Báleygr   作:清助

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第一章 Sweet Rain
第一話「プロローグ」


 

 少女は訊ねた。

「此処にはどうして光がないの?」

 彼は答えた。

「誰も見ようとは思わないからだよ」

 

                          ――すべての始まりの会話より

 

 

 

 

 

 

第1章 Sweet Rain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世の中には……いや世の外では、偶にどういうわけかどうしようもなく残酷で不条理な事が起こる。おそらく、稀にだ。メイビー、サムタイムズ」

 黒い服を着た男が呟いた。

「今が、まさにその時だ」

 黒い。

 空間も肌も思いも魂も。

 深遠と呼ぶに相応しい。

 光は何処にも存在しない。

 果てしなく深い闇の中で、千の魂が揺らいでいた。

「お前らは死んだ。だけど生きている。言っておくがこれは矛盾していない。神の言う事はすべて、絶対的に正しい」

 何もない空間を男は歩く。全員の魂が彼に向いているのがわかる。それはわかる。それだけは理解できる。

 ――だけど、俺にはそれがとても恐ろしかった。

 思考回路は正常だろう。身体はないのに意識ははっきりとしている。

 自覚している夢の中にいるというのだろうか。

 少なくともこの現実が夢なら、今まで生きてきた人生は夢に違いない。

 ただ目の前にいる男から感じる恐怖は、生まれてきた赤ん坊が産声をあげるくらいに自然で当然な生理反応に思えた。

 間違えようのない絶対的な存在。

 それが存在している。

「そして神の行動原理を理解してもらおうとは思っていない。不意に小惑星が爆発しても、蟻の足が108本になろうとも、暇潰しに異世界を征服してみたいなんて言い出しても、納得してもらおうとは思っていない。――そう、納得なんてできるわけがないだろ?」

 男は立ち止まって腕を広げた。

「説明を開始するぞ豚ども」

 あまりにも高慢で冷酷な言葉に反応したのか、複数の魂に僅かなわめきが見られた。男はそれを見逃さない。

「文句があるならお前らはいらない。代わりは腐るほどいる」

 ぱちんと指を鳴らすとその魂は小さく爆ぜ、あとには大きさの異なる別の魂が浮かんでいた。

 驚くほどあっけない、絶対の無。

 男はそんなことはどうでもいいことかのように話を続ける。

「これからお前らに転生してもらうのは、HUNTER×HUNTERの世界。程度に差はあれど読んだことがある奴を基準に選んだ。ついでに教えてやる。これはオレのゲームだ。そのために態々死後の魂を集めて第二の人生を与えてやるっていってるんだ。感謝しろよ?」

 目の前の状況についていけずに唖然とするしかなかった。考える思考すら与える暇のない演説が淡々と響く。

「オレの能力は至極単純。お前ら一人一人に新たな命を与える代わりに、原作に必ず関わらなければならない使命を課す。ノルマってやつだ、簡単だろ? しかしながら使命を達成できなければ当然死ぬ。あっけなく逝く。単純に、当たり前に、永劫の地獄へ逆戻り……期限は《蟻の王が死んだ地で降る最初の雨の日》までだ」

 男はそこで初めて笑う。

「与えられる使命は完全にランダムだ。ゴン・フリークスと友達になれとか簡単なものもあれば、アルカ・ゾルティックのおねだりを聞けなんてエグイものもある。そこら辺は運任せ……」

 おぞましい笑みだった。

「祈れ」

 誰も何も言わないことに、男は片眉を下げる。

 その赤銅色の瞳が斜め上を向き、不意に思いついたように彼は指を掲げた。

「ところで……HUNTER×HUNTERに出てくる主人公の敵キャラは逐一覚えているか? 例えばボマーとか……神がわざわざこれから始まる人生とその死について説明するなんておかしいよな?」

 それは死刑宣告だった。

「郷に入っては郷に従え。別の神が管理する世界に介入するには、その法則が必要なんだなこれが――まあ言いたいことはこうだ」

 

 

 能力を対象の前で説明する事項を満たし、条件はすべて整った。

 これより我が念能力「死に逝くものこそ美しい(スウィート・レイン)」を発動する。

 

 

 

 瞬間、引き込まれるような感覚。

 脳裏に浮かぶのは、絶望の知識。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――特質系能力「死に逝くものこそ美しい(スウィート・レイン)

 

 

 

 

 

1、 能力発動後、対象者にこの能力の概要を認識させる。

2、 ハンターハンターの世界で原作に関わる内容の「誓約・制約」を対象者に課す。課す条件はE~SSSの難易度によってランダムに区分けされる。

3、 対象者はハンターハンターの住人に原作に関わる内容をいかなる手段を用いても伝達することが不可能になる。この念能力は除念によって消すことはできない。

4、 能力発動者は対象者が指定した時間までに条件を達成できなかった場合、対象者を己の管理する世界に追放することができ、さらにその念能力を剥奪することができる。

5、 能力発動者は能力発動時点で他の神々の世界に干渉することが可能になり、同時に神による干渉を阻害する。

 

 

 

 

 

 

制約と誓約 

 対象者はハンターハンターの内容を一定以上知っている人間でなければならない。

 能力を発動する際は1000人の魂の前で簡単な説明を行わなければならない。

 指定時間が長いほど達成条件は難しくなる確率が上がるが、指定時間は100年を過ぎてはならない。

 能力発動後、発動した能力者は死神としての力そのものを失う。

 指定時間から13日後に世界を崩壊させなければ、この能力の発動者は消滅する。

 

 

 

 

 

指定時間 キメラアントの王メルエムが死んだ日から数えた最初の雨の日

 

 

 

 

 

 

達成難易度B

≪クルタ族滅亡エピソードにおける幻影旅団襲撃事件への参戦、及びそれに伴う原作登場人物クラピカ以外のクルタ族滅亡の阻止の実行。事前の逃亡、隠蔽の類は不可とする≫

 

 

――未達成。

 

 

 

 

 

 

 

ゲームが始まった。

 

 

 

 

               




勢いで書いた。

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