刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第4話 時間仕掛けの迷い子

日を跨ごうかという時間。クロスベルの南に位置する拓けた場所。星見の塔の全体を眺めることが出来る場所。その場所に、足を踏み入れる者が居た。

 

「なんだってこんな場所に……」

 

アルクェイドはいつもの黒いコートを羽織っていた。夏も終わりに近いとは言え、まだまだ暑さは残る夜に長袖のコートを羽織る姿は奇妙というしか他にない。彼は昼間にレンに言われた場所、時間に来ていた。

 

「あいつの用事ってなんだ。それ以前に本人がいないし……」

 

辺りを見渡してもレンの姿など欠片も見当たらない。それどころか人の気配すらしない。どうしたものかと後頭部を掻き乱しながら思案する。

 

「――――疾!」

 

刹那。彼の背後から煌く刃が迫る。闇の深さも相まってその姿を認識するのに遅れた。辛うじてその刃を避けるが、刃はそのまま辺りの茂みに紛れて誰かも確認できない。

 

「誰だ」

 

アルクェイドは先程までと違い、一気に警戒する。辺りの空気が一瞬で張り詰めていく。だが、警戒したアルクェイドですら、先ほど襲いかかってきた人物の気配を感じることが出来ない。それほどまでに、襲撃者の隠密は長けていた。風で茂みが揺れ、襲撃者の位置を特定できない。それ以前に、揺れる茂み自体が囮に思えて行動できない。アルクェイドは後手に回ってしまっていた。彼の思考は襲撃者が誰か、その一点に囚われていた。

 

「――――そこだ!」

 

再び刃を突き立ててくる襲撃者が駆けると同時にナイフを投げる。だが、そのナイフを弾いた上でアルクェイドに刃を一閃する。その刃をかち上げるようにナイフで切り上げる。だが、そのナイフは空を切る。襲撃者はアルクェイドの行動を見て、彼に肉薄する前に茂みへと隠れた。

 

(二刀か……そしてこの巧みな隠密行動が出来るのはーーーー)

 

少ない情報から襲撃者を特定しようと考える。そもそも此処に来た理由。そしてアルクェイドに攻撃してくる可能性がある人物。さらに気配を断つのが得意で両手に武器を持つ者など、限られている。

 

「――――発!」

 

三度、襲撃者はアルクェイドの背後から襲いかかる。襲撃中だと言うのに思考に囚われていたアルクェイドはそれに対しての反応が遅れた。彼が振り向くと同時に2つの刃がアルクェイドを貫いた。

 

「捕まえた」

 

だが、アルクェイドは口を開けて笑う。それはまるで獰猛な肉食獣が獲物を見つけて舌舐めずりをしてるかのようだ。彼を貫いたと思えた刃はアルクェイドの脇を抜けてコートを裂いたのみだった。そして、彼の両腕は襲撃者の腕を掴んでいた。

 

「いきなりご挨拶だな」

 

雲に遮られた月が顔を出して辺りに月明かりが注がれる。そして、それで襲撃者の顔が傍の目からでも見ることが出来るようになった。

 

「――――牙ァ」

 

アルクェイドはその名を呼ぶと同時に、掴んでいた腕を捩じ切るように撚りながら放り投げる。肉が裂かれるような痛みに苦痛に顔を歪ませながらもヨシュアはアルクェイドの顔を狙って蹴りを放つ。だが、それがアルクェイドに当たることはなかった。

 

「さて、何故いきなり襲いかかってくる?」

 

コートに刺さったままの二本の刃を引き抜きながら、ヨシュアに向かって彼は問う。空中で体制を立て直し、着地したヨシュアは肩を竦ませながら立ち上がる。

 

「君に一発殴らないと気が済まないって五月蝿くてね……」

 

この場にいない誰かの事を言うヨシュア。それが誰かは、アルクェイドにも分かりきっていることだろう。

 

「お前も同じなのだろ」

 

アルクェイドは二本の刃をヨシュアの方へ投げる。二本の刃はヨシュアの少し手前で地面に突き刺さる。

 

「正解だよ」

 

ヨシュアはそれを駆けながら引きぬき、アルクェイドへと肉薄する。それを彼は両手のナイフで受け流す。ヨシュアはアルクェイドを中心に円を描く様に駆ける。その所々でアルクェイドへと迫り刃を振るう。だが、アルクェイドにそれが当たりはしない。

 

戦技(クラフト)――陽炎」

 

アルクェイドの姿がブレる。彼の姿が二重三重と重なっているように見える。別に彼はとても早くその場で動いているわけじゃない。ただ、体を微かに揺らしているだけ。それだけなのに、ヨシュアには明確にアルクェイドの姿を捉えることが出来ない。

 

「相変わらず厄介な技だね」

 

体の中線すらもずらす動きでアルクェイドの姿がブレる。ヨシュアだからブレているように見えるだけで、弱者から見ればただ立っているようにしか見えない。それでいて、アルクェイドは手に持つナイフで巧みに刃を逸らしている。まるで柳を相手しているかのように錯覚すらする。仮にこれが銃撃ならば、幽霊のように感じてしまうだろう。相手は動いていないのに弾が当たらないのだから。それはもう恐怖にしかならない。ただし、それは彼が本気の場合だ。ナイフでは彼の動かす腕が見える。だから、受け流しているのは明白だ。

 

「こないだもそうだけど、本気を出してくれないのは……腹が立つよ!」」

 

これまでの円を描く動きから直線となってアルクェイドの正面から双刃を重ねて振り下ろす。その威力は、恐らくアルクェイドの持つナイフを粉々に砕くだろう。ただのナイフでアルクェイドの作った双刃に勝てるわけがないのは、彼自身が良く知っている。だから、彼は取り出すしか無かった。

 

「それもそうだな……お前相手にナイフは無理だ」

 

アルクェイドは両の手に持つナイフを放す。ナイフは緩やかに地に向けて落ちて行く。そして彼はコートからある武器を取り出す。それで、その振り下ろされる双刃を受け止めた。

 

「何時ぶりだろうな、コレを誰かに見せたのは」

 

ナイフ、鎖、拳、幾つもの武器を使ってきた彼だが、このクロスベルに来て一度も本気で戦ったことはない。その場その時に、全力で戦ったことはある。死神やヨシュアとエステルの時等、強い相手と戦う時に。だが、それのいずれかもナイフか鎖でしか無かった。今のこの現状ですら、鎖が壊れなければ鎖で相手していただろう。彼の実力ならば、まともに戦うことすら困難なことはヨシュア自身がよく知っている。それでも、それでも彼は闘いたかったのだ。本当のアルクェイドの力と……

 

「僕も何年振りだろうね。それを見ることが出来たのは……」

 

そもそもがおかしかった。ヨシュアよりも速いアルクェイドが、鎖という中距離の武器を使っているという事実が。動かすのに時間がいる武器を使う時点で彼の速さが活かされない。アルクェイドという強者がそんな愚行をするだろうか。一定以上の強者からすれば、自らの力を抑えているとしか思えない。つまり、アルクェイドの本当の得物は鎖と杭ではないのだ。

 

「じゃじゃ馬過ぎて扱いづらいのが難点だがな……」

 

アルクェイドが持つ武器は曲線を描いている一本の刃。その刃の中心を持ち、両端には鋭利な刃。普通の剣の様に使うと自らも傷を負うような形をした諸刃の刃。それを事も無げに振り回してヨシュアの刃を弾く。

 

「まぁ、ここまでか」

 

アルクェイドは刃を構えようと半身になり腰を低くしたところで、それをやめた。ここに来る気配を感じて無造作に立つ。

 

「そのようだね」

 

同じ気配を感じてヨシュアも二本の刃を収める。拓けた場所に来るための唯一の道を見ると、そこには一人の影。そして、辺りの木々に紛れて隠れている気配が一つ。

 

「ここまで来て怖じ気づくな」

 

その方向に向けてアルクェイドは声を掛ける。その瞬間、微かに木々が揺れる音がする。そして、道のほうから走ってくる影は息も絶え絶えになりながらヨシュアの近くに止まって荒い呼吸をして酸素を求める。

 

「勝手に……行かないでよ……ヨシュア」

 

「ごめんごめん、アルに少し話たいことがあったんだ」

 

パートナーであるエステルの不満に対して苦笑いで対応するヨシュア。アルクェイドは依然と小さな気配のする箇所に視線を向けている。ガサガサと草をかき分ける音を立てながら、新たな第四者が現れる。

 

「――――ッ!」

 

その姿が見えたところで、エステルとヨシュアは息を飲む。長い間探してきた迷い子の姿をようやく見ることが出来たのだ。感情の高ぶりを傍からでも感じられるほどだ。特にエステルの高ぶりは、今すぐにでも彼女に抱きつきたいほどの衝動となりかけている。

 

「エステル……ヨシュア……」

 

それはレンも同じだった。彼らが自らの事を案じているのは彼女自身も良く理解している。それでも、レンはその感情に身を任せられなかった。今、彼女は決意と迷いを帯びて此処に立っている。だからこそ、彼らもその衝動に耐えていた。その決意を表すように、レンはさらに一歩前に出る。

 

「随分探したんだからね」

 

エステルが感極まって目尻に涙を溜めながら口を開く。

 

「ごめんね。でも、もう逃げる必要はないから……」

 

「もう、パパとママはいいのかい?」

 

ヨシュアの言葉にレンは首を横に振って否定する。

 

「まだ、少しだけ迷ってるの……でも、レンもこのまま逃げ続けていたくないの……どんな答えでも、胸を張っていたいから」

 

何処か寂しそうな顔をしながら言う。一つ一つ、レンは己の心を少しずつ吐露していく。決して強い言葉ではない。だが、だからこそ、レンの言葉には重みがある。混じりっ気のない、レン自身の純粋な気持ちなのだから。

 

「エステルたちと出会ってレンが弱いことを知った。逃げていることを知った。アルのお陰でパパとママの気持ちを知った。そして、レンが今、どうしたいのか考えた」

 

片手を胸に当てて、心の内を紐解いていく。

 

「いっぱい、いっぱい、考えた。パパとママの事。エステルとヨシュアの事」

 

そして、胸に当ててない方の手を、エステルとヨシュアに向けて真っ直ぐに伸ばす。

 

「パパとママに全てを告げるのは怖いけど。あの人達の安らぎを、幸せを壊してしまいそうで怖いけど……今は――今は、エステルやヨシュアと一緒に居たい」

 

レンは、己の心の全てをさらけ出した。

 

「レン!」

 

エステルは遂にレンを強く、強く抱きしめた。涙を流しながら、力一杯もう離さないと言わんばかりに。ヨシュアもそんな二人を見ながら側に立っている。

 

「痛いわよ、エステル」

 

レンも嬉しそうな顔で涙を流しつつ、エステルの背中に手を回している。ようやく、迷い子は見つけたのだ。幸せへの道しるべを。長い長い、闇の果てに光は当てられた。太陽の輝きは、レンの姿を照らした。そんな太陽から逃げるように――――

 

「あれ?アル……?」

 

エステルに強く抱き締められながら、此処に到るまで支えてくれた人を探す。けれど、彼の姿は見当たらなかった。

――――アルクェイドの姿は消えていた。

 

 

「アルさん……?」

 

前回、アルクェイドと出会ってから一週間。ティオ・プラトーはアルクェイドの言った期日が経っても、依然連絡がないことを不思議に思い、メゾン・イメルダを訪れていた。しかし、中は人の気配がせず、とても静かだった。

 

「レンちゃん?シュリちゃん?」

 

この建物に住んでいる他の二人の名を呼んでも返事はない。少し不審に思いつつも、ティオは階段を降りていく。そして、アルクェイドの部屋の前まで来た。彼女はゆっくりと、中を覗きつつドアを開いた。

 

「アルさん?」

 

少し開けたドアから覗いて、彼の名を呼んでも返事はない。部屋の中は暗く、中に何があるのかは分からない。前に来たときはティオは気づかなかったが、この部屋は外からの光が入らないように遮断されていた。故に、今この部屋は真っ暗だった。彼女が開けたドアからの隙間から差し込む光のみが、微かに部屋に光を与えていた。

 

「……?」

 

その光に反射して何か光るものが見えた。銀色に輝く何かを――

 

「コレは……」

 

ティオは直感した。この銀色に輝く物が、アルクェイドが用意したティオ・プラトーの為の機兵なのだと。いや、機兵と言うには少し違う。それは機兵と言うよりは、乗り物……いや動物だった。その動物の伏せている姿はツァイト――狼に近い。だが、それは狼よりも凶暴に見える。口からは地面を穿つほど長い牙。ティオの身の丈程もありそうな、先に行くほど細くなる尻尾。そして、生き物を掴むことも出来そうな前足に肉を抉る為の鋭利な爪。その形状は、少し前にリベールで話題になった古竜の姿に似ていた。それとの違いは翼があるかどうかだろうか。

 

「――――ッッ」

 

ティオはそれに歩み寄ろうとした。刹那、彼女を認識したようにその竜は目を開いた。紅い双眼で彼女を見た。その瞬間、彼女は足が石になったように動けなくなった。体の中を抉るような錯覚にすら陥るような眼光。生きてはいないはずなのに、まるでアルクェイドに睨まれたような威圧を感じた。その眼光だけで、下手な魔獣が逃げていきそうなプレッシャー。ティオは、その竜に呑まれていた。人々を魅了し、畏怖すら抱かせるアルゲントゥム製品。彼女もその噂程度は聞いたことがある。それ以上のモノをティオは今実感していた。

 

「――くぅ」

 

動けない。竜に畏怖を抱いてしまったティオは微塵も足を動かせない。必死に動かそうとしているが、彼女は一歩も前に進むことができなかった。その姿を竜はただ、じっと見ていた。

 

「うごっ……いて!」

 

それでも、彼女は必死に手を伸ばして竜を掴もうと藻掻く。少しずつ、少しずつではあるが、手が竜へと伸びていく。不意に、竜は眼を閉じる。その瞬間、威圧は元からなかったかのように消え去る。抑えつけていたものがなくなり、ティオは体を支えきれずに前のめりに倒れそうになった。転けることも覚悟して、ティオは目を閉じる。

 

「…………?」

 

だが、転けた衝撃は何時まで経っても来ない。彼女は硬い何かが体を支える力を感じた。ゆっくりと目を開けると、目の前には銀色に輝く精巧な鎧とも思える冷たい肌。体を支えていたのは竜の背に付けられている黒い鞍だった。滑らかな銀色の肌を滑るように視線を全貌を見ようと動かすと、竜の紅い眼が見えた。竜の眼もティオを見ていた。機械故なのか、何処か無機質なグルルという冷たい唸り声が聞こえた。

 

「…………」

 

そして、その眼光は何かを訴えるようにティオの目を射抜く。そして、彼女は竜の双眼に微かに刻まれた刻印を見た。

 

「……ント……ム」

 

それに惹かれるように彼女は口を紡ぐ。彼女が知らないはずの……アルクェイドしか知らない、その竜の呼び名を――

 

Lindwurm(リントヴルム)

 

名が紡がれ、竜は高らかに機械的な咆哮を上げる。刹那、ティオの体は先程以上に硬くなり身震いをした。それは恐怖からではない。竜の主に認められたのだと、歓喜に打ち震えていた。それを彼女は頭で理解するよりも早く、心で理解した。閉じた部屋で竜の咆哮は幾重にも響いていた。

 

 

 

 

 

「くはぁ……」

 

男は眠い頭を微かに揺らしながら、欠伸を噛み殺す。王様は長い長い廊下を歩いていた。廊下に敷かれているのは赤い絨毯。シンメトリーな配置のされた柱に装飾品。白い柱は何処か崇高さを表し、煌く装飾品は高貴さを表す。そのような廊下を歩くことは誰もが緊張するであろうと思われるが、彼は心底気怠そうに足取り重そうに歩いていた。

 

「貴方はいつでも緊張感がないですね」

 

王様の前を歩く人物が後ろも見ずに口を開く。鉄仮面を付けているせいで顔は見えない。騎士と思えるような甲冑を身に纏い、腰に添えられた剣が異彩を放つ。声色から女性であることが察せる。彼女を見たものは、誰もがある印象を抱いてしまう様な気質を持っていた。鋼のような気質を。鉄仮面も鎧も、彼女の佇まいもかなりの高貴さが伺える中で、剣だけが異常に陳腐に思える。無論、その剣でさえも普通から見れば上等な品であるが、彼女の他の部分がそれを陳腐と思えさせてしまうほどまでに格が違う。

 

「例え寝てなくとも、鋼の招集と有らば馳せ参じねば失礼であろう?」

 

「心にもないことを……」

 

王様の皮肉を簡単に受け流して鋼は更に先に進んでいく。廊下の先は未だ見えず、無限回廊を歩いているような錯覚すらする。

 

「で、今回はどんな用事だ?またなにか創らせる気か?それともこの間の方舟のように修理か?」

 

だが、鋼は王様の質問に応えずに、ただ彼の前を歩く。彼はそれ以降彼女に対して口を開かなかった。暫く二人は無限で廊下を歩いて行くと、それまでと打って変わって無機質な広い部屋に出た。そこには白衣を着た男が居た。

 

「博士……」

 

王様はその人物の呼び名を言うと、微かに険しい顔になった。彼にとって博士は、正しく研究者と言っても過言ではない人物だった。それだけに、彼は博士とはあまり関わりたくはない。

 

「今回、君を呼んだのは私だ。だが、私が呼んだとあっては君は来ないだろう。だから、彼女に頼んだのだよ」

 

「…………………」

 

博士の言葉を王様はやや冷たい目で見ていた。だが、博士はそれを特に気にせずに話を続ける。

 

「今回の理由は、君に戻って来て欲しいのだよ……再び、十三工房副総括責任者としてね」

 

「断る」

 

博士が全ての言葉を発する前に、王様は即座に否定した。だが、それは予想していたのか博士に落胆はない。彼は振り向いて、帰ろうと来た道へ向けて歩き出す。

 

「それと、君の傷は治さなくても良いのかね?」

 

だが、博士の言葉で足を止めた。それはつまり、これまでの一連の流れも知っているということに他ならない。故に、彼は蛇がクロスベルで何かする可能性があるということに気づいた。

 

「あそこで何するつもりだ?」

 

王様は振り返らずに問うた。

 

「おや、その質問が帰ってくるとは思いませんでした。貴方は何処で何が起ころうと興味がないと思っていました」

 

「それはつまり、君はあそこに何かしら興味を抱いているということか」

 

彼らの知る王様は今までクロスベルという地域に関心はなかった。彼が何故クロスベルに訪れたのかは知らない。だが、現に彼は今こうして興味を抱いていることを露見してしまった。

 

「安心したまえ。少なくとも、君の養父に迷惑のかかることはせぬよ」

 

「そうか……」

 

それだけで、彼は無機質な部屋から立ち去った。鋼と博士は王様の背中をただ眺めていた。

 

「博士、何故あのような事を?」

 

王様にあのような事を言えば、こうなることは火を見るよりも明らかだった。彼らの知る通りのままならば、こんなことにはならなかっただろう。だが、理由は知らなくとも経緯と結果は知っている。故に、鋼がそう問うのも当然だろう。博士の言葉の裏を返せば、クロスベルでは何かをすると言っているも同然だ。

 

「私は知りたいのだよ。彼の限界を、力を、そう全てを」

 

博士は研究者の血が騒ぐと言う。ただただ知りたい。結果がどうなるか知りたい。実験をしたいと。

 

「彼の作ったゴルディアス級の巨大機械人形に、私の神機が敵うかどうかを」

 

目に狂気の色は宿っていない。博士は正気で言っている。博士――F・ノバルティスは何処までも研究者だった。

 

「それよりも、私としては君のほうが予想外だ。まさかお使い程度の頼みを受け入れてくれるとは思いもしなかった」

 

「……………」

 

鋼はそれに黙して答えない。戦士としての門外漢たるノバルティスに彼女の心中は察せない。故に、彼は彼女の心に興味はない。予想外だから言ってみただけ。答えが返って来るとも思っていなかったし、聞く気もなかった。だから、それだけでノバルティスはそこから立ち去った。後には鋼が残されるのみ。

 

「私は実に残念で仕方がないだけです。彼ならばきっと、私が居る高みに到達できる筈なのだから――」

 

鋼は掌から血が溢れるほど力を込めて握り締めていた。




やっと、レンは一段落しました。長かった………
親との再会も来るといいね!
今回試験的に一文での改行をなくしてみました。
どっちが読みやすいんだろうか?
書く方としては改行させたほうがやり易いんですけどね。
バトルが書きたいなぁ……
スペック的には無双ができる筈なのに、性格的に戦闘にならないという謎仕様のアルクェイド。
むりやり蛇関連でさせてもいいんですが、アルクェイドが動くかどうかは別という……
それ以前に、アルクェイドが戦ったまともな敵が死神以外にいないという……
他は身内という事実……私もびっくりですよ。
どうしてこうなった?
魔獣とか支援課が片付けちゃうしなぁって話ですよ。
個別行動→共闘出来ない→コンビクラフト出せねぇ!っていう問題が……
設定だけで埋もれていきそうな予感がひしひしと……
考えてあるのになぁ……
それ以前にアルクェイドの攻撃用クラフト出せてない問題が……
本当の武器を使ってないが故に出せなかったので、これからは出せるかなぁ?

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