side イッセ―
はあ・・はあ・・・ふっ・・普通に死ねる。
この一週間・・・はっきり言って地獄だった。
特に鋼兄とガチの組手は死ねる。その恐怖のおかげで本能が目覚めてしまったぜ。
圧倒的な力を伴う攻撃を反射的に受け止めたのには驚いた。
考えるよりも先に体が動く。アギトに変身したのと同じ様な動きだったのかもしれない。まだ実感はないけど・・・動きは確かに変わったのだ。
それで何とか鋼兄と辛うじてだけど渡りあえるようになった。
黒歌と小猫ちゃんはそれを見て驚いていたけど。
「まっ・・・まともに渡り合っているの?」
「すごいです。」
いきなりそこまで出来るのは凄い事らしいが・・・こっちだって必死なんだい!!
拳圧で木がへし折られ、岩が粉々になるのを見たらそうなるわ!!
「・・・戦う本能か。」
アギトとしての戦いの本能を人間の時に目覚めて初めて分かる。
アギトは戦うための存在だと。
その動きはそのために洗練されている。
それはどれだけ危険なものなんだろうか?
「自分の存在に悩むか?」
ドライクが表に出てきて話しかけてくる。
「かもな。アギトって一体なんだろうかなって・・。」
「貴方らしくもなく悩んでいるわね。」
クレアもか。
「いい加減付き合いは長いの。聞いてあげるわ。」」
「まあ・・・そう言う事だ。」
・・・本当に俺は相棒に恵まれているな。
SIDE リアス
寝付けなくて夜風を浴びに行こうとした時だった。
イッセ―と誰かの話声が聞こえる。
それは・・・ドライクとクレアとの話だった。
「アギトって・・・何のために生まれたんだろうな。」
話の内容は・・・自分がアギトである事についてみたいだ。
「・・・俺・・・この力と向き合う度に少し怖いんだわ。戦うための存在だっていうことがよお。」
「・・・そこまで気付いていたのか?」
ドライクの言葉にイッセ―は頷く。
アギト。その誕生と存在は常に戦いと共に語られる。彼のいるところ・・・戦いは絶えなかった。
「俺は・・・あの時救えなかった友達がいる。その時に力が欲しかった。でも・・・どうして今になって目覚めたんだろうって思う時もある。」
「・・・十二歳の時のね。」
クレアが深刻そうに話している。
「簡単に癒えぬ傷ではあるまい。あの時はお前もまた未熟だったのだ。力というのは呪いに近い。それに対する心構えも・・・そして恐ろしさも。」
イッセ―・・まだ何かあるというの?
「・・・あなたがこそこそ聞き耳を立てるなんて珍しいわね。」
・・・・ッ!?
って・・・驚かさないでよカ―ミラ!!
「でもね?ばれていると思うわよ。ねえ・・・クレア姉さん。」
「ふふふ・・・いい仕事よ。」
えっと・・・カ―ミラ。何時の間にクレアの事を姉さん呼ばわりしているの?
「だってクレア姉さんの方が年上なんだもん。」
そうなの?でもあなたの年齢もまた今だ不詳だけど?
「クレア姉さんにはそれは禁句だからね。それは多分・・・逆鱗だから。」
ありがとう。気をつけるわ。
「部長?」
どうも微妙なところで来ちゃったわね。
「ごめんなさい。眠れなくて夜風を浴びに来たら話声がして。」
「そうですか。」
しっかりと話は聞いてしまった。
彼がアギトの力に悩んでいる事。
「あなたは知っちゃったわね。イッセ―のもう一つの側面。」
ええ・・・・エロ馬鹿で熱血な一面しか知らなかった。
彼って・・・相当繊細なのね。
人には見せないけど彼は裏で色々と悩むタイプ。
そしてそれをずっといたドライクとクレアは知っているのだろう。
だからこそ・・なんだろう。
私もさらけ出すことにした。
「私・・・魔王の妹というのは知っているわね?」
「はい、一応は。」
私の中の悩みを・・・。婚約をどうして破棄したいのか。
「私の事を魔王の妹・・・次期当主として見る者は多いわ。でも・・・誰も私を見てくれる人はいない。」
グレモリ―の家に生まれた者の宿命かもしれない。
今回の婚約騒動もその一つだ。
「矛盾しているのは分かるわ。でも・・・それから解き放たれたい。そう思うのよ。」
私は自分の力で何かをして見たい。
グレモリ―家の次期当主としてではない。
魔王の妹という立場でもない。
一人の私としてだ。
だからこそ・・・私は明日勝ちたい。
SIDE イッセ―
本当に部長は優しい人だ。
俺の話を聞いてしまったお詫びだけじゃなく、こっちを心配してくれる。
そのために自分の悩みを打ち明けてくれた。
「部長・・・聞いてほしいことがあります。」
そんな優しい人なら受け止めてくれるだろうか?
「これは・・・俺の罪です。深い深い・・・俺の罪の話です。」
「ええ・・・。聞くわ。いえ・・・・聞かせてちょうだい。あなたの過去を。」
それは俺が十二歳の頃・・中学前の春休みの出来事だった。
俺は三人の友達がいた。
一人は六年生の三学期に転校してきて一人ぼっちで孤立していた巧。
後二人はこの街にふらりとやってきた翔太郎とフィリップだ。
学校に通っている様子は見えねえ。でも放課後良く遭遇し、街を案内しながら仲良くなったのだ。
歳のわりにはなんか変なことを言っていた二人。
翔太郎はハードボイルドを気取っているがどう見てもそう見えない。
フィリップが言っていたハーフボイルドの言葉が凄く似合う。
フィリップはフィリップで何でも興味を示すし・・・・。
そんな彼を巧と一緒に止めたのは記憶に新しい。
巧は無口なことが多いけど、実は凄く実直なヤツ。それが過ぎてひんしゅくを買う事が多くて孤立していたらしいけど、俺は逆に気に入った。
翔太郎もその辺を気に入っていた。
フィリップもそうだ。分からないことをしっかりと付き合って教えてくれるのだから。
猫舌という言葉については嫌そうな顔をしていたのは笑えた。
巧・・・度がすぎるくらい猫舌なんだぜ?
フィリップが「猫舌ってどんな気分?」などの色々な質問を受け、拗ねた様子のあいつは本当に面白かった。
翔太郎とフィリップはある事件を追っていると言っていた。
自分たちのいた世界から流れたある物によって事件が起きようとしていると。
危険な事件。だが、俺達の街がそうなっているのに黙っていられない。
その事件の解決に協力したんだ。
でも・・・俺の中のアギトの力が警告を発していたのに気付き、途中で足を止めてしまった。
俺の力は迂闊に教えてはいけないと相棒達に言われていた物もあるし・・・。
でも俺は立ち止まるだけじゃなく、みんなに危険を知らせるべきだった。
警告するべきだったんだ。
足を止めた俺と進む三人。
その三人を・・・・突然の爆発が襲ったのだ。
居たのは両手が武器になった怪物。
――――アームズ。
背中には巨大な剣を背負っている。
これは翔太郎達が言っていたガイアメモリで変身した怪物・・・ド―パント何だとすぐに分かった。
でも・・・恐ろし過ぎる。
こんな怪物だったなんて・・。
相棒達が中で警告を発する。
だが・・・足が動かない。
そんな時だった。
別の怪物が現れたのだ。
黒の体をした怪物。手には先端がカブト虫の角のようになった剣を握っている。
触角はまるでカミキリムシだ。
姿だけなら凄くおぞましい。だが、俺はそいつが恐ろしい奴には思えなかった。
その心は・・・どうしようもないくらいに人が良かった。
「この世界にも変な奴がいるか。アンデットとは違うが・・・。」
そいつはド―パントの両手から放たれる銃撃を剣で次々と叩き落としながら近づきながら、一閃。
それだけでド―パントは火花を散らしながら吹っ飛ぶ。
「安心しろ・・・助けてやる。俺が恐ろしいなら、逃げろ。それがお前のためだ。」
その言葉だけでそいつがどれだけ良い奴がわかる。
悲しいくらいに・・・。
「なっ・・何だお前は!?」
「俺は・・・怪物だ。元人間のな!!」
そう言ってそいつはド―パントと一緒に姿を消す。
そして、去った後には・・・血の海で沈む巧の姿があった。
必死に巧の名前を呼ぶけど・・・。
巧は何も言ってくれない。
ただ、力なく体を横たえているだけだ。
「あっ・・・ああ・・・。」
信じたくない。
いや・・・受け止められなかったのだ・
俺が止めなかったから・・・巧が死んだなんて・・。
俺の所為で死んだという事実に。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の中の何かが切れた。
その背後から何かが近付いてくる。
――――マグマ。
炎の身体をしたド―パントなのだろうか?
そいつが炎の塊を俺に向けて飛ばしてくる。
そこで俺の意識は途絶えた。
気を失う前に俺が見たのは・・・黒い炎であった。
SIDE リアス
「・・・気が付くと、俺は病院にいました。腕の中にいたはずの巧も消えていたんです。」
この子は深く傷ついていた。
とても優しくて・・・良い子故に。真っ直ぐ故に。
「夢だと思いたかった。でも・・・・服に付いたあいつの血が夢じゃない事を教えてくれました。多分あの二人も・・・。」
目の前で友達の死を彼はずっと責めている。
「体の怪我は軽い物だったけど、心の方が全然癒えなくて。みんなの前では隠していたけど・・。」
彼の次の一言はとても・・・・痛々しい物だった。
「俺は今でもその傷が消えてない。ずっとその傷口から血が流れ続けている状態なんです。」
それは今でもその痛みに苦しんでいる。
「もう・・・涙も出ません。それでもアーシアを救えてこっちも少しは救われた気分です。」
アーシアを助けたかったのはその為だったのね。
今度は友達を救いたい。
後悔だけはしたくないという言葉から・・・過去に何かの深い悔いを抱えている事は予想していた。
でも・・・その後悔があまりにも痛々しい。
「この力のおかげで仲良くなるのが・・・絆を深めることが少し怖くて・・・。仲良くなって・・・でもそいつが俺の死んでしまったらと思うと・・・。」
私はその言葉ですでに動き出していた。
「ははは・・すみません。ハーレム王になるって言いながら、すっごくヘタれで。」
イッセ―に何が必要なのか良く分かったから。
「・・・これが俺の罪です。友達を救えなかった俺の罪です。助ける力があったのに何もできなかった俺の・・・。」
「もういい!!」
「へっ?」
私はイッセ―を抱きしめていた。
「・・・あなたが悪いわけじゃないわ。」
私はこの子を受け止めたいと思った。
アギトの力を持ちながらも・・・ずっと胸に深い傷を抱える彼。
「でも・・・俺は。」
これが何かのきっかけになるかもしれない。
そんな予感さえあった。
「私はあなたを許すわ。」
「あっ・・・・・。」
一筋の涙を流す彼。
ただ・・・その一言を伝えたかった。
「・・・罪は消えない。でも許すことはできるわ。私が許す。その罪を。」
その一言が彼の心にどれだけ響いたのか分からない。
「ありがとうございます。」
でも・・・彼は笑う。それが答えなのだろう。
その笑顔を私は信じたい。私達の間に生まれた絆を。
「明日は勝ちましょう。絶対に!!」
「ええ・・・当然だわ。」
私達は笑い合う。
そしてイッセ―は明日の為に寝ると部屋に戻った。
私は一人で思う。
「アギトか。彼の戦う理由からしたら・・・・その力は呪いかもしれない。」
アギトの力は未知な部分も多い。それはどんな危険をもたらすのかも分からない。
でもね。
「私は信じている。あなたを。アギトじゃなく・・・神滅具使いじゃなく、そして召喚師でもなく・・ただの人であるイッセ―を。」
「・・・それはありがとう。」
「へっ?」
私の隣には何時の間にかクレアがいました。
「ふむふむ・・・あなたなら合格ね。あの子の伴侶として。」
突然何を言っているの?
「私はイッセ―がハーレムを作るだけの器とカリスマを持っていると確信しているわ。でも・・・やはり正妻がいないと纏まらないと思うのよ。」
えっと・・・何時の間にか私が正妻候補になっていません?
「いやね。私もそろそろ攻略に移る予定だし。一応姉としては弟分の幸せも願っているわけよ。アルファはもう成就させちゃっているし。」
攻略。そう言えばそうだった。グレイフィアが言っていた事を他のみんなは知らないようだけど・・・私は知っている。
アルファ達は家族だし。
「アルファやゼ―ルズ達と同じ世界・・・ミラーワールド出身なのには驚いたわ。あなた達がこの
世界にやってきた理由は聞いている。ある意味黒歌や小猫と同じ状態ね。でも・・・その相手がよりによって赤龍帝――ドライクなの?」
彼女達ミラーワールドの者達はある目的があってこの世界にやってきている。
アルファことアルファゼ―ルはグレイフィアと出会った。
そして、一緒にグレモリ―家入りすると同時に・・・アルファは目的を達成した。
今やグレモリ―家を色々と支えているゼ―ルズ。報活動、警備も戦闘、執事やメイドとしての業務はすべて・・・子守もこなします。
私からしても家族同然。
「あの子達が家の一員として働くか・・・。面白い事になっている。群れごと世話になるなんて大胆なことをするもんだ。」
「あの子達も個々に相手を見つけているわ。」
「よしよし。どんどん進出しようじゃないの!!」
まあ・・・悪魔にとっても益が大きいから問題ない。
「私も早く子供が欲しいわ。」
クレアさん。あなたのそれを求める相手はあの赤龍帝ドライクですよ?
二天龍の一体で、三勢力が協力して漸く倒した相手。
その間に子供が産まれたら・・・どれだけハイスペックなドラゴンが生まれるの!?
神龍クラスになるんじゃ・・・。
でもドラゴンは気難しいと聞く。簡単に攻略なんて・・・。
「もうドライクは私無しでは生きていられない身体にしてあるわ。本人は全くその自覚はないけど。」
すでに攻略済み!?
「水面下でそうなるようにしているのよ。ふふふふ・・・。色々とさり気無くね。私がいないと死んじゃうかもしれないくらいに。」
ごっ・・ご愁傷様過ぎる。契約してから七年の間にじわじわと攻略されていたなんて。
「力だけじゃなくて絡め手も大切なの。忍耐強さも。覚えておいて損はないわ。」
「はい。」
何だろう・・・今のアドバイス後に凄く為になる気がするわ。
「良い子ね。うん・・・カ―ミラ。私もこの子が気に入ったわ。」
「わかりますか?」
「ええ。イッセ―と出会っていなかったら契約者にしていたくらい。」
相当気に入られたわね。
「もし私の眷族か知り合いが来たら紹介してあげる。もっともカ―ミラがいるのなら十分過ぎでしょうけど。」
天龍クラスのあなたの知り合いはちょっと遠慮かな?だって・・・それクラスのとんでもない連中が多いと思う。
アルファもあれで龍王クラスかそれ以上の力をもっている。最強の女王であるグレイフィアとコンビで昔は大暴れしていたと聞いている。
それはもう・・・双銀の女王として二人とも恐れられていたくらいよ。
禁手化したら兄様ですら止められない。魔王すら確実に超える。
まあ・・・兄様を始めとして魔王様達も似たような切札があるけどね。
カ―ミラと私のコンビもその領域にいけたらいいかな?
「そして・・・今回は特別に見逃した形にしたわ。無粋な真似はしないだけね。」
「・・・・流石だな。」
鋼鬼さんを始めとするイッセ―の幼馴染共と・・私の眷族一同まで次々と廊下から現れているわ。
みんなイッセ―の過去を聞いていたのね。
「みんな・・・イッセ―をお願いします。私にとって世話のかかる弟みたいな子だから。
『当たり前だ。』
みんな当然のように応えてくれた。
イッセーの痛みは目の前で友達である巧を救えなかったことです。その死を目の当たりにしたショックを未だに抱えています。
ですが、夜の語らいはここで終わりではありません。