守護騎士に協力して貰って封印した水母の件から1週間が経過したが、結局それ以降地上でジュエルシードが見つかることは無かった。スーパー・エリア・サーチを多重展開して何度も捜索しているので、恐らくもう地上にはジュエルシードは存在していないのだろう。
「残りはたぶん、海の中でしょうね。さすがに武装隊に潜って貰う訳にもいかないし…やっぱりミントさんの提案通り強制発動しかないのかしら…」
「ですが艦長、強制発動をするにしても数によって対応は変わってきます。正確な数が判らない以上、今回は出来るだけ人員を投入すべきかと」
もし海中のジュエルシードが1、2個程度であれば封印自体は楽だろうが、それはテロリストが現時点で6~7個のジュエルシードを保持していることになる。今度はそれらを全て取り返さなくてはならないのだ。逆に海中のジュエルシードの数が多ければその分テロリストに渡った数は少なかったことになるが、封印は大変な作業になるだろう。
それに回収作業中にテロリストの襲撃を受ける可能性もある。海上での作業になるため、空戦適性があるメンバーで対応しなければならない。
「テロリスト側の、正確な魔導師の数が判っていないのもネックね。ジュエルシード回収とテロリスト対策で2チームが必要になる訳だけれど」
「テロリスト対策にわたくしが加わるのは決定ですわね。勿論、テロリストの襲撃が無ければ封印のお手伝いを致しますが。それからユーノさんには大規模な結界を展開して頂きたいですわ」
海の上には遮蔽物などない。ジュエルシードを強制発動させて封印することも当然だが、その場を人間が飛び回る姿だって海鳴の人々に晒す訳にはいかない。
「テロリストと戦闘になった場合は、僕もそちらに加勢しよう。ルル・ガーデンが出てきたらそれ以外のテロリストは武装隊で対応する。ミントは彼女との戦いにのみ専念してくれ」
「了解ですわ」
「それから守護騎士なんだけれど、はやてさんから改めてジュエルシード回収を手伝いたいとの意思表明があったわ。シグナムさん達も納得しているそうよ」
守護騎士達がジュエルシード回収に協力してくれるのは心強い限りだった。何でも守護騎士達と一緒に平穏に暮らすのがはやて自身の望みであるため、それを脅かす可能性があるロストロギアを早々に回収することは吝かではないらしい。
「なら守護騎士とプレシア女史、フェイト、なのはには基本的にジュエルシードの回収を担当して貰おう。テロリストの襲撃があっても、このメンバーなら戦闘をこなしながら回収作業も出来る筈だ。ユーノ、リニス、アルフは結界の維持と、状況に応じて彼女達のサポートをして貰う」
「それが妥当なところね。ミントさんはクロノ執務官と協力して封印作業のサポートと周囲の警戒を。襲撃を受けたら即対応できるようにお願いね」
リンディさんの言葉に了解の意を返す。
「後は実行日ね。丁度明日から週末だからヴァニラさんやなのはさんの学校にも支障はないけれど…さすがに今日の明日は避けた方が良いかしら」
「せめて明後日の日曜日にすべきですわね。ただ気候も大分良くなってきましたから、臨海公園にはかなりの人出が予想されますわ」
「その為の結界だろう? 万が一リンカーコアを持っている人が結界内に取り残されたとしても、その辺りのケアはうちのスタッフで対応するように手配しておくよ」
「助かりますわ。よろしくお願い致します」
こうして5月15日の日曜日に海中のジュエルシードを強制発動させる計画が承認された。プレシアさんやフェイト、なのは、ヴァニラにも計画が通達され、ユーノやリニス、アルフも夜天の魔導書に関する調査は一旦切り上げて、土曜日の夜にはアースラに戻ることになった。
「ミントには結界に取り残された人のケアをすると言ったが、出来るだけリスクの軽減は図りたい。作戦は明日、日曜日の早朝。現地時間の6時に開始しようと思う。休日とはいえ早朝なら、日中と比べて人も少ないだろうからな」
『判った。なら僕達も今夜は早めにアースラに戻って、疲れを取ることにするよ』
日付が変わり、土曜日の午後。クロノが事情を説明すると、モニター越しにユーノがそう答えた。ちなみに無限書庫組以外はみんなブリーフィングルームに集合している。明日の作戦に備えて、今夜は全員でアースラに泊まり込むことになったのだ。
「にゃぁぁ…朝は苦手なんだけどなぁ…」
「なのはちゃん、そこは諦めるとこや。あ、私はエイミィさん達と一緒にみんなの応援をしとるわ。みんな頑張ってな」
「主はやての声援があれば、怖いものなどありません。盾の守護獣の名に懸けて、必ず皆を護り通しましょう」
「あたしとザフィーラは前回、留守番の所為で模擬戦も参加出来なかったんだ。今回は暴れさせて貰うぜ」
意外と守護騎士達のモチベーションも高いことに驚く。ザフィーラやヴィータだけでなく、シグナムとシャマルもやる気は十分のようだ。
「そう言えば守護騎士の皆さんは、もう全員でアースラにいらしても問題ありませんの? 」
少し前までは守護騎士達を刺激しないようにする名目で、アースラへの出頭は任意になっていた筈だった。全員が同時にアースラに来るのはもしかしたら初めてかもしれない。
「ああ。時空管理局全体という意味ではさすがにまだ我等に対して思うところも多いだろうが、少なくともここのスタッフについて言えば信用に値する。執務官殿も、自身の蟠りを抑えて我等に接してくれているしな」
「…僕の父親が命を落としたのは闇の書の暴走が原因であって、君達が殺したわけじゃない。それにヴァニラやはやての話、ユーノ達の調査結果を統合して考えれば、君達だって被害者のようなものだからな」
本心は判らないが、クロノは随分と理性的に守護騎士達と接しているようだった。親の死というものは避けては通れないこととはいえ、まだ若いクロノがまるで達観したかのような物言いをするのは少しだけ違和感があった。
「今夜はみんなでアースラに泊まり込むんだよね? 何だかお泊り会みたいで楽しみ」
「アリシアちゃん…別にみんなで遊ぶ訳じゃないんだからね」
少しだけ不謹慎な発言をしたアリシアを、ヴァニラが苦笑しながら注意していた。
「…ジュエルシードを全部回収できたら、その時は本当に打ち上げでお泊り会でも致しましょう。アリサさんやすずかさん達も誘って、次元展望公園で星を見ながらバーベキューなど如何です? 」
少し冗談交じりにそう言うと、クロノが溜息を吐いた。
「最近忘れられているように思うが、一応これでも艦内の情報は機密事項に相当するものが殆どなんだ。少しは自重してくれ…」
その日の夕方、無限書庫からユーノ達が戻ってきた。管制人格についての情報は以前の調査で得たものがほぼ全てで、それ以外の目新しい情報は特にないのだが、いくつか他のユニゾン・デバイスに関する記述が発見されたため、ユーノ達はリーゼ姉妹とも協力体制を敷き、それを基に夜天の魔導書を何とかレストア出来ないか引き続き調査を進めている。
ちなみにリーゼ姉妹は今回のジュエルシード封印作戦には参加しない。何でもユーノ達が不在の間もユニゾン・デバイスについての情報を集めてくれているのだそうだ。
「ユーノさん、リニスさん、お疲れさまです」
「アルフもお疲れさま。夕食まだだよね? みんな食堂にいるよ」
俺はフェイトと一緒にユーノ達を出迎えた。何だかんだで、3日に1度は最低でもアースラに帰艦するようになっていたユーノ達を転送ポートまで迎えに行くのは最近の常だ。
「ただいま。ミント、フェイト、いつもありがとう」
「あたしはもうお腹ペコペコだよ。今日はなのはや守護騎士達も来てるんだっけ? なら早く食堂に行かないと目当てのメニューが無くなっちまうかもしれないねぇ」
「そうですね。フェイト、アルフ、少し急ぎましょう」
「え? あ、そうか。じゃぁミント、ユーノ、また後で」
アルフとリニスが嬉しそうに食堂に向かい、苦笑しながらフェイトもその後を追う。後に残されたユーノがポツリと呟いた。
「…あのさ、ミント。これって、もしかしなくても」
「ええ、明らかに気を遣われていますわね」
こちらも苦笑しながら、取り敢えずユーノと一緒に食堂に向かって歩き始めた。
「…いよいよジュエルシード探索も大詰めかな」
「そうですわね。ですが、まだ終わりではありませんわ。テロリストの手に落ちたジュエルシードも回収しなければなりませんし、それが終わったら今度は夜天の魔導書のこともあるのですから」
最初はジュエルシードの回収が目的ではあったが、ここまで関わった以上、夜天の魔導書についても介入しないという選択肢は有り得ない。ブラマンシュに帰るのは少し遅くなってしまうが、母さまとは偶に長老のデバイスを介して通信をしているので寂しさなどは無い。
「それにしても、数人増えた程度で食堂のメニューが無くなるなんてことは無いと思うけど」
「そうでもありませんわよ。食材は無限ではありませんし、冷凍保存したところで消費期限が多少伸びる程度ですわ。プリザベーションのような魔法を使っても、新鮮さを保てるのは精々1週間…重ね掛けも出来ませんし」
次元航行艦における食糧事情は、実は意外とシビアだ。管理世界を回っている間は現地で食材を補給するのだが、今回のように管理外世界に長期滞在する場合は検疫の都合もあって、現地からの補給は殆ど見込めない。基本的には転送ポートを使用した本局からの輸送に頼るのが実情だ。
ただこの場合、一度に輸送できる量も限られてくるので、食堂では節約のためメニューごとの調理数を減らす傾向にあるのだ。
「…地球に関して言えば、特に検疫はしなくても問題ないような気もしますけれど」
「確かに、もうアースラの食堂メニューの定番にも色々な地球の料理があるしね」
そんな他愛もない話をしながら食堂に入ると、フェイトが丁度カレーライスを持って席に着くところだった。そのタイムリーな行動に、思わずユーノと顔を見合わせて笑った。
翌朝、クロノからの緊急コールで目が醒めた。時計を見るとまだ4時半だ。
「クロノさん、どうされたのです? 作戦は6時からだと思っていましたが」
『状況が変わったんだ。すまないがすぐにブリッジに来てくれ』
同じ部屋で寝ていたフェイトとアリシア、アルフも眠そうな眼をこすりながら起き出してきた。
「…どうやらテロリスト達に先を越されたみたいよ」
一足先に起きていたらしいプレシアさんの言葉で、一瞬で意識が覚醒する。プレシアさんとリニスは既に着替えも済ませ、準備万全だった。
「トリックマスター! 」
≪All right. Setup.≫【了解。セットアップ】
「ミント…さすがにそれはどうかと思う」
「時間がありませんし、今回は大目に見て下さいませ」
着替えている時間も惜しかったので、パジャマ姿のままセットアップしたのだが、フェイトにツッコミを入れられてしまった。
≪It is OK. This is quite nice situation, I think. Wearing barrier jacket over pyjamas is "fascination".≫【大丈夫です。これはとてもいい状況です。パジャマのままバリアジャケットをセットアップするのは『萌え』です】
戯言を言うトリックマスターを無視すると、俺達はブリッジに向かった。ブリッジには既にユーノと守護騎士達が到着していて、モニターを凝視していた。同じくモニターを見ていたクロノがこちらを一瞥すると、再びモニターに目を戻す。
「これだ。先日工場プラントにいた5人組で間違いないな」
モニターを見たままクロノが言う。確かにそこに映っていたのはあの男達だった。今回は姿を隠すつもりは無いらしく海上に止まり、大掛かりな魔法を行使していた。恐らく儀式魔法の一種なのだろう。ルル・ガーデンの姿は見えない。ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、なのはとヴァニラもブリッジに到着した。
「すみません、遅くなりました」
「艦長、全員揃いました」
クロノの声にリンディさんが頷く。
「簡単に状況を説明するわね。私達がやろうとしていたジュエルシードの強制発動なんだけれど、丁度テロリスト達も同じことを考えたみたい。今、まさに強制発動の真っ最中よ」
その時、アースラの計器がアラートを発した。それと同時に感じ慣れた、ぞわぞわとした感覚が体中を走る。
「海中にジュエルシードの反応! 数は2、3…いえ、更に連鎖反応あり! 全部で4個です! 」
原作では確か海中にあったジュエルシードは6個だった筈だ。少し数が少なくなっているとはいえ、先日の次元震は原作の破壊力を上回っていたように思う。油断は出来ない。その時、海面が大きく盛り上がったかと思うと、巨大な竜巻が4本発生した。
「ジュエルシード、発動! 結界、未展開です! 」
「くそっ、本来ならあいつらが消耗してから叩ければ楽なんだが! 」
「結界が未展開で、しかも複数が暴走…下手をしたら中規模以上の次元震が現実世界を襲うことになりますわ」
俺の言葉にクロノも頷く。
「ああ、判っている。仕方ない、全員で出るぞ! 分担は昨日説明したフォーメーションBだ」
クロノの指示で俺達は即座に転送ポートから現場に飛んだ。フォーメーションBはジュエルシード回収作業中にテロリストの襲撃を受けた時の物で、俺とクロノでテロリストの相手をしている間に守護騎士やフェイト、なのは、ヴァニラ、プレシアさんがジュエルシードの回収をする手筈になっていた。
「ユーノさん! 」
「判ってる! 行くよ、レイジングハート!! 」
≪Yes, my master. "Wide-area Force Field".≫【了解。『広域結界』】
ユーノが紅い宝石をかざすと、海上だけでなく臨海公園のほぼ全域を巻き込んだ巨大な結界が発動した。リニスとアルフがユーノの護衛兼サポートに当たる。それを見届け、6基のフライヤーを展開すると、俺はテロリストに向き直った。
「今日こそは年貢の納め時ですわよ」
「ほざくな、ガキ! 」
銃を構えた男が俺に向かって発砲してきた。
「当たるものですかっ」
≪"Round Shield".≫【『ラウンド・シールド』】
数発を躱し、数発を魔力盾で受け流しながら、相手の銃を観察する。以前桜台公園で戦った時に使っていたものと同じ銃のようだ。実はあの後、拾ったマガジンを士郎さんに見て貰い、形状を説明することで銃の種類は特定出来ていた。
(あれはデザートイーグル…型番まではさすがに覚えていませんが、使用する弾は50AE弾。装弾数は7発、でしたわね)
士郎さんの話では、地球のハンドガンとしては最強の威力を誇るらしい。予めチャンバー内に1発仕込んでおくことで合計8発までの射撃が可能だった筈だが、マガジン交換の際にスライドの状態を確認すれば、残弾数が判ることも教えて貰っていた。
「! 」
男がマガジン交換をした。スライドは後退したままだ。チャンバー内に弾は残っていない。
<ここから7発…そうしたら一気に詰めますわよ。念のためカウントをお願いしますわね>
<≪Sure. I got it.≫>【了解】
トリックマスターに残弾数の確認をお願いする。その時、銃の男の周りにいた他のテロリスト達の姿と気配が消えた。今更ながらこちらを包囲するつもりなのか、或いはフェイト達の妨害に向かおうとしているのかもしれない。
「甘いですわ…『スーパー・エリア・サーチ』、一次展開! 」
フライヤーとの同時展開で負担も大きいが、致命的に処理落ちしてしまう程ではない。どうやら姿を消したテロリスト達はこの場を銃の男に任せて、ジュエルシード封印に向かおうとしていたようだ。咄嗟にフライヤーで足止めの射撃をする。
「フェイトさん達の邪魔はさせませんわよ! クロノさん、お願いしますわね」
「ああ、任せておけ。『スティンガー・スナイプ』! 」
フライヤーの威嚇射撃で再び姿を現したテロリスト達に、クロノの誘導型魔力光弾が襲い掛かった。何とか回避しているものの、「スナイプ・ショット」の掛け声とともに加速する誘導弾に阻まれて、移動は出来ない状態になっていた。
「さてと、仕切り直しますわよ」
更に数発、銃の男が撃ってきた弾を躱すと、改めてトリックマスターを構える。
<≪He has shot 4 bullets. There will be 3 remained.≫>【4発射撃されています。残弾数3】
<了解ですわ。ありがとうございます>
更に2発の射撃を躱す。男がギリッと歯を鳴らした。
「…投降なさいませ。もう貴方達に勝ち目はありませんわよ」
「ぬかせ! いつもいつも邪魔ばかりしやがって」
「何度も申し上げますが、先に手を出してきたのは貴方達ですわよ。自業自得ですわ」
「やかましいっ! 」
男が最後の1発を撃つのと同時に、俺はブリッツ・アクションで男の懐に入り込んだ。
「はっ! 」
気合と共にトリックマスターを回転させ、銃を弾き飛ばす。そしてそのまま男をバインドで拘束した。
「チェックメイトですわ」
同時に、海面の方で高まるなのはの魔力を感じた。そちらに視線を向けると、丁度守護騎士やフェイト達が4本の竜巻を抑え込み、そこになのはがディバイン・バスターを叩きこむところだった。竜巻が消え、4つのジュエルシードが残される。あとはあれを封印して作戦完了だ。
「!? 」
次の瞬間、バインドで拘束した筈の男の魔力が大きく膨れ上がった。クロノが足止めしていた他の男達も同様に魔力が増大している。
「な…何だ? さっきまでとは動きが…うわっ」
男達がクロノを弾き飛ばしてジュエルシードに向かった。俺の眼の前にいた男もバインドを容易く解除すると、ジュエルシードの方に向かおうとした。
「! 行かせませんわよ! 」
『じゃマ…どケ』
男の前に立ち塞がろうとしたのだが、男の顔を見た途端、一瞬足が竦んでしまった。目の焦点は合っておらず、表情らしい表情がない。まるでゾンビのようだった。そしてその一瞬の隙を突かれた俺は男のショルダータックルをまともに受けてしまい、弾き飛ばされた。
「きゃぁぁっ! 」
「ミント! 」
体勢を立て直す前に、ユーノが俺を受け止めてくれた。
「ユーノさん…? あ、ありがとうございます」
「大丈夫? ミント」
実際には弾き飛ばされて驚いただけで、特にダメージなどは無い。バリアジャケットのおかげだろう。
「問題ありませんわ。それよりユーノさん、この現象って」
「うん、2週間前の工場プラントの時と同じだ。急に魔力が高まって」
男達が向かった先を見ると、ジュエルシードを封印する余裕もなく、みんなが応戦を始めていた。テロリスト達の魔力は今や一人一人がSランクに届こうかというくらいにまで高まっている。だが俺はそこに参戦するわけにはいかない。
「ユーノさん、少し…下がっていて頂けませんか? 」
「えっ? 」
そう言えば、2週間前もそうだった。彼等の魔力増大の切欠は、この女。俺はトリックマスターを片手にユーノを制すると、前に出た。
「…やっぱり来ましたわね、ルル・ガーデン」
「どうやら貴女とは随分と縁があるようね。可愛いお嬢ちゃん」
俺はいつの間にかその場にいた真白な女、ルル・ガーデンを睨みつけながらフライヤーを展開した。ルルも身体の周りにスフィアを展開すると、直射弾を発射した。
「お行きなさい、フライヤー達! 」
ルルの直射弾を躱しながらフライヤーを制御する。そして威嚇射撃をしながら、相手の動向を観察した。ルル・ガーデンは転生者だ。つまり、普通に殺してしまうと記憶を持ったまま別の世界に転生してしまう。そうすれば、彼女はその世界で同じように死の呪いを振り撒くだろう。
かといって、生かしたままにしておけば危機に晒されるのはこの世界だ。正直、ルルの魔力量はAAA程度はある様子だったが、魔導師としての技量は俺よりも若干低い程度だ。それでも下手に手を出せずにいるのは矢張り死の呪いの存在が大きい。
(呪いを解く方法が判れば話が早いのですが)
嘗て聞いた話の中には「転生者が手を下せば、それ以上の転生はしない」と言うものもあったが、確認が出来ない以上、この話は眉唾モノだ。確認が出来なければ意味がない。
「ミント、危ないっ! 」
「! 」
ユーノの声にハッと我に返ると、ルルの直射弾が頬を掠めて行った。下がって貰った筈のユーノが、いつの間にか俺の隣でシールドを展開している。
「ユーノさん!? 危険ですわ。離れていて下さいませ」
「でもミントを1人にしておけないよ。大丈夫、この程度の直射弾なら自分の身は護れるから」
「そう言う次元のお話しではないのですわ! 」
言い合いをしながらも、今度は俺がプロテクションで直射弾を受け止めた。その時、ルルがにやりと笑ったような気がした。
「ふーん…そういうこと」
「な…何ですの? 」
俺はユーノを庇うように前に立つと、改めてルルを睨みつけた。
「貴女にはどういう訳か死の呪いが効かなかったけれど、そっちの男の子ならどうなのかしらね」
「ユーノさん、逃げて! 早く! この女の言うことを聞いてはダメですわ! 」
咄嗟に俺はそう叫んでいた。だが即座にこれが悪手だったことに思い至った。
「…え? どういうこと? 」
「ふふっ、やっぱりそうなのね。良いことを教えてあげる。私はね、転生したの」
目の前が真っ暗になるような錯覚に陥る。ユーノが呪いにかかってしまった。ユーノがいなくなってしまう。イヤだ、イヤだ、イヤだ! こんなことなら他の世界のことなんて考えずに、さっさとルルを殺しておけば良かった…!
「ぁぁぁぁああああああああああっ!! 」
俺はその場で6基のフライヤーの一斉射撃を、ルル・ガーデンに叩きこんだ。
ぎりぎり間に合いました。。
本当はもう少し話を進めておきたかったのですが、そうするとキリが悪くなりそうだったので、いつもより文字数少な目ではありますが、ここで投稿しておきます。。
HDDの入れ替えは、実はまだ出来ていません。。来週の投稿は難しいと思いますので、申し訳ありませんが続きは再来週までお待ちくださいませ。。