刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第2話 機械仕掛けのお人形

「いやあ~、あのオーバーサイクルって奴は格好良かったなぁ~」

ロイドたちはアルクェイドと分かれた後も彼が乗っていたオーバーサイクルに花を咲かせていた。

「それにしてもアレは何処で作られたのでしょうか?

 エンジンの小型化はまだ何処も成功していないはずです」

「あの工房なんじゃないのか?

 あそこの関係者みたいだし」

「案外そうかもしれないわね。

 あの工房は何を作っているのか、良く分かってないみたいだし……

 もしかしたら、あのアルゲントゥム製品もあそこで作られているのかもしれないわね」

「アルゲントゥムってあのオーバーペットのか。

 でもあれはIBCが作っているんじゃないのか?」

「いえ、確かにIBCが売り出してはいますが、私はアレがあのビルで作られているのを見たことがありません」

-それにあの人、何処かで見たことがあるような-

ロイドたちが会話している間に途中にあるトンネルを抜けた時だった。

狼の遠吠えが辺りに響き渡った。

「ッッ!?」

「近いぞ!」

「彼処です」

ティオが崖上を指差す。

その先には蒼と白の毛並みを持つ狼がいた。

その狼はロイドたちを値踏みする目で見詰めていた。

「ウォン……ウーウルル」

敵対心もなく暫く唸るように吠えると崖の上へと跳び登っていった。

「え、えっと……」

「彼が言うには『最後の欠片はこの先に後はお前たち次第だ』そうです」

「言葉が分かるのか、ティオ助?」

「ニュアンスだけですが……」

「私たちが知らない何かがあるということね」

「そのようだ、みんなあと少しだ、行くぞ!」

「「「おう」」」

階段を物ともせずにオーバーサイクルで登り切ると自動で開いた門と工房の扉を確認すると乗ったまま入っていった。

そのまま室内を走り、ある部屋に入り、止めた。

「お帰りなさい、マキナ」

「そっちで呼ぶんじゃない」

その部屋の片隅にある端末でレンがかなりの速さでキーボードを叩いていた。

その反対側には異常な大きさの機械で出来た人形があった。

「で、何しに帰って来たんだ?」

「お爺さんにパテル=マテルをメンテして欲しかったのよ。

 あなたが代わりにしてくれないかしら?」

「一応、俺の分野外なんだがな……

 マイスターは何処に出掛けてるんだ?」

「知らないわ。

 というよりもそこは養子であるあなたの方が詳しいはずじゃない」

「養子と言われてもな」

レンと会話しながらもアルクェイドは近くにぶら下がっている工具一式が入っているベルトバッグを掴むとパテル=マテルが固定している鉄鋼を登る。

「久しぶりだな、パテル=マテル」

アルクェイドが巨大人形に話しかけると目の部分が点滅し、音声暗号が鳴る。

パテル=マテルの装甲や関節などの隙間を確かめ、動力源や配線を確認する。

最後に噴射口を覗いた時にアルクェイドはレンに向き直った。

「お前、一体コイツに何させたよ。

 問題は色々あるが、特に噴射口だ。

 どれくらい長距離移動させた?」

「別に、ただ半年くらい飛び回ってただけよ」

半年と聞いてアルクェイドは頬を引き攣らせた。

「無茶させすぎだ、ド阿呆!」

アルクェイドが怒鳴ってもレンは素知らぬ顔で端末で何処かにアクセスし続けている。

「たくっ、せっかくパテル=マテル用に作っていた物があるがこれじゃ渡せないな」

「あら、パテル=マテルの為って何を作ったのかしら?」

「まだ途中だ。

 それにもう少し丁寧に扱わないと渡せないからな」

パテル=マテルの噴射口に工具を突っ込みながらアルクェイドは言う。

渡せないという言葉にレンは可愛く頬を膨らませる。

「もう、いけずね」

「なんとでも言え」

言い争いをしているように見えなくもない二人にパテル=マテルが幾分先ほどよりもトーンが低い音声を鳴らす。

「大丈夫よ、別に喧嘩しているわけじゃないわ」

レンの言葉に答えるようにパテル=マテルも音声を鳴らす。

「パテル=マテルはレンに甘すぎだ。

 ちゃんと叱ることも覚えろよ。

 ああ、もう、足までガタついてるじゃねえか」

「私はそこまで子供じゃないわ。

 もう立派なレディよ」

端末に向かっていたレンはアルクェイドの方に向くと後髪を掻き上げて髪を風で靡かされているように見せる。

「はん、もう少し体に凹凸が出来てから言うんだな」

アルクェイドはそんなレンを横目でちらっと見ながら鼻で笑う。

「あら、そんな脂肪が合っても邪魔になるだけじゃない。

 そんなモノよりも若さが一番じゃない」

そう言ってレンはいつの間にかアルクェイドの背後に移動していて、耳に囁いた。

「はいはい、そう言うことするのは嫌いなんだろ。

 それはあのエステルとか言う、うざい女にしてやるんだな」

アルクェイドは立ち上がってレンの首根っこを掴み上げ、そう言うと先程までレンが座っていた端末前の椅子の方に投げる。

投げられたレンはまるで猫の様に空中で二三回回転すると足からちゃんと着地した。

「もう、レディの扱いがなってないわよ。

 相変わらず乙女心に鈍いのね」

「あーはいはい、鈍くて結構。

 俺は物作ってたらそれで十分だ」

アルクェイドは噴射口のメンテが終わったのか近くにある色々なものが乱雑に置かれている机に歩み寄った。

その机の上からエニグマに似た物体を掴むとパテル=マテルに登りだした。

パテル=マテルの顔近くまで来ると、首の横にあるハッチを開けてそれと配線を幾つか繋ぎだした。

繋ぎ終わるとそれごと戻してハッチを閉めた。

「レン、お前のエニグマを貸してくれ」

「エニグマって新しい方?

 それとも古いほうかしら?」

「ペットの方だ」

レンのエニグマは普通に警察や遊撃士に配布されている通信やアーツ用のエニグマだけでなく、アルクェイドがそれに加えてオーバーペットの機能を加えたエニグマ=Mを持っているのだ。

アルクェイドはパテル=マテルの肩から飛び降りてレンが取り出したエニグマ=Mを掴むと、オーバーサイクルに引っ掛けられている最初に彼が持っていたバッグに手を突っ込む。

そこから携帯用端末を取り出すとエニグマ=Mと繋ぐ。

「何を入れるのかしら?」

気になったレンはモニターを覗くとパテル=マテルのパラメータが表示されていた。

アルクェイドがソフトを起動させるとすぐさまパーセンテージバーが現れて物の数十秒で100%と表示された。

アルクェイドはエニグマ=Mを外すとレンに手渡した。

「通信機能の所を開けてみな」

「これは……」

言われた通りに通信機能を起動すると選択肢が現れて、そこにP=Mと表記された物があった。

今まで見たことがない物を選択してみるとモニターにパテル=マテルの顔が現れた。

パテル=マテルが音声を発するとモニターに文字が現れた。

「電波が届いているところならそいつがあれば何処でもパテル=マテルと会話できるようになる」

「すごいわ、これでいつでもパテル=マテルとお話できるわ」

「後、その状態で少しばかり消耗が激しいがチェス、トランプなどのミニゲームも出来るようにしておいた」

「ありがとう!

 アル、大好きよ!」

「うおっ!?」

レンは笑顔で横に立っていたアルクェイドに飛びついた。

いきなりのことに驚いてレンが飛びついてきた衝撃で少し蹌踉

よろ

けた

「ほらほら、気軽に男に飛びついたりしない」

アルクェイドは首に回された腕を掴んでレンを抱き抱えると、腕を外してゆっくりと下ろした。

「ところでお前はネットで何してんだ?」

「クロスベルで面白い子を見つけたのよ」

他にも色々と面白いことになっているみたいよとレンは言う。

「それよりもどうして急に戻って来ることにしたの?」

「ああ、Bから手紙が来たからな。

 読んでみたら、クロスベルでリベールの時の様に面白いモノを見つけたとさ」

「相変わらずブルブランとは仲がいいのね。

 それで彼が来るなら分かるけど、なんでアルが来たの?」

「私が我が姫君を見つけたように、親友である君の姫君が見つかると思うよって書いてやがったんだよ」

アルクェイドは親友の気障な言い回しに肩を竦ませながら言った。

ポケットから手紙を出して心底ダルそうにそれをひらひらと軽く振る。

それをレンは素早く奪う。

「おい、こら」

声は止めようとしているが、アルクェイドは動こうとしない。

ただ肩を竦ませているだけだった。

「ブルブランが何を言ったか気になるに決まってるじゃない。

 眼の前で出すほうが悪いのよ」

「全く……」

レンの発言にアルクェイドは呆れていた。

アルクェイドは適当に椅子を掴んでそれに足を組んで座った。

それの膝の上にさも当然のようにレンが座って手紙を開き始めた。


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