めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第十四話:恐怖の足音

先ほどまで争った形跡がある……時計塔のエレベーター前。

そこに、巨大な螺子で磔にされている……冥利率いる負け犬チーム、そして裏の六人。

彼らを倒した張本人……それが、おそらく

 

『僕は悪くない』

 

そう言っていた、学ランを着た童顔の男子。

球磨川、とめだかは言っていたが

 

(……まずいな)

 

球磨川の攻撃。

それを食らい、やられた面々はかなり重症に見える。

だが……時詠以外のメンバーは球磨川とのやり取りに集中している。

そんなことをしている暇があるのだろうかと、時詠は若干呆れながらも歩き出した。

 

「……」

 

時詠はまず、壁に螺子で磔られている冥加を助け出すことにした。

目の前でしゃべっている球磨川を完全に無視し、その横を通り抜けて行く。

 

『あれ?』

 

球磨川は自身に何の反応も示さない時詠に顔を向ける。

しかし、時詠は無視していた。

 

「冥加さん」

 

壁に磔られているが、出血も目立っていない。

螺子を軽く握り……一気に引き抜く。

嫌な感触が手に残るが、螺子が抜けたことによる出血もない。

時詠は冥加を抱っこしながら、ゆっくり頭を太ももの上に載せ……脈も異常がないことを確認した。

 

「……っ」

 

軽く秘孔を突く。

冥加は何故か苦しそうな顔をしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。

そうして彼女をそっと寝かせ、他の……まずは壁に磔られている者たちを優先する。

と、何故か他のメンバーが会話をやめてこちらを見ている事に気づくが

 

「ああ、俺の事は無視して続けてください」

 

時詠はそれだけ言い、黙々と救助を続ける。

秘孔と螺子の引き抜き。

そうして……その前に、先の球磨川という学ランの男子が来ていた。

 

『君って人助けが趣味なのかな? そんな偽善に満ちたことをして面白いの?』

 

「いえ、違います。俺はそんなに人助けばかりしないので」

 

『じゃあどうしてかな? 無償で人助けするなんて君はかっこよく見せたいんじゃない?』

 

「彼らは友達なので」

 

『……納得。正義とかより分かりやすいしかっこいいね!』

 

球磨川は何故か時詠の方を見てにへらと笑っている。

まるで以前から知っているかのような返し方だったのだが……生憎、二人は初対面だ。

時詠は彼のそんな部分に流されず、自分自身を貫く。

 

いいところも悪いところもいっしょくたにかき混ぜ話す……それに対し、素のまま対応する

 

そして会話が途切れれば無視すればいい。

どうせ用がない人間だと。

時詠にとって、今球磨川は冥加達を介抱する以外には邪魔でしかない。

 

「ところで貴方……球磨川さん、でしたか? 見慣れない制服ですが……転校生でしょうか?」

 

『……そうそう 僕は今日からここに転校してきたんだ よろしくね』

 

「よろしくお願いします。それでは俺はこっちが忙しいので」

 

時詠はそう言い、また冥加達の方を見る。

そんな二人に……めだか達は、言い知れぬ何かを感じていた。

 

 

 

あの二人が一緒にいる、そんな光景に対して……言い知れぬ悪寒を

 

 

 

球磨川も今度はめだか達に話しかけていき……そうして話は進む。

どうやら球磨川は理事長室を探していたが迷ってここに来たらしい。

まあ、こんな状況で信じられるかどうかはともかく……時詠にも、今はどうでもよかった。

球磨川はその後も、妙なことをしている。

 

軽く触れて、触って、傷を、服を元に戻す

 

そんな物理法則を無視するような行いを続け……やられた側は、何か寒気を感じているようだ。

しかしそんな彼に、都城は自身の仲間を傷つけられたことで怒りを覚えていると。

 

(……)

 

今の都城ならもう、大丈夫だろう。

時詠は……そう思いながら、球磨川の方を見た。

 

『じゃあこれでおあいこってことで』

 

いきなり自身の右手に持った螺子で、自身の頭に突きたてる。

その螺子が貫通した光景は……かなりクルものだった。

全員が、いや……時詠以外が目を見開く中で、球磨川は去って行った。

同時に時詠も立ち上がる。

 

「お、おい霞」

 

「救急車を呼びましょう。ここから先は、専門に任せないと……俺は怪我人を優先したいので」

 

そう言われ、一同はハッとなり気づく。

球磨川の存在など、まるでなかったようにふるまう時詠。

彼にとって、今どっちが大事かと……何故めだか達は冥加達を優先しないのかと。

今は、そのことで怒っているのである。

めだか達はそんな時詠の怒りを理解したのか、静かになるが……

 

「ふ~やっと行ったかあの学ラン君」

 

と、急に声が聞こえたかと思えば……いまだ螺子が刺さっている女子。

鍋島だ……しかし、どうも彼女は早々にやられたふりをして倒れていたらしい。

だが、彼女はその猫目をさらに細め時詠を見る。

 

「しっかし霞君、どうしてウチには近寄らなかったん?」

 

「先輩は狸寝入りだとすぐわかったので」

 

「……あの時もそうやけど、おっそろしい一年やねえ自分」

 

「あはは……実際は先輩の評判を聞いてるし、心配はいらないかなって」

 

その返しに、鍋島はクククと笑う。

怒っている感じはしない。

だが逆に、その身はあの太い螺子で貫かれていたはずが……もう塞がっている。

 

オカルトなファンタジー

 

鍋島は自身の体験をそう表現しているが、まさに言うとおりだ。

しかし、それはひとまず置いておくとしても

 

「あいつはいったい何をしに箱庭学園に転校してきたのかってことです」

 

善吉の言葉は、そこにいた者たちの意思をはっきり出している。

その理由如何によっては……

 

箱庭学園で、フラスコ計画以上の何かが起こる

 

彼らはそう感じていた。

だが、名瀬だけが一人。

古賀との戦いからここまで……時詠の扱う謎の格闘技、いや……拳法について。

自身が考え、今まで見たことである答えを出していた。

 

 

 

(……北斗現る所に乱あり、か)

 

 

 

ありえないと思っていたが、それは確信に変わってきていた。

一連の騒動に必ず、時詠が関わっている。

そして今までの……古賀を仮死状態にしたり、その動きを封じたり。

 

技名を、そして実際名瀬に見せていたことが致命的になってしまった

 

時詠はまだそのことに気づいていない。

だが名瀬も、確信はしているが……実際、マンガの話しだと疑ってしまう自分がいた。

 

(……もう少し、様子見か)

 

興味深い。

それが名瀬には、一番興味深いと。

古賀とは別の意味で……時詠は貴重な存在になっていた。

 

そして、フラスコ計画はこの騒動により凍結

 

13組の13人は解散となり時計塔は今後、浄化作業後に一般生徒へのレクリエーション施設となる。

しかし一連の騒動で負傷した者たち、その中でも負け犬軍団と裏の六人は……精神的ダメージの為入院。

その中で鍋島だけは、普通に帰宅したらしい。

時詠は生徒会メンバーなどとはすぐに別行動に入り……病院へ向かったようだ。

 

「古賀ちゃん、もうしばらくの辛抱だぜ」

 

「……うん」

 

「さて、始めるよくじらちゃん」

 

「ああ」

 

古賀いたみ。

彼女はしばらく真黒と名瀬……いや、黒神 くじらによって修繕される。

復帰に時間はかかるが、命に別条はないとのことだ。

 

「あ、そうだ」

 

「「?」」

 

「明日、霞君にもお礼を言わなきゃ……ね? 名瀬ちゃん」

 

「……そうだな」

 

古賀と名瀬は、それぞれ時詠からブレザーを借りたままだった。

すぐにクリーニングしてから、返そうと。

そんな二人を、真黒は苦笑しつつ……作業を開始する。

 

姿を消した球磨川は、その後理事長室に入っていったらしい

 

もっとも時詠にはどうでもいいことで、今……入院している雲仙姉弟、鬼瀬のそばにいた。

病室のベッドで寝ているそばで、一人……椅子に座り、夕陽を眺めている。

 

(……ついに、始まったな)

 

過負荷(マイナス)

球磨川率いる生徒たちの持つ、いや……むしろ背負っているモノというのか。

時詠も、彼らには勝てる自信があまりない存在も多い。

 

(……ふん)

 

彼らを見ていると、思いだす。

自身にとって大切な

 

「ん」

 

「!?……鬼瀬さん」

 

「……あ、ああ」

 

声が聞こえたベッド。

そこに寝ていた鬼瀬が目を開けて……すぐに何かを確かめるように自身の体を触る。

 

「大丈夫だよ」

 

「ひっ!?……か、すみくん?」

 

「ああ……もう大丈夫だ」

 

眼鏡をかけておらず、髪をほどいている彼女はまるで別人みたいだった。

ぼやけた視界の中、時詠の声に反応したようだが……時詠は鬼瀬の手をとり、軽く握る。

彼女は震えていた。

いつも強く見せている態度が、どこにいったのか。

 

「わ、私は……」

 

「もう終わったよ……今は、いいから」

 

「……霞君」

 

ぶるぶる震えている鬼瀬。

外傷は無いが、傷は残ってしまったのか。

時詠はそんな鬼瀬の頭をポンポンと優しく叩き……軽く、秘孔を突く。

 

スッと、鬼瀬の眼が閉じられ……安らかな寝顔を見せてくれた

 

今彼女に必要なのは、休息だ。

静かに、深く……眠ることだった。

そうして、軽く鬼瀬の頭を撫でてからその手を戻すと……ごそっと、近くでも動く音。

見れば冥加がすでに目を開けて、時詠を見ていたのだった。

 

「冥加さん?」

 

「……と、き」

 

冥加は自身の体を見て、そうして……目を細める。

だが、それは明らかに恐怖を感じて……表情が、歪む。

 

「584……58463」

 

「……」

 

彼女も、震えている。

当たり前だ……いくらアブノーマルでも、体を貫かれるということに慣れているわけではない。

それに、彼女も心はあり……精神的なダメージは大きそうだ。

 

「冥加さん」

 

「!?」

 

時詠は冥加の震えている手をとる。

手が冷たい。

やはり彼女も、恐怖を感じて……負けた。

プライドの高い彼女には、そのダメージもあるのだろう。

 

「……いなくて、ごめんね」

 

「……とき?」

 

「俺もあの時……あそこにいれば」

 

止められたかもしれなかった。

だが、怒りに我を忘れ……今思えば、どっちが正しかったのか。

時詠は冥加に謝る。

しかし、冥加は何も言わない。

彼女はフッと……自身の手に重ねられている時詠の手に、もう一方の手を重ねた。

 

「……417463(温かい)」

 

「え?」

 

「とき……417463」

 

どうやら冥加の冷たい手に、時詠の手はとても心地よいらしい。

病室には冷房も効いてはいるが、それとは別の心地よさがあると。

時詠は自身の空いた手を、また冥加に重ねる。

熱が冷やされる感覚に……冥加は、時詠を見る。

 

ニコッと、微笑んだのだ

 

その初めて見せる笑みに、時詠は目を見開く。

と、いつの間にか冥加の震えも止まっていたのだ。

 

「873……」

 

「冥加さん」

 

冥加は、そのまましばらく時詠の手を握っていた。

冷たかった手が、次第に温かくなっていく。

 

「ごめんね」

 

時詠は、右手を抜いておもむろに冥加の頭の上に。

ポンっと軽く置かれた手が、彼女の柔らかな髪を撫でる

だが、突然の行いにも冥加は嫌がる気配はなく……むしろ、落ち着いている。

そうして、冥加が再び目を閉じ……時詠は、彼女の秘孔を突いた。

 

(……マイナス)

 

横になった冥加にそっと布団をかける。

時詠は……静かに眠り続ける鬼瀬と冥加を見て、その身に凄みをまとわせる。

 

大切な友達を傷つけられた、純粋な怒りを

 

空気が震えるような、そんな気配をかもしだし……再び、舞台は箱庭学園へ。

過負荷、生徒会、そして時詠。

それぞれの新たな戦いが……幕を開ける。




「どうやら俺たちは触れてはならないものに触れたようです」byジャッカル
過負荷って時詠にとっても厄介な相手ばかりなんですよね……
ここまで読んでいただきありがとうございます。

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