「ワレハ全テヲ知ル」
化物は唸る。
口から放たれる閃光を避けて支援課は散開する。
「うおおおおおおお」
化物へと迫るロイドとランディ。
だが、各々の武器を振るう前に化物の手が彼らを薙ぎ払う。
「ぐうッッ」
「がッッ」
「アイスハンマー!」
ティオがアーツを駆動させ、化物の頭上に氷柱が現れて落下する。
だが、化物は動かしていない手で氷柱が現れた瞬間に殴り氷柱は砕け散る。
「無駄ダ、ワレは全テガ見エル」
「これならどう?
クリムゾン・レイ!」
エリィのアーツが発動し、火柱が立ち昇る。
先ほどの様に砕けさせられるものではないために、化物は紅炎に包まれる。
「ぐおおおおおおおおおおお」
化物の体を焼き、化物は体を動かして火を消そうとする。
だが、火が消えても化物の体には痛々しい焦げ後がついていた。
「どりゃあああああ!」
アーツのダメージで身じろいで居る所にランディがハルバートを振るう。
まるで金属を殴った様な鈍い音を立てるが、化物の腹部を少し抉る。
化物はその痛みに悶えつつもランディを弾き飛ばす。
「―――ッッ」
床を転がってランディは後方に飛ばされる。
「大丈夫か、ランディ」
飛ばされたランディにロイドは近寄り、持っていた薬で彼を回復させる。
彼はすぐに立ち上がり、化物を睨む。
そこで、彼は気づいた。
化物についた焦げ後も抉った箇所も徐々に修復されていくことに。
「なんだと!?」
「傷が……」
今まで与えた傷が次第に修復されていき、傷が瞬く間になくなった。
「そんな……一体どうすれば……」
「狼狽えるな!」
化物の能力に狼狽えたみんなをロイドは一喝した。
「回復されるというのならば、それ以上の攻撃を畳み掛ければいいだけだ!」
己の体すらも鼓舞して化物へとロイドは駆ける。
化物はロイドを叩き潰そうとするが、ロイドはそれを避けつつ肉薄する。
「うおおおおおおお!」
一撃を叩きこみ、二撃、三撃と連続で叩きこむ。
その後から三人も攻撃に続く。
ランディもハルバートを振るい化物の腕を抉り、ティオは低位アーツを連続で発動させ、エリィは捨て身の覚悟で突っ込でいる前衛の回復や補助を行なっている。
「叡智ヲ知ラヌ者ドモガ調子ニ乗ルナアアアアア」
化物が叫ぶと、先程まで薄い青の体が金色に輝き始めた。
「ぐあああああああああ!」
化物の行動は今まで以上に荒々しいものへと変化して激しくなった。
もう支援課を狙うということもなく、場を破壊しつつ薙ぎ払う。
この場すらも破壊せしめんと腕を振るい、床や祭壇を砕く。
その荒々しい攻撃を受けつつも支援課の四人は化物から距離を取る。
だが、化物は口から閃光を放ち、彼らを薙ぎ払った。
「ぐあああ!?」
「きゃああ!?」
四人は辛うじて受け身を取ることは出来たが、閃光はまともに受けてしまった。
「ぐううう………」
溜めもなく、狙いも荒かったせいか直撃もせず、威力も弱く戦闘不能に陥ることはなかった。
だが、体の疲労は著しい。
動くこともままならず、立つことが限界に見えた。
「こんなところで……」
ランディはハルバートを杖代わりに使って立とうとするが、すぐに膝をついた。
化物は止めを刺そうと再び口にエネルギーを溜めていく。
「もう……体が……」
「動けません……」
「これで終わりなのかよ……」
支援課の四人の顔から絶望が感じれる。
体がは傷だらけで動かず、立つことすらもままならない。
あまりにも絶望的で、死すらも覚悟した瞬間だった。
―ここで諦めるのか?―
誰かの声が響いた。
―あと一歩な所だというのに、止めるのか?―
―相手の体を見てみるがいい―
四人は化物に注視してみると、化物の体から何かが落ちている。
それは、化物の体の肉片だった。
化物の体は限界で自らの体を維持することも出来ずに、脆く崩れ始めている。
―最期に少しだけ後押ししてやるから、お前らが決めろ―
その言葉が響いた時、支援課の後方から何かが伸びてきた。
ソレは支援課の頭上を通り過ぎ、化物の体へと絡みつく。
ジャラジャラと音を立てながら閃光を放とうとする口を塞ぎ、体を縛り上げる。
化物は鎖を解こうと藻掻くがジャラジャラと音を立てるだけで拘束は解けない。
だが、支援課は動こうにも立つことが限界で、化物に近づけない。
―火の如き力を持って敵を圧倒せよ―
突如支援課の体が淡い紅の光に包まれる。
「コレはッッ……!?」
―霞の如き希薄さでは敵は認識すること能わず―
次に彼らは淡い蒼の光に包まれる。
―時をも超える想いは光も超える―
次は黒い光。
それは光を吸収する闇ではなく、黒を放つ光。
―一筋の光は全てを魅力する輝きとならん―
全ての光が収束して白い煌めきとなる。
支援課の四人は頷き合い、化物を見据える。
エリィは化物に標準を合わせて弾丸を放つ。
その弾丸には白い光が宿り、化物の腹部を貫いた。
大きな穴を腹部に作る程の威力を帯びた威力に放ったエリィすらも驚いていた。
「ぐああああああああ」
化物は悲鳴を上げる。
だが、それでも化物は荒々しく咆哮を上げる。
しかし、もう支援課はそれに恐怖は感じない。
「オーバルスタッフの限界を開放」
ティオがオーバルスタッフの先端を化物に向けるとオーバルスタッフの先端が割れる。
そこから白い光を帯びたエネルギーが収束し、放たれる。
「
化物の体を全部を包む閃光が化物を焼く。
さらに化物は悲鳴を上げる。
しかし、その時に化物が身動いだせいか、化物を拘束していた鎖が歪な音を立てて粉々に砕け散った。
拘束が解けた化物は支援課を攻撃しようと両の腕を伸ばす。
「させるかよ!」
ランディが伸びる腕に目掛けて二回ハルバートを振るう。
白い斬撃が化物の両腕を切り落とす。
「これで止めだ!」
ロイドは化物へ向かって走る。
腕がなくなった化物は三度、口にエネルギーを収束させて閃光を放とうとする。
「うおおおおおおおおおお!」
だが、ロイドはそれに怯むことなく化物へと突撃した。
「タイガァァーーーーチャーーーーーーージ!!!!」
遂に化物はロイドに向けて閃光を放つが、奥義を放つロイドも白い閃光となっていた。
白い閃光は化物の放った閃光を貫いて、化物の胸を大きく貫いた。
「ワレハ……全テヲ……」
化物は上を仰ぐと腹部から脆く崩れ始めた。
「真実ヲ知リタイナラバ……
求メ続ケルコトダ……
僕ハ彼ガ何ナノカ理解シタ……
彼ハ御子ノ………」
それを最期に化物は全て崩れた。
その残骸からロイドは三人の方に歩いてきた。
「終わったな……」
「そうだな……」
異形の化け物へと成ったヨアヒム・ギュンターは最期まで正気を取り戻すことはなかった。
「結局、彼の妄想を晴らすことは出来なかったな……」
ロイドは残骸と成り果てた化物を悲しい目で見ながら呟いた。
「妄想とは少々違うと思います」
その言葉をティオは否定する。
「アレは己の信条が絶対であり、神なのです。
狂者は犯罪と理解していてもそれを実行することに罪悪感はありません。
会話が成り立つことすらも怪しい存在、確信犯とはそういうものなのです」
死神という狂者が脳裏に浮かびつつティオはそう言った。
「間違っているとか正しいとかどうでもいいのですよ。
ただ、狂者は己が信ずるモノのために全てを捧げる。
それだけなのです」
「………………」
「オラ!
湿気た面してんじゃねえ!」
悲しい目をしているロイドにランディはいきなり肩を組んで檄を飛ばす。
「俺たちは全能じゃねえんだ。
全てを救うなんておこがましいことは出来はしねえ。
それでも俺たちは頑張って事件を解決した。
ソレでいいじゃねえか」
「そうね。
ベストとは言えないけど、私たちは全力を尽くした、ソレでいいじゃない」
「そうだな」
「それじゃキー坊の所に帰ろうぜ」
「ああ」
彼らの言葉に頷いて、ロイドたちは砦から帰ろうとし始めた。
崩壊している祭壇は後に、空間から四人は立ち去っていった。
その空間を出るときにティオは一旦立ち止まった。
―最後に誰かが助けてくれたような―
化物を拘束した鎖も鼓舞してくれた声もアーツも、彼らはもはや覚えていなかった。
元からそんな物はなかったかのように――――
その空間から出ようとして行くそのすぐ側の床に、壁に凭れて倒れている男の姿が見えなかったかのように――――
ただ…………
その男の顔は苦笑しているような、泣いているような不思議な顔をしていた。
コレにて第一幕は終了です。
エピローグは二幕に組み込みました。
二幕目は『時間仕掛け』となります。
支援課四人にワジ、ノエル、ヨシュア&エステル。裏社会のレン、リーシャ、そしてアルクェイド…………
それぞれがこれからどうするかを問い詰めていくのが第二幕です。
碧が第三幕の予定なので、二幕は短めになるかな。