刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第6話 機械仕掛けの楽園

互いに自己紹介を終えた後、ロイドとエリィはレン、ティオとランディはアルクェイドと話していた。

「なるほど、エニグマを動力に使うことで力不足を補っているわけですか」

「速度を出すとその分消耗は激しいが、セキュリティーは万全になる」

「個体識別番号でロックをかけるわけですね?」

「そうだ、後エニグマのアーツを使うことで事故を極力防ぐことも出来る」

「しかし、オートで使うには些か危険じゃないですか?」

「現状は威力を下げて相手に怪我させない様にするしかない」

「なるほど……」

何かを思案しているティオに変わって、今度はランディが話しかけた。

「なあなあ、俺も乗ってみたいんだが」

「乗るのは構わないが、乗用車の免許は持っているのか?」

「あー、持ってねーな」

「一応乗用車として登録しているから、乗らない方がいいだろう」

「今は警察だしな、皆に迷惑かけるわけにはいかないか」

「一人用だしな、レンくらいなら一緒に乗れなくはないが……」

「……だったら、私を乗せてはくれませんか?」

「構わんぞ」

「かぁ~っ、羨ましいぞティオ助」

アルクェイドはウォークスに跨がるとティオの手を引っ張って後ろに乗せた。

-手を引かれるこの感覚、やっぱり何処かで-

アルクェイドはティオを乗せてウォークスを発進させ、階段を駆け下りた。

「ア゛ア゛ア゛アアア゛ア゛、階段は無茶です!」

一段ずつ揺れの振動がかなりくるのか、ティオは悲鳴を上げていた。

「俺も免許取ろうかなぁ」

もう見えなくなった彼らを羨ましく思いながら、ランディは呟いた。

「ち、ちょっと、と止めっ止めて下さい!」

ティオの制止の要求を聞かずにアルクェイドは一気に階段を駆け下りた。

「どうした?」

分かれ道に着いてから漸くアルクェイドはウォークスを止めた。

「はぁはぁ……はぁっ……

 どうもこうも、階段を降りるなんて無茶です!」

階段の振動で落とされないように、必死にしがみつくのがかなりキツかったのか、ティオは息も絶え絶えだった。

「レンはいつも平気そうにしているぞ?」

「レンちゃんが……?

 後でコツを聞いておきます」

「そうしろ。

 取り敢えず、マインツまで往復するか」

「分かりました」

アルクェイドはティオの返事を聞くと、ウォークスをマインツへ向けて発進した。

「これは……

 普通に動かすのでもアーツが発動している?」

ティオはウォークスの周りに微かに力を感じた。

力はウォークスの先端から流れていた。

「よく気付いたな。

 空気抵抗を出来るだけ少なくするためだ。

 そんな小難しいことは考えずに今は乗り心地を楽しんでろ」

「……そうします」

本音を言えばまだまだ聞きたいことだらけだが、聞いても答えないだろうとティオは思った。

「少し加速するぞ」

その言葉に答えずに、ティオはアルクェイドの背中を掴む力を少しだけ強めた。

アルクェイドは服が引っ張られる感じが強くなったことを感じると加速した。

それに伴い、心地よい振動がティオにも伝わっていく。

マインツの前に来た辺りで、ティオはアルクェイドに話しかけた。

「あの、何処かであったことが無いですか?」

「俺とお前がか?」

「そうです」

「……いや、記憶にないな」

「……そうですか」

そのまま、ティオは黙ってしまった。

暫くの間走って分かれ道が見える辺りまで戻ってくると、コツンとアルクェイドの背中に何かがぶつかって重みが加わった。

それが何か瞬時に理解して、幾分速度を落としてそのまま再びマインツ方向へ向かった。

「寝始めたか……

 レンもそうだったが、女ってのは器用なもんだな……」

ゆっくりと、程良く頬を撫でる風を感じながらアルクェイドは何度も往復していた。

「悪いレーヴェ、遅れた」

「遅かったな」

「しつこいのがいてな、うざいからバラしてきた。

 ガキの目の前でやっちまったけど大丈夫かな?」

「芸術家というのはそういうものじゃないのか?

 その子供には同情するな」

「俺とアレを一緒にされるのは心外なのだが」

「自分の価値観に無理矢理理解させようとする輩という意味だ」

「喧嘩売ってんだろ、な?」

「そんなことよりも……」

「てめぇ……

 まあいい、今は胸糞悪い『楽園』潰しだ」

「この世に楽園など無いことを教えてやろう」

そこには銀と蒼、黒の三人がいた。

黒は依然と口を開かず、銀は憮然と冷静に、蒼はとてつもなく苛立っていた。

黒と銀は剣を構え、蒼は袖からジャラジャラと鎖を垂らす。

蒼が鎖をドアにぶつけて力づくで吹き飛ばす。

それを合図に三人は館の中へ踏み込んだ。

-この日、楽園は消え去った-

「もっかい答えて貰おうか?

 これの何処が芸術なんだ、ああ?」

「………………………………」

蒼は片手で男の首を掴んで問い詰める。

だが、全く反応はない。

「放してやれ、もう既に死んでいる」

「チッ、胸糞悪い。

 アレもそうだったが、こっちもうぜえ。

 生き残りはいたか?」

「一人だけな」

「こいつは……」

「この傷は恐らく自分で付けたものだろう」

「そうじゃないと耐えられなかったか。

 裏の世界は 何処どこも 彼処かしこも狂ってなきゃやってられないよな」

自嘲する笑みで蒼が言うと銀は聞く。

「まだ、後悔しているのか、この世界に入ったことを」

「別にしてないよ。

 マイスターにゃ感謝してるし、生か死かって言われたら生だろ、普通」

「お前はまだ子供なんだ、泣きたい時は泣けばいい」

「涙なんて、友達に殺されかけた時に枯れたよ……

 俺は覚えちゃいないけどな……」

「だからアルはレンの王子様なの」

「ははっ、王子様か」

「レンはお姫様なのだから王子様なの」

「ふふ、羨ましいわね」

アルクェイドがティオを乗せて駆け下りるとき、レンはロイドとエリィに馴れ初めを語っていた。

無論大幅にぼかしてはいるのだが……

「ア゛ア゛ア゛アアア゛ア゛、階段は無茶です!」

それを微笑ましく笑っていると、悲痛な声が聞こえてきた。

「………………」

「なんだ、今の?」

「さ、さぁ……?」

「もう、レン以外の人を乗せるから……」

「えっと、レンちゃん。

 今のって……」

「アルがウォークスにレン以外を乗せたら皆叫ぶのよ。

 すっごい乗り心地が良いのに」

アルクェイドがレン以外を乗せているからなのか、それともウォークスに乗っているのに悲鳴を上げているから不満なのか、レンは面白くなさそうな顔をしていた。

「ねぇレンちゃん。

 アルゲントゥム製品ってもしかして此処で作られているの?」

「いいえ、でも作っている人なら知っているわ」

「本当なの!?」

「誰なんだ!?」

「誰ってアルよ?」

「あの人が!?」

「マジかよ……」

ティオとアルクェイドが走り去って暇になったのかランディもロイド達の方に寄って来ていた。

「だから気軽に二つも渡したのか……」

「私のこれもアルが作ってくれたのよ」

そう言ってレンは懐からエニグマ=Mを取り出す。

エニグマ=Mはアルクェイドが作ったものでレンしか持っていないのだ。

オーバーペットはもともとアルクェイドがパテル=マテルのために作っていたものだ。

しかし、まだ完成はしておらず、完成のためのデータ収集のために売りだしたものだった。

「エニグマにオーバーペットが入っている……」

「ってか、これ端末みたいに画面通話も出来るぞ!?」

「何者なんだ、あの人は……」

ロイドたちが驚愕する中でレンは終始笑っていた。

夕方になってアルクェイドはティオを抱えて歩いて階段を登ってきた。

ウォークスに乗ったまま登ると振動で目を覚まされても困るし、落ちたら少々の怪我では済まないからだ。

結局、ティオが一度も目を覚ます事なく、ローゼンベルグ工房に戻ってきた。

「……ん…ぁ?」

「起きたか」

アルクェイドの背に乗せられていたティオは門が見える位置まで来るとようやく目を覚ました。

「……っ!?

 も、もももう大丈夫です、下ろしてください!」

自分が何処で寝ていたか気づくとティオは慌ててアルクェイドの背から下りた。

「……不覚です」

ティオは大きく肩を落としていた。

「小さい体で特務支援課を頑張っているんだ。

 疲れていて当然だろう」

「小さいは余計です」

「悪かった」

アルクェイドの言葉に少しだけ機嫌を悪くしたように見えたティオは早足で工房へ戻っていった。

しかし、ティオの口元は少しだけだが、緩んでいた。

その後、ロイドたちは彼らを別れ、クロスベル市へ戻った。

アルクェイドとレンは彼らの背中が見えなくなるまで見送っていた。

「レン、後でティオ・プラトーの経歴を調べておいてくれ」

「あら、急に女の子を調べてくれなんて……惚れたの?」

「………………」

「冗談よ冗談」

「ティオ・プラトーに何処かで会ったことはないかと言われたんだ」

「ふ~ん、それは気になるわね。

 引き篭もりのあなたに出会うなんてよっぽどよ」

(やかま)しい」

アルクェイドは相手に出来んと言わんばかりに工房の中へ入っていった。

レンはそんな彼を気にせずに、ロイドたちを見ていた。

「ふふ、これはちょっと私たちも面白くなりそうね」

レンは嬉しそうにいつまでも笑っていた。


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