やはり岸波白野の青春ラブコメは王道か?   作:魔物Z

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今回で戸塚回は終了
小説で言うと一巻が終わり、アニメでは4話目ぐらいかな?
原作でもあまりテニスバトルを長々と書いて無かったので、楽しめるかはわかりません

誤字もあると思いますので、あったら教えてもらえると嬉しいです。
それでは!!


テニスで岸波白野の出番は少ない?

 

 

 

 

 

俺はコートの二人を見て驚いた。

 

二人というよりも雪ノ下の笑顔を見てだが。

 

「あいつ、あんな顔もできるんだな」

 

思ったことが声に出てしまうほどに驚いてしまった。

 

「そうだね。ゆきのんの笑顔、あんなに素直な笑顔もできるんだね…」

 

由比ヶ浜も雪ノ下の笑顔を見たようだな。

 

「キッシーってすごいよね。あたしたちのできないことをやっちゃうんだもん」

 

「なにお前そのあとに『そこにしびれる。憧れるぅー』とか言うの?岸波を吸血鬼にでもしたいの?」

 

「何言ってんのヒッキー。キモいんだけど」

 

「…。うるせぇ」

 

由比ヶ浜にはまだジョ〇ョネタは早かったようだな。ってかキモいとか言うな。

 

「でも、憧れ、というより羨ましいって思う。料理も、ゆきのんのことも」

 

「まぁあいつら長い付き合いみたいなのがあるから、お前も雪ノ下とそういう関係になれんじゃねーの。料理は無理だと思うが」

 

「そうだといいなって料理のことは関係ないでしょ!ヒッキーマジでキモい!!チョームカつく!!」

 

「はいはい。そろそろ始まるみたいだな」

 

俺はごちゃごちゃ言ってる由比ヶ浜を無視しコートのほうを見る。

 

「あんさぁ、雪ノ下サンがしってるかしんないけど、あーし、テニス超得意だから」

 

サーブは三浦。三浦はテニスボールをバスケのドリブルの要領で投げては受けるを繰り返す。

 

三浦はにぃっと笑う。攻撃的な獣の笑顔。

 

「顔に傷とかできちゃったらごめんね」

 

…うわぁ、怖。

 

三浦のサーブ。ひゅっと鋭い風を切る音と、ボールを弾いた軽快な音がした。

 

打球は雪ノ下の左側に突き刺さる。右利きの雪ノ下にはリーチ外、左ラインぎりぎりに打ち込んできた。

 

最初の言葉はブラフか…。

 

だが雪ノ下はすでに迎撃態勢が整っているようで

 

「…甘い」

 

俺が見ている位置でぎりぎり聞き取れる囁くような声が聞こえ、左足を踏み込ませてそれを軸に、まるでワルツでも踊るかのように回転をした。

 

右手のラケットがバックハンドで打球を捕捉、居合抜きのような打球が一閃。

 

超高速のリターンエース。打ち返された打球は三浦の足元で弾けるように跳ね、三浦はそれに小さな悲鳴をあげた。

 

「あなたが知っているとは思わないけど、私もテニスが得意なのよ」

 

ここからじゃどんな表情をしているかわからんが、三浦が怯えと敵意が混じった目で雪ノ下を見ながら一歩下がった。

 

あの三浦があんなんだから、俺なんか死んじゃうと思うわ。

 

「ゆ、ゆきのんすごい」

 

「確かにあのブラフ見破って、アレを返したからな」

 

「ブ、ブラフ?」

 

馬鹿な由比ヶ浜にはブラフという言葉の意味がわからないようだ。

 

「ブラフってのはフェイントみたいなもんだ、相手を騙すためにわざとする細工みたいなことだよ」

 

「へぇ、そうなん…あ、あたしだって知ってるしそれぐらい!!そのグラフ?ってやつ」

 

「さいですか…」

 

すでに間違ってるよ。ブラフだよ。グラフじゃないぞ。いいや、由比ヶ浜なんてほっとこ。

 

それからも雪ノ下の攻撃は止まらなかった。防御すら攻撃。

 

打たれたサーブは確実に相手のコートに沈め、戻ってくる球は問答無用で押し返す。

 

「フハハハハハ!圧倒じゃないか我が軍は!薙ぎ払えーっ!」

 

勝利の臭いを嗅ぎつけた材木座がいつの間にかこっちに来て勝ち馬に乗ろうとしている。

 

とんでもなく腹が立つな。

 

だが実際、材木座がいるということは形勢が逆転したということ。

 

それにまだ岸波もいる。今回の依頼を見ていても岸波は戸塚よりもうまかった。

 

そんな岸波がまだ一球も打っていないところを見ると雪ノ下のすごさがよくわかる。

 

俺と由比ヶ浜、コートの中にいる岸波ですら完全にアウェー状態。

 

観客というか、観客の男子の多くは雪ノ下に熱視線を送っている。

 

雪ノ下は学園の広くに知られているし、あの美貌だ。

 

そんな雪ノ下を動かした由比ヶ浜は相当な勇気の持ち主だな。

 

その後も雪ノ下の活躍は止まることを知らず、岸波がサーブを打ってそれが返ってきても雪ノ下が打ち返し点にするみたいな感じになった。

 

岸波は打ち返したくてもそれを雪ノ下に取られて打ち返せずにゲンナリとしてるし…。

 

そうして雪ノ下のサーブ、高々と空へと放り投げる。ボールはコートの中央めがけて飛んでいく。雪ノ下の位置からは明らかに遠い。

 

ミスとも思ったが違う。雪ノ下は飛んだ。

 

右足を前に踏み出して、左足を送り、最後に両足で踏み切る、とてつもなく綺麗で軽やかな動き。

 

そうして空中でボールを打つ。

 

ギャラリーも、葉山も三浦も反応ができないほどにすごかった。

 

「…ジャ、ジャンピングサーブ」

 

俺はほとんど呆れながら口にしていた。

 

誰もが驚いたであろう、だが岸波はその速いサーブでも見慣れているかのようにただ平然としていた。

 

 

 

 

 

「で、雪ノ下さん。なんで最後の一点まで頑張ってるの?俺の番は?」

 

サーブ権は俺だが、なんかもう…って感じだ。

 

「ええ、私が出せる全力で体力の限界まで頑張ったわ。最後の一球は岸波くんに譲ることにしたわ」

 

「はぁ…、最終的には俺はまだ君の信頼には足りてないてことか…」

 

相手の行動や性格から相手の手の先読みなんてことができても、それをやる前に雪ノ下さんに全部持ってかれた。

 

「大丈夫よ。あなたのことを信頼しているからこそ最後はあなたに任せるのよ」

 

「言葉はいいようだね。まぁ雪ノ下さんは由比ヶ浜さんのために頑張ったから、文句は言わないけど」

 

さて、最後の一球はどうしたものか。サーブで決めてみるか?雪ノ下さんみたいにジャンピングサーブとか?ムーンセルで何度もしてるから十分できるだろうし。

 

「ねぇ岸波くん」

 

「どうかしたの?サーブ権は譲らないよ」

 

最後ぐらいは打たせてよ。

 

「そんなことはしないわよ。さっきも言ったけど体力の限界までやったから、サーブを打てたとしてもそれを打ち返されたら長引くでしょ、この勝負」

 

「じゃあなにかな?少し嫌な予感がするんだけど」

 

雪ノ下さんは俺に近付き小さな声で

 

「もしあなたがサーブをするとき魔法を使ったらどうなるのかしら?」

 

もしかしてこの大勢いるところで使えと?コードキャストを。

 

「もし、だよね?そうだなぁ…予想は俺以外は見ることができないぐらい速くて、人間とは考えられないほどの威力を持ったサーブになるかな?直接当たったら骨折じゃすまないだろうね」

 

「なるほど…」

 

雪ノ下さんが良からぬことを考えているぞ。

 

「雪ノ下さん、俺はそんなことしないよ」

 

そんなことしたらカレンに怒られる。前からカレンに馬鹿みたいに魔術を人前で使うなって言われてるんだよ。

 

雪ノ下さんにバレたときにカレンから受けたお仕置きが…。ガクガク

 

「岸波くん。今、私の前で私以外の女性のことを考えたでしょ」

 

「へ?」

 

雪ノ下さんは怖い目つきになり、そのあと笑みを浮かべて相手の葉山くんと三浦さんのほうを向いて

 

「あなたたちにチャンスをあげるわ」

 

やばい。これはやばいぞ。

 

「はー。チャンス?」

 

「まぁまぁ、優美子落ち着いて。それで雪ノ下さん。チャンスって何かな?」

 

「どうせ次、私たちが点を取れば私たちの勝ちになるでしょ」

 

「なに勝った気でいんの?」

 

「実際にそうでしょ。だからチャンスをあげるわ」

 

雪ノ下さんの言葉に三浦さんがムカついている。って雪ノ下さん絶対に俺にコードキャスト使わせる気だ!!

 

「次の彼のサーブを打ち返すことができたら。あなた達の勝ちにしてあげるわ」

 

雪ノ下さんの言葉に相手どころか、仲間やギャラリーもざわめく。

 

「ちょ、雪ノ下さん!?ご、ごめんなさい…」

 

睨まれた。やばい逃げ場がない。

 

コードキャストを使わずにサーブを打って、もし打ち返されたら負けだし。負けたせいで依頼放棄、由比ヶ浜さんの頼みを裏切る、雪ノ下さんからお仕置き。

 

だが使ったら使ったで、周りから恐怖で避けられる、カレンからお仕置き。

 

クソっ!どっちも嫌だ!

 

そ、そうか相手がこれを断ればいいんだ!それしかない。

 

「意味わかんないんだけど」

 

よーし。そのまま…

 

「あら、自信がないのかしら?」

 

それはダメだぁ!俺が見る限り三浦さんは雪ノ下さん程ではないけどかなりの負けず嫌いだ。それを言ったら絶対に乗ってくる。

 

三浦さんは雪ノ下さんの挑発を受けて雪ノ下さんを睨みつけた。

 

「いいしょ。そのチャンスだか受けてやるし」

 

も、もうやるしか…、ま、まだ葉山くんが…。

 

葉山くんに視線を送ると

 

ニコッ

 

「……」

 

その優しい笑顔が今は辛いよ…。

 

「それではチャンスを受けるってことでいいのね」

 

雪ノ下さんは相手に背を向けてこっちに戻ろうとした途中

 

「彼まだ本気出してないみたいだから、しっかりと見ておいた方がいいわよ。ボールが目では追えないほど速いみたいだから」

 

その一言でさらにギャラリーがざわめく。大半が馬鹿にしているような感じだが。

 

俺は戻ってきた雪ノ下さんに

 

「雪ノ下さん。本気でやらないといけない?こんなに人がいるのに」

 

「いいえ、使わなくてもいいわよ。相手に打たれなければ」

 

「……」

 

あれだな…もういいか、カレンにもバレなければいいんだし。

 

「わかった。それじゃやるけど、嫌わないでね」

 

「あなたを嫌いになるわけがないでしょ。今さら何をって感じよ」

 

「そうか。一人ぼっちになるわけじゃないなら大丈夫かな。周りがいなくなっても君だけでも残っていてくれるなら…。それじゃ少し離れて、というかコートから出た方がいいかな」

 

「ええ、よろしく」

 

雪ノ下さんは俺から距離を取りコートから出る。

 

「……」

 

俺は深呼吸をして息を整え、心の中を穏やかにする。

 

 

 

 

 

俺の異変にざわめきが消えた。

 

異変と言っても魔術の使えない人間の目には全くわからないだろう。

 

だが空気のようなモノ、悪寒や寒気のようなモノは感じ取れる。

 

まずはコードキャストのことについてだが、この世界と前の世界では大きな違いが二つある。

 

まずはコードキャスト、礼装の装備状態だが前は礼装は二つまでしか装備できなかった。だが今は、俺の電子手帳に礼装が収納されていて、それが全て装備されている状態になっている。

 

コードさえ覚えていればいくらでも使えるし、礼装の具現化もできる。

 

魔力の量に限っては下級サーヴァントぐらいはあるだろう。

 

もう一つはコードキャストの対象について。

 

コードキャストはサーヴァントのサポートに使うモノとして見ていいだろう。

 

だがこの世界にはサーヴァントはいない。この世界でコードキャスは人や動物、自分に使うことができるようだ。

 

入学式のとき比企谷の足を治したときも、さっき由比ヶ浜さんのときも。

 

そのとき使ったのは回復系のコードキャスト、人体になんの影響もなく使える。

 

今回使うのは強化系のコードキャスト。強化できるのは魔力、耐久、筋力の三つ。まぁ幸運もあげるモノもあるが。

 

まずは魔力の強化。これは滅多に使わない。これは魔弾などの魔術攻撃の威力を上げるためのモノで、コードキャストの威力が上がるわけだはないから俺が使う意味がない。

 

次に耐久の強化。これは魔力によって、服や装備、身体の作りを頑丈にして防御力を上げるモノ。

 

最後に筋力の強化。これは非常に危ない。魔力によって脳がやっている力の規制、リミッターを外して筋力を無理矢理上げる。

 

使ったら身体えらいことになる。簡単に言うとサーヴァントと人間では身体の作りが違うから、人間の身体では耐えきれないということだ。

 

中学のとき、子猫のを殺されたときや雪ノ下さんにバレたときの翌日、身体中が筋肉痛や肉離れでひどいことになった。

 

骨折や内出血などにもなるが、それらは回復系のコードキャストで何とかなる。

 

ただ、筋肉痛や肉離れは身体の疲労のため、コードキャストではどうにもならないわけだ。

 

明日は筋肉痛かな…。

 

今回使うのは筋力の強化、だがそのまま使うとアレなので最初に身体の耐久の強化をする。

 

「gain-con(32)…」

 

これは身代りの護符のコードキャスト、耐久を大幅に強化する。

 

自分の身体を守るように魔力を構築する。

 

次が筋力の強化。

 

「gain-str(32)…」

 

これは古びた神刀のコードキャスト、筋力を大幅に強化する。

 

実際はこの大幅に上げるモノでなく、普通の強化、守りの護符と錆び付いた古刀で十分に足りる。次の日のことを考えると使いたくはない。

 

だけどどうせやるなら本気でやってみたい。カレンにはバレなければいい。もしバレたときのお仕置きは怖いけど…。ええい、ままよ!もうどうにでもなれ!

 

目に魔力を送る。

 

準備は整った。

 

静まりったテニスコート。ギャラリーも誰一人として声を出さない。

 

俺は雪ノ下さんのようにテニスボールを上へと放り投げる。

 

ジャンピングサーブのモーション。俺はボール目がけて飛ぶ。

 

雪ノ下さんのように綺麗なものとはいかないが、力強く、俺の出せる全力を込めて打つ。

 

俺が振ったラケットはしっかりとボールを芯に捕らえた。そのときボールが消え、爆発音にも似た音を上げる。

 

俺の魔力を込めた目には見えるが、他の人には追うこともできないだろう。

 

速さは音速、マッハに入っていると思う。

 

俺は落下しながらボールの動きを見る。

 

ボールは葉山くんと三浦さんの間のラインの右、葉山くん寄りに着弾。そのまま地面を飛び上がり、後ろへと飛ぶ。

 

俺の計算では金網に当たらないようにグラウンドに飛ばすように打った。金網に当たったら、貫通してギャラリーから怪我人が出るはずから。

 

このままグラウンドに飛んでくと思ったボールはなぜか金網の上の鉄枠へ当たりこっちのほうへ…。

 

やばいな。もしかしたらこっちに返ってくるかな?

 

普通は入射角から考えて斜め上に飛ぶと思うんだけど…、俺の運の無さがここまでとは…。

 

俺が着地したときにはもうこっちのコート入る手前、テニスボールに俺のむかってくる。

 

避けれないな。避けれはするが、避けたら後ろにいる誰かに当たる。

 

それだけはさけなければ、そんなことを考えていると反射的にボールを掴もうと俺の左手が動く。

 

右手はさっきのサーブで感覚がないのでお休み中。

 

まだ筋力強化と耐久強化が残っているからなんとかなるかな?

 

左手でボールの衝撃を逃がすように引きながら掴むが、さすがに痛いし熱いし重い。なんかやばいぞ。

 

左手の皮が摩擦で焦げ、衝撃で骨が軋む。だがここで止めないと怪我人が出てしまう。

 

しっかりとボールを握り抑え込む。

 

…なんとか左手だけで取れたけど、指や掌の骨にひびでも入ったかな?だって痛いもん。

 

ここまでほぼ一瞬のできごと。ボールが消え爆発音にも似た音が起き、俺の着地時に手元に返ってきた。それと同時に鉄枠から異常な音が聞こえた。

 

常人にはなにが起きたかわからない。

 

この場にいる全員が呆然と俺のことを見ている…。恥ずかしいから止めてほしい。

 

「雪ノ下さん。これで俺たちの勝ちでいいのかな?」

 

「え、ええ、相手は打ち返せなかったみたいだし」

 

やれと言った雪ノ下さんですら今の状況を理解できてないようだが、どうしたものか。

 

「き、岸波」

 

おや?材木座が呼んでいるぞ。

 

「どうした材木座」

 

「さっきのは…」

 

「サーブだけど?」

 

「わ、技名はなんと言う?」

 

わ、技名?どうしようそんなの考えてないな…。

 

「え、えーっと『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』?(仮)で」

 

ごめんアーチャー。よくわからないけど技名を使わせてもらうね。

 

技名を言った瞬間、カラドボルグ…、とギャラリーがささやく。

 

「雪ノ下さん。この空気どうしよう?」

 

「私に言わないで、あなたがやったことでしょ」

 

「君がやれって言ったことだよ…」

 

もう終りにして、両手の治癒をしたいんだが…。

 

「えーっと、葉山くんと三浦さんだっけ?今回は俺たちの勝ちでいいかな?」

 

「え、あ、うん。岸波くん達の勝ちだね。みんなこれで終わりだ。帰ろうか」

 

葉山くんがそういうとギャラリーの人たちがどんどんと去っていく。

 

そうして一、二分で残されたのは奉仕部側の人たち。

 

「それじゃあ、俺たちも帰って授業の準備を…、どうしたのみんな?」

 

みんなが未だに理解ができないような顔をしている。仕方がないけど…。

 

「岸波。お前はさっきなにをしたんだ?」

 

比企谷はそう尋ねてきた。俺もなにを言われているかはしっかりと理解した上で。

 

「サーブだよ。俺が出せる本気のね」

 

「そうだとしても異常すぎるだろ。本気つっても限度がある」

 

「じゃあ、比企谷は俺がなにとしたと思う?」

 

「わからない。だから聞いてるんだ。ここにいる全員が、いや、雪ノ下は別みたいだが」

 

比企谷はここにいる全員の顔色で真実を知っている人間を当てたわけだ。

 

俺は辺りを見回し、人気がないのを確認。今残っている人間は奉仕部の四人と戸塚くん。材木座は帰ったようだ。

 

言った方がいいかな?でもさすがにまだ無理かな。ここにいる人間は優しい人たちなのは十分わかっている。だが、優しいからといって魔術を教えていいというわけではない。カレンのお仕置きが怖いし。

 

「また今度でいいかな?」

 

「ここで逃げるのか?」

 

「前の言ったろ、前に進むには逃げることも大切なことだ。まぁあと数カ月もすれば言うよ。絶対に」

 

あの日が来る前には絶対に…。

 

「…そうか。ならそのときが来るまで待つことにする。にしても、どうすればあんなことになんだよ」

 

相手コートには焦げた跡。鉄枠はボールが当たった部分が食い込むような形に曲がっている。

 

「岸波って『無我の境地』に入ったどこぞの王子様?」

 

「魔術師の生まれ変わりだよ」

 

「お前その設定好きだな。テニスにそんなもん関係ねぇだろ」

 

「確かにそうだな。もうじき昼休みも終わるから帰ろうか」

 

そうして各々のペースで歩き始めた。

 

 

 

 

 

俺は一番後ろを一人で歩いていると雪ノ下さんが俺の横に来た。

 

「どうしたの?」

 

「ごめんなさいね。私が勝手なことを言ってしまったせいで」

 

ならやらせないでよ…。でも

 

「謝らなくてもいいよ。最終的に俺の意思でやったことなんだし」

 

「あなたは変わらないわね」

 

「そうやって進んできたからね。」

 

実際、人間は多少の県境の変化では性格は変わらないと思うけど。

 

「そうね。ねぇ岸波くん。両手見せてくれないかしら?」

 

「ん?どうして?」

 

急にどうしたのかな?もしかして気付いちゃった?

 

「みんなはサーブのことで気が回らなかったみたいだけれど、サーブを終えてからあなたの右腕動いていないし、左手で握っているテニスボールに血が付いてるわよ」

 

「え?ホント!?」

 

ボールを見ると確かに付いてるな血。

 

「いつまでテニスボールを握っているつもり?」

 

「いや…、それが、指が全く動かないんだよね…」

 

そうなんだよ。さっきから動かそうと頑張ってるけど動かないんだよなぁ。

 

もしかしてひびどころか、砕けたかな?

 

「あなたの感覚で今の両腕はどんな感じ?」

 

雪ノ下さんが心配そうに聞いてきた。

 

「そうだなぁ。右腕は神経断裂。左手は各骨が粉砕骨折で、摩擦熱による火傷と出血って感じかな?あと明日は筋肉痛」

 

「岸波くん。それは重症っていうのよ。痛くはないわけ?」

 

「大丈夫だよ。痛さはないよ。というか感覚がないから痛さを感じないのかな?ちょっと待ってて魔法で治すから。recover()…」

 

赤原礼装のコードキャストを使うと身体の痛みが消えていく。

 

両手の指を動かしてみる。うん、動く。少しぎこちないがもう一回やれば完治できるかな。

 

「recover()…」

 

今度はしっくりとくる。右腕も動くし、左手が握っているテニスボールを右手で持って、左手を動かしてみる。大丈夫。

 

「完治できたみたい」

 

そう雪ノ下さんに告げると心配そうな表情が少しだけ和らいだ。

 

「そう。よかったわ。でもあなたのサーブ、どうして手元に戻って来たかはあの現状からなんとなくわかるけれど、あなたなら避けられたんじゃないかしら。私を助けてくれたときだって…」

 

雪ノ下さんはあのときことを思い出しているようだ。

 

「確かにぎりぎり避けることはできたかもしれないけど、避けたら後ろにいたみんなに被害が出ちゃうからね。狙いでは鉄枠に当たらずにそのままグラウンドに飛んでいくはずだったんだけど…、俺の不幸体質のせいだな…」

 

「あなたは優しいわね」

 

「普通だよ。自分のせいで怪我人を出すわけにもいかないだろ。そうわかっていたら誰だって俺と同じ行動をしたはずだ」

 

俺がそういうと雪ノ下さんは俺の正面に立ち、俺の左手を包むように両手で握って

 

「そうだとしても、自分の身体を大事にしなさい。魔法が使えてすぐに治せてしまうとしてもよ」

 

この子は俺のことを心配してくれるんだな。

 

「わかった。今度から気を付ける。でも、もし俺が魔法を使えなくても、大切なモノが傷つくことがあるなら、俺は自分の身体は二の次にするよ」

 

雪ノ下さんは俺の言葉で悲しそうな顔をしてしまったが、これだけはどうしようもない。これが俺の、岸波白野の生き方だから。

 

俺は雪ノ下さんの頭を撫でて

 

「まぁそんなことにはならないと思うよ。この世界は残酷ではあってもけして悪い世界ではないから見放されることはないよ。誰にだって救いはあるはずだ」

 

「あなたの言葉の意味はよくはわからないけれど、あなたが傷つくことはないのね?」

 

俺は笑顔で「そうだと思うよ」と答えた。

 

「でも岸波くん。今回は本当にごめんなさい。少し考えが足りなかったわ」

 

「珍しいね。雪ノ下さんがそんなことするって」

 

雪ノ下さんは呆れながら

 

「あなたって本当に変わらないわね。やっぱりあなたは少しは変わった方がいいんじゃないかしら?」

 

「どうして!!」

 

 

 

 

 

そうして部室に帰ると、廊下で比企谷が倒れていて、それを戸塚くんが心配そうに見ていた。

 

雪ノ下さんはそれを無視して部室内に入る。

 

「戸塚くん、比企谷はどうかしたの?」

 

「え、えっとね。比企谷くんが部室に入ろうとしたら中からラケットが飛んできたの」

 

うん。意味がわからないや。

 

耳を澄ますと中から会話が…

 

『ゆきのん。ヒッキーに覗かれた』

 

『やっぱり彼は一度、平塚先生にどうにかしてもらう必要がありそうね』

 

なるほど、比企谷が入ったときちょうど由比ヶ浜さんが着替え中だったわけか。

 

「比企谷、ラッキースケベだな!」

 

「……」

 

返事がない、ただのし―――

 

「だから誰が屍だ!」

 

まぁ俺は着替えを別の場所でするからラケットが飛んでくることはないな。

 

ん?携帯にメールの着信があった。送り主はカレン…。

 

機械音痴のカレンがメールって…。

 

内容は…。

 

『宝籠は梨がりあります』

 

なんだこれ?えっと『ほうかごはなしがあります』、『放課後話があります』かな?

 

変換ミス、携帯で?って絶対に説教だよな…。

 

「はぁ…」

 

俺は大きなため息をつく。

 

放課後、俺は大丈夫だろか…。

 

 

 

 

 




今回で軽くコードキャストについて書いてみました
白野くん少し人間の域を超えてしまった気がします

雪ノ下さんが言っていた『私を助けてくれたとき』とは白野くんが言っている『コードキャストが雪ノ下さんにバレたとき』のことです。これは過去話みたいな感じで書こうと思っています

次回は原作通りにチェーンメールの回を書こうか、それとも雪ノ下さんが白野くんの家に猫を見に行く話にしようか悩んでいます

それでは次回に!

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