刹那の軌跡 【完結】   作:天月白

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第9話 機械仕掛けの色彩

「どうして知らない振りをしたんですか?」

ティオがアルクェイドのことを思い出した日からすでに10日が経過していた。

「はぁ、振りじゃない」

あれから毎日、ティオはアルクェイドにウォークスに乗せて貰った時に

否定されたことを問うていた。

「嘘です」

仕事がある日でもすぐに終わらせて、工房にいないときは街中から見つけ出す。

今日もまた、百貨店の前で出会ってしまった。

今回はいつもと違い、ロイドたち支援課のメンバーが揃っていた。

「今日は一段と絡むわね」

毎度の如く、ウォークスの後ろに乗っているレンが言う。

もはやこの遣り取りも珍しいことではなくなっていた。

止めても聞かないティオにロイドたちに対処法はなかった。

ティオが居なくなったときに何があったかよく知らない彼らは戸惑うしかなかった。

けれど、それでもこの光景を幾度と見ていれば慣れもする。

すでにランディは面白そうに笑っているし、エリィは微笑ましそうに見ている。

ロイドに至っては苦笑するしかない。

「だから覚えていないと言っているだろう」

「絶対嘘です」

もう何度繰り返されたか分からない不毛な遣り取りが続けられている。

「それより、貴方達は今日はどうしたの?」

「今日は休日ついでに街のパトロールでもしようと思ってな」

「パトロール?」

支援課からパトロールと聞いてアルクェイドは眉を潜めた。

「死神対策なんでしょ」

「無駄なことを」

「何も知らないからでしょ」

レンの言葉にアルクェイドは呆れながらも言うとすぐさま反論された。

「教えるわけにもいかんしな」

「一般人が襲われる可能性が無いのが救いかしらね」

今の支援課では敵うどころか出会うことさえ無いだろうと判断しての言葉だった。

「そっちは何の用なんだ?」

「今日はアルとデートなの」

そう言ってレンはアルクェイドの背後から抱きついた。

その言葉に支援課のメンバーの反応は様々だった。

ロイドは苦笑し、エリィは微笑ましそうに笑い、ランディは冷やかしていた。

ティオは先程からずっとアルクェイドに問いただしている。

「食料が切れてな、補充ついでに外食だ」

レンの言葉に呆れながらもアルクェイドは訂正する。

「男女が一緒に外食して買い物したら立派なデートじゃない」

「あーはいはい、そうだな」

その言葉にレンが頬を含まらせて文句を言うがアルクェイドは面倒くさそうに顔を背けて言った。

「というか、休日まで自ら仕事とはご苦労なことだな」

「本当だぜ、せっかく今日はナンパでもしようと思っていたのによ」

「だから今日は有志でと言ったじゃないか」

「ロイドだけじゃなく、お嬢やティオ助まで行くんなら俺だけ遊ぶわけにもいかんだろう」

「ランディさんは普段は不真面目振ってるくせにこういう時はついてくるんですよね」

ランディの言葉にティオはあからさまに溜め息をついて言う。

「おーおー、そういう事言うのはこの口かぁ?」

「い、いひゃいです」

ランディはティオの頬を思いっきり引っ張る。

「仲が良いわね」

「レンちゃんたちと比べたらまだまださ」

「当然よ」

「……………………」

何故自分に懐いているのか分からないアルクェイドは溜め息をつくしかなかった。

「そうだ、丁度昼時だし、一緒に食べに行きませんか?」

「別に構わないが」

「みんなはどうだ?」

「そうね、いいんじゃないかしら」

「俺も賛成だ」

「構いません」

アルクェイドの返事に少し悩んでいた支援課のメンバーは頷いた。

アルクェイドたちが最初に予定していたという飲食店を目指して、一同は東通りへと向かった。

アルクェイドたちは東通りにある飲食店、龍老飯店にやってきた。

各々が好きな注文をし、それが運ばれてくるのを待っていた。

「そういえば此処に来るのは久しぶりですね」

「不良たちの時以来だな」

「ここのは香辛料が多くて刺激が強いんだよな」

「ここを選んだのはどっちのリクエストなんですか?」

「アルよ、アルはここの料理が好きなのよ」

「好きというか、東方系の料理が舌に馴染むんだよ」

「へぇ~、俺も好きだが馴染むって感じじゃないなぁ。

 旨いんだけど刺激が強いんだよな」

「出身の違いだろうな」

「ということは東方出身ですか?」

「恐らくな」

「恐らく?」

「小さい時のことは覚えてないんだよ。

 そこで拾ったと言われたからそうだと思うんだが……」

「拾われた?」

「傷だらけで倒れてたんだとよ」

「それは……」

アルクェイドの言葉に支援課のメンバーは沈黙してしまった。

聞いてはいけないことを聞いてしまったような神妙な顔をしていた。

「覚えてないから気にしないでくれ。

 親がいない奴らなんて世界にいくらでもいる」

「そういう問題じゃないでしょ、アル」

「他人の当たり前は自分の当たり前じゃないってことさ」

そう言ってアルクェイドは急に真面目な顔をした。

「ところでお前たちに聞きたいことがあったんだが」

「な、何でしょうか?」

態度の変わったアルクェイドに戸惑いながらもロイドたちも真面目な顔をした。

「クロスベルというこの場所をどう思う?」

「クロスベルを?」

「特務支援課と変えてもいい、どう思っている?」

「………………」

「そう難しく考えなくていい、色で答えてくれてもいい」

「色、ですか……」

ロイドは目を閉じて少し考えてみた。

「黒、ですかね」

「その真意は?」

「色々な思惑が渦巻いていて、混じり濁っているからです」

「混ざっているから黒……か」

アルクェイドはロイドの言葉に何度も頷いて頭に反芻する。

「俺の考えは灰色だ」

「灰色、ですか」

「ああ、正義も、慈悲も、寛容も、悪も、善も、欲も、思想も、意志も、何もかもが混ざっている。

 だから何にも成れず、透き通らずに灰色なんだ。

 黒でも白でもない、何かの答えを出す前に新たな色が混ざって新たな問題が現れてしまう。

 そういう場所なんだよ、クロスベルはな」

「…………………」

その言葉にロイドたちは何も言えなかった。

暗に言われているのだ、これからも何かが起こるということを……

その事実に、そのことを知っていることを不思議に思った。

「そう構えるな、気楽にしていればいいさ」

小声で今はなと最後に呟いたが彼らに聞こえることはなかった。

その後、運ばれてきた料理の味が分からないくらい、彼らは考えてしまっていた。

アルクェイドに言われた真意が知りたくて……

先程まで変わって、昼食中は至って静かになってしまっていた。

「本当に性格が悪いわね」

敢えて複雑に考えさせるアルクェイドに視線を向けながら、レンは呆れていた。


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