金曜日に行われたリンディ提督達と高町家の会談は、まずリンディ提督の謝辞から始まった。それはアリシアちゃんや私を保護してくれたことや、次元世界への理解を示しつつ、情報を秘匿してくれていることに対するお礼であり、同時にロストロギアの絡んだ事件に巻き込んでしまったことに対する謝罪でもあった。
「それから、アースラは暫く第97管理外世界…皆さんの言葉で言うところの『地球』に程近い次元空間に留まることになりました。これは地球におけるロストロギア対応担当が正式にアースラに決定されたためです」
リンディ提督がそう言うと、なのはさんがそっと手を挙げた。
「あの…ロストロギアって、ジュエルシードと闇の書っていうことでしょうか? 」
「そうね。その認識で間違いではないけれど、闇の書についてはまだ正式に報告している訳ではないから、表向きはジュエルシード探索とテロリストの拘束が主任務ね」
「尤もユーノやリニス達がある程度の情報を入手して対策の目途が立ったら、こちらも正式に報告をするつもりだ。その時ははやてや守護騎士達にも協力して貰うことになるだろう。すまないが、よろしく頼む」
リンディ提督の説明をクロノさんが引き継いだ。目の下にうっすらとだがクマが出来ているのが判る。本局では魔法を使えなかったけれど、後でリラクゼーション・ヒールをかけてあげようと思いながら話を聞いていると、美由希さんも同じことを思ったのかクロノさんに疲れているのではないかと尋ね、そのまま済し崩し的にアースラ乗組員のメンタルケアの話になった。
結局クロノさんのクマについては個人的に休みを取ることで決着したのだが、長期間に亘って艦内生活を送る必要がある次元航行部隊でのメンタルケアについては、士郎さんや桃子さんも気になっていた様子だ。
「確かにアースラには次元展望公園とか憩いの場はあるんだけれど、地上に降りると全然違う解放感があるよ」
「そうね…地球の近くに長期停泊するなら地上にも拠点を置いて、定期的にクルーのシフトをすることを提案するわ」
フェイトさんの発言にプレシアさんも頷きながら言う。次元展望公園はアースラのように長期の次元間航行を行う大型艦船には標準装備された施設らしい。私も連休中になのはさんやアリシアちゃん達と何度か訪れたことがあるのだが、丁度「ギャラクシーエンジェル」で出てきた銀河展望公園と似たような場所だった。
とは言っても、私がゲームの中で銀河展望公園を見たのは1回だけなのだけれど。ピクニックの最中にスプリンクラーが誤作動して大雨状態になってしまうシーンで、そのイメージが強く残っていた。
「ヴァニラさんの意見はどうかしら?治癒術師としての意見も聞いてみたいわ」
不意にリンディ提督から声をかけられた。一応考え事をしながらも話は聞いていたので、すぐに答える。
「…次元展望公園は確かに憩いの場ですし、本物の土や植物があるのでメンタルケアには大きく役立っていると思いますが…やっぱりたまには本物の日光を浴びる方が良いと思います」
太陽光は交感神経を活性化させ、その十数時間後にメラトニンを生成する。これは睡眠に必要なホルモンで、昼間に太陽光を浴びて交感神経を働かせ、夜に眠ることで副交感神経が自然治癒を促すことになる。このサイクルが乱れると、自律神経失調症や鬱病などになってしまう恐れもある。
「…1日が24時間であるのに対して、人の体内時計は25時間を1日として認識しているそうです。これをリセットするためにも、毎朝太陽光を浴びるのは推奨されるべきですね」
ちなみに、これは室内灯では代替するのが難しい。精々1,000ルクス弱の室内灯では、15,000ルクスを超える太陽光には遠く及ばないのだ。ちなみに体内時計のリセットには、最低3,000ルクスの光が必要だと言われている。
「それ、前にテレビでも見たことあるよ。あとは何か栄養素も作れるんだよね? 」
「アリシアちゃん、正解。ビタミンDの生成だね。骨とか歯の形成に必要な栄養素だよ」
ビタミンDはカルシウムの摂取を助け、骨を丈夫に保つためには欠かせない。殆どのビタミンは体内で生成出来ないのだが、ビタミンDについては太陽光を浴びることによって皮膚が生成してくれる。
尤も強すぎる紫外線は良いことばかりではない。浴びすぎると火傷になってしまったり、シミや皮膚癌の原因になったりもする。何事もほどほどが良いのだ。
「そうね…じゃぁ、プレシアの意見を採用することにしましょう。夜勤明けと休みに当たる乗員のうち、希望者は地球への上陸許可が下りやすくなるようにしておくわ」
海鳴市内での拠点確保にまで話が及んだ後、リンディ提督はコホンと咳払いをした。
「申し訳ありません。会談中なのに内部の話になってしまい、失礼致しました」
士郎さんが苦笑しながら問題ない旨を回答した。
「ただそれはそれとして、あたしとしてはアリシアちゃんとヴァニラちゃんの今後について確認しておきたいですね」
美由希さんがそう言うと、士郎さんも恭也さんも頷いた。
「プレシアさんが海鳴に常駐してくれるのであれば、アリシアちゃんは一緒に暮らした方が良いだろうな。フェイトちゃんという妹もいることだし、家族と一緒に暮らすのはこの年頃の子には大切だ」
士郎さんがそう言うとプレシアさんも頷いてアリシアちゃんを見つめた。
「そうですね。話が元に戻ってしまいますが、矢張り海鳴市内での拠点確保は必須でしょうね。ここの近くで広めのマンションでもあれば、テスタロッサ家に常駐して貰う形が良いかもしれないわ」
「マンションって、借りるんですよね? まぁ買うのもありかもしれないけれど。その場合、お金ってどうするんですか? 」
リンディ提督の言葉に、なのはさんが質問した。確かに管理外世界のお金となると入手経路など存在しないようにも思ったのだが、実は驚いたことに一部で交流があったらしい。
「…そう言えば、わたくしが知っている限りでも、クラナガンには地球の鶏料理を提供していたお店がありましたわ。臨海エリアには地球の…それも日本の調味料などを扱うお店もありましたし」
「そうなの!? そんなお店があるなんて、全然知らなかった…」
ミントさんの言葉に愕然とする。つまり私がこの半年間、ずっと連絡できずにやきもきしていたミッドチルダと交易していた人達がいたということだ。言われて思い出したが、リンディ提督の部屋には桜や鹿威し、野点セットもあった筈だ。色々と間違った感じではあったが、少なくとも日本文化について知識の片鱗があることは間違いない。私は思わず、ガックリと項垂れた。
「でもそれは結構最近になってからのことよ。さすがに20年以上前になると交易ルートなんて殆ど無かったから、ヴァニラさんが知らなくても仕方ないわ。兎に角、お金については心配いらないわよ」
こうして建前上は時空管理局の海鳴臨時出張所、その実態はアリシアちゃんが友人とも気軽に遊べるように配慮されたテスタロッサ家の住居が出来上がることが確定した。
「アリシアさんもヴァニラさんも以前お話しした通り、少なくとも日本の義務教育修了までは日本に滞在するということでいいのよね」
「はい、そのつもりです」
アリシアちゃんが頷くのを見て、私もそう答えた。
「ロストロギアの件が片付くまではこちらで生活するということに問題は無いわ。ただこちらの義務教育期間修了までは確かまだ7年ほどあるのよね。飛び級制度は無いみたいだし…さすがにそれまで事件が片付かないなんてことは無いでしょう」
プレシアさんが少し考えるようにしてから、そう言った。
「取り敢えず、その点については一連のロストロギア事件に解決の目途が立ったら改めて相談しましょう。当面テスタロッサ家の生活環境についてはさっき決めた通りで良いかしら」
「ちょっといいかな? 拠点にするということは、アースラの乗組員も地上に来る際に利用するということだと思うんだけど」
恭也さんがリンディ提督に問いかける。
「そうですね。簡易ゲートを設置しておけば比較的自由にアースラと行き来できるようになりますし」
「確かに…だとするとマンションは避けた方が良いかもしれないな」
今度は士郎さんが呟くように言った。
「ハラオウン提督、マンションだと多数の隣人の目に晒されることになる上、防犯カメラなどもあるでしょう。一家族だけが生活している筈の部屋に、大勢の人が出入りするのはあまり好ましくない…特に見た目が外国人となると、尚更です。下手に軋轢を生まないようにするためにも、ここはマンションではなく戸建を確保した方が良いと思いますよ」
士郎さんの提案に、今度はリンディ提督が考えるような素振りを見せた。
「そうですね…丁度良い物件があれば、その方が良いかもしれませんね」
「それなら隣の区画に確か結構大きめの物件があったと思うよ。確か賃貸だったと思うけど」
「ありがとうございます。では後程、確認しておきます。アリシアさんのことはこれで決まったとして、次はヴァニラさんのことになるのだけれど」
リンディ提督が私に声をかけてきた。それは私の今後の身の振り方についてだった。
「先日、少しお話しさせて貰ったことの続きと思って貰っていいわ。将来的にミッドチルダに戻って治癒術師になるならハラオウン家の養女になって貰うのが一番良いのだけれど」
「…そうですね。まだ心の準備が出来たとは言えない状況ですが、前向きに検討しています」
そう言ってから、私は士郎さん達の方に向き直って頭を下げた。
「厚かましいお願いですが、もしよろしければ中学卒業まで、お世話になってもよろしいでしょうか」
恐らくミッドチルダに戻るのであれば、リンディ提督が言うようにハラオウンの養女になるのが適切だと思う。ただ地球に滞在する間は、そのことをあまり意識する必要はないだろう。だから私は今、誰の傍にいるのが一番いいのか…誰と一緒にいたいのかを考えて、この結論を出した。
アリシアちゃんは母親であるプレシアさんが護ってくれるだろうし、妹のフェイトさんもいる。はやてさんには守護騎士のみんなが付いていてくれるし、当面はミントさんも力になってくれる筈だ。高町家もそういう意味ではなのはさんにとってかけがえのない素敵な家族なのだが、かなり魔法に傾倒しているなのはさんのサポートは魔導師である私が適任だし、何より私はなのはさんを護りたいと思っていたからだ。
「歓迎するよ、ヴァニラちゃん」
顔を上げると、高町家全員の笑顔が目に入った。
「ありがとうございます…改めてよろしくお願いします」
結局、高町家から道を挟んで隣にある区画の戸建にテスタロッサ家が入居することになった。八神家は現状維持だが、必要に応じて管理局サイドと協力体制を取る必要もあり、はやてさんは携帯電話を購入することになった。
「ヴァニラちゃんやアリシアちゃんも、一緒に買いに行かへん? 」
「そうだな。中学までは一緒に生活するとは言っても四六時中なのはやアリサちゃん達と一緒にいる訳にもいかないし、学校もあるから念話やデバイス通信だけだと色々と不都合もあるだろう。むしろ遅すぎたくらいだが携帯電話は持っていた方がいいな」
アリシアちゃんが携帯電話を持つのなら、当然プレシアさんやフェイトさんが購入しない訳がない。士郎さん達の勧めもあって翌日の土曜日に私達は揃って携帯電話を買いに行き、全員なのはさんと同じ型で色違いの携帯電話を持つことになった。ちなみに、アリサさんとすずかさんも同じ機種を使っているのだそうだ。
全員で番号を交換して登録すると、士郎さんや桃子さんの番号も合せて一気に10以上の番号が表示され、それが何故だかとても嬉しかった。
そしてその日の夜、早速メールが届いた。差出人はフェイトさんだった。なのはさんとはやてさんにも同報で送られている様子だ。
『最近、ミントの元気がないみたいだから、元気付けるために協力して欲しいんだ』
メールにはそう書かれていた。
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「ふぅ…」
アースラの通路を歩きながら、気が付くと溜息を吐いていた。ヴォルケンリッターと一緒に封印した水母のジュエルシード以降、新規ジュエルシード発見の報はまだない。打ち合わせでは、取り敢えず1週間は現状を維持するが、念のため並行して海中に落ちてしまった可能性のあるジュエルシードの探索方法についても検討することになっていた。
(それにしても…まさか潜る訳にも行きませんし。サーチャーでの探査は水中向けではありませんし…)
特に今は春から初夏にかけて水温が上昇しプランクトンが大量発生する、所謂「春濁り」の真っ只中だ。目視による海中探査でジュエルシードを捜索するのは絶望的だろう。
「春濁り」が発生する時期は産卵シーズンになる魚類も多く、生への欲求に溢れた海中でジュエルシードが今まで発動せずにいたのは僥倖というものだ。だが今のままでは原作通りに強制発動させるくらいしか対策が無く、しかも1つのジュエルシードが発動することで連鎖的に他も発動する可能性がある現状では相応の準備が必要だ。
「ふぅ…」
≪One sigh will take one happiness away from you, master. You have already missed happiness twice.≫【溜息を吐くとその分幸せが逃げると言います。マスターは既に2度、幸せを逃していますね】
俺がもう一度溜息を吐くと、トリックマスターがそんなことを言ってきた。
「そうは言いますが…ままならないものですわね」
≪Anyway, gloominess will infect the others. You have to be careful if you are not alone.≫【暗い雰囲気は他の人にも伝播します。誰かと一緒にいる時は注意した方が良いです】
「…そうですわね」
いつもふざけているトリックマスターに言われるのは何となく癪だったが、正論なので言い返すことも出来ない。もやもやした気持ちのまま通路を歩いていると、食堂の入り口に設置された自動販売機の前で缶コーヒーを飲んでいるクロノの姿を見かけた。
声をかけようとしたところで一瞬固まってしまった。クロノが飲み終わったコーヒーの缶を、誤って紙コップの回収ボックスに入れてしまったのだ。本人もすぐに気付いたようで慌てて投入口を覗き込んでいたのだが、小さな穴に腕が入らず、溜息を吐くとすぐに諦めた様子で立ち去ろうとした。
「…クロノさん、見ましたわよ」
間違って紙コップの回収ボックスに缶を捨ててしまったのは仕方ないとしても、すぐに取り出すのを諦めて放置しようとしたことは許せなかった。クロノが少し驚いたような表情を浮かべて振り返った。
「ミントか。見たって、何を? 」
「それはもう一部始終を。しっかりと目に焼き付けましたわ。敬愛すべき執務官が、まさかゴミの分別ルールを守れないようなお人だったなんて。失望しましたわ」
「今のは偶々、うっかり間違えただけだ。手も届かなかったんだから仕方ないだろう」
俺はつかつかと回収ボックスに歩み寄り、後ろ側についていたフックを外すと上蓋部分を取り外して中の缶を拾い上げた。
「こうすれば蓋が開くのですわ。今後は注意して下さいませ」
「勘弁してくれ。たかがゴミの分別くらいで」
そのクロノの呟きを聞いて、カチンと来てしまった。
「…クロノさんがそこまでモラルの低い方だったなんて、他の皆さんが知ったらどう思われるか。良いですか? 一事が万事と申しますわ。普段の行動にこそ、その人間の本性が現れるものです。巨大なダムに開いた小さな穴から少しずつ水が漏れだして最後にはダム全体が崩れ落ちるように、この小さな悪事が最終的にクロノさんの信用をすべて崩壊させるのも時間の問題ですわね。そしてそんなことになったらアースラチームはもうおしまいですわ。クロノさん…誰からも信用されなくなった人間の末路というものは、惨めなものですわよ」
一気に捲し立てた後で、この台詞がゲーム「ギャラクシーエンジェル」の中で、ミント・ブラマンシュがタクト・マイヤーズに対して言ったものと殆ど同じであることに気付いた。クロノを見ると、バツが悪そうな表情で俺のことを見ている。自分の中の怒りがスッと引き、代わりに居た堪れない気持ちになった。
「…申し訳ありません。少々言い過ぎましたわ」
「いや…今のは僕の方に非があった。すまなかった。今後は二度としないように、注意するよ」
改めてクロノのことを見ると、クマが昨日より酷くなっていた。
「昨夜、ヴァニラさんがリラクゼーション・ヒールをかけていらっしゃいませんでしたか? 状態が酷くなっているような気がするのですが」
「あぁ、実は昨夜ヴァニラにヒールをかけて貰った後、本当に久しぶりに身体が楽になったんだ。それで調子よく書類の整理をしていて、気が付いたら朝になっていたんだ」
頭を掻きながらそう言うクロノに呆れてしまった。どうやら一晩中書類の整理をした後、今日は今日で一日中別の仕事をしていたらしい。折角ヴァニラがヒールをかけても、それを上回るペースで仕事をしてしまっては元も子もない。そもそもヒールをかけて貰って身体が楽になるということは、身体が休息を求めているということなのだ。
「先日も申し上げましたが、疲れが溜まっているのに無理をして仕事をしても、良い結果には結びつきませんわよ」
「…そうだな。判ってはいるんだが…いや、これも合せて注意するよ。ところで君の方は大丈夫なのか? 」
不意にクロノがそう聞いてきた。
「わたくしは全く問題ありませんわ。いつジュエルシードが見つかっても、すぐに出られますわよ」
「そう言う割にはここ暫くの間、ちょっとイライラしているんじゃないか? フェイト達も心配している様子だったぞ」
「そんなことは…」
無い、とは言い切れなかった。さっきもトリックマスターと話をしながら少しイラついていたような気がする。俺は3度目の溜息を吐いた。
「…少し、次元展望公園に行って参りますわ。この時間でしたら星空が綺麗でしょうから」
勿論次元空間に停泊しているアースラから本物の星空が見える訳ではなく、あくまでも映像なのだが、それでも気休めにはなるだろう。
「行くのは構わないが、程々で引き上げてくれよ。今日はお互い、早めに就寝した方が良さそうだからな」
「…そうですわね。了解ですわ。ではクロノさん、お休みなさいませ」
クロノと別れた後、俺は次元展望公園の芝生の上に寝転がり、星空を見ていた。
「…矢張り強制発動しかないかもしれませんわね」
≪If you are talking about Jewel Seeds in the sea, it might be the best method at current situation.≫【海中のジュエルシードについてでしたら、現時点では恐らくそれが最善でしょう】
海上で強制発動を行うとすれば、仮にテロリストが横槍を入れに来たとしても対応出来るのは飛行魔法が行使できる魔導師だけだ。総数こそ不明だが、こちらには俺以外にもフェイト、なのは、ヴァニラ、それにクロノやプレシアさんだって空戦適性がある。無限書庫で調査をしているユーノやリニス、アルフも戻ってくれば、早々負けることは無いだろう。
(ですがそれは純粋に戦闘をした場合のことを想定して、ですわね。発動させたジュエルシードが暴走状態にでもなったら…)
そんな状況になったらテロリストと戦うだけではなく、ジュエルシードの封印も並行して行わなくてはならない。ヴォルケンリッターが手伝ってくれれば心強いが、万が一敵方にルル・ガーデンが出てきた場合、まともに戦えるのは俺だけになってしまう。
(ヴァニラさんの魔力は、暴走したジュエルシードに対して有効ですわ。守護騎士達は呪いにかかるかどうか判りませんが、危ない橋は渡りたくありませんし)
ただ、テロリスト達が邪魔をしに来るというのも、その中にルル・ガーデンがいるというのも、今の段階では可能性を論じているに過ぎない。他に良い代替案が無ければ、恐らくリンディさんも強制発動を作戦として認めることになるだろう。
(取り敢えず、わたくしに今出来るのは提案することだけですわ。守護騎士達に手伝って貰う是非についての判断は、リンディさん達に丸投げすることにしましょう)
そう考えたところで、星空に流れ星を見つけた。投影された映像であることは判っていたのだが、俺はついつい全ての物事が上手く行くように願いをかけていた。
翌日の朝、フェイトとの早朝訓練を終えたところで、トリックマスターとバルディッシュにそれぞれクロノから緊急の呼び出しが入った。
「おはようございます、クロノさん。どうされたのですか? 」
『あぁ、おはよう、ミント。フェイトも一緒か。好都合だな。実は、つい今しがた無限書庫のユーノから第一報が入った。今、関係者を集めているところだ。君達もすぐにブリーフィングルームに来てくれ』
それを聞いた瞬間、俺は弾かれたように駆け出した。
「あっ、ミント! ちょっと、早いよ」
そう言うフェイトもすぐに俺を追って走り出し、結局ブリーフィングルームへは数分で辿り着いた。
「随分と早かったな。まさか通路を飛んだりしていないだろうな」
「…さすがにそこまでは致しませんわよ。本気を出したら連続ブリッツ・アクションですわ」
何だか久し振りに冗談を言った気がした。ブリーフィングルームにいたのはクロノの他にはエイミィさんとリンディさんだけで、それ以外のメンバーとしては俺とフェイトが一番早かったようだ。モニターにユーノとリニスが映っている。
「ユーノさん、リニスさん、お久し振りですわね。お疲れさまです」
『ミントも元気そうだね。そっちは変わりない? 』
「ええ。クロノさんから連絡があったかもしれませんが、ジュエルシードは13個まで回収しましたわ」
少し驚いたような表情を見せるフェイトとクロノを傍目に、少しだけユーノやリニスと雑談をした。アルフは今、一緒に捜索をしてくれていたリーゼ姉妹と仮眠を取っているのだとか。フェイトは少し残念そうにしていたが仕方ない。やがてプレシアさんとアリシアも到着し、なのはとヴァニラが転送されてくる旨の連絡も入った。
「そう言えば…はやてさんと守護騎士達はいらっしゃるのですか? 」
「無理矢理連れてくるわけにもいかないから、任意ということで話をしたんだ。そうしたら、はやてが是非来たいと言ってね。シグナムとシャマルが一緒に来るそうだ」
さすがに今回アリサとすずかは来ないらしいが、それでもかなりの人数だ。俺は取り敢えずモニターの前に並べられた席に座った。フェイトも俺の隣に腰を下ろす。
「そう言えばユーノさん、さっき『元気そう』と言われましたわよね? わたくし、元気そうに見えましたか? 」
『え? うん、そう見えるけれど…もしかして元気じゃなかった!? 』
「いいえ、元気でしたわよ? ただ、最近みんなしてわたくしのことを『元気がない』と言われるものですから」
ユーノの隣で何故かリニスがくすくすと笑っているようだった。隣のフェイトはクロノとぼそぼそ話をしていた。
「…戻っているよね? 」
「…あぁ、戻っているな」
何のことなのかいまいちよく判らなかったが、取り敢えず闇の書に関する打開策が見込めるであろう報告が来たのだ。漸く物事が動き出すような、そんな気持ちだった。
気が付けば、ここ最近頻繁に感じていたもやもやはどこかに消え去っていた。
活動報告にも記載したのですが、現在自宅PCのHDDがピンチです。。
ガリガリとすごい音を立てて、たまにけたたましくキーンと鳴りつづけています。。
今回は故障前にヴァニラパートが半分以上書きあがっていたのが功を奏して、なんとか土曜日の20時に間に合いましたが、タブレットでの編集は普段と比較しても倍以上の時間がかかっているため、次回はおそらく間に合いません。。
度々で申し訳ございませんが、暫く投稿は不定期になると思います。。
なにとぞよろしくお願い申し上げます。。