めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第十六話:宿命の岐路

箱庭学園に現れた球磨川 禊。

そして……転校してきた他の過負荷達。

それらに対処するべく、今軍艦塔のある一室では作戦会議が開かれていた。

生徒会メンバーと名瀬に古賀、真黒……そして善吉の母である瞳もいる。

 

ボードには阿久根がまとめた現在の状況が書きしるされていた

 

メンバーたちはそれぞれの意見を言っていく。

だが、どれも実現が難しいものばかりだ。

 

「この際いっそ風紀委員会と同盟でも結ぶか?」

 

善吉はかつて敵だった風紀委員との同盟を提案する。

しかし、それは冥利がいてこそ出来るであろう作戦で……今のままでは、無理だった。

 

「そうでもないよ?」

 

「!?」

 

突然声が聞こえ、見ると……ドアの付近に、時詠がいたのだ。

ノックをしようとし、風紀委員のことが聞こえ……そのまま入ってきたのである。

 

「霞君!」

 

「霞……お前」

 

「こんにちは、古賀先輩、名瀬先輩」

 

時詠は軽く手を振り、そのまま中に入る。

だが、そこに一人の幼女……に見える、女性がいる。

 

「……君は」

 

「こんにちは、噂の転校生……人吉 瞳さん」

 

瞳が何か言う前に時詠は口を開いた。

だが、今日の用件は彼女ではなく

 

「霞同級生……貴様が来たのは、雲仙委員長の指示か?」

 

「いや……生憎だけど、風紀委員は皆動かないみたいなんだ」

 

時詠は今朝に副委員長からそのことを聞いている。

だから、別に喋っても問題はないだろう。

めだかはある意味予想通りの顔だ。

 

「……では霞同級生はどうなのだ?」

 

「ん?」

 

「わざわざ言いに来た、という感じでもないぞ」

 

まあ、そうだろう。

わざわざ言いに来なくてもわかることだ。

 

「一応学園の風紀を護るのが俺の仕事だし……今回は、ね」

 

「じ、じゃあ霞! お前は」

 

善吉が何かに期待するような声になっている。

時詠は苦笑し

 

 

 

「俺は自由に動く権限を持ってるから、生徒会の方につくことにした」

 

 

 

時詠が味方になる。

それには善吉や……めだかも、少し安堵した顔だ。

しかし、阿久根や喜界島は微妙そうな顔になっているが……真黒も、歓迎のようだ。

 

「まさか君が来るなんてね……僕も意外だよ」

 

「あはは……まあ、真黒さんのお言葉を裏切るようで失礼ですが、最初悩みはしたんですけどね」

 

「それでも有難いな、あの時の君を知っているからなおさらね」

 

だが、それでも今回の相手は未知数だ。

過負荷といっても、おそらく様々なのだろう。

しかし時詠は……一つだけ、付け加える。

 

「ただし」

 

「?」

 

他の全員が時詠を見る。

これだけは、言って置くつもりだった。

 

 

 

「やられたらすぐやり返す、とか……そんな暴力行為だけは、やめてくれ」

 

 

 

時詠ははっきり、そう言い放つ。

それに、めだかは目を見開いた。

 

「……霞同級生」

 

「襲われて身を守るならいいが、恨みとか未然に防ぐためとか……そんなことで力を振るうなら、風紀委員として取り締まるぜ?」

 

「……そうだな」

 

「組織の一員としても、戦うならきちんとした中で……生徒の代表である生徒会として、恥じないように頼む」

 

言いたいことはそれだけらしい。

と、時詠の言葉に考えているのか他の生徒会メンバーは黙っている。

だが、真黒や瞳などは頷いていたことに安心した。

 

「あはは、霞君って本当に真面目なんだね」

 

「違いますよ……そんなんじゃ、ありません」

 

時詠は古賀の言葉にそう返す。

少し、少し昔の出来事を思い返し……苦笑した。

そうして時詠の参入により、他にも引き込みたい者の名前が挙がっていくが……鍋島については満場一致で卑怯だけどね、と……少し微妙そうな顔である。

その中、めだかはある人物の名を上げる。

 

 

 

「日之影三年生を呼ぼう」

 

 

 

その名前に、時詠は……しっかり覚えている。

どうやら転生者であり、別の意味で彼を知っているため……他のみんなとは違うようだ。

 

(……知られざる英雄、か)

 

原作で見た感じでは、完全に物理専門。

力こそ正義、をその身で表しているキャラだった。

しかし、彼の真骨頂はそこではなく

 

誰にも認識されないこと

 

それは、弱みでもあるが……戦闘においては、何より恐ろしい。

向かい合って、目で見て認識しているはずがすぐに忘れる。

そうして次第に恨まれることも、覚えておいてもらえることもない……と。

 

(悲しいな、本当)

 

日之影のことで思えるのは、そこだ。

どうしてそんな状況に耐えられるのか……身体の強度ではなく、彼の心はどうなのか。

北斗の拳ではラオウ的な物を感じるが、彼の本質は全く異なるモノだと。

そうしてめだかは何故か名瀬を連れ、教室を出る。

やはり日之影に協力を頼みに行くようだ。

 

「少し行ってくる」

 

彼女らは出て行き……名瀬は少し、興味があるのか付いて行く。

と、時詠は口を開く。

 

「じゃあ、俺もこれで」

 

「え!? 霞君!?」

 

「霞、どうしたんだよ?」

 

「ああ……恒例の巡回さ、風紀委員は実質機能してないからね」

 

古賀と善吉の言葉にそう答える。

今、風紀委員は混乱の真っただ中。

風紀委員長の冥利、そして他の強力な戦力を欠いて……副委員長だけでは、まとめきれない。

そのため時詠が巡回を一人で行っているのである。

 

「そうか、君は君の仕事もあるよね」

 

「すみません、阿久根先輩。では、いったん失礼します」

 

時詠は教室を出て、そのまま軍艦塔を出る。

向かう先は……13組の教室。

 

(……しかし、どういうことだ?)

 

歩きながら、時詠は考えていた。

球磨川、そして江迎のことを。

 

(俺を知っている、とかなんとか……どうして?)

 

少なくとも、時詠は中学時代に目立ったことはしていない。

そりゃまあ……たまに喧嘩はあったが、そこまで大事になっていないはず。

だが、彼らは時詠のことで何か知っている感じだったのだ。

 

(…………まさか、な)

 

ありえない、と。

時詠は考えてしまったことを無視するように……気配を消し、敵の隙をつく暗殺者のように動く。

ただ、向かう組は……2年13組だった。

その戸を開けようとした瞬間、数人の気配を感じ取る。

さらに続く破砕音と……

 

(やれやれ)

 

ため息をしつつ、中の様子を探る。

自分が出なくともいいようで、こう着状態になっている。

時詠は気配を消すのをやめ

 

「……失礼します」

 

ガラッと戸をあける。

と、すでにそこにいたのは球磨川を始め……その左右に二人。

 

『あれ?』

 

「こんにちは、先ほどぶりです」

 

「「?」」

 

だが、球磨川はともかく左右の二人は……初対面だ。

しかしそれ以上に、驚いているのは日之影だった。

 

「……三対一、ではなく四対一に訂正してください」

 

時詠が、なんと過負荷側に立っている。

これには球磨川も少々……いや

 

笑みを浮かべている

 

時詠はそれに気付きつつ、目の前にいる日之影から目をそらさない。

彼は……時詠の腕章を見て、目を細めていた。

 

「驚いたな、風紀委員のお出ましとは」

 

「それ以前に貴方の暴力行為について取り締まろうかと」

 

「……風紀委員長のことはどうした? 霞 時詠君」

 

「生憎、自分の信念で動いていますので……雲仙委員長もそれぐらいじゃ折れませんし」

 

やはり時詠のことを知っていたようだ。

と……日之影は、スッと構えを解く。

だがその眼は時詠でなく球磨川達と視線を合わせるのを拒否している様に見えた。

 

 

 

すでに日之影は、過負荷と向き合うことから逃げていた

 

 

 

時詠はそれを知らないふりして、続ける。

 

「今回の器物破損についても、重大な校則違反ですよ」

 

「そうだな……なら今は任せるわ」

 

その姿が、消える。

いや……そこにいたことすら、すでになかったように。

時詠は、息を吐き……振り向いた。

 

『やあ霞君 どうもありがとう そして空気読めと言いたいな』

 

「いえ……いらぬお世話、でしたかね」

 

『そんなことないさ まさに厄介者と同時に正義のヒーローみたいだよ』

 

球磨川は笑顔で言う。

 

「はじめまして、1年2組普通科所属、霞 時詠です。お二人は……転校生の方でしょうか?」

 

時詠は初対面の二人に対し頭を下げ、問いかける。

その言葉に球磨川の左右にいる二人は、若干いぶかしんだような感じだが

 

「ふむ、ご丁寧に言われては返さないといけませんね……私は2年マイナス13組、蝶ヶ崎 蛾々丸といいます」

 

「あたしは1年マイナス13組、志布志 飛沫だ。まあよろしくな」

 

燕尾服にモノクルという執事キャラのテンプレみたいな格好の男子。

ビリビリに破けたセーラー服を着ており、胸もかなりでかい女子。

そうして、球磨川は笑顔で答える。

 

『しかしまさか霞君が来るとはね』

 

「まあ、仕事ですので」

 

「球磨川さん、少し悪いが……霞っつったか? 同学年だからタメ口聞くけどよ、なんで割って入った?」

 

と、志布志が霞にズイっと迫る。

彼女も女子にしては背が高く、時詠とほとんど変わらない。

 

「あ~……仕事中だったから」

 

「……あたしらのこと、風紀委員なら知らないってわけじゃねえんだろ?」

 

疑っている。

それはしょうがないことでもあり……時詠は苦笑する。

 

「知ってるっちゃ知ってるさ」

 

「じゃあなんで助けた?」

 

「最初言った通り仕事だよ……それに、何より」

 

時詠はニッと笑い

 

 

 

「女子のピンチに駆けつけるのが男子、じゃない? 特に美人さんの危機にはさ」

 

 

 

その言葉に、志布志の右足が動く。

中々の鋭さを持った蹴りが……時詠のいた場所を、蹴りぬいた。

 

「……嘘は言ってないんだけどね」

 

「!?」

 

いつの間にか志布志の左側……真横に立っている時詠。

汗もかかず、先ほどと同じように口を開く。

 

(こいつ……蹴りが来るのを予測してたってのか!?)

 

「それに、お世辞で言うわけじゃないけど……その、志布志さんは悪くないと思ってるし」

 

視線がどうしてもある場所へ向いてしまうので、時詠は目をそらす。

と、その視線の向く場所に志布志は気付いたのか……バッとそこを腕で隠す。

 

「って、てめえ……どこを見ていやがる!」

 

「……公共の場で言わせないでくれ、正直好みだから視線が固定されちゃうんだって」

 

「なっ……~~~~!?」

 

正直に話しているのだが、志布志は顔をそむけそのまま教室を出て行ってしまった。

その突然の行動に時詠は視線を戻し、ポカンとしていると

 

「だめですよ霞君、彼女はああ見えて照れてしまうとその場からいなくなってしまいますから」

 

「て、照れ……ですか?」

 

「そうです、まあ彼女の蹴りを避けたうえで……本音を言ったのですね」

 

何故か蝶ヶ崎はため息。

球磨川はと言えば、興味深そうに時詠を見ている。

 

「……とりあえずですが、こちらも荒っぽいのはやめてくださいね。戦いが始まるまで」

 

『ふ~ん 君は中立に見えるようで違うんだね 危険を冒さず忠告にくるのはカッコいいよ コウモリみたいでよくないと思うけど』

 

相変わらず、いいように、悪い様に。

だがそんなのはどれも事実しか言っていないので……時詠の心には、響かない。

 

「そうですね、球磨川さんの言う通り……俺はどっちかと言えば、黒神生徒会長を支持してない方なので」

 

『そうなんだ!』

 

「ほう」

 

意外に思えたのか、二人はそういう。

しかし時詠には……別にマイナスを支持しているわけでもなかった。

 

「かといって、貴方達を支持しているわけでもありません」

 

『だろうね 君はどっちかといえば、新たに登場する第三勢力っぽいよ 場をかき乱す邪魔者かな』

 

「……まあ人の集まりとなれば、そういったものも出てくるでしょうね」

 

敵かと思えば、味方でもない。

時詠は一応……球磨川が気になる言葉を言っていたので、生徒会側についただけだった。

それでも、どっちを護るかというのは……少し、考えている。

 

「俺は基本、どちらにも関係ない生徒を護る立場なので」

 

『仕事は大切だよね』

 

球磨川にはあまり興味が感じられない。

蝶ヶ崎も特に敵意を向けていないので……時詠は、本題を切りだす。

 

「……球磨川さん、教えてください。貴方は俺のことを知っていたのですか?」

 

『うん』

 

「では、蝶ヶ崎さんもですか?」

 

「私達は球磨川さんから聞いただけなので……ああ、江迎さんはよく知っていらっしゃるとか」

 

どうやら、球磨川は事前に時詠のことをマイナスの連中に話しているようだ。

しかし、何故だろうか。

球磨川の言葉……嘘ではないのだろう。

 

「誰から、聞いたのですか?」

 

『教えてもいいけどサプライズのために本人から聞いたらどうかな きっと楽しいよ』

 

「……貴方が、引き込んだのですか?」

 

時詠の拳が強く握られる。

それは今までのとは違い……目にあるのは、怒りでもなく、憎しみに近い感情。

 

『そうだよ 君も嬉しいと思ってね でも勘違いしないでほしいな 僕は彼女が願っていたのを手助けしただけだよ』

 

今の時詠はとても嬉しい、という顔ではない。

だがどうして時詠がここまで反応しているのか。

 

「……どうしてここへ、貴方は」

 

『早とちりしないでおくれ 望んだのは彼女だ 来る意思を持っていたのは彼女だ だから』

 

球磨川は時詠の前に立つ。

そうして、時詠を見上げ笑顔で言う。

 

 

 

『僕は悪くない』

 

「……ええ、そうですね。貴方は確かに悪くない」

 

 

 

時詠はもう話すこともないのか、教室を出ていこうとする。

 

『霞君 彼女は君を待ってるよ 早く会いに行ってあげなよ』

 

「……失礼します」

 

教室を出ると、そこには志布志が背を預けたまま会話が終わるのを待っていたようだ。

急に時詠が出て来たため驚いた顔になるが……すれ違うように志布志に頭を下げ、時詠は校舎を出る。

 

(バカな……なんで、どうして)

 

ふらっと、そのまま壁に寄り掛かった。

時詠らしくない、その様子は……不安からだ。

 

(彼女とはもう、会わないことになっていたはず……なのに)

 

そして、時詠みがマイナスと向き合っても何も感じないのは……一度、死を経験したから。

アレ以上の不幸など、どこにもないはずだ……しかし

 

(……くっ)

 

もしそうなら、球磨川の言う通りならば。

時詠の目にある、意思は

 

「みつ、けた」

 

「!?」

 

ふと聞こえた……誰かの声。

それは若い女性の声のようだ。

だがそれは……時詠には、よく覚えのある声。

振り返り、そこにいたのは

 

 

 

「時詠……時詠!」

 

 

 

そこには……漆黒のメイド服の様なものを着た、目の部分に包帯を巻いている女子。

かなり小柄だが、長い黒髪をしばらず無造作に垂らし……腰の近くで揺れている。

だが、その身から感じられるそれは……マイナス13組と同じ。

 

最後に会った時と、何も変わっていない

 

両腕はだらっとさがり、必要以上に長い袖が両手を覆いかくしている。

いや、意図的に隠す様に……改造されていた。

そこからのびているのは、視覚障害者が持つ白棒。

だが……目は視えていないはずなのに、時詠の方を見据えていた。

 

「やっと、会えた」

 

「……な、んで」

 

「ふふっ、ふふっ、ふふふふふ……」

 

時詠は構える。

まだ何もしていない女子に対し……時詠の目は、本気だ。

 

 

 

「もう一度、一緒になるためよ……私と一緒に」

 

「時音(ときね)……姉さん」

 

 

 

夕方からすでに、夜へと移り始める。

次第に暗くなり始めた中で……時音と名乗る少女は、口元を歪めた。




時詠は巨乳万歳派(どうでもいい

新たな過負荷、時音。
彼女は何者なのか、そして時詠との関係は。
そして生徒会と過負荷の戦いは、本格的なものへとなっていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。

仕事が忙しくなり、更新が遅くなりました。
今後、少し更新頻度が落ちると思われます……申し訳ありません。

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