刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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書くスピードも余裕も大分良くなって来ました。この勢いで駆け抜けたい気持ちでいっぱいです。


第3話 運命仕掛けの再始動

 ロイドたちが新たな四人メンバーで特務支援課として活動し始める当日の朝。四人は一階にあるテーブルを囲んで座っていた。新人の二人に基本的な活動を教えていた。その隣のいつもセルゲイがいる部屋で、いつも通りに今日もセルゲイはタバコを咥えながら椅子に座っていた。

 

「さて、どうしたもんか……」

 

 タバコの煙を吹かしながら机の中央に置かれた一枚のカードを見ながら、心底面倒臭そうに呟いた。そのカードの横に置かれた一つの鍵に視線を移すも、更に大きくため息をつく。これが送られてきたのは、支援課が復活する記念……と言うわけでもないが、ヨアヒムの起こした事件を解決へと導いた支援課への報酬等色々な事情を組み合わせて得た物が届いた時だった。現市長であるディーター・クロイスがある物をセルゲイの下に届けたのだが、セルゲイに届いた物が二つ存在していた。一つと聞いていた彼はすぐにディーターに確認を取った。だが、ディーターもそれのことを知らないという。とても大きな箱に入っていて、外からでは中身を窺い知ることは出来なかった。爆発物とか危険物の可能性も調べたが、そういう様子も見られない。放置することも出来ずに、箱を開けてみると信じられないような物と共に小さな箱が入っていた。その箱も開けてみると、このカードと鍵が入っていたと言う訳だった。

 

「はぁ…………それにしてもあいつら……」

 

 一番の問題は送られてきた物よりも、カードに書かれていた一文字だった。それは、送ってきた者を示していた。たった一文字『B』と。それが意味することは、間違いなく送ってきた者は有名な怪盗Bだということだ。超有名な世界的大怪盗の名だった。しかも、カードに書かれたことを読むと、送ってきた理由は依頼の報酬だということ。依頼の報酬が来ることは、それ自体は対して珍しくもない。遊撃士の様な事をしているという理由もあるが、依頼を達成し、信頼を勝ち取るということは報酬以外にもふとした時に差し入れ的な物が来ることもある。だが、それ自体は珍しくなくとも、報酬で送られてきたものが異常すぎるのだ。

 

「どうしたものか……」

 

 再び同じ言葉を呟いて咥えていたタバコを灰皿に押し付けて火を消す。そして、新しいタバコを咥えると火を付ける。何度も同じようなことをしているのか、灰皿の中にはすでに大量のタバコの吸殻が存在していた。

 

「送られてきた物が物だ。はぁ……本当に面倒だな」

 

 送られてきた物が異常すぎるせいで、それに関することも色々と面倒になっている。財団だけでなく、ヴェルヌやラインフォルトという自家用導力車二大メーカーだけでなく、ツァイス中央工房――通称ZCFも喉から手が出るほど欲しがるだろう。それだけでなく、帝国や共和国などの強国が下手すれば強硬な手段で奪いたくなってもおかしくない代物だ。そんなものをおいそれと人目の付きやすいどころか、宣伝させてしまうような彼らに渡してもいいかと迷ってしまう。しかし、このカードを書かれている事を知ってしまうと、そんな考えもなくなってしまった。

 

「アレをどう使うかは奴ら次第だ」

 

 決心はしても迷ってしまう。それほどのものなのだ。そんな事を考えていると、不意に窓が叩かれていることに気付いた。

 

「なんだ?」

 

 その音を確かめるために窓へ視線を向けると、黒い袋を咥えた一羽の鷹が嘴で窓を叩いていた。セルゲイは少し呆気に取られるも鷹が窓を開けたそうにしているように思えて窓を開けた。すると、鷹は部屋に入り部屋をグルっと一周飛び回ると机に止まる。そして、咥えていた袋を机に置くと、嘴でズイッとセルゲイの方へ押し出してくる。

 

「…………」

 

 呆気に取られていたセルゲイは咥えていたタバコが口から落ちそうになったのを慌てて持ち直すと、鷹の方へと近寄っていった。

 

「これを受け取れってか? 誰からの差し金だ? って聞いた所で答えられるわけはないか」

 

 そんな言葉を吐きながら自嘲の笑みを零していると、鷹は一声鳴くと机においてある鍵を数回(つつ)く。

 

「分かるのか……それも怪盗Bからって言うのか?」

 

 鷹の反応に驚きつつも、咄嗟に出た答えを首を振って否定する。

 

「いや、それなら同時に送ってくるはずだ。それに、啄いたのは鍵だ。もし仮に、怪盗Bからとするならば、カードを啄くはずだ」

 

 ならば、鷹が示した意味を考えると一つだけ、答えが出てきた。

 

「……製作者か」

 

 その結論に至ったセルゲイはゆっくりと手を伸ばすと、鷹の持ってきた袋を掴んで中身を覗いた。

 

「……これはっ!?」

 

 そこに入っていた六つの物を見てセルゲイは驚愕した。そして、それと共に入っていた一つの手紙を取り出した。袋を机に置き、手紙をゆっくりと開く。そこに書かれていたのは…………。

 

『借りは返した』

 

 それだけだった。

 

「これだけか?」

 

 何か重要な物が書かれていると期待したが、事実は予想以上に呆気なかった。怪盗Bの贈り物も含めて、何かしらの真意が読み取れるかと思ったが、これだけでは知り様がない。

 

「ん?」

 

 それでも他に何か分からないかと手紙を裏返すと、そこには盾に刻まれた翼の紋章。その上からVと描かれたエムブレムとその右下にAとだけ書かれていた。そして、それは世界で有名なアルゲントゥム製品の紋章だった。それは怪盗Bの送ってきた物にも刻まれていたエムブレムだった。

 

「こいつは確定か……」

 

 何処にも無いはずの物をこのクロスベルで持っている人物がいる。おそらくそれも彼自身が創ったのだろう。何処も創っていないのに、彼は持っていた。そして、IBCに出入りしてローゼンベルグ工房にも出入りしているという情報があった。彼がこのクロスベル来た時に、警察内でも話題に出たこともある。その時にも多少彼に問い詰めたが、返ってきたのはIBC総帥のディーター・クロイスへ聞けということのみ。そして聞きに行ってみたら、企業秘密と答えられ、見せられたのは乗用車としての登録票。

 

「と言っても、あいつはIBCもしくは財団所属ではない。何者だ?」

 

 IBCで働いてるようにも見えないし、受付や社員どころかディーターまでもソレを否定している。そして財団であれば、ティオ・プラトーが知っているはず。住んでいる所は分かれど、身分は不明。帝国と共和国との板挟みになっているクロスベルでは、法律も弱く書類関連でさえも曖昧。

 

「特に何かしているわけでも無さそうだが、キナ臭い事になりそうだ」

 

 セルゲイ自身も彼が書いている借りには覚えがある。恐らく前回の事件のことだろうと予測できる。だが、その彼がどういう経緯であの砦に行ったのか、支援課と協力していたのか覚えていないのだ。支援課の面々に聞けば、IBCビルから一緒に行ったと言う。言われてみればそんな気もするが、その感覚をセルゲイはいまいち信じきれていなかった。

 

「それはひとまず置いといて……これらは渡しておくか」

 

 袋と共に鍵を掴むと、セルゲイは隣のエントランス的な場所になっている部屋へ行くためにドアを開いた。

 ドアの先の四人は支援要請の内容のレクター・アランドールが内密にクロスベルに入ったという事で彼の素性を考察していた。目的は恐らく、月末に開かれる通商会議の下見といった所だろう。通商会議――正式名『西ゼムリア通商会議』はリベール、共和国、帝国、レミフェリア各国首脳が一堂に会する国際会議。それをクロスベル現市長のディーター・クロイスが市長になってすぐに開催すると宣言した会議だ。

 

「おー、やっているみたいだな」

 

 セルゲイはタバコを吸いながら彼らへと近づいていく。

 

「お早うございます!」

 

 上司のセルゲイを見た瞬間。ノエルは勢い良く立ち上がると敬礼をしながら挨拶をした。だが、それをセルゲイは軽く窘める。支援課としては必要ないからだ。

 

「基本的に俺から言うことはないから好きにしてくれていい」

 

「は、はぁ…………」

 

 これまで軍隊に近い警備隊に所属していたノエルに取って、寝耳に水に近いことを言われ、拍子抜けしつつも椅子に座り直した。ソレに対してワジは気楽でいいというが、ロイドとエリィはいつものことだと思いつつも呆れていた。

 

「ただまぁ、今回は例外で俺から指令が有る」

 

 その言葉にロイドとエリィは呆気に取られた。それを見てセルゲイは不敵に笑う。

 

「緊急の支援要請が落ち着いてからでいい。その後で、警察学校に行け。こっちの準備もあるんでな」

 

 西クロスベル街道の途中にある門をの先にある警察学校。ロイドはここに通っていたこともあるし、ノエルはそこに演習場で訓練したこともある。二人にとっては馴染みのある場所とも言える。

 

「一体どういう用件ですか?」

 

「クク、それは行ってからのお楽しみだ」

 

 エリィの疑問をセルゲイははぐらかすだけだった。そして、セルゲイは持っていた黒い袋を机の上に置く。

 

「それとこいつを渡しておく」

 

「これは?」

 

「お前らの知り合いからの贈り物だ。それじゃ、また後で連絡する」

 

 四人の視線が袋に釘付けになっている間に、セルゲイはさっさと支援課のビルから出て行ってしまった。

 

「フフ、掴みどころのない人だね」

 

「えーっと……」

 

「ごめんなさい、これが支援課のスタイルなの」

 

 ワジが楽しそうに笑っているのに対して、ノエルは戸惑っていた。

 

「良く言えば、俺達の自主性と判断力を鍛えるためなんだろうけど……」

 

「モノは言い様だね」

 

 飄々としたセルゲイに対して、どうコメントすればいいのかロイドたちでさえ今も良く分からないのだ。

 

「それで、何が入っているのかな?」

 

「ああ、開けてみよう」

 

 セルゲイの置いた袋をロイドが掴むと袋の口を開く。中身を確かめずに手を中に入れて、球形の物を六つ取り出した。

 

「え……」

 

「これは……」

 

「へぇ……」

 

 各々はそれぞれ驚愕し、目の前のものを疑う。けれど、それは真実として彼らの目の前に存在していた。現在、警察やギルドでさえも、少数しか持っていないはずのものが彼らの目の前に六つも取り出されたのだから。

 

「マスタークォーツ……」

 

 ロイドはその名を呟いた。色とりどりの綺麗な宝玉にも思えるクォーツ。財団が開発したエニグマⅡの中央に嵌めることでアーツを使うことが出来る物。逆にそのマスタークォーツを嵌めなければ、アーツを使うことが出来ないエニグマⅡ。限定の条件はあれど、以前使っていたエニグマと比べれば性能は飛躍的に上昇している。未だ開発されたばかりで、マスタークォーツ自体の数は少ない。なのに、彼らにいきなり六つも送られてきたのだ。それも、一つとして同じものはなく、7属性の内、時以外の属性のマスタークォーツだった。

 

「にしても、希少なマスタークォーツをこんなに送ってくるなんて誰だろうね?」

 

「そうですね」

 

 ワジとノエルは送り主に成り得そうな人物を知らず、首を傾げていた。最も、ワジに関しては出来無くもない人物もとい組織を知ってはいるが、そこは有り得ないと考えているし、ソレは事実だ。

 

「一人だけ、心当たりがある」

 

「私も」

 

 ロイドの呟きにエリィが同意する。その言葉を聞いてワジとノエルは二人を見る。

 

「誰なんですか?」

 

「アルだ」

 

「へぇ……」

 

 以前何度かアルクェイドに会ったことがあるワジは納得がいったような声を出す。対して、ノエルは該当する人物を知らずに尚首を傾げる。

 

「ノエルも一度会っているはずよ」

 

「え? 何処でですか?」

 

「コレに見覚えはないかい?」

 

 ロイドは一緒に入っていた手紙の裏側に描かれているエムブレムを見せる。それはアルゲントゥム製品に必ず刻まれているエムブレムだ。

 

「あ! あの怪しげな二輪導力車の!?」

 

「怪しげなって……確かに怪しいけどさ」

 

「フフフ、確かにそれは否定出来ないね」

 

 ノエルの正直すぎる感想には、ワジでさえも苦笑している。

 

「借りは返す、かぁ」

 

 それだけが書かれた手紙を見てロイドは呟いた。

 

「借りなんて、こっちのほうが多いのにね」

 

 何処か遠い目をしてロイドとエリィは虚空を見詰めていた。

 

「それで、今日はどうするんだい?」

 

 遠くに行き始めた二人の意識を戻すように、今日の支援課としての方針を聞いた。

 

「あ、ああ。そうだな、今日は市内を巡回しつつ、依頼を片付けていこうか」

 

「それじゃ、手配魔獣は後回しってことかな?」

 

「ああ、色々挨拶しておきたい人たちもいるし、警察学校に行く途中で倒すことにしよう」

 

「ええ、それが一番無駄が無いと思うわ」

 

 ロイドの言葉にエリィに続いて二人も同意の意味で頷くと四人は椅子から立ち上がった。

 

「そういえば、キーアはこれから日曜学校だっけ?」

 

「そのはずよ。途中までは一緒に行きましょうか」

 

 四人は部屋にいるキーアを迎えに三階にある彼女の部屋に行くために階段を登っていった。

 


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