めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第十九話:修行、そして温泉

時計塔地下11階。

ここにある球技場……そこで動く二つの影。

 

ユクゾッユクゾッユクゾッユクゾッユクゾッ

 

北斗無想流舞で高速移動する時詠。

だがそこに、もう一つ……宗像だ。

時詠の動きにも反応し、その一つ一つについて行っている。

ギャラリーの目では、すでに追い切れていない。

 

宗像の手刀が時詠の手刀を弾く

 

超高速で動くことで、音も発生してはすぐ重なる。

互いに一撃を入れようとしているが、攻撃が中々当たらない。

 

(速いっ!)

 

(……ここまでとはね)

 

時詠と宗像は今、互いに出せる最高のスピードのはず。

それが拮抗し……時詠も、秘孔を突こうにも相手をとらえきれない。

宗像も暗鬼を使うことは自身の速度を緩めてしまうため、素手のみ。

素手では時詠に当てれない。

 

「ははっ……速いですね、先輩」

 

「君のその素早さが羨ましいね……だから殺す」

 

時詠も宗像も、肩で息をし始めていた。

すでに超高速戦闘に入り……この二人の間では、大した時間は経過していない。

だが、宗像の顔は笑みが浮かんでいる。

 

「……二人の体には加速装置がついてるのか? サイボーグとして私もそのうちつけたいと思っていたが」

 

「どう、だろうね……でもあれじゃ、私だったら一瞬でやられちゃう」

 

「本当すげえなあいつら~……うかうかしてられねえよこりゃ」

 

鶴御崎、筑前、糸島。

それぞれが感想を口にしていくが……

 

「あいつがノーマルだなんてなあ、サイコロ占いじゃ普通だったが信頼できねえな」

 

高千穂があきれた声。

その占いも実は意味があるものだったが、やはりいまだに気づいていないようだった。

それに他のメンバーも同調している。

と……二人は一時戦うのをやめ、こちらに来ていた。

 

「おや? どうしました?」

 

「百町先輩、これ以上はちょっとまずいので」

 

「そうだね……本気でお互い、歯止めが利かなくなりそうだ」

 

「……なるほど」

 

百町が頷く。

時詠と宗像、スピードでは互角。

だが、そうなると今度は足を止めることになるかもしれないからだ。

 

「どうするの? 私の番だけど」

 

「……あ、ちょっと少し休憩を」

 

「ん~連戦だからねえ、わかったわ」

 

湯前がそう言い、一時休憩に入るようだ。

すでに宗像と戦う前、鶴御崎と上峰のペアと戦い

 

 

 

ジョイン ジョイントキィ

 

 

 

前回の続き……をしたらしい。

今度は二人ともパワーアップ、とのことだったが……上峰の防御も間に合わず、一緒にボールになっていた。

リベンジに燃えていたようだが、悲しいことにおそろいでやられたようだ。

 

「しかし、本当に霞君は強いです」

 

「まったくだぜ~……霞、お前って前世はどこぞの有名な拳法家じゃないか?」

 

「……どうでしょうね」

 

上峰と糸島の言葉に、なるべく普通な声で返す。

前世はともかく、神様に力をもらいました……なんて口が裂けても言えない。

結局、時詠は自身の力など努力した分だけでほとんどトキのものなのだから。

 

「……よし、では湯前先輩。お願いします」

 

「了解ー」

 

「湯前、そろそろ先輩としてガツンと頼むぜ~?」

 

「あー頑張るー」

 

ものすごく棒読みなのが気になるが、彼女のことを知っている面々は何も返さない。

時詠からすればかなり力が抜けるような感じだが……

 

(さて……ある意味、俺の攻撃が効くかわからない人だけど)

 

「始める?」

 

「はい、お願いします」

 

時詠はいつものように、両腕を前にし体を揺らす。

だが湯前は……ガムを噛んで、手は相変わらずオーバーオールの中。

なんともやる気が感じられないが、彼女にとっては通常運転。

 

「行くぞっ!」

 

瞬時に懐へ飛び込む時詠。

その右拳が、反応できない湯前の腹部にのび

 

「わーやられちゃったー」

 

「!?」

 

拳がめり込む、ではなく……貫通し背中から出ている。

確かにそういった描写はあったが、やはり実体験すると……かなり怖い。

時詠は目を丸くし、すぐに腕をひっこめる。

 

(……やっぱり、彼女はどっちかといえば防御メイン?)

 

自身の攻撃ではなく、こちらの攻撃を無力化する。

それが彼女の能力なのだろうか……むしろ、関わる気がないから異常なのだろうか?

 

「……はっ!」

 

時詠は続けて連続で拳を、蹴りを放つ。

容赦なく見えるが、これもすべて……貫通し、薙いで通り過ぎたり。

まったく効いていない。

 

(っ……しかし、彼女のアブノーマルは攻撃的なものじゃない、体が水みたいになる…………水?)

 

と、おもむろにトコトコと普通に時詠は近づく。

ギャラリーが訝しげな顔になっていると

 

スッと、右手が湯前の頬に触れる

 

それは貫通することもなく……ただ、彼女の頬に触れていた。

少しだけ手が沈むが、やはりさっきのように埋まったりしない。

 

「……お、おい霞。お前」

 

「いえ……ふふっ、そういうことだったんですね。湯前先輩」

 

「……負けちゃったー」

 

と、彼女はそのまま両手を万歳。

目の前でいろいろ揺れる物体があり、時詠はすぐさま目をそらす。

 

「……ほう」

 

と、百町が何か感心したような声。

高千穂や宗像は、時詠が普通に湯前に触れていたことに驚いていたようだが……

 

球技場に予鈴の鐘が鳴る

 

どうやらすでに下校時刻らしい。

時間を見れば、すでに五時近く。

 

「もうこんな時間……すみません、今日はこれまでで」

 

「そうだなあ、面白いもん見れたしよ! 続きは次回にすっか」

 

「すみません……あ、それと」

 

と、時詠は全員とメールアドレスと番号を交換を頼んでみた。

するとみな、すぐにOKを出しており……時詠の携帯にまた多くのアドレスが追加されていった。

携帯をしまい、全員が帰り支度をする中

 

「おい霞、お前も今日はどうだ?」

 

「え? なんですか高千穂先輩?」

 

「ああ、悪い。実はな……ここにある温泉、今日はお前も使っていくか?」

 

「……いいんですか!?」

 

驚きの声を出す時詠。

以前来たときは素通りしてしまったが、その広さは中々のものだった。

 

「そうだな、久しぶりに使うか~湯前! いいだろ?」

 

「いいよー」

 

「だそうです……まあ、私も久しぶりに入らせていただきましょう」

 

「……僕はまだ使ったことがなかったな、いい機会かもしれない」

 

「後輩との触れ合いも大事だな」

 

糸島、百町、宗像、鶴御崎。

男性陣は皆乗り気らしい。

女性陣はというと

 

「悪くありませんね、やはり一汗かいた後なので」

 

「そう、だね……」

 

「じゃあ行こうかー」

 

皆、意外にノリがいいメンバーだった。

時詠からすれば、原作を読んでいてもわからない部分がこうも出てくることにも驚いている。

そうして一行はエレベーター……糸島がすぐさまパネルを操作し、ドアが開く。

 

「このエレベーター、確か使える人があまりいないと聞いてますが」

 

「にひひ! まあ裏の六人の俺らと雲仙くらいだなっ」

 

「……なるほど、高千穂先輩と宗像先輩は」

 

「生憎、この前も話したんだが……俺と宗像じゃ精々拒絶の門止まりさ」

 

やはり異常性にも差がある。

しかし、こうして話してみれば意外にわかることも多かった。

と、目的の階層に着いたのかドアが開く。

 

「私は少し管理室みてくるからどうぞー」

 

「よし霞~行くぞ!」

 

「はい」

 

湯前と他の女性陣は女湯へ。

時詠らは男湯へ。

しっかり脱衣所まで用意されており、いったいどれだけの投資がされているのか。

 

「……霞、お前脱ぐとすごいな」

 

「そうですか?」

 

「その年でそこまでとは……どんな修練を積んできたんですかね、興味があります」

 

高千穂と百町は、時詠の鍛えられた身体に少々驚いている。

しかし、宗像は納得の顔だ。

 

「あの動きも、納得だ……君は本当に努力家だね、人吉君と似ているよ」

 

「人吉ですか……あいつは正直、俺以上ですよ」

 

「そうなのか? あの一年とは結局話すことがなかったからな」

 

鶴御崎は顎に手を置く。

しかし、その体はやはりサイボーグゆえかどこか機械的な部分も見えた。

そうして腰にタオル、と準備をし……浴室へ。

 

「うわあ……こりゃすごい」

 

「だろ? 閉鎖なんてもったいない気持ちがわかるぜ」

 

「そうですね……二学期からの一般公開も楽しみです」

 

高千穂の言葉に納得である。

一応、現状では閉鎖中となっているがこんな場所にくる者も少ない。

二学期からは一般生徒にも開放されるのだ。

全員がお湯で体を流し、湯船につかる。

 

 

 

「……温泉はいいねえ」

 

 

 

ぼそっとそういう言葉がもれる。

しかし、疲れた体には効果抜群だった。

なにやら効能がどうたらこうたらあったが、今は無視した。

 

「しかし霞、正直生徒会は勝てそうなのか?」

 

「……難しいと思います、現状では」

 

「私たちが一斉にかかっても彼ひとり倒せなかったことから考えても、かなり厳しいですね」

 

高千穂に百町の言葉。

球磨川が来たときは結局、受けたダメージがすべて治ってしまうというものらしいが……

 

(回復、じゃないんだよなあアレ……確かにそう見えるけど)

 

すでに知っている時詠。

だが、実際はマイナスのメンバーと戦うにしてもいろいろ問題がある。

 

「しかし、霞は結局生徒会側なんだろ?」

 

「いえ、糸島先輩……正確にいえば、俺は他の一般生徒を守ることですかね」

 

「なるほど、風紀委員として戦うということか……つらいな」

 

「鶴御崎先輩の言うとおりですけどね、せっかく雲仙委員長から許可も出ていますし」

 

「彼が、か……それだけ君が気に入られてるんだろう」

 

百町はそういうが、時詠はそう思ってはいない。

単に実力を見られているだけだと。

しかし

 

「そういえば霞君」

 

「はい?」

 

「君は湯前のような女性が好みなのかな?」

 

「ぶっ!?」

 

いきなり何を言い出すのかと、時詠はむせる。

しかし、百町は真面目な顔。

 

「な、何をいきなり」

 

「なんだ!? 霞はそうなのか?」

 

「そうだったのかい?」

 

「にひひ! そりゃ面白いなあ」

 

「ほうほう」

 

他の先輩方は興味なさげに見えたが、意外に食いついてきた。

やはりこういうところはまだ10代なのだろう。

 

「べ、別にそういうわけじゃ」

 

「ふむ、しかし彼女を何度か見ていたようだが?」

 

「……そりゃまあ」

 

百町は中々よく見ているようだ。

まあ、時詠からすれば……あんな恰好で視線を集めない方がおかしい。

さっきも言ったが、時詠も10代の健全な男子。

色々気になってしまうものもある……あと、巨乳スキーでもある。

 

「正直、気になるといえばなりますけど」

 

「お、やっぱそうなのか?」

 

「高千穂先輩、すげえ楽しそうですね……」

 

「ははっ、そりゃ俺たちの中じゃそういった話は出ないからよ」

 

「確かにそうだ……しかし、それは湯前にとっても悪い話ではなさそうだ」

 

鶴御崎も続く。

彼等は彼らで、仲間としての意識も少しずつ変わりだしているのか。

それとも単に興味があるのか。

 

「霞君は僕ら相手にも畏怖したりしないし、それは湯前にとってもいいことだと思うよ」

 

「宗像先輩……」

 

「それにな、俺も仲間の幸せってのは大切だと思うんだぜえ?」

 

糸島がそう言い、霞の肩をポンポンと叩く。

裏の六人としても、実質リーダー的な彼はそう思うのだろう。

 

「……まあ、私から見て湯前は中々君に興味を持っていたようです」

 

「ん? 百町、そう見えるのか?」

 

「あまり自信はありませんがね……彼女はどっちつかずの人間でもありますし」

 

確かに。

だが時詠には、湯前と自分は結構相性がいいと思えていた。

そのためか、何度か見ていたのかもしれない。

 

「まあ、そういった話題は少し」

 

「なんにせよ、あいつが一番人付き合いができねえからよ……霞、頼むわ。俺らより会ったばかりなお前の方がいいかもしれねえ」

 

「……できる限りは。それに、俺の友達にもいますからね……そういう子」

 

糸島の言葉に、時詠は冥加を思い出す。

彼女も努力はしているのだが、まだまだ言語の壁は厚いようだ。

 

「と、そろそろ出ましょうか……向こうの女子たちにも」

 

「あ、それなら」

 

時詠はおもむろに、桶を一つ。

それを軽く地面に打ち付け……コーンコーンという音が響く。

しばらくし、女風呂の方から桶の音が。

 

「悪くないね」

 

「確かに……では、出ましょうか」

 

宗像と百町の言葉を受け、男子らは立ち上がり脱衣所へ。

女子らも向こうの方でいろいろ話していたようだが、それはまた別の話。

両グループはそうして温泉から上がり、出口で合流したのだった。




ここまで読んでいいただきありがとうございます。
今回は13組の13人との修行や時計塔施設の利用。

宗像が持っていた暗器の総重量、500kg以上あるそうですが……さすがアブノーマル

彼はガチな時詠と一番まともに戦えそう、と考えていました。
なので互角のスピード、またはそれ以上かなと。
……湯前のアブノーマルについて、時詠はある考えに至りました。
それは次回で……意外に相性がいい二人な気もしますw
彼らも10代の高校生なら色恋沙汰とか気になるはず……百町のアブノーマルは【初恋】ですが、アレはまた別な感じがしますけどね。
ここから下は、消えたデータ部分のを思い出して書いたものです。



没ネタ【入浴前のワンシーン】

時詠は他のメンバーと共にエレベーターを待っている最中、ふと口を開く。

「そういえば、ここってアニメだったら巨大ロボでも隠されていそうな場所ですよねえ」

「「「「「「「「……」」」」」」」」

「……え、なんで黙るんですか?」

「霞、それ以上は言うなよ」

高千穂が目をそらしたまま言う。
しかし

「……ここの電力や、温泉を沸かしているのって」

「それ以上言わないことだよ」

宗像までもが目をそらしていた。
いや、全員目をそらしている。

(……まさか、あのアニメのOPにあったアレか!?)

思い出される都城のアレ。
時詠は……考えるのをやめたようである。



以上、おまけでした。

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