刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第10話 機械仕掛けの狂信者

ぱちゃぱちゃぱちゃぱちゃ。

死神は足元の血を掬っては台座のモノへと掛ける。

幾度と、幾度とそれを血で染めるかのように。

その背後で、何か動くものがあった。

「……ここは……」

「あ、目が覚めた?」

椅子に縛り付けられた男が目を覚ますと死神は振り向いた。

姿こそ黒いシーツか何かをかぶっているのか真っ黒で見えないが、声はまだあどけなさの残る幼い少年の声だった。

「おじちゃんやっと起きたんだねー」

「誰だ、お前は!?」

異常な血臭に呻きながらも男は椅子をガタガタと動かしながらも問う。

「ぼくのことなんていいじゃん。

 それよりもおじちゃんに聞きたいことがあるんだよねー」

「な、なんだ!?

 何でも答えるから放せ!」

「簡単だよー?

 あの人のモノを何処にやったのー?」

「あの人!?

 モノってなんだ!?」

「おじちゃんも知らないのー?

 またハズレかー」

「ハズレ……?

 き、貴様が仲間を殺ったのか!?」

「だって誰も答えてくれなかったんだもん」

仲間が何人も目の前の奴に殺された。

そのことだけで男が暴れる理由は十分だった。

「き、貴様あああああああああああ!!」

しかし、男がいくら暴れようとも椅子がガタガタと音を出すだけで身動きすらままならなかった。

「でも、おじちゃんが嘘をついてるかもしれないねー」

死神は台座の横の箱から何かを掴んだ。

「これなーんだ?」

箱から出したそれを子供が親に褒められたくて良い事した証でも見せるかのように男の前に出した。

「そ、それは!?」

「そ、おじちゃんの拳銃だよー」

「か、返せ!」

「返すわけ無いじゃんー」

男の言葉に死神はケラケラと笑う。

そして何処で覚えたか得意気に弄り始めた。

「おじちゃんは他の国の遊びを知ってるー?」

「遊び?」

「そー、こうやって一発だけ弾を残しておくんだー。

 後は全部空砲だよー?」

死神は誇らしげに言う。

何処で手に入れたのか分からない弾を適当に詰めていく。

「でー、こうやっておじちゃんの頭に当ててー」

「お、おい!?

 な何する気だッッ」

「だって、教えてくれないんだもんー」

そういって死神は引き金を引いた。

「はは、ははッ、はー……はー……」

「ハズレー」

男はもう既に恐怖で呼吸すら安定してなかった。

「じゃ、次ー」

さらに死神は引き金を引く。

「またハズレかー。

 運がいいねー」

「し、ししし知らないんだ!」

「別に知らなくても帰す気はないよー」

死神はさらに連続で二回引き金を引く。

「むー、残念ー」

「あ、あははあっはっははは」

男は恐怖で引き笑いを起こしていた。

「さー、今回はどうかなー?」

死神が引き金を引くと、またカチンという音だけがした。

「本当に運がいいねー」

「も、ももももういいだろう!?」

「なにを言ってるのー?

 帰さないって言ったじゃんー」

そして死神は最後の引き金を引いた。

「………………………………」

「残念ー、最初からなにも入ってないよー。

 ありゃ、気絶しちゃった」

男は恐怖で気を失っていた。

それを死神はとても可笑しそうにケラケラ笑っている。

死神は一頻り笑うと男を縛ったまま運び始めた。

男が連れられていった先はルバーチェの組織がいる裏通りの館前だった。

「ふんふんふんふーん」

死神は実に楽しそうにロープを至る所に結んでいた。

鼻歌を歌いながら結び終わると丁度タイミングよく、男が目を覚ました。

「おきたー?」

男が目を覚ますと目の前には恐らく死神の顔があるであろう頭部のがあった。

もっとも死神の眼前も黒の何かで見えはしないが……

男はそれに驚いて声を上げそうになったが、布で猿轡をされていて声を出せなかった。

「おじちゃんが教えてくれないからちょっといつもと違うことしてみたよー」

そう言って死神はルバーチェの扉から結ばれたロープをツツーっと指で辿っていく。

男はそれに釣られてロープを同じように辿ると次第に顔色が真っ青になっていった。

そのロープの先は自分の真上に繋がっていて、その結ばれたる先には鋭い刃物があった。

それに気づいた男は今まで一番暴れ始めた。

「あはははー。

 動いて無駄だよー。

 動くと紐が解けちゃうかもよー?」

「ッッッッッッ!?」

死神のその言葉に男は動かなくなった。

「もうこれが何かわかったよねー?」

男は勢い良く顔を前後に振った。

寝転ばされているから首は固定されているが地面に顔を少しぶつけてしまっていた。

それはギロチンだった。

ロープが解けるか扉が開くと刃が落ちてくるようになっていた。

「最後の質問ー、もっかい聞くよ?

 あの人のモノは何処にあるの?」

何回もされたその質問に男は幾度と横に首を降ってきたが、今回も同じだった。

「そっかー」

残念そうな声色の割には微塵もそんな感情が篭っていなかった。

男は本当に知らないのだ。

男に死ぬ理由があるとすれば、死神に捕まったくらいだ。

要するに運が悪かったのだ。

「じゃ、ばいばい」

そう言って死神は足元の石ころを拾って紐の結ばれた扉へ投げた。

それに絶句して男は必死に逃れようと暴れたが動けなかった。

そして、扉に石ころは当たり、しばらくするとゆっくりと扉は開かれた。

それと同時に紐は解け、勢い良く刃物は自らの重さでそのまま男の首筋目掛けて落ちてきた。

-この日、さらに死神の行為によってルバーチェの工作員は死んだ-

これで五人目の被害者だった……


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