やはり岸波白野の青春ラブコメは王道か?   作:魔物Z

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頑張りました。

予想以上に長くなってしまいました。

ちょっと、シリアスな展開を用意してみました。

長いですが飽きずに呼んでもらえると嬉しいです。




そして岸波白野にライバルができて・・・。

 

 

 

 

 

俺は重い足取りで学校へとむかう。

 

正直昨日の雪ノ下さんの言葉は辛かった。

 

『あの俺の友達になってくれないかな?』

 

『いやよ』

 

仲良くはなれたとは思ったのだが、何がいけないのだろう。

 

昨日の夜、ムーンセルで俺の行動の悪かったことを聞くために女性サーバントたちのところを訪ねたが、ドレイク姐さんは酔い潰れていたし、アリス/ありすは寝てた。

 

ネットゴーストだったありすは、ナーサリーライムの望んだ環境に大きく含まれていたのか、あの建物のなかに存在するらしく、よく三人で遊んでいる。

 

それを見たセイバーがよくハアハアしている。

 

エリザベートとセイバーは一緒に入浴中だった。やっぱり仲がいいな。

 

この前なんか二人で『アイドルユニットを作る』とか言って、ボイストレーニングしたらしく、他のサーヴァント達からすごい苦情が来たらしい。

 

おかしいな、あの建物の防音設備はかなり良かったと思うのだが…。

 

最後にキャスターのところに行った。

 

キャスターに雪ノ下さんことを話したら、『ご主人様。その女は私がコロコロしてあげますからね(ハート)』

 

みたいな感じで怖かったから止めてもらった。

 

なに一つ理由がわからないまま、今に至る。

 

「はあ~…」

 

「兄さん。朝から元気ないけど、どうしたの?」

 

桜が俺の元気のない理由を訊ねてきた。

 

友達がいないなんて言えないので、ウソをつく。

 

「昨日さ、抜き打ちでテストがあったから点数が気になってね」

 

「え?大丈夫だよ。兄さんは頭がいいから今回もいい点取れると思うよ。いつも満点だし」

 

「そうかな?ありがとう桜。桜のおかげで元気出てきたよ」

 

そう言い、桜の頭をやさしく撫でる。

 

「うう…///」

 

桜は気持ち良さそうに眼を細める。

 

桜の頭から手を離し、足を進める。

 

学校に着き桜と別れ、持ち帰った上履きを履き教室へとむかう。

 

教室には雪ノ下さんがいたが、周りに他の男子いたため話しかけるのは断念した。

 

 

 

 

 

一時間目は、昨日の実力テストが返ってくる。

 

「皆さん。すごいですよ!」

 

先生がやけにテンション高めで、喜んでいる。

 

「なんと!昨日の実力テストを抜き打ちにも関わらず、三教科ともに満点を取った人が二人もいます。私のクラスでこんなにいい成績を残してくれるなんて、私も鼻が高いです。昨日他の先生方に自慢してしまいました」

 

確かにすごいな、一人は俺だとしても、もう一人の子は本当にすごい。俺は前世の記憶があるから当たり前だが、その子は実力で満点を取ったんだな。

 

と言うか先生。自慢って、テスト前にあなたは授業をしてないですよ。

 

「まずはその満点の人たちから紹介しようかな」

 

こういうのは大抵名簿順で来るだろ。

 

「一人目は…雪ノ下雪乃さん!」

 

すごいな雪ノ下さん。ってあれ?雪ノ下ってことは、や行。俺は岸波白野だから、か行。

 

あれ?もしかしてミスった。ヤベ恥ずかしい。なにが『一人は俺だとして』だよ。

 

口にしてはないが、そう思ってしまった俺が恥ずかしいい。

 

俺が恥ずかしさで悶えそうな時、クラスのみんなが雪ノ下さんのことを褒めたり、影ながら舌打ちなどをしている。

 

よくある光景だろう。前のクラスの俺の場合は褒めはなく、ざわめきと、陰口だったが…。

 

「そして、もう一人は…」

 

先生がやけにためている気がした。

 

まあ、俺には関係ないがな。

 

「…岸波白野くん!」

 

えっ?名簿順は?関係ないのか?

 

でもよかった。

 

だが、クラスは雪ノ下さんのときと違いざわめいてる。

 

どうせ、内容は俺の陰口だろうな。

 

そうして、耳を澄ます…。

 

「岸波白野って誰?」

 

そっちかい!!えっ?何、一昨日の俺の自己紹介は何の意味も無かったの?

 

記憶にないって、無視されるより辛いかも。

 

それなら、誰が俺の上履き隠したんだ?上履きがひとりでにゴミ捨て場まで行ったのか?

 

そんなとき、前もクラスが一緒だった男子が舌打ちしてる。

 

よかった。いや、よくはないが、よかった。クラスの全員が俺を知らないわけではなかった。

 

「それじゃあ、満点の二人は前に出て」

 

先生が言ったように、俺と雪ノ下さんが前に出る。

 

それぞれテストを返してもらう。

 

「よく頑張ったね。偉いぞ」と先生が言う。

 

ああ、ダメだ。

 

「みんなも雪ノ下さんと岸波くんみたいに頑張るんだぞ」

 

先生、それはダメだ。

 

「みんなも頑張れば満点を取れるんだぞ」

 

こんなの公開処刑みたいなモノだ。人間は頑張ればなんとかなるのは事実だ。俺がそうだったように、頑張って諦めずに前に進む。そうすれば、道は開ける。

 

だが、誰しもがそういうわけだはない。ガトーが言っていたように、人間は怠けるものだ。

 

ジナコが言っていたように、どんなに頑張っても埋まらない実力の差はこの世には存在するのだろう。

 

なら人間はどうする…。

 

簡単だ。上にいる奴を引きずり落とせばいい。アヒルの中に白鳥がいれば追い出せばいい。

 

人は、それ実行する手段として『イジメ』や『嫌がらせ』を使う。

 

俺は去年までに馴れているし、家には桜や父さん、ムーンセルにサーヴァント達がいる。

 

俺には心の支えがあり、それよりも殺伐とした状況や場所にいた。

 

しかし、俺の横にいる女の子はどうだろう。

 

俺にいるような心の支えがいるのだろうか?頼れる仲間がいるのだろうか?今後、そういった存在は現れるのだろうか。

 

「それでは、みんなのテストを返します。二人は自分の席に戻ってね。今度のテストも頑張って」

 

「「…はい」」

 

そうして俺と雪ノ下さんは各自の席に戻った。

 

休み時間に入り俺の席の前に雪ノ下さんが来た。

 

「どうしたの?」と尋ねてみる。

 

「ザビエルくん、あなた私にウソをついてたわね」

 

「は?」

 

何を言っているんだ。昨日そんな会話した覚えがない。

 

「惚けないでくれる。あなた昨日私がバカと言ったときに否定しなかったわよね?」

 

「否定する前に君が話を終わらせたと思うんだけど?」

 

「あなた、そうやって私のせいにして、責任転嫁しないでくれる」

 

「いやいやいや、責任転嫁のつもりはないよ。むしろ事実だった気がするけど」

 

ホントにこの子はなんなのだろう。ムーンセルにはいなかったタイプだよ。

 

「まあいいわ」

 

「いいんだ!」

 

「ザビエルくん、あなた私と勝負しなさい」

 

これまた急展開。

 

「どうしてそうなったの?」

 

「決まってるじゃない。私が嫌だからよ」

 

「何が?」

 

「私はね。私と同じまたは私より上の立ち位置にいる人がいたらそれより上に立ちたいのよ」

 

「なるほど。それでどうして俺なの?」

 

雪ノ下さんは俺の返答にキョトンっとしている。

 

そして額に手を当てて、ため息をもらしながら、

 

「本当にあなたは実力テストを満点取ったのかしら?」

 

なぜ疑う。いや理由はわかっていた。互いに三教科ともに満点を取ったのだ。そのことを言っているのだろ。

 

「でも、君は俺を『友達』としては見てないのだろ?」

 

「そうよ」

 

「なら――――」

 

「でも、それとこれとは別よ」(実際は、あんなにストレートに言われたのは初めてだから、照れ隠しで断ったなんて言えないわ。)

 

「そんなモノか?」

 

「ええ、そんなモノよ」

 

それとこれとは別か。納得はいかないが、勝負も挑まれたのだ、誠意をもって挑むのが道理だろ。

 

「わかったよ。その勝負受けるよ」

 

「ええ、よろしく」

 

「それで、勝負って何するの?テストは互いに満点だったけど」

 

「そうね。ザビエルくん、確かあなた料理が得意と言ったわよね?」

 

「まぁ、言ったね」

 

「私も料理をするから、料理をしましょう」

 

料理か…、雪ノ下さん。俺はアーチャーとキャスターに頼んで料理を習っている。

 

食べたみんなも美味しいと言ってくれた。

 

一度サーヴァント達に料理が出来るか聞いて、出来ると言ったのが、アーチャー、キャスター、クーの兄貴、ドレイク姐さん、ガウェイン、エリザベート、セイバーの七人だった。

 

最初の二人はとても美味かった。お店に出すことも出来そうな美味さ。

 

次の二人が出してきた料理は『男の料理』だった。でも、普通に美味しかった。

 

最後の三人は願い下げた。ガウェインは料理?が残念みたいなことを生徒会で聞いたし、エリザベートは、わかっているよね?それでセイバーは、エリザベート臭がしたから。

 

それで、アーチャーとキャスターに習うことにしたのだ。

 

「で、いつ料理するの?」

 

「あなた先生の話聞いてたの?」

 

先生の話?なんのことだ?

 

「その反応は聞いてなかったみたいね。テストを返し終わった後、クラスの親睦を深めるために家庭科室で調理実習をするらしいの。作る物は『クッキー』だそうよ」

 

「いつやるの?」

 

「明日の五時間目、最後の授業の時間よ。同じ班になりましょう」

 

「いや、同じ班じゃダメでしょ」

 

「?」

 

雪ノ下さんは不思議そうに軽く首を傾げる。

 

ヤバい。桜以外の人のこの行動を可愛いと思ってしまった。桜ゴメンよ…。

 

「何がダメなの?」

 

「調理実習ってその班がみんなで力を合わせて料理を作るものだろ?」

 

「力を合わす、フッ。ザビエル君、あまり笑わせないでくれる」

 

なんで、俺バカにされてんの!

 

「わ、わかったよ。同じ班になります。いや、同じ班にさせて下さい」

 

「あら、口の利き方はわかっているようね」

 

ホントにこの子は、ナニ様なのだろう。

 

「雪ノ下さんその代わり、そろそろ名前で呼んでくれるかな?」

 

「名前?ザビエルくんじゃないの?」

 

「ウソ付け。昨日呼んだじゃないか」

 

「そうだったわね。ゴミ捨て場くん」

 

「そっちじゃないよ。俺もそろそろ泣くよ」

 

ウソじゃない。本当に泣きそうだ。まだメルトの方が可愛気があった気がするよ。

 

「わかったわ。え~と、なんだったかしらね」

 

ヤバい、目が潤んできた。

 

「……」(か、可愛い…。なにこの人畜無害な小動物オーラは?)

 

「ご、ごめんなさいね。岸波くん。冗談よ」

 

「じょ、冗談かよかった。本当に名前を忘れられたのかと思ったよ」

 

潤んだ目を擦って、笑顔を向ける。

 

「え、ええ、悪い事をしたわね」(やめなさい。その笑顔もっと困らせたくなってきたわ。)

 

「それじゃ、その勝負は負けないからね」

 

「こちらもそのつもりよ」

 

こうして俺、岸波白野と雪ノ下雪乃の勝負が始まった。

 

 

 

 

 

現在、家庭科室で自分の組みたい人同士で、六人グループを複数作った。

 

俺と雪ノ下さん以外は、雪ノ下さん目当ての男子が四人。

 

だが、雪ノ下さん自身、勝負しか眼中にないようで、男子が話しかけても、いつも以上に軽くあしらっている。

 

「始めて下さい」と先生が合図をした後すぐに、雪ノ下さんが。

 

「あなた達、今から私と岸波君どっちが美味しいクッキーを作るか食べてみてくれないかしら?」と男子生徒四人に言う。

 

そうしたら、「おお、わかった」などと同意する。

 

内心は、雪ノ下さんの手作りクッキーを食べれてラッキーなどと思っているのだろ。

 

そして、クッキーを作り始める。

 

前、アーチャーにいろいろなお菓子作りも聞いて、お菓子作りにはまって、今でもよくいろいろお菓子を作っている。

 

昨日の夜も、その復習も兼ねてアーチャーとキャスターに美味しいクッキーの作り方を聞いた。

 

他のグループは先生に作り方の説明を聞いたり、班の人と話し合って作っているが、俺たちの班は、俺と雪ノ下さんが黙々と作業をして、他の四人がその姿を呆然と見ているだけ。

 

作業が始まりニ十分、他のグループは、早くてやっとオーブンに入れるところ、遅い方はクッキーの型をどんな形にするかもめている。

 

そして、俺と雪ノ下さんのクッキーが出来た。

 

「さあ、あなた達どちらが美味しいか教えてくれるかしら?」

 

俺たちは自分の作ったクッキーを、お皿に載せてだした。

 

雪ノ下さんのは、見た目は手作り感があり、普通に人に振る舞うことが出来そうなクッキー。

 

俺のは、アーチャー直伝、見た目はお店にありそうで、絶対に美味しいクッキー。

 

ホントにこの子は凄いな。自分だけの実力で、ここまでできるなんて。まだ小学生だから上手くいかない事もあるだろうけど、成長すればかなり凄い人になるだろうな。

 

この子は、ムーンセルのマスターにもなれるだろう。それも、凛やラニ、あのレオにも劣らない程の凄い才能が彼女にはある。

 

俺にはそれがよくわかる。才能を持っている人間を何度も見てきたから。

 

「なら、まず俺は雪ノ下のから…」と一人が言うと、他の三人も雪ノ下さんのを食べる。

 

「美味い」、「これはイケる」などのよくある感想。

 

そして俺の番だと思ったが、誰も手を付けない。

 

「お前が先に食えよ…」、「いやだよ」などと、全員が俺の作ったクッキーを食べようとしない。

 

『マスター、料理は食べてもらう人に美味しいと思ってもらうために作るんだ。味はどうあれ、その気持ちはわかる者はわかってくれるからな』

 

『ご主人様、料理は愛ですよ。作ってあげたい人への愛です。私はご主人様に『美味しい』と思ってもらうために日々頑張っていますよ。キャッン!恥ずかしいです///』

 

『美味しく食べてもらいた』そういう気持ちで、みんなに作っても食べてもらわなければ意味もないな。

 

「雪ノ下さん。この勝負は俺の負けでいいよ」

 

「えっ?」

 

「人が食べられないモノを作ったからね。勝負は見えてるよ。このクッキーは家に持ち帰るから」

 

「ちょっとそれはどう――――」

 

そうして、俺は雪ノ下さんの言葉を聞かずに自分のお皿を下げた。

 

「先生、ビニール袋下さい。ちょっと失敗したので持ち帰りたいので」

 

「そうなの?わかったわ。前の机の横にあるから持って行っていいわよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

俺はお皿からビニール袋の中にクッキーを移した。

 

そうして、俺と雪ノ下さんの勝負は終わった。

 

 

 

 

 

教室にもどり、呆然と帰りの準備をしていると、雪ノ下さんが俺の席の前に来た。

 

気付いたら、他の生徒はもう帰って、教室には俺と雪ノ下さんしかいなかった。

 

「今度はどうしたの?勝負は君の勝ちのはずだけど?」

 

「なんで、あなたは今回の勝負挑まずに辞めたの?」

 

「雪ノ下さんも見てたと思うけど、あんなに嫌がってるのに、強制して食べてもらう方がダメだと俺が感じたからだよ」

 

「あなた、私のことを気にしているの?悔しいけど、クッキーの見た目からしてあなたの方が、私のクッキーよりも美味しそうに見えたわよ」

 

「いや、これは本心だ。美味しく食べてもらいたくても、相手が嫌だと思って食べたら、美味しいモノも不味くなる。相手の気持ちを考えずに暴走したら、本も子もないからね」

 

実際俺も、雪ノ下さんより美味しくできたと思った。勝てると思った。でも、ダメだった。あの場で「クッキーを食べてくれ」なんて俺には言えなかった。

 

「あなたは優しすぎよ」

 

「ハハ…、前も『優しすぎ』とか『お人好し』とか言われたな。でも、今回のは優しさと言うよりは、俺自身の心の弱さだから」

 

「…心の弱さ」

 

「そう、俺の心の弱さ。あの場で『美味しく食べてもらうために作ったから、食べてくれないかな』みたいなことは俺には言えない。だから俺は君に負けた。それでいいんじゃないかな」

 

そう。この世界に来てここ数年で分かった。この心の弱さはムーンセルでは味わえなかった。

 

月の表ではサーヴァントと共に目標のため、強敵に立ち向かう勇気を手に入れた。

 

そして周りに流されるだけの存在から、自分の意志で動ける存在になれた。

 

月の裏では仲間と力を合わせて、ときに助け、ときに助けられ、前に進むことができた。

 

そして月の裏に落ちたみんなを、桜/BB(サクラ)という少女を助けるという目標ができた。

 

俺には目標がありいつも仲間が傍にいてくれた。

 

しかしこの世界では目標がなく傍にいてくれる仲間がいない。

 

確かに心の支えになる家族やムーンセルのサーヴァント達がいる。

 

だがその心の支えはいつも一緒にいるわけだはない。

 

「俺は、俺は弱いから一人で前に進む勇気が持てない。俺の心情は『どんな状況でも諦めずに前に進む。』だけどそれは俺一人では出来ない。」

 

「そう…。でも、私はあんな勝ち方は認めない。私は、あなたに正々堂々と勝ちたいの。あんな不戦勝みたいなのは嫌よ。だから…」

 

「?」

 

「だから、あなたの作ったクッキーを私が食べてあげる。」

 

「え?」

 

「私が食べてあげるから。早く持ち帰ろうとしたクッキーを出しなさい。」

 

「う、うん。わかった。」

 

俺は、ランドセルからビニール袋に入ったクッキーを雪ノ下さんに渡した。

 

そして、雪ノ下さんはクッキーを一つ取り、口に運ぶ。

 

「悔しいけど、やっぱり私のより美味しいわ。もう一つ貰っていいかしら?」

 

ああ、涙が出てきた。

 

こうして食べてもらえることが、美味しいって言ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて…。

 

「き、岸波くん。な、なぜ泣いているの?」

 

雪ノ下さんは、俺が涙を流していることに慌てている。

 

俺は流れてくる涙を抑えようと目を擦るが涙が止まらない。

 

「ご、ごめん。家族以外に、俺の作ったモノが褒めてもらえて、『美味しい』って言って食べて貰えることがすごく嬉しくて…。」

 

やっぱり俺はまだ弱いな…。

 

「そ、そうなの…。ねぇ岸波くん。今日の勝負は引き分けにしてまた他のことで勝負をしましょう」

 

この子は優しい子だな。

 

「うん。ありがとう」

 

頑張って涙を抑えて、笑顔で返事をする。

 

「一つのことじゃ、どちらが優れているかわからないから、いろんな事をたくさん勝負しましょう」

 

「わかった。それじゃあ、これからもよろしくね。雪ノ下さん」

 

そして俺は雪ノ下さんに右手を出す。

 

「ええ、これからもよろしく。岸波君」

 

雪ノ下さんは俺の右手を握り、握手をする。

 

こうして俺、岸波白野には友人よりも先にライバルができた。

 

 

 

 

 

俺たちは教室を出て玄関に向かう。

 

俺は気になっていたことを聞いた。

 

「雪ノ下さんはクッキー作るの上手だったけど、誰かに習たり、何度も作ったりしてたの?」

 

「いえ、今日作ったのが始めてよ」

 

「えっ!?」

 

「昨日寝る前に料理本を見て、作り方を覚えてきたの」

 

「す、凄いね…」

 

「私、大体の事は三日あれば完璧に出来るのよ」

 

「……」

 

やばい。ライバルと思ったが、性能に差がありすぎる。

 

「お、俺は、雪ノ下さんに負けない様に毎日努力して頑張らないと…」

 

「ええ、期待してるわ。あなたは『他の人と違う』ということをね」

 

「今の言葉どういう意味かわからないけど、その期待に添えるよう頑張るよ」

 

その日から俺は雪ノ下さんに負けないように努力を始めた。

 

こうしてこの世界で俺に目標ができた。

 

『雪ノ下雪乃という存在の隣ではなく上に行く』と…。

 

その後、雪ノ下さんとテストや体育、料理やゲームなどの、いろんな項目で勝負をやった。

 

途中で雪ノ下さんが海外に行くことになって、悲しかったが努力は怠らなかった。

 

中学三年のとき転入というかたちで、こっちに帰って来た。

 

その後もいろいろあったって、雪ノ下さんに俺が魔法(コードキャスト)が使えることがバレてしまったが、勝負は続いた。

 

そして俺は雪ノ下さんと同じ総武高校の国際教養科に入った。

 

ムーンセルの方も進展があった。

 

開かずの間は開かない癖に新しい部屋ができて新しい住人が三人増えた。

 

俺の知らない会ったことがないサーヴァント。なぜだ?

 

クラスはアーチャー、ライダー、ルーラーの三人。ルーラーってなに?

 

三人とも女性かと思ったら、ライダーは男性だし、年が近そうだがら仲はいい。

 

キャスターが新入りのアーチャーを見て『獣耳が増えちゃいました!!ご主人様』と言ってた。

 

真名はまた今度でいいか。

 

みんな個性的だったな。頭良さそうなのにおバカだったりするから、よく一緒に勉強をしている。

 

細身で足が速いのに大喰らいだったり、リンゴが好きらしく、よくアップルパイを作ってあげる。食べてる時の顔がとても可愛い。

 

見た目が女の子だったり、そう、見た目が女の子だったりな!これはかなり大切だ。だから、二回いや、最初の方を会わせると、三回か。

 

それで新入り三人の歓迎をすると言って、セイバーが宴会を開いたせいで、俺はその日寝坊して学校に遅れた。桜も起こしに来たらしいが、俺がとても幸せそうな寝顔をしていたらしく、起こさず先に行ってしまった。

 

料理を作ったのはもちろん、アーチャー、キャスター、それと俺だった。

 

そしてムーンセル電子手帳に新しい機能が追加された。

 

サーヴァント達とメール、チャット、電話ができるようになった。

 

チャットルームの名前は『SE・RE・PH(セラフ)』だそうだ。

 

他に変わった事は、雪ノ下さんが海外に行ってしまったあと、近所に中華料理屋が出来て、その店長があの外道神父のソックリさんで、名前も同じで、奥さんが外国人さん、俺より一歳年下の奥さん似の娘さんがいた。

 

あそこの激辛麻婆豆腐が美味しいため、行きつけの店になった。

 

この数年いろいろと変化はあったが、まだ俺には友達が出来なかった。

 

高校に入ったら、絶対に信頼できる友人を作ってやる。

 

 

 

 

 

「いや~、高校生活という新しい環境にテンションが上がったせいで、早く起きてしまった」

 

いつものトレーニングを終えて、朝食を先に作っといて食べた。

 

「いい時間になるまで、その辺をランニングしよう。」

 

パーカーとジャージのズボンのラフな格好で外を走る。

 

そして、そろそろ帰ろうと思ったとき、ガシャンと大きな音がした。

 

その方向にむかうと、黒塗りのリムジンと壊れた自転車、足を抑えて痛がる俺と同い年ぐらいの、総武高校の制服を着た少年と、その近くに小さな犬がいる。

 

「あのリムジン…、雪ノ下さんの家のか…?」

 

俺は着ているパーカーのフードを深く被り、足を抑える少年に急いで近付いた。

 

「君!大丈夫か!」

 

少年は痛みが酷いせいか俺の声が聞こえないようだ。

 

これなら大丈夫か…。

 

俺は彼が抑えている足に手を当てて、

 

「recover()…」回復系の中で最も良い赤原礼装のコードキャスト。

 

少年は痛みが引いて安心したのか気を失ってしまった。

 

一応完全回復ようのコードキャストだがまだ完治したかわからないから、救急車を呼んだ方がいいな。

 

ちょうどいいタイミングで運転手が出てくる。

 

まだ、今の状況が理解できないのか少し慌てている。

 

「運転手さん、まずは救急車を呼んだ方がいい。もしかしたら足が折れてるかもしれない。今は気を失っていますが、俺にはどういう状態かはわからないので…」

 

「わ、わかりました」

 

そして運転手は携帯電話を取り出し、救急車を呼ぶ。

 

俺は近くにいた犬を抱きかかえ頭を撫でる。

 

辺りを見廻しリールも持ってこっちを呆然と見ている少女を見つけた。

 

「ねぇ、君」

 

「…は、はい」

 

「このワンちゃんは君の?」

 

「そうです…」

 

彼女は俯いて答える。

 

「よかったね」

 

「え?」

 

「ワンちゃんが事故にならなくて」

 

「で、でも、あの人が…」と悲しそうな声であの少年方を向く。

 

「大丈夫だよ。じきに救急車が来ると思うから」

 

「それでも、私の不注意でサブレが轢かれそうになって、あの人がサブレを助けてくれて…」

 

「それならあの少年に感謝をしないと。そうだ。彼のところにお見舞いに行ってお礼するのがいいよ。クッキーとか作ってあげたら喜ぶと思うよ」

 

俺は抱えているサブレと言う名前の犬を彼女に渡す。

 

「俺は、この後用事があるからこれで」

 

彼女に抱えられた犬の頭を撫でて。

 

「サブレ。助けてもらえてよかったね」

 

犬は、気持ち良さそうに目も細めた。

 

そうして俺はその場を離れた。

 

 

 

 

 

家に帰り、汗をシャワーで流し、制服に着替えて自転車で家を出る。

 

桜の中学と、俺が通う総武高は方向が違うためこれから二年間一緒に通えないな。悲しいな…。

 

そして総武高に着き、自分のクラス1年J組に入る。

 

「俺の席は…っと、ここか。窓際の後ろって結構いいポジションだよな」

 

そんなバカみたいなことを言っていたら、雪ノ下さんが教室に入ってきて、俺の方へと近づいて来た。

 

「おはよう雪ノ下さん。今年もよろしくね」

 

俺が挨拶をすると彼女も挨拶を返してきた。

 

「ええ、今年もよろしく。それよりも岸波くん」

 

「?」

 

「あなた、今日の朝、七時くらいに学校付近にいたかしら?パーカーのフードを深く被って」

 

やっぱり気付いていたか。

 

「わかっちゃった?」

 

「やっぱり…。ごめんなさいね、迷惑をかけてしまって…。それとありがとう。彼は無事に病院まで行ったそうよ。ケガも、打撲と擦り傷程度に済んだそうだし」

 

「迷惑はなんてないよ。あれは俺が勝手にやったことだし。お礼を言われるよなことはしてないし」

 

「何を言っているのあなたは。あの力は人に見られたくなかったのでしょ。あんな所で使って人に見られたらどうするの?」

 

「そのことを人がいる教室で喋るのは、もっと困るのですが…」

 

雪ノ下さんは目立つからさらに困る。

 

「そ、そうね。私としたことが失念していたわ」

 

雪ノ下さんは俺と桜に対しては、前ほどきつく当たらなくなった。

 

「その話はまた後にするわ。それと岸波くん」

 

「なにかな?」

 

「あなた、入る部活は決めたのかしら?」

 

「いや。まだ、といくか入るかはわからない」

 

「私、部活を作ろうと思うのだけれど…」

 

「?」

 

「…私の部活に入らないかしら?」

 

「入るかどうかは、部活の内容によるかな」

 

「部活の内容は、あなたが大好きな人助けみたいなモノよ」

 

「別に、人助けが大好きって訳ではないけど…」

 

「あなたそれ本気で言っているとしたら、一度自分を見直してみなさい」

 

前より優しくなっても、まだちょっとキツイかな。

 

「でもその部活は面白そうだから、入ってみようかな」

 

「ええ、そう言ってくれると思ってたわ」

 

「部活の名前はまぁ、予想はついてるよ」

 

「言ってみなさい」

 

雪ノ下さんはあの人の後を追っているのはわかっている。

 

前にあの人が、雪ノ下さんが言っているような内容の部活をやっていると言っていた。

 

その部活の名前は…

 

「奉仕部」

 

「…よくわかったわね」

 

「俺は君のこと長い間、ライバルだと思ってたからね。まあ、今でもそうだけど。それで君が俺よりも敵視していて、なおかつ憧れている存在のあの人の後を追っているなんて、あの人に初めてあった日にわかってたよ」

 

「…そう」

 

雪ノ下さんは俯いてしまった。仕方がないか、雪ノ下さんはあの人の話はあまりされたくないだろうし。

 

「だけど、俺は君を応援するよ」

 

雪ノ下さんは顔を上げて俺の事を見る。

 

「俺は前君に助けられた。だから俺は君の願いを、君の思いを、君のやりたいことを応援したいと思うし、手伝いたいとも思う。君は人に頼ることを嫌ってるのも知っている。だけど、俺は君を裏切らない。君から離れて行った人たちは違う」

 

前にも同じことを言ったな。

 

「だから君は俺の事を信じて欲しい。俺を頼って欲しい。君は俺の大切な存在の一つだから」

 

「岸波くん…」

 

「?」

 

「あなたよくあんな恥ずかしい事を人前で言えるわね」

 

「え!?」

 

俺は周りを見渡すと今教室にいる生徒全員に見られている。

 

「なに、告白!」「入学初日から」「ウソ!すごくない」「あんな可愛い子に告白するとか、玉砕だろ」

 

は、恥ずかしーーーいぃ!!

 

ヤバい顔が凄い熱い。

 

恥ずかしさのあまり自分の机にうつ伏して恥ずかしさに悶える。

 

「…ありがと、岸波君…」

 

雪ノ下さんの声が小さく、俺が悶えてるせいもあり、何を言っていたのか全く聞こえなかった。

 

「それじゃあ、岸波君。奉仕部に入部するのね?」

 

顔はまだ赤いが雪ノ下さん方を見て答える。

 

「うん。入部させてもらいます。雪ノ下部長」

 

「ええ、これからよろしくね。岸波副部長」

 

そうして、俺たちは『奉仕部』作った。

 

 

 

 

 

後日俺の名は、入学初日に雪ノ下雪乃に告白して玉砕した男として、一月ほど有名になった。

 

 

 

 

 




次回は二年生。あの卑屈男が出てきます。

次回は短くはなるかな。

サーヴァントの追加でFate/Apocryphaのあの三人を選んだ理由は、僕があの三人のことが好きだからです。

外道神父とその娘は前から考えていたので入れました。娘の方はヒロインの一人にしようと思います。

雪ノ下さんは原作より少し性格が柔らかいですが、卑屈男はしっかりと罵倒しますし、白野くんもたまに?罵倒されるようになると思います。

次回も頑張って書くので楽しみにしてくれると嬉しいです。

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