刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

16 / 86
第14話 機械仕掛けの輝き

支援課のビルの一階にあるソファに座らされたアルクェイド。

その向かいにはエリィとティオが座っている。

アルクェイドは腕置きに肘をかけて、足を組んで座っている。

「はぁ……」

そして、気怠げに溜め息までついた。

心底煩わしそうだ。

「それで、あんな所で何をしていたんですか?」

それを無視してティオは問う。

「銀細工の依頼で少しな」

「銀細工の?」

銀細工とファンシーショップが結び付かずに首を傾げる二人。

「どんな依頼なの?」

「……………」

「言えるわけないわよね」

エリィに問われるがアルクェイドはそれに答えない。

口を開かないアルクェイドにエリィは肩を落とした。

「別に言っても構わないけどな。

 あるキャラクターの物を作れと言われてな」

「キャラクターですか。

 それであんな所に居たのですか」

「世俗には疎いからな」

「引き篭もりですか貴方は……」

肩を竦ませて言うアルクェイドをジト目で見るティオ。

「レンによく言われるよ」

「それで、何のキャラクターを探していたの?」

「みっしぃと呼ばれる物だが……」

「……みっしぃですか」

その言葉を聞くとティオの目が明らかに変わった。

「流石にあそこにもないかと」

「そうなのか?」

「はい、かなりの人気があり、百貨店でも在庫がないそうです」

「そこまでの物なのか……

 あのババァが取引に使うわけだ」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

アルクェイドは軽く手を振って話を逸らす。

「しかし、困ったな。

 ないと手が付けられない」

「……確か、みっしぃのぬいぐるみなら、歓楽街のカジノの景品に有るはずです」

「なんだと?」

少し、思案顔でティオが言う。

その発言にアルクェイドが前屈みになる。

「そう言えば、こないだの依頼で取ったわね」

「結局、取ったと言うよりはミラでコインを買って交換する羽目になりましたけどね」

「うふふ、ランディが肩を落としていたわよね」

「自信満々で任せろと言っておきながら……

 情けなさすぎです」

「ならばカジノに行ってくるか」

そう言って、アルクェイドは立ち上がる。

扉の前まで歩いて、振り返る。

「何故お前も自然について来ようとしているんだ?」

そこにはティオがさも当然の様に立っていた。

ファンシーショップに居た理由も分かり、これで解放されたと思っていたアルクェイドは問う。

「また貴方が怪しい行動をしないか見張る為です」

「怪しいって、おい。

 ……はぁ、勝手にしな」

「はい、勝手にします」

アルクェイドは溜め息をつきながら振り返り、扉を開けて出ていった。

その後ろをティオはついて行く。

それを微笑ましく思いながらエリィは二人を見送った。

アルクェイドとティオは歓楽街のカジノに向かっていた。

裏通りを通っていると、先ほどアルクェイドが居たアンティークショップからレンが出てきた。

「あら、アルじゃない」

「レン、こんな所でどうした?」

「工房にお客様が来ているのよ」

「ああ、なるほど」

レンのその一言でアルクェイドは理解した。

ティオが首を傾げているが、二人は気にしない。

「アルはどうしたの?

 おばあさんに何か頼んだようだけど……」

「少しな、その件でこれからカジノに行く予定だ」

「そう、ならご一緒しようかしら」

アルクェイドはそれに応えずにレンの横を通り過ぎる。

レンはティオに笑いかけて、アルクェイドを追いかける。

駆け足で追いつくとアルクェイドの左腕に抱きついた。

「っと、おい」

「いいじゃない」

「仕方ないな。

 ほら、お前も来るんだろ」

その光景を唖然と見ていたティオに声を掛ける。

ティオは慌てて二人を追いかけた。

裏通りを抜けて歓楽街のカジノの前に着いた。

アルカンシェルに劣らぬほどの綺羅びやかな装飾がされている。

扉を潜ると、そこらじゅうから派手な光や音が空間を彩っている。

アルクェイドはカウンターに行く。

その横には確かにみっしぃと書かれている札が付いたぬいぐるみが景品として置かれている。

それを横目で確かめて、コインを買う。

だが、アルクェイドが買ったコインはたったの一枚だった。

「一枚だけでいいんですか?」

「あら、一枚あれば十分じゃない。

 アルも私も、そして……貴方もね」

「え?」

レンは意味深な笑顔でティオにそう言う。

レンの言葉にティオは聞き返すしかなかった。

だが、レンはアルクェイドを追いかけていってしまった。

「さて、ルーレット、スロット、どちらでやるかな」

「あら、ポーカーじゃないの?」

「イカサマはしない主義だ」

「しなくても勝つくせに」

「面倒くさいんだよ。

 カードの(たぐい)は時間もかかる」

たった一枚しか無いコインを指で真上に弾きながら、レンと会話するアルクェイド。

「ここはやはり、目押しのスロットが確実か」

アルクェイドはスロットのある二階に登る。

「くっそ〜、また当たらねえ」

そこには先客として、赤毛の男が居た。

「そこで、な・に・をしているのですか?」

ティオは鋭い視線でその男を睨む。

「げっ、ティオ助……」

仕事をしているはずの彼がカジノで遊んでいた。

「ランディさん、ここで何をしているのですか?」

ティオは笑顔でジリジリと、ランディに歩み寄る。

「いや、これは、その……そ、そう!

 これはこないだ見たく失敗しないように練習を、だな」

「へぇ、そんな理屈が通るとでも思っているのですか?」

「…………思っていないです」

ティオの迫力に負けてランディは悄げてしまった。

「今回は見逃してあげます。

 別にランディさんを捕まえに来たわけじゃないですから」

ティオがそう言うと、ランディは勢い良く顔を上げて、そこで初めてアルクェイドとレンに気づいた。

「おお、アルクェイドとレンちゃんじゃないか。

 此処に来るとは、なかなか分かっているじゃないか!」

「何の話だ」

見当違いな勘違いをしているランディを放っておいて彼の隣の機体の前にアルクェイドは座った。

そして、一枚しか無いコインを投入した。

スロットの絵柄がすぐさま勢い良くロールし始める。

「たった一枚でいいのかよ?」

「まぁ、見ててなさい」

ランディの疑問にレンが代わりに答える。

アルクェイドは無言で一番左のロールを止める。

そこには一番配当の多いマークがあった。

「お?」

そしてすぐさま、中央のロールを止める。

すると、そこも同じマークだった。

「は?」

「まさか……」

それに驚愕している二人の中でレンは楽しそうに微笑んでいた。

そして、アルクェイドは最後のロールも止める。

最後も同じマークだった。

その瞬間、盛大なファンファーレがスロットから鳴り響く。

鳴ると同時に、下の排出口から大量のコインが落ちてくる。

盛大な音で周りから注目を集めることになった。

その出てきたコインからみっしぃが貰える枚数だけ取ると、カウンターへと向かった。

店員からみっしぃを受け取って戻ってくるまで、彼らはアルクェイドの姿を唖然と見ていた。

「余ったコインはやるよ」

アルクェイドは未だ放心したままのランディに残りのコインの入った籠を手渡した。

言われるままに受け取ってもランディは何も言えなかった。

カジノから出て行くアルクェイドを三人は見送るだけだった。

そんな中で、レンは楽しそうに笑っていた。

「それじゃ二人とも、ご機嫌よう」

レンはランディとティオに向けて、ややスカートを摘み上げながらお辞儀をする。

頭を上げると彼女はアルクェイドを追いかけて行った。

レンはアルクェイドに追い付くと、彼のやや後ろを歩く。

アルクェイドは既に意識をみっしぃに向けている。

目の前でそれをクルクルと回しながら全体の構造を把握する。

「女というのは相変わらず良く分からないな」

構造の把握が終わったのか、頭を掴んで目の前に吊す。

アルクェイドは怪訝な表情をしながら呟いた。

「こんなのの何処が良いんだ?」

「あら、姿とか表情とかユニークじゃない」

「そういうものか」

アルクェイドはみっしぃの頭を掴んだまま手を下ろす。

「貴方のも似たような物じゃない」

その発言をしてからレンはしまったと思った。

アルクェイドはゆっくりと首を回してレンを見る。

ゆらりと力無く両手でレンの両肩を掴む。

そして、アルクェイドはしゃがんで顔をレンの背丈と同じ目線の位置にして、吐息が当たりそうなくらい近付ける。

「ちょ、ちょっとアル!」

「いいか、レン?

 俺の造る細工はな?

 こんな機械生産ではなく、全て手作りだ。

 つまり、同じ物は一つとして無いわけだ。

 世の中には一期一会と言う言葉もある。

 同じ時は二度と無いんだ。

 故に、再び出会うことがないかもしれないんだ。

 人と人の出会いが運命ならば、人と物の出会いも運命なんだ!」

突然アルクェイドの顔がかなり近い距離になってしまい、慌てて彼を止めるが聞かない。

普段は何を考えているのか分からないアルクェイドだが、こう言うときはまるで少年みたいに目を輝かせる。

「そして人はその細工で一層輝き、細工も人で輝くんだ!

 互いに輝きを増してその姿は見る人を魅了する。

 つまり、人はその世界の虜になるんだ!

 武と舞、物語に信仰、そして物にも高みがある。

 遙か頂きに輝く太陽のように!

 俺の細工は!

 輝くんだ!!」

夢を熱く語るようにアルクェイドは目を輝かす。

レンもこういうアルクェイドは嫌いじゃないが、対処に困るのが悩みだ。

一度こうなってしまっては、余程のことが無い限り彼は止まらない。

レンは仕方ないと言った風に肩を竦ませて、せめて人の迷惑にはならないように隅の方にアルクェイドを引っ張っていく。

そんなこともお構い無しに彼は語り続ける。

それでも、レンはアルクェイドを止めることなく、その語りを聴き続けた。

「ふふ、たまにはいいかもしれないわね、こんな時間も」

そんなことを考えながら、レンは空を見上げた。

その視線の先には、先ほどまで曇っていた空の隙間から太陽が見えた気がした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。