩き込まれる……と思いきや

 

「まだっ!」

 

時詠が髪の拘束を……なんと、切り裂いていたのだ。

それもただの素手で、である。

南斗水鳥拳を使ったようだ。

 

「なにっ!?」

 

高千穂の膝は再び空を切り、当たったのは切り裂かれ地に落ちようとしている髪の毛だけ。

時詠が高千穂の上空を跳躍し……そのまま筑前へ。

 

「これで!」

 

「どうかな?」

 

だが、時詠の手刀が髪のガードで防がれている。

あらかじめ予想していたのか、拘束が解けた瞬間防御の用意をしていたようだ。

 

「君の攻撃、見切ったよ」

 

「まだまだ!」

 

高千穂がくる。

それを知りつつ時詠は同じように髪を……指で切り裂く。

しかしすぐにその体を右へ大きく横っ飛びさせたのだ。

 

 

 

髪のガードを切り裂いた瞬間、異様に伸びた10本の爪が時詠に刺さるところだった

 

 

 

筑前が自身の爪を伸ばしている。

異様に長く、鋭い。

 

「……むう、筑前のアレは久しぶりですね」

 

「そうだなあ……前に小競り合いがあった時以来じゃないか?」

 

「それほど霞君が脅威と感じられたのでしょう」

 

百町、糸島、上峰がそう言う。

どうやら髪に目が奪われがりだが、彼女は爪を使っても攻撃ができる。

遠距離と思いきや、近接戦闘も可能なのだ。

 

「……危ない危ない」

 

「よく、避けた……ね」

 

「俺を忘れてねえか!」

 

時詠の背後に高千穂。

目の前にはすでに突っ込んでくる筑前。

今、時詠の意識は完全に筑前に向けられていたが

 

「!?」

 

後ろに目があるのではと思えるほど、鋭い後ろ蹴り。

正確無比なその一撃は、高千穂にガードさせたほどで……反応してはいるが、威力は殺しきれず吹き飛ぶ。

 

「むっ……」

 

「……霞は後ろに目があるのだろうか?」

 

「へー」

 

宗像、鶴御崎、湯前が今の時詠の動きに目を見開いていた。

完全に死角であり高千穂の動きも鋭い。

だが、それにしっかり反応していたとしか思えない。

 

前にいる筑前は近接もできるが、それでも時詠には効かなかった

 

当身を胸に喰らったようで、同じように吹き飛び壁に激突する。

それが決定的な一撃だったようで、壁に背を預け座り込んでしまう。

 

「かはっ」

 

「筑前! くっ」

 

時詠の先の攻撃。

あれを見た高千穂は

 

「お前……まさか俺と同じなのか?」

 

「……どうでしょう」

 

先の時詠の動き。

その動きは、まさに高千穂の動きにそっくりであるが

 

 

 

北斗神拳奥義【無想陰殺(むそういんさう)】

 

 

 

気配を読み、殺気との間合いを見切ることで、無意識無想に繰り出されるという必殺の拳。

確かに高千穂の動き……その反応は驚くものばかりだ。

しかし、その発する気配は場所をしっかり時詠に教えてくれる。

 

反応するのは、高千穂だけの特権ではない

 

もっとも、今はめだかも行えるのだが。

時詠にとって現在のめだかはそこまで脅威と考えていないのである。

 

「……やめとくわ」

 

高千穂は両手を上げる。

時詠は訝しげな顔になるが

 

「お前の強さは十分知ってるし、これから機会はまだまだあるしな……宗像の歯止めが効かなくなるって意味、わかったぜ」

 

「……そうですね」

 

どうやら本番は生徒会戦挙が終わるまでお預けらしい。

この時期……二人そろって万が一の大怪我は避けたいようだ。

 

「高千穂先輩、筑前先輩。ありがとうございました」

 

「うーん、やっぱり君は強いね」

 

「ははっますます今後が楽しみになったぜ!」

 

筑前と高千穂は笑顔で時詠にそう言い放つ。

時詠は二人に一礼し、戻ってきた。

 

「にひひ! さすがに高千穂もやばそうだったじゃねえか?」

 

「おいおい糸島、霞はそこらの一年じゃねえんだぜ?……楽しみはとっておくさ」

 

「そう、だね……今は怪我してまで行うのはまずいし」

 

「先輩方とこうしてぎりぎりまで戦えるのも、ある意味必要なことですから」

 

正直に言えば、怪我させず秘孔を突くというのもある。

だが、あれが万が一通用しない場合を考え……肉弾戦も視野に入れることにしたのだ。

そのために、手加減もできなければならない。

 

「さって、次は俺と」

 

「私ですかね」

 

糸島と百町。

二人がそろって前に出ていくが

 

 

 

「ちょっと待った!」

 

 

 

それを遮る声。

だが、時詠には聞き覚えのある声……一同がその方を向くと

 

「霞! 次は俺と戦ってくれ!」

 

「……」

 

そこにいたのは、驚くことに善吉と……名瀬。

13組の13人は、それぞれ声を出す。

 

「名瀬!? お前……」

 

「……名瀬総括、君は」

 

「悪いが糸島先輩に百町先輩、ここはこいつに譲ってやってほしい……霞」

 

名瀬は濁ったような目でジロッと時詠を見る。

そして隣にいる善吉は、すでにやる気が全身から感じられるほどの気合いだ。

 

「……先輩方、すみませんが」

 

「あ~……わかったよ」

 

「仕方ないですね、君も乗り気のようですから……」

 

驚くことに二人はあっさり引き下がる。

まあ、名瀬が珍しく頼み込む事情も気になるのだろう。

 

「ははっ、まさかお前までとはな」

 

「……俺はただこいつを改造している最中なだけです」

 

「そうかい」

 

「人吉君……君が名瀬君と一緒とはね」

 

高千穂と宗像。

彼らもやはり二人の登場に驚いているようだが

 

「カッ! こっちは正直助かってますがね……霞! 頼む、俺と戦ってくれ!」

 

「……ああ、いいぜ」

 

「ありがてえ」

 

善吉が出てくる。

時詠も同じように出ていき……名瀬は、そんな二人を見ている。

 

(見せてみろ霞。お前が使う技は、俺の予測が正しいかを)

 

この戦いは……名瀬が仕組むと同時に、善吉を鍛えるため。

時詠はどうするのか……そして、生徒会戦挙の行方はどうなるか。

そして時詠と善吉が、構え合った。

 




次回テーレッテー!
急げめだか、善吉が危ない!
めだか「善吉の命は後僅か……消えよ、死兆星!」

全て嘘です

ここまでよんでいただきありがとうございました。

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