刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第8話 運命仕掛けの旧炭鉱

 ランディがロイドたちが旧炭鉱に閉じ込められたと言う報告を聞く一刻ほど前。

 

「完璧に閉じ込められたみたいだね」

 

 マインツの町長から旧炭鉱を閉鎖していた扉が壊されていた事と内部に異変が起きていると話を聞いて、その旧炭鉱に入った時に落盤が起きた。巻き込まれないように支援課の四人は咄嗟に避けたのだが、旧炭鉱内に閉じ込められてしまった。一応の道案内としてガンツと言う町人が旧炭鉱前まで案内してくれたのだが、内部から大声を出してもすぐ外に居るはずの彼には届かないようだった。

 

「でも、どうして急に落盤なんて起きたのかしら?」

 

「地盤が緩んでいたのでしょうか?」

 

「いや、そうじゃない」

 

 二人の推測をロイドは否定する様に首を横に振る。微かに焦げたハチミツのような甘ったるい臭いが鼻につく。そして、落盤が起きる前に聞こえたジジジという何かが焦げる音。そして落盤の音や振動だと勘違いしてしまうような爆音に衝撃。一度目と二度目の衝撃と音の間には少しだけラグがあった。それの意味することは、落盤は意図的に起こされたということ。

 

「恐らく火薬で爆発させたんだろう。以前警察学校の時に嗅いだことのある臭いだ」

 

「火薬なんて警備隊でも使うことなんてほぼありませんよ」

 

 かつては武器や兵器、このような炭鉱で使われることが多かった火薬だが、今は代わりになるものが生産され、湿気や扱いに危険が伴う火薬の使用は年々減っている。無論、今も好んで使うような人種がいたりするのだが。今では火薬を生産しているのは帝国に有るとある商社だけだ。その商社だけがその市場を独占しているのだが、他に火薬を捌く商社は出てこない。それはその市場に参入するコストや利益がほぼ見合わないということ。奪い取るだけの価値がないことを分かっているからだ。

 

「昔の火薬が残っていたのかしら?」

 

 エリィがそんな推測を述べる。

 

「いや、それもないだろう」

 

 恐らくマインツの町には少量の火薬はあるだろう。だが、それも厳重に保存してあることは予想できる。それだけ火薬の取り扱いには危険が伴うということ。それをこんな使われていない旧炭鉱に残すだろうか? 仮に残っていたとしても湿気ている可能性が高い。そもそも、炭鉱の入り口の真上に保存するわけがない。しかも、彼らが丁度入ったタイミングで発火する筈もない。つまり、意図的だと判断するのが普通だろう。

 

「なんで、俺たちを閉じ込めたのかは分からないが、異変も含めて尋常じゃない事態のようだ。気を引き締めていこう」

 

 入り口にずっと居ても仕方が無いと決めた四人は旧炭鉱の奥に進もうと入口から奥に視線を向ける。

 

「これは……」

 

「なんというか、また……」

 

 旧炭鉱に入る前から内部からおかしな空気は感じていたが、中に入ると更に気が狂うような気配に見た目。周りからは紫色の明かりが見えることで、歩くことには問題は無さそうだった。だが、その紫色の明かりでさえも異変のおかしさを増長させていた。炭鉱としての道や土壁、岩だというのは、まだ普通だった。紫色に光ってなければ、だが。それよりも奇妙に見えるのは、その地面や壁に機械が埋め込まれていることだった。歯車やネジ、端末のモニターにエニグマが所々に埋め込まれている。

 それらと同じように埋め込まれているのは銀のアクセサリーだった。ペンダントやストラップ、ネックレスにブローチ、果てには銀の彫像までが半身を迫り出して埋め込まれている。

 

「……混ざっていますね」

 

 率直な感想がそれだった。この異変を見た時に感じれる物。それは混ざっているということだった。本来、こうなるはずではなかったということが四人の意識に解ってしまった。明らかに、何かが混ざっている。それが何なのか分かりはしないが、それだけは理解出来た。

 とにかく、この異変の原因を探ろうと奥に向かって足を踏み出した時だった。

 

―なんでだよ……なんでだよ―

 

 突如、視界は真っ白な光景に染め上げられた。

 

―なんで今更こんな物が見えるんだよ―

 

 その白い空間の真ん中辺りで誰かがいた。それが誰かなのかはボヤけて分からない。

 

―こんなのを見せられたら……―

 

 その誰かは嘆いているようだった。歯痒そうに嘆いている。不意に白い空間に泡のような物が見えた。

 

―願ってしまいたくなるだろうが―

 

 その誰かはこの白い気泡が見えている。その気泡を通して何かを見ているようだった。四人は感じていた。白い気泡がとても暖かい物だと。決して、甘美で魅力的な物ではないけれど。何よりも尊い物なのだと。

 

―■■■いたいと願いたくなるだろうが―

 

 そして、誰かは落ちていく。どこまでも、どこまでも。白い気泡が上に向かって行くのとは真逆の下へと。真っ暗な闇へと落ちていった。

 その誰かへとロイドが反射的に手を差し出した時だった。白い空間は泡のように消え、異変の起こっている旧炭鉱へと戻った。

 

「今のは…………?」

 

「これまた、珍妙だねぇ」

 

「皆同じのを見ていたのかしら?」

 

 摩訶不思議に触れたとワジは肩を竦ませる。エリィは心配そうに全員の顔を見渡し、ノエルは今の光景が信じられないような顔をしていた。

 その中でただ一人。ロイドは泡沫へと伸ばした手を見詰めていた。ロイドの心にはまた何も掴めなかったという空虚を感じていた。自らの右手を閉じたり開いたりしながら見詰めていた。

 

「ロイド?」

 

 そんな彼を心配してエリィが顔を覗き込む。

 

「……ッ、いや何でもないよ。今は先に進もう」

 

 

 更に一歩奥へ踏み出して先へ進んでいく。異変が起こっている事で普段では見られないような魔獣も存在している。人以上に肥大したカエルの様な魔獣や貝の様な魔獣等など。何処かで見たこと有るような魔獣ではあるが、それらとは大きく違う部分があった。

 

「混ざっていますね」

 

「ここの場所と同じだな」

 

 ここに存在する魔獣は、旧炭鉱内に起きている異変と同じような現象が起きていた。その魔獣の体には機械が存在していた。足や腕が機械の魔獣。付け足しと思われるような機械の羽。しまいには頭部が機械の魔獣までいる。

 

「誰かが創りあげた? でもなんの為に?」

 

 すぐに思いつくのはその考えだった。義手義足であれば、そのような考えに至っても不思議ではないだろう。だが、その目的は分からない。

 

「どうかな、こいつらは創られたとは思えない」

 

「どういうこと?」

 

 その考えをワジは否定した。

 

「もし、仮にここにいる魔獣共が誰かに創られたとするなら、その誰かはほぼ間違いなく僕達をここに閉じ込めたやつだろう。それなら、この魔獣は統率が取れていないほうがおかしいとは思わないかい?」

 

「確かに」

 

 この旧炭鉱を罠にせよ何にせよ、ここにいる魔獣を弄ったのならば、何らかの規則性がなければおかしいだろう。だが、魔獣は個々の意志で襲い掛かってきている。それが本能であろうと知能であろうとも。

 

「それに、最初に混じっていると感じたのはどちらかと言えば、余計な物が混じっている感覚だ。これは、気を引き締めたほうがいいと思うよ」

 

 普段の飄々とした態度ではなく、いつになく真剣な表情をするワジ。彼の言葉で他の三人も気を引き締める。

 

「それにしても、詳しいというか知っているような感じね」

 

「ふふ、僕もそれなりに場数を踏んでいるからね」

 

 エリィの言葉をはぐらかすワジ。不良チームのテスタメントを率いていた。それからディーター・クロイスの推薦で警察の特務支援課に所属した。この流れも謎ならば、クロスベルに来る前も謎。幾度とワジに聞いてもその度にはぐらかされるばかり。行動も言葉も全てが霞に包まれている。

 ワジがそれ以上何も言わない為に、四人は奥に歩を進めるが会話はない。

 

「大分進んできたと思うが……」

 

 旧炭鉱に閉じ込められ、それなりに時間が経った頃、ロイドが口を開いた。

 

「ここまでの様子を見る限り、炭鉱内の紫の光は植物の発光のようね」

 

 辺りを見渡して見ると、紫色に光る苔やキノコが目に付く。苔の方はゼムリア苔と呼ばれる薬に使われることもある苔だ。本来のゼムリア苔は金色の光を放つのだが、七耀脈に影響を受けて、色を変化させる場合がある。そのため、旧炭鉱では紫色に発光しているのだ。

 

「キノコの方はホタル茸だね。本来は緑色でここまで巨大化する事はないんだが……」

 

 ワジの補足でそれぞれ苔とキノコの性質を語られる。だが、キノコは巨大化する筈がないのに、緑ではなく紫で、サイズも下手すれば人よりも大きいのがあるくらいだ。

 

「七耀脈に異常が出ているようだね」

 

 彼らはそういう結論を出した。

 

「それにしてもワジくんは博識ですね。どこでそんな知識を得たんですか?」

 

 ノエルはワジの解説に感心していた。スラスラと植物の特徴や性質を述べられる知識に多少の興味が湧いたのだろう。

 

「ふふ、最近知り合った客に薬草に詳しい人がいてね。店で差しつ差されつで教えてもらったのさ」

 

「聞くんじゃなかった……」

 

 未だにホストを続けているワジ。客に教えてもらったと言うことは本当かもしれないが、その言い方が酷かった。それを聞いたワジを除く三人はげんなりした。

 

「いい加減奥に進もうか……」

 

「そうね……」

 

「はい……」

 

 ワジの言葉で足を止めていたのを止めて奥に進もうと声をかけるが、三人共一気に脱力していた。

 

「……あれ?」

 

 一番最初に奥へと視線を向けたロイドが首を傾げる。そして奥を見ようと目を細めた。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

 ロイドは首を振って否定したが、視線はずっと奥へと向けられていた。誰かいたように見えたがそれは一瞬で気のせいだと判断した。微かに見えた気がした人物がここにいるわけがないのだから。

 

「もういるはずがないのに……アニキ」

 

 ロイドは少しだけ遠い目をして、思いを馳せた。

 それから奥へ進む。その間はさしたる会話もなかった。そして、最奥の広まった空間に四人は辿り着いた。

 

「どうやら、ここが最深部のようだね」

 

 そこはとてつもないほど広い空間だった。炭鉱内とは思えないほど広く、今までの道と比べれものとはならない。旧炭鉱とは言え、地下に広大な空間があったことに四人は驚き、辺りを見渡していた。

 

「これは……?」

 

 その広大な空間で奇妙なところがあった。広い空間のど真ん中の地面に大きな切れ込みがあったのだ。壁際ならば、鉱石等の為に掘ったとも考えられるが、空間の真ん中でそれは有り得ない。しかもその切れ込みは大きく、何か大きな物が突き刺さっていたのではないかと思えるほどだった。

 三人がその切れ込みを覗いている時、ロイドだけは別のものを見ていた。

 

「アレは……」

 

 その場所は七耀脈の異常化で旧炭鉱内全域が紫色に包まれている中で、何故かそこだけは碧の光に包まれていた。その中心には一つだけ花が咲いていた。それが幾つか存在していた。その花の周りだけは紫に侵食されていない。

 

「………………」

 

 それが何なのか近づいて調べてみようとした時、不意に奇妙な音がした。まるで昆虫が飛んでいるような羽音が。

 

「――――上だ! 散開しろ!!」

 

 その音にいち早く気がついたワジの言葉で穴を覗いていた三人はその場から急いで跳び下がる。一人だけ離れていたロイドはトンファーを構えて駆け寄る。

 三人が先程まで覗いていた切れ込みの上にソレは着地した。

 

「な、何だコイツは!?」

 

 ソレはまるで竜の様な見た目をしていた。鋭利な手足の爪に口から伸びる牙。だが、その羽根はまるで昆虫の様な薄い羽で透き通っていた。体色は七耀脈の影響を受けているのか、炭鉱内と同じように紫に輝いていた。その中で異彩を放つ機械の部品。尻尾や片手、腹部の一部が機械で出来ていた。

 その奇妙な容姿で一際奇妙なのが目だった。機械で出来ているようだが、ソレが獲物を探すようにギョロギョロと動いて、眼球だけで辺りを見渡しているようだった。しかもその対の眼球が同じ方に向くのではなく、個々で別方向を見ているのだ。

 

「気持ち悪いわね」

 

 その様はその一言に尽きる。

 

「コイツは一際おかしい、気をつけて!」

 

 その魔獣が動き始める前に先手を打つためにワジが駆ける。普通の魔獣じゃないことを察して拳に気を纏い足に拳を放つ。

 

「はぁッ!」

 

 だが、ソレは鈍い音を立てるだけで手応えがなかった。攻撃されたことで魔獣は四人に気付いたのか、ギョロリと両の目を足元のワジへと向ける。そして尻尾で払うつもりなのか、体をゆっくりではあるが横に向けた。

 

「危ない!」

 

 いくら武術を取得しているとはいえ、人以上に太い尻尾での攻撃をまともに受けては立ってられないだろう。しかも、その魔獣の巨体のせいでワジからは尻尾の動きは良くは見えない。そのためにワジの避ける動作が一歩遅れてしまった。

 それを察したノエルはいつもの機関銃ではなく、ライフルを取り出した。魔獣に狙いを定めると電磁ネットを照射した。電磁ネットは魔獣に絡まると微弱ながらも電磁波を発する。大きなネットが絡まったことも相まって、魔獣の動きが鈍くなった。その間にワジは迫る尻尾が来る前に避ける事が出来た。

 

「助かったよ、ノエル」

 

「ですが、足止めにもならないようです」

 

 魔獣は身動ぐと体に絡まっていたネットが引き千切られてしまった。ギョロギョロと目玉を動かして陣形を整えようと徐々に集まっていた四人を見下ろす。

 

「何か、来る!」

 

 そう瞬時に察したロイドが声を上げて防御体制をとる。四人とも魔獣に対して身構えた瞬間、辺りに奇妙な音が鳴り響いた。

 

「こ、コレは!?」

 

「力が……」

 

 魔獣は長い首から何かを音を発している。その音が鳴り響き始めると四人の体が上手く動かせなくなった。

 脳を犯されるような奇妙な音に平衡感覚を狂わせるような微弱な振動。ロイドとエリィはコレに似たような物を前に味わったことがあった。

 

「コレは前に…………」

 

「ヨアヒムが使った技……ッ!?」

 

 正確にはアルクェイドの記憶を覗いて、彼の技を真似たもの。それもあまりにも弱体していたために気力を振り絞れば、影響が解ける程度のものだった。しかし、魔獣が放つモノはその程度ではなかった。恐らく、弱体の程度だけではあまり差は無いだろう。この魔獣が放つモノの方がやや強い程度。だが、魔獣は音だけでなく振動で似たような事をしてその弱体を強化しているのだ。だから、以前ヨアヒムの擬似技を破ったことのあるロイドとエリィでも今回は破れない。もしかしたら気力を振り絞れば、今回も何とか破れるのかもしれないが、今回は前回以上に気力を振り絞れる想いが存在しない。ヨアヒムの時はキーアの事やヨアヒムの最低な発言のせいで精神的にもかなり高揚していたから振り絞れたのだ。だから、今回は出来ない。

 

「う、動けない……」

 

 魔獣は動くことの出来ない四人へとゆっくりと近づいてくる。その間も音と振動が弱まる気配はない。

 

「くっ…………」

 

 動けない四人に無慈悲な魔獣はだんだんと近づいてくる。

 

「動け、動け、動けえええええええええ!!!」

 

 ロイドの雄叫びも虚しく響くのみで、体は一向に動いてくれない。魔獣はその大きな口を開けて、四人を喰らおう首を伸ばす。遂に魔獣の呼吸の音すらも聞こえるような距離まで迫った時、ロイドは覚悟を決めようと目を閉じる。

 

―最期まで目を開いていろ―

 

「え……?」

 

―睨みで敵を殺そうとするようにな―

 

 不意に、誰かの声が聞こえた気がした。

 刹那、獣の咆哮が辺りに響いた。その咆哮で音は掻き消され、ビリビリと肌に伝わってくる迫力で振動すらも掻き消していた。それを実感した時、地面に響くような振動が聞こえた。

 

「この声は……」

 

「ツァイト!!」

 

 咆哮の主を探して辺りを見渡すと崖から降りてくる青と白の毛並みを持つ狼が見えた。そして、聞き覚えのあるエンジン音と振動がする方に目を向ける。その時、一つの機械がすごい勢いで飛び出してきた。

 その機械はある人物しか持っていないはずだった。しかし、その乗っているのは彼らがよく見知っている赤毛の男だった。

 

「ランディ!!」

 

 ロイドの声に反応してオーバーサイクルに乗っていたランディは四人を見て不敵に笑う。そして、突如現れた一人と一匹の闖入者に首だけ動かして顔を向ける魔獣。ランディは魔獣の無防備になった首を見逃さなかった。

 

「どっせい!!」

 

 オーバーサイクルの勢いを利用して片手でハルバートを振るい、勢い良く魔獣の首へと叩きつけた。オーバーサイクルの速度も相まって、片手とはいえ尋常じゃない速度で魔獣の首に刃物がぶち当たる。首を切断とはいかないが、それなりの切れ込みが入り、魔獣は大きく悲鳴を上げる。

 

「ロイド!」

 

「ああ! 皆、畳み掛けるぞ!!」

 

 片手で持っていたことでハルバートの衝撃を支えきれず、ランディの手からハルバートは離れてしまう。しかし、致命的な一撃を与えたことには変わらず、ランディの声で四人は一気に痛みに悶える魔獣に向かって畳み掛ける。

 

「くっ、だがこれでは近寄れないぞ」

 

 魔獣の巨体さで痛みに悶えられると体をジタバタとさせているだけだが、まともにぶつかっては弾き飛ばされてしまう。暴れているためにロイドとワジは近寄れなかった。

 

「私達が抑えるからその間に!」

 

 ノエルが再び電磁ネットをいくつも照射して体を拘束していく。少ししか保たないだろうが、今はその少しの時間が欲しかった。

 エリィは弾丸で目を打ち抜き、更に魔獣は痛みに咆哮を上げる。その時に首が逸らしてしまい、魔獣の首は格好の的となった。

 

「一気に行くぞ、ワジ!」

 

「OK、リーダー」

 

 ロイドはワジに合図を出すと、ワジは頷いた。魔獣の両側から挟み込み、ロイドはトンファーでワジは気で竜巻を創りあげた。その気流で魔獣を包み込んで動きを抑え、二人も首を目掛けて跳び上がる。

 気流の流れに乗って魔獣の傷ついた裂け目を狙って斬撃を幾度と叩き込む。

 

「止めだ!」

 

「ストライク……ヘブン!!」

 

 二人は一気に交差して首の裂け目を切り裂いた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 二人は着地して魔獣を見る。しばらく魔獣は動きを見せなかったが、ゆっくりと大きな音を立てながら地面に崩れ落ちた。

 

「やったな、ロイド!」

 

「ランディとツァイトのおかげだ」

 

 魔獣は倒れ、落としたハルバートを拾ってランディがロイドの元へと駆け寄った。ツァイトは倒れた魔獣を見ていた。

 

「組んだばっかにしてはいいコンビネーションだったぜ」

 

 新生の特務支援課のコンビネーションとしては良かったと判断しても十分だろう。

 

「それにしても何なのかしらね、この魔獣は」

 

 倒れ伏した魔獣に見ながらエリィが呟く。その声と視線に釣られて四人とも倒れ伏した魔獣を見る。その視界の中に未だ魔獣を見ていたツァイトが見えた。

 

「ツァイト?」

 

 そのツァイトは魔獣を見ながら唸り声を上げていた。それで、ランディは気付いた。

 

「お嬢!! 離れろ!!!」

 

 まだ魔獣は生きていることに。

 

「え……?」

 

 ランディが声を荒げて言うが、エリィは咄嗟に行動できなかった。魔獣は勢い良く咆哮を上げながら、立ち上がる。体を動かして体を絡め取っていた電磁ネットを引き千切り、羽を羽ばたかせて空中へと浮き上がった。

 

「きゃああ!?」

 

 その羽ばたきのせいで起きた風圧でエリィは吹き飛ばされた。

 

「エリィ!」

 

 吹き飛ばされたエリィをロイドが受け止め、空中に跳び上がった魔獣を睨む。

 

「あの高さじゃ攻撃出来ません」

 

 高く飛び上がられてはまともに攻撃出来ない。その事実に歯痒さに歯軋りの音がする。弱いアーツでは決定打にはならない。そう気づき、上位アーツの詠唱を開始しようとした時、魔獣は口元にエネルギーを貯め始めた。

 

「まずい!」

 

 詠唱をする前に魔獣は口からブレスを吐いた。球形のエネルギー弾が彼らを襲おうと迫る。ロイドが散開の指示を出すよりも早く、全員が散ろうとしたが、それでも遅い。

 不意にツァイトは後ろを見た。攻撃が迫っているというのに、気にも止めずに、誰も居ないはずの背後を。

 

「え……?」

 

 魔獣に視線を向けていたロイドの横を誰かが通った気がした。誰かは跳び上がり、魔獣せと迫る。その姿はエネルギー弾が逆光となって黒い人影にしか分からない。誰かはエネルギー弾を切り裂いて、そのまま魔獣に肉薄すると、羽を切り裂いた。幾重にも斬り裂かれ、羽は細切れとなって散る。あまりの一瞬過ぎて本当に人がやったとは信じれないほどに。

 魔獣は咆哮を上げながらも落ちてくる。落ちた瞬間、ロイドが全員に指示を出す。

 

「みんな、今だ!」

 

 全員が最大の攻撃を放つ。衝撃も音も凄まじく、砂煙を巻き上げた。砂煙が収まり、見えた魔獣の姿は、首が完全に離れていた。

 

「今度こそ終わったな」

 

「みたいですね」

 

 安堵した瞬間の隙を突いた魔獣の動きで予想以上に体力を消耗したのか、それぞれがその場に座り込む。首が離れても、また動くんじゃないかという考えが嫌でも離れない。そのために全員が魔獣を見ていた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 すると、魔獣の姿がどんどん歪んで透けていく。

 

「コイツまだッ!?」

 

 ロイドは咄嗟にトンファーを構えるが、魔獣はどんどん稀薄になっていき、完全に消えてしまった。音も姿も完全になくなってしまった。

 

「消えた……」

 

「だけど、現れる気配はないようだね」

 

 呆然と眺めるノエルに肩を竦ませるワジ。これで一先ず、安全になってと見てもいいだろうと全員が判断した。

 

「消えたのもそうだが、最後のいきなり落ちてきたのはなんだったんだ?」

 

「さぁ……?」

 

 ロイド以外はあの人影を見えていなかったようだった。ロイド以外にもあの時魔獣を見ていたものはいたのだが、人影が見えたという声はなかった。

 

「あの人影は一体……」

 

 気のせいとは思えず、ロイドはそう呟いた。確かに見えたのだ。じゃなければ、説明がつかない。エネルギー弾が引き裂かれたのも、羽が細切れにされてのも……。

 

「とりあえず、出ようぜ」

 

「そうですね、またあんなのが出たら大変ですし」

 

「話は出てからだね」

 

 ランディの言葉に賛同し、一行は旧炭鉱から出ようと歩き出す。

 

「……………………」

 

 最後に、ロイドは一度だけ振り返る。そして、広い空間の片隅に咲いている花と大きな地面の切れ込み、そして最後の人影が見えた場所を見渡してから、先に行った四人と一匹を追いかけた。




バーストの演出が悩ましい。コンビクラフトの表現とかもそうですが、結構悩みます。

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