ティオ・プラトーがリントブルムを手に入れて二週間。アルクェイドはようやく、クロスベルへと戻ってきていた。ローゼンベルグ工房へと辿り着いた彼は一直線に工房へ向かう。工房にはヨルグが先に居た。アルクェイドの位置からでは何を弄っているのかは分からない。
「久しぶりじゃな」
ヨルグは振り向かずに、久しぶりに出会った息子に言葉を掛ける。
「ああ、そうだな」
それに対してアルクェイドは言葉少なに返すのみ。それ以降両者に言葉はない。別に仲が悪いわけでも喧嘩しているわけでもない。昔から彼らはこんな感じなのだ。レンはこの光景を見る度に、本当の親子みたいだと言っていた。二人はそれだけの会話で各々の目的の行動をする。ヨルグは制作に戻り、アルクェイドは端末に歩いて行く。空間には無機質な音が響くのみ…………。
不意に、アルクェイドは立ち上がる。端末に繋いでいた己のエニグマを取り外すとコートに仕舞う。そのまま彼は無言で部屋から出て行った。ヨルグはそれに対して興味がない様にずっと手元の制作を続けていた。アルクェイドと入れ替わりに、コロコロと音を立てながら小さな人形がヨルグに近寄ってきた。だが、彼はそれにも興味を示さずにずっと制作を続けていた。
太陽の光が注がれる昼間。クロスベルの東に位置するやや拓けた場所。風通しも良く、芝生とも思えるような草が生い茂っている。そこを駆ける何かがあった。
「
疾走。竜の機兵―リントヴルムはティオ・プラトーの指令を受けて加速する。彼女の周りを駆けまわる速度を上げて、草を掻き分けてる跡がその凄まじさを語っている。
「
リントヴルムは低く跳ねて爪を振るう。木に巻き付けられた無愛想なぬいぐるみを目掛けて爪は振るわれる。ぬいぐるみは中身のワタを辺りにぶちまけて、止めと言わんばかりにリントヴルムは尻尾を振るってぬいぐるみだった物を弾き飛ばす。ぬいぐるみの残骸はそのまま近くの川に落ちていった。
「はぁ……またですか……」
その凄惨と言えるまでの力を見せつつもティオは肩を落として溜め息を吐く。この凄まじい力が期待外れなわけではない。むしろ、強すぎるのだ。リントヴルムの力は予想以上に強すぎた。受け取ってからほぼ毎日、こうしてトレーニングをしているのだが、未だにまともに操れはしない。彼女の考えたとおりには動く。だが、彼女は辺りの地形を変えてしまうほどの疾走は望んでいないし、目標のぬいぐるみどころか巻き付けている木までへし折りそうな力を命令してはいない。思うように操れないままでは戦闘に使うことすら怪しいだろう。今は一人で問題はないだろうが、支援課として行動するときに仲間を傷つけてしまう可能性もある。
「このままじゃいけませんね……」
ティオはリントヴルムに近寄り、機械の頭を撫でる。機械なので感覚はないはずなのに、気持よさそうにグルルと声を出している。その間も、主を守ることの命令でもあるのか、地面を這っている長い尻尾が彼女の周りを囲っている。
「本当にピーキーな性能です……」
リントヴルムはエニグマのエネルギーによって段階が変えられる。
「あの機兵はここまで扱いにくいものなのでしょうか……?」
あの事件の時に見た無数の機兵。アルクェイドが操っていた機兵たちはここまでの扱いにくさなのだろうか、とティオは思う。そうでなくとも尋常じゃない数の機兵を操ることは相当な負荷がかかることは明白。ならば、今のティオ以上に大変なのは彼女にも分かっていた。だからこそ、アルクェイドから一言でもいいからアドバイスが欲しかった。
「貴方がここまで扱いにくいのは意志があるからなんでしょうか?」
リントヴルムの頭を撫でつつ、そんな詮なきことを思う。それは強ち間違いではないのだが、正解ではない。だが、正解は彼女自身が見つけなければ意味が無いとアルクェイドは言うだろう。ならば、ティオが見つけることを彼は待つだけだ。それが分かるからティオは安易にアルクェイドを探さずに毎日トレーニングをしている。この日もまた、いつものように前に進めている実感が無いまま終わるだろうとティオは思っていた。
「このままではみんなに見せることはいつのことになるのでしょうか……」
ティオは未だ、支援課のメンバーにリントヴルムを見せてはいない。無論今見せても問題はないのだろうが、一つだけ懸念があった。リントヴルムの行動だ。リントヴルムに出会った日。周りの人間を驚かせないために夜中に市内から連れてきたのだが、その時に出たときに弱い魔獣に出会ったのだが、ティオがその魔獣に気づく前にリントヴルムがその鋭利な爪で切り裂いてしまったのだ。だから彼女はリントヴルムを市内に連れていくことが出来ない。流石に人を襲うことはないだろうが、無闇に驚かせてしまうだろうし、それによって恐怖を与えてしまっては警察として駄目だろう。故に、リントヴルムは市外に待機しているのだ。警察犬として登録されているツァイトも、狼ではあるが大人しい性格で、市長暗殺未遂事件の立役者で交通事故から子供を助けた実績もある。故に市民に好意的に受け入れられている。だが、リントヴルムは機械ではあるが凶暴な見た目の竜であり、暴走の可能性もあるとあっては安易に市内に連れていくことなど出来ない。
「はぁ…………」
幾つもの課題が思い浮かんでは消えていき、ティオは空を仰いで大きなため息を吐く。その空は雲が疎らに見える晴天だった。晴れ渡る空のように、自分の悩みも晴れ渡ればいいのにと彼女は思う。取り留めの無い考えが浮かぶほど、彼女は歯痒かった。
刹那、リントヴルムが唸り始めた。グルルと低く唸り始めて下を向いている。否――
「地面……地下を睨んでいる? ――――ッ!?」
突如、彼女は倒れてしまうほど揺れた。いや、揺れたのは地面。地震だった。それはほんの数秒だけの揺れ。だが、地震などあり得ない。
「内陸で地震!?」
地殻変動が内陸で起こるなど普通はあり得ない。普通は海岸部に位置するところでしか発生しない。だけど、現にこうして起きていた。ならば、それが意味するところは……。
「これから何かが起きるってことですか……」
ようやく一連の事件は落ち着いたものの、新たな事件の片鱗が今姿を見せた。経験したことが無い者が多いクロスベルで、地震によって慌てる者が出てくるのは明白。それに思い至ったティオは走りだした。震度としては大きくないが、未知に依る恐怖は恐ろしいものだ。彼女はリントヴルムをその場に置いてクロスベルに向かう。機竜はそんな彼女の背中を眺めていた。ティオの背中が見えなくなると、リントヴルムは
新たな事件の開幕です。時間軸がいまいち良く解らないのですよね……。零2章の時点で8月生まれのエステルが18(1986年生まれ)で碧の2章の西ゼムリア通商会議が1984年の初秋?だったはず……つまり、零→碧は一ヶ月しか無いってことですよね?ということは、この話の時点で、碧序章の一週間前ということに……思ったより短かった……支援課は解散中なのか……。
でも秋のど真ん中でミシュラムに泳ぎに行くって無謀ですよねー。南国ってのはあり得ないような……?まぁ、最もアルクェイドが支援課とともにミシュラムに行く姿が想像できないので、書かないかもしれませんがね!ペングーしか覚えてないよペングーしか……
と、まぁアルクェイドが一緒に行くことを仮定して考えていたら、アルが行くならレンも来るよね。だったらエステル達が来ないわけがない。そしたらブルブランも絶対面白がってくるなー……超カオス。
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