刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

29 / 86
スランプ?みたいな感覚に陥りました。
これはもっかい本編を見なおさなければ…
この話も後ほど修正するだろうとは思いますが
次話はかなり期間があくかも?


第27話 機械仕掛けの道化

「本当にお使いになられるのですか?」

 

「当然だ。

 コレほど素晴らしいものを使わないでどうする?

 それに、もはや猶予はないのだぞ!」

 

そう言って、マルコーニはテーブルを力強く叩く。

その所作、発言、表情からは焦りというものしか感じれない。

ガルシアは物言いたげだが、目を閉じて何も言わない。

 

 

「………………」

 

「お前はさっさとこれを全員に与えてこい!」

 

「………………分かりました」

 

ガルシアが部屋から出ていくのを見て、満足そうにソファに凭れる。

マルコーニは葉巻に火をつけて煙を蒸す。

その時に彼の耳に声が届く。

 

「お久しぶりです」

 

「おお、お前か」

 

まだ付けたばかりの葉巻を即座に火消す。

 

「その後様子では、私の贈り物は喜んで頂けたようですね」

 

「ああ、アレはなかなかいい物ではないか」

 

画面は相変わらず乱れていてぼんやりとシルエットが分かる程度だ。

 

「だが、我らの構成員全員に渡る数ではない。

 さらに渡せ。

 金なら出そうではないか」

 

「ええ、それは十分承知しております。

 ですが、私の手にあるのはそれで全部なのですよ。

 例えいくらお金を積まれても、無いものは出せないのですよ」

 

「そうか」

 

興奮でやや前のめりになっていた体を再びソファに凭れさす。

 

「ところで、お前、最初に通信してきた時とすこし印象が違わないか?」

 

「それは、どういう意味でしょうか?

 私は私でしか無いのですが…………」

 

「いい、気のせいだろう」

 

それだけを最後にマルコーニは一方的に通信を閉じた。

マルコーニは気付くべきだった。

だが、それに気付く余裕はなかった。

それほどまでに追い詰められていた。

身に覚えはないとはいえ、事実、オークションにて人身売買をしたなどという事がルバーチェという組織を追い詰めていた。

オークションでの事件はハルトマン議長との繋がりを完璧に断ってしまっていた。

彼らにもう政治的な盾はない。

 

 

 

 

その数日後からルバーチェの構成員を見たものはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル……………

 何処に行ったの………………」

 

レンはふらふらと夜の街を歩いていた。

創立祭の最終日以降、、アルクェイドは家に帰ってきていない。

あれからすでに10日が経っていた。

エニグマにも反応はない。

ミシュラムの一画でアルクェイドのウォークスは発見することはできた。

だけど、それだけだった。

アルクェイドに関する情報は一切得ることが出来なかった。

毎日毎日、アルクェイドを探して歩く姿は迷い子でしかなかった。

結局、今日もアルクェイドに関する情報は一個も得ることが出来なかった。

 

「…ただいま」

 

そして、アルクェイドが借りたアパートまでレンは帰ってきた。

 

「おかえり、どうだった?」

 

シュリがレンを出迎え、問うがレンは首を振るだけだった。

 

「そっか」

 

二人共元気はない。

 

「一体何処に行ったんだろうな……」

 

シュリは悲しげに呟いた。

それにレンは答えることは出来ない。

レンはそのまま階段を降りていく。

そして、アルクェイドの部屋の隣の自分の部屋に入ろうとした時だった。

アルクェイドの部屋の前にファルケがいた。

その嘴には紙を咥えていた。

 

「あら、それはどうしたの?」

 

レンはその紙を屈んで覗き込んだ。

その手紙には蛇の紋章、そして道化を表す紋章が、そして一番目立つように、鎌を持った天使が描かれていた。

 

「私宛?」

 

それは間違いなく、カンパネルラからレンへ当てられた手紙だった。

そして、アルクェイドがいなくなっていることを理解した上で、煽るようにアルクェイドの様に手紙を送りつけてきた。

 

「巫山戯ているわ」

 

そして、その内容がアルクェイドに関することだというのも察することが出来る。

レンは少し躊躇しつつもそれを開けた。

 

「コレは……!?」

 

そこに書かれていたことに驚愕した。

そして、全てを読むと強く握り締めてクシャクシャになった手紙をその場に捨ててレンは走りだした。

アパートを出たところでレンはエニグマを取り出した。

 

「お願い、早く来て!」

 

その声に反応してエニグマから機械音声が聞こえる。

レンはそのままエニグマをしまってクロスベル南街道の方へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌な空気だな……」

 

特務支援課と銀はウルスラ病院の中を歩いていた。

特務支援課は最近、クロスベルにある薬品が原因で事件が起こり、それの調査を行なっていた。

そして、その元がある人物だと気づき、夜半ながらこうしてここにやってきた。

しかし、ウルスラ病院はこれまで訪れた遺跡と同じ状態に陥っていた。

空、時、幻の三種上位属性が働いていた。

そして、中には見たこともない生き物とさえ呼べるかどうか怪しいものが蠢いていた。

銀と特務支援課はある人物を探している所に出遭った。

 

「ところで、銀はどうしてここに?」

 

なし崩し的に同行させておいて、ロイドは今更銀の目的を問う。

 

「ある人物の手掛かりを探している」

 

「へぇ、そいつは誰なんだ?」

 

「古い友人だ」

 

それはどういう人か問おうとした所に多数の銃弾が飛んできた。

全員が咄嗟に散開して瓦礫に身を隠す。

 

「ロイド、アレは……!」

 

「どうしてここにルバーチェが!?」

 

「とにかく、奴らを無力化する」

 

それだけ言って、銀が先陣をきる。

その後にランディが続く。

エリィはルバーチェの構成員を牽制しつつ、足止めする。

銀が速さで彼らを撹乱し、ロイドとランディが畳み掛ける。

そして、ティオが全員を纏めて強力なアーツで仕留める。

無力化された構成員はその場で倒れ伏した。

 

「何でこいつらがここにいるんだ?」

 

「分からない……

 それに、なんだか不気味だった」

 

「確かに……

 一言も喋らないどころか、まるで攻撃が効いてないかのように、機械のように突撃してきたわ」

 

「それは追々調べればいい。

 今は先に進むぞ」

 

銀のその言葉にロイドたちは歩き出した。

そして、ウルスラ病院の医師がいる建物の4階にたどり着いた。

そこはある人物の部屋となっていた。

その扉の前に立つと、空気がさらにおかしくなった。

 

「なんだ、これは……」

 

「この空気は……」

 

「…怖いわ」

 

中から感じる力の大きさ、背筋が凍る様な鋭さを持つ殺気。

何よりも、完全に閉められた扉を隔ててるにも関わらず、ここまで臭ってくる血生臭さ。

部屋の中が異常な量の血に染められていることが予想できる。

 

「どうやら、手掛かりではなく、本人がいるようだ」

 

「なんだって?」

 

銀は問われる前に扉を開けた。

その先には、蒼いローブを纏い、道化の面を付けた人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開いて一番最初に感じるのはより強い血の匂い。

一体どれだけの人間がこの場で死ねばこれだけの臭いをさせるのだろうか。

部屋を軽く見渡してみても、人形の物が5つ、犬と思われる動物が8つある。

バラバラになっているものを含めると全てで20は下らない。

そして、恐らくコレをしたであろうと思える人物は死体の山に座っていた。

吐き気を催すほど強い血の臭いの中を支援課は武器を構えてゆっくりと部屋に入る。

 

「お前がコレをやったのか!?」

 

ランディはエリィとティオにこの惨状を出来るだけ見せないように移動しつつ座っている人物に問う。

 

「違うな」

 

だが、それに答えたのは銀だった。

銀は武器を構えずに部屋の中を歩いて行く。

支援課と仮面の人物の真ん中辺りで足を止める。

 

「久しぶりだな」

 

「…………」

 

銀は声をかけるが反応はない。

それを特に気にした風もなく続ける。

 

「オークション以来か。

 何度か会いに行ったがずっと留守だったので探さしに来させてもらった」

 

仮面の人物は何も発さずにゆっくりと立ち上がる。

 

「コレは死神か?」

 

銀はこの惨状は死神がしたものだと判断していた。

そして、それは正解だった。

 

「ああ、見つけたと思ったが、遅かったようだ」

 

人物が発した声は銀以上に抑揚のなく、感情を感じさせない。

まるで機械のような音声だった。

 

「俺への置き土産なのだろうな」

 

「なるほど、その土産に選ばれなかったことを安堵するべきか」

 

「かもな」

 

銀と死神の実力だけを見れば、恐らく銀の方が強いだろう。

だが、死神という存在の本質は強さではない。

死神の思考が少し違っていたら、この場に転がっていたのは銀かもしれない。

 

「死神には気をつけろよ。

 特に、そこのティオ・プラトー」

 

「はい?」

 

突如名を呼ばれたティオは警戒しながらも疑問に思う。

そして、人物は机に置いてあった一冊のファイルを投げる。

銀はそれを無造作に受け取る。

 

「じゃあな」

 

そして、人物は窓を開ける。

 

「待って!」

 

人物が飛び出そうとした時にその声は響いた。

支援課たちが背後を見るとそこにはレンがいた。

 

「待って!」

 

レンは走って人物を捕まえようと手を伸ばす。

けれど、人物は無視して窓から飛び降りた。

人物はローブから小さい飛行機のような機械を取り出すと、それを片手で掲げると、ジェットが噴射して飛び去ってしまった。

それを目で追いかけながら、レンはより一層大きな声で叫ぶ。

 

「待ってよ…………アル!!」

 

レンは飛び去ったアルクェイドを眺めたままへたり込んだ。

 

「アル……」

 

銀は受け取ったファイルに目を通していた。

恐る恐ると言った感じで支援課はレンに近づいていく。

 

「ねぇ、レンちゃん。

 今アルって……アルクェイドさんのこと?」

 

レンはゆっくりと起き上がると、話しかけてきたエリィの方に振り向いた。

 

「ここは酷いから一旦降りましょう」

 

「そう…だな。

 流石にここに長居したくはない」

 

「悪いが私はここで失礼させてもらおう」

 

部屋を出ようとしていた彼らに銀は言う。

 

「用事も終わったのでね」

 

「あんたがなんであいつと知り合いなのか聞きたいところだがな」

 

「時が来れば分かるだろう」

 

銀はアルクェイドから投げられたファイルとティオに向けて放る。

 

「私としても、君と彼の関係も知りたいところだけどね」

 

銀はロイドたちよりも先に扉の方に歩いて行く。

 

「また、今度見に行かせて貰うわ」

 

レンは背後から銀に言う。

 

「………………ああ」

 

それを最後に銀の姿は消えた。

ロイドたちはその言葉の意味がわからずに首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は本当に期待以上の動きをしてくれる。

 実に有難いことだ、これで■■を迎えに行く事ができる」

 

彼は気づいているのだろうか。

その自分で言っている言葉の意味を。

 

「ようやく準備が整った。

 後は彼が帰ってくるのを待つばかりだ」

 

「…………………」

 

「おお、待っていたよ」

 

アルクェイドの姿を見るとヨアヒムは満足そうに言う。

 

「では、彼女を迎えに行ってきて欲しい」

 

その言葉に答えずにアルクェイドは歩き出す。

大量のオーバーマペットを従えて――――

 

「彼がいればルバーチェは必要ない!」

 

ヨアヒムはアルクェイドの後ろ姿をしばらく眺めた後、古戦場の建物内へと入っていく。

ヨアヒムがルバーチェを使わなかったことは果たして幸運だったのか。

それとも、不幸だったのか。

ルバーチェが古戦場の太陽の砦内にいる。

その事実が、ある狂信者を呼び寄せてしまった。

災厄にして最悪の狂信者を――――

 

「あははははははははははははは」

 

その歪な笑い声を聞くものはいなかった。

嬉々として、死神はまるでスキップをしているかのように軽快な足取りで砦に入っていった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。