刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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評価がいきなり下がって気落ちしてましたが、一部評価がリセットされてるんですね
告知全く見てませんでした……



第29話 機械仕掛けの死闘

アルクェイドとレンが戦いを始める少し前。

黒月の面々は不気味なほどの沈黙を保っていた。

彼らの事務所の一室にはリーダーたるツァオを筆頭に少数の幹部と銀が集まっていた。

 

「こんな時に動かなくてもいいのか?」

 

そう口にしたのは銀だった。

外では、機兵が動きまわり、今現在は動きが確認していないが、ルバーチェも関わっていることは病院の一件で予想できる。

どう関わっているかは謎だが、ここで動くには理由は十分だろう。

 

「こんな時だからこそですよ」

 

しかし、ツァオは人のよい笑顔を浮かべたまま否定した。

 

「ここまで騒ぎが大きくなってしまうと下手に手を出すよりも静観している方がいいのですよ。

 未だ、この件の全貌が見えませんが、ルバーチェが関わっていることは明白。

 それに、この件が全て終われば、勝手にルバーチェは瓦解します。

 手を出す意味がありません」

 

「何故そこまで言い切れる?」

 

「少し考えれば分かることですよ。

 仮に他に黒幕が居たとして、それが表舞台に出てくると思えますか?」

 

「ないな」

 

「この街に蠢く機兵は彼らに用意できるものではない」

 

カーテンに遮られた窓の外では大量の機兵が街を徘徊している。

その音が彼らには聞こえていた。

 

「我々だけでは到底敵う相手ではありませんし、そもそも戦う必要のある相手でもありません」

 

「そうか」

 

「あ、そうそう。

 貴方もちゃんと大人しくしておいてくださいね」

 

部屋から去ろうとしていた銀にツァオは笑顔で呼びかける。

 

「そちらに私の行動を制限する権利はないはずだが?」

 

「伝説の暗殺者である銀が黒月に雇われているということは知っているところは知っているのですから、他から余計な真似をされるわけにはいきません。

 ですから、銀には大人しくしておいて欲しいのですよ」

 

「銀には……か」

 

「ええ、銀には大人しくして欲しいです」

 

それだけで、銀は室内から消えた。

 

「これで、彼女は問題ないでしょう。

 むしろ、問題となるのは……」

 

もはや、ツァオはルバーチェという組織に興味がなかった。

これでなくなるとはいかなくとも、裏社会に影響はなくなるだろう。

 

「我々は日和見の狸どもをこちら側につかせることを考えましょう」

 

ルバーチェの人身売買疑惑で、すでにクロスベルの議会は割れている。

黒月は議員のコネクション確率に躍起になっていた。

 

「必要ではなくても、保険としては使えるでしょうからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拮抗。

まさに、アルクェイドとレンの死闘は拮抗していた。

アルクェイドが速さで圧倒してはいるが、レンは巧みに避ける、もしくは弾く。

対してレンは果敢に攻めることはないが、時折カウンターとしてアルクェイドに少しばかり傷を負わせている。

戦闘経験ではアルクェイドが圧倒するが、戦闘における勘に関してはレンが圧倒する。

しかし、いくらアルクェイドが速く動こうが、的はレンのみ。

レンはアルクェイドの癖や性格である程度攻撃してくる箇所を予測している。

アルクェイドが投げる杭を体よりも大きい鎌を使って反らし、鎖を辿ってアルクェイドに近づいていく。

鎖の影から迫る彼女にアルクェイドは回し蹴りを放つが、避けられる。

レンはその蹴りを避けつつも足に鎌で傷を与える。

しかし、それも微かなかすり傷にしかならない。

傷の与えているのはレンの方が多いが、体力はアルクェイドが圧倒的に余裕がある。

レンの目的はあくまでもアルクェイドの付けている道化の仮面。

だが、それに簡単に手を出せるほど、アルクェイドは弱くはない。

むしろレンよりも数段上の強者だ。

なのに、それが多少なりとも拮抗しているのは理由が二つある。

一つは、この間の傷が完璧には癒えてはいないこと。

もう一つは………

 

「本気じゃない……」

 

レンは明らかに手加減されているのに気づいていた。

そのことに気づいた瞬間、レンはアルクェイドに目を向けた。

その瞬間、アルクェイドは止まった。

レンの目には、失意が色濃く現れていた。

 

「………………」

 

その目から何を感じたのか、構えることもせずに無防備に立ち尽くした。

けれど、それも一瞬。

次の瞬間には、今まで以上の速度で攻撃し始めた。

それは精細さを欠いた攻撃でしかなかった。

けれど、より激しさを増した攻撃は遂にレンの手に負えなく始めていた。

鎌で捌くが、その時にくる衝撃が異常に重い。

それを繰り返され始め、次第に捌ききれなくなり始めた。

そして、上から振り下ろされた鎖に鎌はレンの手から弾き飛ばされた。

 

「しまっ……」

 

飛ばされた鎌に一瞬気をやったのが失敗だった。

飛び降りてくるアルクェイドの手がレンの眼前に迫る。

そして、レンに手が届こうかという瞬間、ガギンという鎖の音がした。

アルクェイドの腕と足に刺さる鉄の爪に体に絡みついた鎖、その鎖の先にはリーシャがいた。

伝説の暗殺者―銀としてではなく、リーシャ・マオとしての彼女がそこにいた。

銀の格好ではなく、仮面もせず、何処か神秘性を纏う民族衣装とも思えるような服装をして、大剣を携えて鎖を握りしめていた。

 

「これは一体どういうことですか?」

 

それでも動こうとするアルクェイドを止めようと鎖を力一杯に引っ張りながらリーシャは言う。

アルクェイドがレンを襲う。

その光景を見た瞬間、彼女は目を疑った。

何か理由はあると思い、手を出すのを憚る気もしたが、結局自分を止めることは出来なかった。

 

「正直なところ、私も分からないの」

 

弾かれた鎌を拾いつつ、レンはリーシャの方に飛んでアルクェイドから距離を取る。

 

「とにかく、あの仮面を割るのを手伝って!」

 

それだけを言ってレンはアルクェイドに突っ込んでいく。

アルクェイドは体に巻き付く鎖を右手で握り潰して戒めを解く。

リーシャはそれを気にせずに、レンをサポートするために短刀をいくつも投げる。

 

「爆雷符!!」

 

それはアルクェイドに迫る前に幾つか爆発して爆風で他の短刀とレンの速度を上げる。

先に短刀がアルクェイドに迫り、それを避けようと彼は動く。

だが、また幾つか爆発して短刀の向きを変える。

しかし、アルクェイドは鎖でその短刀を全て弾き落とす。

そこにレンが仮面を割ろうと鎌を縦に一閃する。

それをアルクェイドは仰け反るだけで避け、そのままバク転の要領でレンを蹴り上げる。

サマーソルトで蹴り上げられる瞬間、レンは衝撃を和らげるために自ら飛び上がる。

飛び上がったレンの下からリーシャが迫る。

大剣を着地して顔を上げるアルクェイドの眼前に突き立てる。

リーシャは大剣が仮面に触れる直前に切り上げる。

それに釣られるようにアルクェイドは顔を反らす。

 

「やった!?」

 

喜色の声色でレンはいうが、リーシャはそれを否定する。

 

「いえ、引っ掛けた程度です」

 

アルクェイドが体勢を立てなおして、彼女たちに向き直る。

その時に仮面の端には亀裂が入ってるが見えた。

 

「後一歩というところね」

 

三度、アルクェイドは突出してくる。

だが、その速度に今までの速さはない。

 

「はぁっ!」

 

迫るアルクェイドの握る杭をリーシャは大剣で切り上げて弾く。

その杭はそのまま上に弾かれるが、アルクェイドは鎖を引っ張って彼女たちに向けて叩きつける。

だが、レンはその鎖を鎌で横に一閃してまたも弾く。

 

「……れ……」

 

「さっきと動きが全然違いますね」

 

「仮面に罅が入ったせいで暗示がブレてるのよ」

 

「暗示?」

 

「……ん…」

 

「話は後よ」

 

アルクェイドはレンに向かって右手を伸ばして駆ける。

リーシャは彼に向けて短刀をいくつも投げるが、全て紙一重でかわされてしまう。

レンの前にリーシャは立ち塞がり、大剣を一閃。

だが、それも義手の右手を盾に逸らされる。

そして、リーシャの横を抜けようとし、レンに手を伸ばしたところでアルクェイドは止まった。

 

「これで、動けませんよ」

 

アルクェイドの体には月明かりが反射して輝く鋼糸が纏わり付いていた。

それは、最初に動きを止めた鉤爪から伸びていた。

 

「最初の鉤爪を使って、さっきの仮面を割ろうとしたのは鋼糸を引っ掛けるためだったのね」

 

「ええ、先ほど投げた短刀にも鋼糸は付けてあるので、避けてくれて助かりました」

 

「なるほど、だから爆発させなかったのね……」

 

レンの眼前には鋼糸を引き千切ろうとしているアルクェイド。

だが、鋼糸はいくら藻掻いても千切れない。

 

「簡単には切れませんよ、それは」

 

鋼糸も東方では暗器として使われている。

下手なナイフよりも切れ味はいい。

それを無造作に扱うと……

無理矢理千切ろうとしているアルクェイドの手のように血に染まる。

 

「これで――終わりよ!」

 

レンは鎌を一閃して仮面を叩き割った。

仮面は粉々になって地へと落ちる。

それに伴い、アルクェイドは倒れ伏す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

コレで終わったと、レンはアルクェイドから一瞬意識を外す。

彼女の視線はリーシャへと向かう。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「いえ、私も彼には用事もありますし……」

 

「用事……?」

 

そうレンが問おうとした時だった。

アルクェイドはゆっくりと立ち上がる。

 

「アル!?」

 

「……れろ……べて」

 

だが、レンの声はアルクェイドには届いていない。

アルクェイドは虚ろな目でレンへと手を伸ばす。

 

「まだ解けてない?」

 

「いえ、これは……

 暗示に、というよりは暗示をかける原因に執着しているだけです。

 だから、何かしらの強いショックを与えたら正気に戻るはずです」

 

「そう……」

 

リーシャの言葉にレンは反芻するように呟きながらアルクェイドに歩み寄る。

 

「ちょっと、危ないですよ!?」

 

強くレンを止めようとするがが、彼女は止まらない。

 

「強いショックね。

 だったら、コレならどうかしら?」

 

そう言って、レンは微笑むと、アルクェイドの伸ばす手を掴んで彼の目の前で止まる。

 

「わす……レ……」

 

「アル……」

 

やや前かがみになっているアルクェイドに前に立つと彼に呼びかける。

そして、そのままアルクェイドの顔に自分の顔を近づけた。




やっちまった感が酷いです………
早まるんじゃなかったかなぁと思う気もしますが…
別にヒロインは決まってません
とは言っておきます、一応

次話で物語的なIFを入れるかもしれません
次々話かもしれませんが…
レンに関することです
詳しくは言いません

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