刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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ヒロインは決まってないですよ?
フラグ立ててるだけです、フラグを。
折れるかもしれせんが……

展開が読めないって褒められてるんでしょうか……?
ポジティブに受け取って頑張ります。

*この話は細かい修正をする可能性があります


IF BADEND Ver.レン アルクェイドの優しさ

これはアルクェイドとレンとの死闘にリーシャが乱入しなかった場合の話。

 

 

鎌を弾かれ、飛び降りてくるアルクェイドの手がレンの眼前に迫る。

レンは頭を右手で掴まれた。

 

「忘れろ、レン……全てを」

 

キーンとした音が義手から鳴り響く。

 

「アル……どう…して…」

 

耳障りな音が彼女の脳を侵す。

超音波による影響か、レンの耳から少量の血が流れる。

どうしてこうなったのか分からぬまま、レンは意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まってよ、おねえちゃん」

 

赤毛の幼子が前を歩く少女に向かって走りながら言う。

それに反応して、その少女は振り返る。

その顔はとても優しい表情をしている。

前を歩く姉に追いつこうと必死に走る幼子は彼女の下に辿り着くまでに転んでしまった。

膝に少しの擦り傷が出来た程度だが、幼子は泣き出してしまった。

 

「あらあら、男の子なんだからその程度で泣いちゃダメよ」

 

転んだ弟に優しい声色で彼女は歩み寄る。

 

「ほら、しっかり立って?

 貴方は強い子でしょ?」

 

幼子を支えて起こす少女は弟の服についた砂を払う。

 

「でも、いたいよ」

 

「痛いのは仕方ないことなの。

 でもね、それで貴方は強くなれるの」

 

「つよくなってどうするの?」

 

「皆を守ることが出来るのよ」

 

「パパとママも?」

 

「貴方が大きくなったら出来るわ」

 

「わかった」

 

「だったら、これくらいで泣いちゃダメよ?」

 

「うん」

 

姉は指で弟の目尻の涙を払う。

弟は姉に涙を払ってもらうと、痛みなどなかった様に笑顔になった。

 

「でもね、優しさもないとダメよ?」

 

姉は弟が笑うの見ると、再び歩いた方向を見る。

 

「優しさって何?」

 

「そうね……」

 

少し難しいけれど、と姉は言って少し前へと駆ける。

そして、振り向いて言う。

 

「誰かが辛い時でも一緒に居てくれるような人よ」

 

「一緒に?」

 

「そう、悩みを聞こうするでもなく、一緒に解決しようとするだけでもなく、ただ一緒に居て、横に並んで歩いてくれる人よ」

 

弟の目には姉がそう言いながら少し頬を朱に染めているように見えた。

 

「迷った時に立ち止まってくれて、頑張るときに押してくれて、転んだ時は起きるのを待ってくれるような人。

 とても優しいけれど、とても厳しい人よ」

 

「パパとママとは違うの?」

 

「似ているけれど、少しだけ違うの……」

 

姉は何処か遠くを見ながら言う。

 

「パパは迷った時に道を教えてくれる。

 ママは転んだ時は起こしてくれる。

 二人共、頑張る時は手伝ってくれる」

 

姉はその場でクルクルと回り、長い髪を風に靡かせる。

 

「おや、ここにいたのかい?

 ママがお昼を作って待っているよ」

 

「パパ!」

 

姉弟は揃って迎えに来た父親に勢い良く抱きつく。

 

「はは、ほら家に帰るよ」

 

「はーい」

 

父親は二人と手を繋いで家に帰る。

家に着くと、母親が昼食を用意して待っていた。

姉弟は手の汚れを落とすと、母親が作った食事にがっついた。

それを両親は微笑ましそうに眺めている。

 

「あの時は辛かったけど、あの娘が見つかって良かったよ」

 

「そうね……

 たまたま孤児院が保護してくれていて良かったわ……」

 

父親の商売が失敗して、金策に走っていた時期に姉は家族と離れるしかなかった。

弟はその頃はまだ産まれておらず、彼女は一人だった。

そして、漸く金策が成功した頃に姉を迎えに行くと、預けた家はなくなっていた。

 

「どれだけ、絶望したか……」

 

「でも、君に新たな生命が宿っていたことで私たちは生きることが出来た」

 

「そして、今ではあの娘も見つかって家族全員で暮らしている」

 

「これほど幸せなことはない」

 

そして、昼食の後、弟は家で寝ている。

姉は一人で街に出てきていた。

 

「やっと見つけた!」

 

姉の耳に大きな声が聞こえた。

姉が声の方を見ると、一組の男女が走ってきていた。

 

「あら、そんなに慌ててどうしたの?」

 

「慌てるに決まってるじゃない!」

 

息も絶え絶えになって言う少女に姉は首を傾げる。

 

「もう、大分探したんだからね」

 

「探す?

 私を?

 どうして?」

 

「どうしてって……」

 

そこまで言われて少女は絶句した。

 

「やっぱり、これは間違いないよ」

 

「そんな、だったらあたしたちのこと……」

 

少年が姉の反応を見て、少女に言う。

少女は目の前の事実を信じられないように顔を背ける。

姉は訳も分からずに首を傾げるばかりだ。

 

「お姉さん、大丈夫?

 とっても辛そうよ?」

 

「ううん、大丈夫、大丈夫だから……」

 

少女はそう言うが、語尾は段々と弱くなり、目を合わせることもない。

明らかに無理をしてることが姉にも理解できる。

 

「私…悪いことしたかしら?」

 

少女の態度に自分が何かしたのではと、姉は気不味そうに言う。

 

「ううん、君は悪くないよ」

 

少女の代わりに少年がやや中腰になって姉と目線の高さを合わせて言う。

 

「ただ、僕達は勘違いをしてしまっただけなんだ」

 

「勘違い?」

 

「そう、君にとっても良く似てる娘を探しているんだ」

 

「だったら、その娘もとっても可愛いのね」

 

「うん、とっても可愛いんだ。

 だから僕達はとっても心配しているんだ」

 

「あら、結構その娘は悪戯が好きなのね。

 今頃何処かであなた達を見ているんじゃないかしら?」

 

「そう……だといいね」

 

姉と話す少年の声色も少しずつ弱くなってきている。

 

「大丈夫よ、すぐ見つかるわよ」

 

それを察して、姉は二人に励ますように言う。

そこで少女は姉にいきなり抱きついた。

 

「きゃっ!?」

 

突然の事に姉は驚いて声を上げる。

 

「…………………

 ねぇ、もしかして、泣いてるの?」

 

抱きつかれて顔は見えないけれど、少女が泣いているように思えた。

姉は優しく少女を同じように抱きしめて背中を撫でる。

 

「思い出してよ……………レン」

 

涙声で微かに聞こえた自分の名前。

何故自分の名前を知っているのか。

どうしてこの二人が知っているのか。

思い出してとは、一体何なのか。

それを考えても分からない。

 

「エステル………」

 

少年は泣き崩れた少女の名前を呼ぶ。

 

「ねぇ、どうしてなのヨシュアァ……」

 

何かに縋るように相棒であり、恋人でもある少年に問うが、答えは返ってこない。

レンはただ、自分に抱きついて迷い子のように泣く少女の背中を優しく撫で続けた。

けれど、彼女が泣き止むまで撫で続けても、彼女たちが誰なのかレンには思い出せなかった…………


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