他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

79 / 83
第30話 「制圧」

対艦射撃を掻い潜りながら、アースラは敵旗艦に肉薄した。改めて近くで見ると、敵旗艦の大きさが良く判る。精々大型戦闘機サイズとはいえ、12隻もの突撃艦を忍ばせていたのだから当然といえば当然なのだが、今までは殆どモニター上の光点でしか見ていなかったため、大きさについてはあまり意識していなかったのだ。

 

「武装隊、整列! これからテロリスト旗艦に短距離転移を行い、内部制圧を行う。エイミィ、内部のスキャンは? 」

 

「モニターに出すよ! 生体反応はあるけれど、思ったほど多くないね。殆どが艦上方部分に集中している。この辺りがブリッジだろうね。動力になっている魔力駆動炉は艦の下部に設置されているみたいなんだけど…大型の駆動炉を2基確認したよ」

 

「あのサイズの艦なら双発もありか。だがそうすると、突入部隊は分ける必要があるな」

 

クロノはそう言った後で、こちらに目配せをしてきた。

 

<ミント、さっきの男も死の呪いを操れると思うか? >

 

<まだ判りませんが、その可能性はありますわね。突入するのでしたら、あの男はわたくしに任せて頂きたいですわ>

 

そのまま少し考えるような素振りを見せたあと、クロノは頷いた。

 

「まずは武装隊をA班とB班に分けて突入させる。A班はプレシア女史、B班はフェイトを指揮官として作戦に当たってくれ。目標は敵艦魔力駆動炉の停止、若しくは破壊だ」

 

「ならあたしはフェイトについて行って、大暴れすればいいんだね。暫く調べ物ばっかりだったから、身体が鈍っちまってさぁ」

 

了解の意を返すフェイトの横で、アルフが嬉しそうに指を鳴らす。リニスもプレシアさんについて魔力駆動炉の制圧戦に参加するようだ。

 

「A班、B班と同時に突入した別働隊が、並行して敵艦ブリッジを制圧する。こちらにはミントと…僕が向かう」

 

「クロノさんもですの? ですが、それは…」

 

クロノは軽く手を挙げて俺の言葉を遮った。

 

「危険があることは重々承知している。だが僕は時空管理局の執務官としてテロリスト達を拘束する義務があるし、君だって回避できるのは死の呪いだけで、それ以外の条件は同じだろう。それなら死地に向かう民間協力者を護るのは僕の仕事だ」

 

その「死の呪い」を回避できることこそがこの上ないアドバンテージなのだが、それを言ったところでこの頑固な最年少執務官は聞き入れてくれないだろう。それに彼が言うように、質量兵器を持ち出されたら命の危険があるのはこちらも同じだった。反論しようとした口を一旦閉じると、代わりに軽く溜息を吐いた。

 

「…判りましたわ。言っても聞いて頂けそうにありませんし。ただ、くれぐれも気を付けて下さいませ」

 

万が一相手が死の呪いを発動させたとしても、俺が割り込むことでまた解呪出来るかもしれないという打算もあった。だがこれはユーノを焚き付けることにもなってしまった。

 

「…僕も一緒にいく」

 

「ユーノさん!? 何を言っていますの!? これは本当に危険なことなのですわよ! 」

 

「そんなことは判ってる! でも…ミントが危険な目に遭っている時に、待っているだけなんて耐えられないよ! 」

 

「もう! クロノさんも何か言って下さいませ」

 

だがクロノは少し考えるようにした後、俺とユーノを見つめた。

 

「いや、許可しよう。ユーノも一緒に来てくれ」

 

頷いて返すユーノを押し退けるようにして、俺はクロノに詰め寄った。

 

「クロノさん、本気ですの? ユーノさんを連れて行くだなんて」

 

「ああ、少し調べていることがあるんだ。ユーノ、君には例の件の検証をして貰いたい。安全についてはこちらも最善を尽くすが、万が一の場合、自分の身は自分で守って貰うことになる可能性があることは考慮してくれ」

 

「うん。判った」

 

俺は再び軽く息を吐くと、錫杖形態にしたトリックマスターを握り直した。「例の件」という言い方に引っ掛かりを覚えはしたがクロノにはちゃんとした考えがあるようだし、ユーノの気持ちも判らなくはない。そして何よりユーノに危険な目に遭って欲しくないと思う一方で、一緒に行けることを嬉しく思っている自分がいることも確かだった。

 

「仕方ありませんわね。そうと決まれば防御はお任せしますわよ」

 

「うん! 大船に乗った気で任せてよ」

 

「…大船には制圧に向かうのですけれどね」

 

ユーノは首にかけられたレイジングハートを確かめるようにした後、「確かにね」と言って微笑んだ。

 

 

 

「クロノくん、転送準備完了だよ! 転送先は敵旗艦の中層フロア。かなり広いスペースがある様子だからA班、B班と同時に転送可能だね。フロア制圧後に両班は魔力駆動炉、クロノくん達はブリッジに向かって」

 

「了解だ。転送後、アースラは敵艦からの砲撃を回避しつつ距離を取って待機。行くぞ、みんな! 」

 

エイミィさんがコンソールを操作すると、転送ゲートが起動される。一瞬視界が光に包まれた後、俺達は敵艦内部にいた。普段使う地上との転移と違って、アンカーなしの転移は一瞬だけ方向感覚とバランス感覚が狂う。少しふらついた身体を、偶々近くにいたフェイトが支えてくれた。

 

「ミント、大丈夫? 」

 

「ええ、少し眩暈がしただけですわ。ありがとうございます。フェイトさんは大丈夫ですの? 」

 

「もう結構慣れたから…みんな注意して。敵が来たみたいだ」

 

フェイトの警告を受けて、即座に集中し直す。それとほぼ同時に周囲から銃声と思われる破裂音が響き渡った。

 

「プロテクションっ! 」

 

ユーノが一瞬で周囲に複数のアクティブ・プロテクションを展開すると、殆ど全ての弾丸を防ぐことに成功した。武装隊のにも防御魔法を展開している人達が何人かいるが、レイジングハートのサポートを受けたユーノのプロテクションは質、量共に群を抜いていた。

 

「よし! こちらからも反撃するぞ! 」

 

クロノの合図に合せて、武装隊から射撃魔法が放たれる。相手は戸口やコンテナ等の遮蔽物に身を隠してはいるが、誘導弾が次々と的確に敵戦力を殺いでいく。

 

「向こうの質量兵器は直射しか出来ないんだから楽勝だな。このまま押し切ってやる! 」

 

「油断はするなよ。敵にだって魔導師がいないとは限らないんだからな」

 

武装隊の人達はそんな軽口を叩きながらも次々と誘導弾を放っていた。全員がBランク以上の安定した実力を持っており、頼もしい限りだ。俺も負けじとフライヤーを敵陣に送り込む。だが数人を無力化したところで、テロリスト達は一斉に退却を始めた。

 

「? 随分とあっさりしていますわね…」

 

「罠かもしれないな。各人、注意を怠るなよ」

 

クロノがそう言った途端、周囲に魔力反応が溢れ、膨大な数の魔法陣が展開された。

 

≪Caution! The magic circle indicates summoning.≫【警告。召喚系の魔法陣です】

 

トリックマスターが警告を発するのと同時に、それぞれの魔法陣から鎧のようなものが現れた。

 

「傀儡兵か! これだけの数を扱える魔導師がいるのか? ざっと見ただけでも50体はくだらないぞ」

 

「恐らくキーワードで起動できるようにしてあって、動力は直接魔力駆動炉から取っているのだと思うわ。時の庭園でも維持管理用に先日数体導入したのだけれど、それぞれがAランク魔導師と同等の力を持っているし、数も多いから十分脅威ね」

 

プレシアさんがそう説明すると、クロノは即座に迫ってくる傀儡兵に対して魔法を放った。

 

「『スティンガー・スナイプ』! 」

 

クロノが発した魔力光弾が一瞬で十数体の傀儡兵を破壊した。だが通路から更に新たな傀儡兵が現れる。

 

「キリがないが…武装隊はスリーマンセルで1体ずつ確実に落とせ。負傷したものは一旦アースラに退避。エイミィ、そちらは大丈夫か? 」

 

『バッチリだよ。そっちの座標は掴んでいるから。いつでも転移できるように準備しておけばいいんだよね』

 

クロノ自身も戦闘をこなしながら武装隊に指示を出す。武装隊メンバーにはAランク以上の魔導師もいるが、それでも単体で傀儡兵と戦うのは危険が伴う。俺もフライヤーで何体かの傀儡兵を倒してはいるが、これはフライヤーの速射性能が良いからで、接敵されてしまうと数とパワーで劣る分、不利になる可能性もある。

 

「一気に纏めて倒せれば楽なのですが…」

 

「ミント、無理しちゃダメだよ。これから先、どれくらいの敵がいるか判らないんだ。魔力も温存して、出来るだけ消費の少ない誘導制御型の魔法で対応しよう」

 

ユーノがアクティブ・プロテクションを展開しながら、こちらの独り言に答えてくれた。

 

「わたくしなら、ジュエルシードを使った回復も出来ますわよ? 」

 

「それも、今は避けた方がいいよ。ここは敵艦の中…地の利は向こうにあるからね。敵の狙いがジュエルシードである以上、こちらのジュエルシードはよっぽどのことが無い限り、彼らの目に触れないようにした方がいい」

 

「…確かに、そうなのですが…膠着状態になるとみんな疲弊してしまいますわね」

 

実際、傀儡兵の数は多く、増援も底が見えない状態だ。一方で武装隊はスリーマンセルを組んだために手が足りない状態になっていた。クロノやプレシアさん、フェイト達が奮戦してもなかなか先に進めない状態で、撤退が必要なほどの重傷者こそいないものの軽い怪我を負う者も出始めている。現時点では戦闘行動に支障もないが、かといって放置しておくわけにもいかないだろう。

 

「リニスさんやアルフさんも頑張ってくれてはいますが、敵の数が多すぎますわね。もう少し手数が欲しいところですわ」

 

『大丈夫だよ、ミントちゃん。クロノくん、敵側はあれ以降援軍もないみたいだし、砲撃もある程度落ち着いてきているから、増援を送るね』

 

傀儡兵にフライヤーからの直射弾を撃ち込みながら愚痴を言ったところで、通信用コンソールからエイミィさんの声が聞こえた。

 

「増援だって? だが武装隊は…」

 

クロノが言いかけたところで、武装隊の後方に新たな転移魔法陣が構築された。エイミィさんが言っていた増援が到着するのだろう。そして魔法陣が光に包まれた。

 

「ここんとこ、模擬戦ばっかで退屈してたからな。暴れさせてもらうぜ! 傀儡兵なんざ、グラーフアイゼンの頑固な汚れにしてやる! 」

 

「ふっ、レヴァンティンの錆にされる傀儡兵の方が多いと思うがな。烈火の将、推して参る! 」

 

「接近戦で後れを取るつもりは無い。私も参戦させて貰おうか」

 

転移してきたヴィータ、シグナム、ザフィーラの3人が即座に傀儡兵に向かって駆け出す。

 

「うわぁ、みんな早いなぁ…わたし達も負けられないね。行くよ、エルシオール! 」

 

≪OK. Here we go.≫【了解。行きましょう】

 

守護騎士達をフォローするように、なのはが放った桜色の誘導弾が傀儡兵を次々と貫いていく。そして一瞬呆然としてしまった俺達の間を、翠色の風が吹き抜けたような気がした。それと同時に傷を負っていたものはバリアジャケットごと回復し、消耗した体力や魔力まで癒されていくように感じた。

 

「ヴァニラか! すまない、助かる。今のは…? 」

 

「…リペア・ウェーブから、シャマルさんに頂いた術式部分だけを切り取って行使しました。ミッド式の『静かなる癒し』です」

 

クロノの呼びかけにそう答えると、ヴァニラもまたなのは達と並んで傀儡兵と対峙した。状況を理解した俺も慌ててそれに倣い、フライヤーを再展開させる。

 

「ありがとうございます。魔力の方は大丈夫ですの? 」

 

「うん。元の魔法ランクはAAだったそうだけど、今回はリペア・ウェーブからの切り出しだから、消費もそんなに大きくないよ」

 

改めて考えてみれば、治療や回復に関する消費魔力の心配はヴァニラには不要だったかもしれない。微笑むヴァニラに頷いて返すと、俺も攻撃を再開した。

 

「これだけの戦力で、押し負けるなんてありえないな。武装隊、魚鱗陣形! 防衛線を突破するぞ」

 

クロノが気を吐き、武装隊がそれに応えた。

 

 

 

=====

 

武装隊の人達が軽傷とはいえ怪我を負った時に、私は戦線への参加を決めた。元々はヴィータさんがじっとしていることに耐えられなくなり、シグナムさんやザフィーラさんと一緒に援軍の提案をしたのだが、敵艦内の状況として傀儡兵との戦闘が膠着しそうになっていたことからも、リンディ提督がその提案を承認したのだ。

 

はやてさんとアリシアちゃんを護る名目で、シャマルさんだけはアースラに残っている。最初は息の合った守護騎士のみんなが揃った方が良いのかとも思ったのだが、最低でも守護騎士のうち1人ははやてさんの側についていることが望ましいそうで、むしろ私が一緒に行った方が良いと言われたことも背中を押した。

 

「ここから先は別行動ですわ。みなさん、お気を付けて」

 

「エイミィからの情報だと、殆どの戦力は魔力駆動炉の防衛に充てられているようだ。くれぐれも気を付けてくれ」

 

広間を突破し、通路を制圧すると広めの階段に到着した。エレベーターのようなものもあるが、さすがに待ち伏せなどが考えられる状況下で敵艦内部のエレベーターを使用するのは躊躇われる。

 

「私達は下層ね。エイミィからスキャンデータが送られているから、迷うことはまずないわ」

 

上層へと向かうクロノさんとミントさん、ユーノさんを見送った後、私達はプレシアさんに促されて下層へと向かった。

 

 

 

「邪魔だぁっ! 」

 

ヴィータさんがハンマー型のデバイス、グラーフアイゼンを振るうと、複数の傀儡兵が纏めて吹き飛ばされる。「テートリヒ・シュラーク」という打撃攻撃で、防御ごと敵を吹き飛ばすような強烈な一撃を放つ術式らしい。近接攻撃で敵を圧倒するベルカ式魔法の基本とも言える技だ。

 

「貴様らごとき、カートリッジを使うまでもない! 」

 

シグナムさんが剣型デバイスのレヴァンティンから飛ばした衝撃波に傀儡兵が一瞬動きを止め、返す刀で一刀両断にされていく。ザフィーラさんは格闘戦闘が得意らしく、迫りくる傀儡兵たちと肉弾戦闘を繰り広げ、叩き潰していた。

 

「さすが、ベルカの騎士。近接戦闘では敵なしって感じだね。今度あたしとも手合せを頼むよ」

 

「落ち着いたら、いくらでもな。気を抜くな。次が来るぞ」

 

同じ狼を素体とした使い魔と守護獣ということもあって、アルフさんとザフィーラさんは随分と意気投合した様子だ。そういうアルフさんも守護騎士達に引けを取らない活躍を見せている。

 

「ふえぇ、みんなすごいよね…」

 

「そうだね。でもそう言うなのはさんだって、十分活躍していると思うけど」

 

誘導弾と直射弾を織り交ぜたコンビネーションや、絶妙のタイミングで放たれる砲撃は、既にトップクラスの魔導師と比べても遜色ない。

 

「なのは、ヴァニラも無駄口を叩いている余裕はありませんよ。間もなく動力部です。私と守護騎士達はプレシアと一緒に行きますから、フェイトのことをよろしくお願いしますね」

 

「はいっ! リニスさんもお気を付けて! 」

 

リニスの言葉に、なのはさんが元気よく答える。

 

「大丈夫さ。傀儡兵ごとき、あたしの敵じゃないね…っと! 」

 

傀儡兵を殴り飛ばしながら不敵に言うアルフさんに別の傀儡兵が襲い掛かる。だがその攻撃は、素早く回り込んだフェイトさんに防がれた。

 

「アルフ、自信は適度に。自惚れは危険だ」

 

≪Scythe form. "Scythe Slash".≫【サイズ・フォーム。『サイズ・スラッシュ』】

 

瞬時に大鎌の形状を取ったバルディッシュを振るうと、傀儡兵はあっさりと切り裂かれた。偶に傀儡兵に混じって銃弾が飛んでくるのだが、以前のようにプロテクションを貫通するようなものは無く、武装隊の人達が展開した防御魔法が効果を発揮していた。極稀に跳弾や、傀儡兵の攻撃を躱しきれずにかすり傷を負う人もいたが、ミッド式の「静かなる癒し」はハーベスターにショートカットを設定してあるので、予備動作も無く発動可能だ。

 

今のところは難無く進めているし、魔力や体力にも余裕がある。油断は出来ないが、このままの勢いで魔力駆動炉も制圧したいところだ。その時ふと、隣にいるなのはさんが妙な表情をしていることに気付いた。

 

「なのはさん? どうかした? 」

 

「あっ、ううん、ちょっと言ってみたい台詞があったんだけど…死にフラグになっちゃうと困るから」

 

にゃはは、と少しだけ笑うと、なのはさんはすぐに表情を引き締め、倒した傀儡兵が転がる通路前方の分岐を見つめた。

 

「それよりも、あそこの分かれ道だよね? 2基の魔力駆動炉に向かう通路って」

 

「そうですね。あそこからは別行動です。お互い気を付けて、制圧後にまた会いましょう」

 

私はB班について、フェイトさんやなのはさん達と一緒に行くことになる。一瞬A班の治療は大丈夫だろうか、という心配が過ったが、戦力的には守護騎士達が付いている分、B班よりも殲滅力は高いだろう。

 

「心配はいりませんよ。さすがに貴女ほどではないけれど、いざとなったら私もプレシアも治癒魔法は使えますし」

 

「そうね。それに…貴女に最初に治癒魔法を教えたのは私なのよ。師のことは信用なさい」

 

「いーや。治癒魔法なんて必要ねーよ。あたしが敵の攻撃を全部撃ち落とすからな! 」

 

リニスとプレシアさんに諭され、不敵に笑うヴィータさんにも頷いて返す。

 

「…行こう。短時間で制圧すれば、ミントやクロノ達のサポートにも向かえる」

 

「そうだな。よし、行くぞ! 」

 

全員がフェイトさんの言葉に頷き、私達はそれぞれの魔力駆動炉に向かって駆け出した。

 

 

 

魔力駆動炉が設置されたエリアはとても広い空間になっていた。駆動炉自体のサイズも想像していたものより遥かに大きい。そしてその空間には数えるのも嫌になるくらいの傀儡兵が存在していた。壁面を添うように通路も設置されているが、飛行能力を持つ傀儡兵も多数いる様子から、私達も飛行魔法を行使した方が良さそうだ。

 

「すっごい数…でも、怯んでなんていられないよね」

 

「勿論さ! これくらいの方が、やりがいがあるってもんだ」

 

なのはさんもアルフさんも、やる気は十分のようだ。

 

「B班、武装隊はスリーマンセルを維持。飛行魔法を展開し、降下しながら敵を制圧します。傀儡兵以外に人間のテロリストがいた場合は優先的に拘束して下さい。最終目標は魔力駆動炉の停止、若しくは破壊。各自の検討を祈ります」

 

フェイトさんは武装隊にそう指示をだすと、次に私達に声をかけてきた。

 

「なのはもアルフも単独で傀儡兵を突破できるから、魔力駆動炉に取り付くことを優先して。ヴァニラはダメージコントロールを」

 

「うん、任せて! 」

 

なのはさんの足元に桜色の翼が現れ、魔力駆動炉に向かって飛び出した。かつて彼女が独自に構築した飛行魔法「フライヤー・フィン」だ。私も高機動飛翔の術式を展開させて後に続く。

 

「エルシオール、お願いっ! 」

 

≪Sure. "Divine Shooter".≫【了解。『ディバイン・シューター』】

 

なのはさんがエルシオールを振るうと、発射された複数の誘導弾が一斉に傀儡兵に襲い掛かる。缶撃ちをしていた頃は1、2発のみ操作していたが、今は5発の誘導弾を同時制御している。本来弾速よりも操作性を重視した術式で、バリア貫通効果も付与されていることから、多数の敵に対しても有効だ。

 

誘導弾を制御し、傀儡兵を次々と倒していくなのはさんの死角から数体、別の傀儡兵が攻撃を仕掛けてくる。でも私がカバーするよりも早く、フェイトさんが回り込んでいた。

 

「サンダー・レイジっ! 」

 

バルディッシュの前面に展開された魔法陣からバインド効果のある雷光が迸り、敵の動きを止めると、そのまま雷撃による攻撃が傀儡兵達を襲う。2段階発動とは言え、威力は申し分ない。なのはさんを襲おうとしていた傀儡兵は纏めて粉砕された。

 

「ありがとう、フェイトちゃん」

 

「気にしないで。次が来る」

 

「うんっ! 」

 

なのはさんとフェイトさんは引き続き傀儡兵を撃ち落としていく。私はバインドや癒しで彼女達をバックアップしていたのだが、目の端に映った人影に、急遽進行方向を変えた。

 

「ハーベスター! 」

 

≪Yes. "Blitz Action".≫【了解。『ブリッツ・アクション』】

 

私が高速移動した先は、壁面に設けられた通路にある柱の陰からなのはさん達を銃で狙っている2人の男達の正面だった。

 

「なっ!? 」

 

「やらせない…ライトニング・バインドっ! 」

 

翠色の稲妻が即座に男達を絡め取っていく。男達は慌てて銃口を私に向けようとするが、それよりも早く私の術式が完成した。かつてプレシアさん相手に散々練習したコンボだ。元々が設置トラップ型とはいえ、繰り返し練習した術式はチェーン・バインドなど他のバインドと比較しても、発動速度はわずかに上回る。

 

「くそっ、離しやがれ! 」

 

騒ぐ男達の首筋にシューターを当てて意識を刈り取ると、すぐに武装隊の人達が応援に来てくれた。

 

「お手柄だな、嬢ちゃん」

 

「…お任せしても? 」

 

「ああ、引き受けた。フェイト班長達のことも頼むぞ」

 

武装隊の人達に頷いて返すと、私は再び高機動飛翔を駆使して、戦闘を継続しているなのはさん達のところへ向かった。なのはさんとフェイトさんは、今までとは違う、巨大な傀儡兵と対峙していた。

 

「大型だ。バリア出力も強い…」

 

「うん…でも、負けられないっ」

 

2人の正面で広げた傀儡兵の砲塔のような場所に魔力が集中する。恐らく砲撃を放とうとしているのだろう。私は即座に静かなる癒しを発動した。2人を翠色の風が包み、消耗していた筈の魔力と体力を回復させる。

 

「ヴァニラちゃん、ありがとう! さぁ、行くよっ!! 」

 

「みんなの力を合せれば、貫ける! 撃ち抜け、轟雷!! 」

 

フェイトさんの魔力が高まり、バルディッシュが砲撃形態に変形した。それに合わせてなのはさんの魔力も高まっていく。

 

≪"Thunder Smasher".≫【『サンダー・スマッシャー』】

 

≪"Divine Buster, full power".≫【『ディバイン・バスター・フルパワー』】

 

バルディッシュとエルシオールの音声が重なり、前面に展開された魔法陣から膨大な魔力の砲撃が放たれた。それと同時に傀儡兵も砲撃を放ち、砲撃同士が正面からぶつかり合う。そのエネルギーは拮抗しているようにも見えた。

 

「ハーベスター、砲撃形態に移行して、ディバイン・バスターを用意。チャージ完了次第、発射するよ」

 

≪All right.≫【了解】

 

なのはさんやフェイトさんの砲撃には威力で劣るけれど、拮抗した状態を打破する程度には役に立てる筈。そう思ったのだが、チャージが完了する直前で2人の魔力が更に膨れ上がった。

 

「「せぇーのっ!! 」」

 

声を合せると同時になのはさんとフェイトさんの砲撃の威力は倍増し、敵の砲撃と一緒に傀儡兵の本体を貫いた。バラバラになって崩れ落ちていく傀儡兵を見つめ、私はフッと息を吐いた。

 

≪Not yet, Master. Be careful.≫【マスター、まだです。注意して下さい】

 

ハーベスターの警告と同時に私達のすぐ近くの壁面を突き破って、今しがた倒したばかりのものと同じ、大型の傀儡兵が現れた。なのはさんとフェイトさんは砲撃を撃ち終えたばかりで体勢が整っていない。思わずチャージが完了したばかりのハーベスターを傀儡兵に向けて、一瞬だけ逡巡した。

 

(あのバリアを、私の砲撃で貫通できるかどうか…)

 

傀儡兵の砲塔がこちらを向いた。その時、私の横をすり抜けて、アルフさんが傀儡兵に迫った。

 

「バリアなら、あたしに任せな! 行っけぇぇぇっ! バリア・ブレイクっ!! 」

 

アルフさんが振り抜いた拳は正面から傀儡兵を捉え、そのバリアを粉砕した。

 

「ヴァニラ! 今だよっ!! 」

 

「ディバイィィィン・バスタァァァーっ!! 」

 

咄嗟に放った砲撃は見事に傀儡兵を貫いて、その動きを止めた。でもまだ完全に活動停止には至っていない。即座に体勢を整えようとした次の瞬間、紅、紫、白の魔力光が傀儡兵を撃ち抜き、鎧のようなその身体を崩壊させた。

 

「悪ぃ悪ぃ。勢い余って傀儡兵ごと壁をぶち抜いちまった」

 

「迷惑をかけたな。我等の方は魔力駆動炉の破壊まで完了した。傀儡兵もこいつが最後だ。怪我人も特にいない」

 

現れたのは守護騎士のみんなだった。プレシアさんも、テロリストを拘束した武装隊の人達やリニスを伴ってやってきた。一瞬呆然としたものの、状況が判って漸く力が抜ける。

 

「こちらも概ね終わっているようね。さぁ、魔力駆動炉を停止させてしまうわよ」

 

「フェイト、アルフ、なのはとヴァニラも、よく頑張りましたね。次はミント達のサポートです。もうひと踏ん張りですよ」

 

リニスの言葉に改めて気を引き締めた。まだこれで終わった訳じゃない。これから本命の…テロリスト達の親玉との対決が待っているのだ。

 

私は砲撃形態のままのハーベスターをギュッと握り直した。

 




3か月ちょっとのご無沙汰です。。
今回はさすがに作品を途中で打ち切ってしまう作者さんの気持ちが少し判ったような気がします。。
長期間書いていないと、だんだんいろんなことが鈍ってくるのですね。。

でもやっぱり自作品を打ち切りにはしたくないので、これからも更新頑張ります。。
相変わらずの不定期更新ですが、引き続きよろしくお願いいたします。。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。