他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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※今回はミントパートのみです。。


第17話 「違和感」

『ミントちゃん、なのはちゃん、お疲れさま。これで確保できたジュエルシードは12個目だね』

 

エイミィさんからの通信が開くいた。ふっと息を吐くと、手に取ったXIIの刻印のあるジュエルシードをトリックマスターに封印する。12個目に12番のジュエルシードというのも判りやすいな、と場違いなことを考えた。

 

「お疲れさまです。なのはさんもありがとうございます。助かりましたわ」

 

「ううん、役に立てたのなら良かったよ…少しは元気出た? 」

 

「?…大丈夫ですわよ。取られたものは取り返せば良いのですから」

 

ジュエルシードの回収は俺がメインで、パートナーにフェイト、なのは、ヴァニラの3人のうちスケジュールが合う人とチームを組み、可能であればそこに恭也さんか美由希さんが加わる形で実施するようにしていた。アースラの観測チームは昨日と今日で1つずつジュエルシードを発見し、新デバイスであるエルシオールを携えたなのはがパートナーとして協力してくれたこともあって、今日は無事ジュエルシードを確保出来た。

 

ただ昨日は発見と同時に出動したにも関わらず、現着した時には既にジュエルシードは持ち去られていたのだ。サーチャーからの映像送信が妨害されていたらしいので、恐らく相手は例のテロリスト達なのだろう。

 

こういう事態もある程度は想定していたので然程気落ちはしていないつもりだったのだが、なのは達からみるとどうやら俺は落ち込んでいるように見えたらしい。

 

(確かにもやもやと…気分が優れないところはありますわね…冗談でも言って、元気があるところをアピールしておきましょうか)

 

そんなことを考え、すぐにそれを振り払う。アースラと合流した当日、ルル・ガーデンはジュエルシードが次元震を起こす時のデータを観測しようとしていた。つまり次元震を起こすことが目的で、ジュエルシードを集めている可能性があるということだ。

 

たった1つのジュエルシードが起こした小規模次元震、それが少し前に発生した出来事だ。以前ブラマンシュの長老が言っていたように、複数纏めて暴走すれば次元断層が発生するようなエネルギーを秘めているのは間違いない。それだけは何としても避けなければならず、気を引き締めてかかる必要があった。

 

ちなみに先日の小規模次元震は当然のようにアースラでも観測されていたのだが、すぐに収まったことや、現実世界への影響が少なかったこともあって、報告は詳細なものではなく口頭で簡単に済ませていた。ところが先日になってエイミィさんが計測したエネルギー放出量ではそのままでの強制封印が困難であることが判り、クロノが詳細な経緯報告を書面で纏めるように言ってきていた。

 

その報告書は昨日までに完成していた。クロノは1日ヴァニラやリンディさんと一緒に本局に行っており、戻ってきたのは夜だったのだが、俺が渡した報告書を読んだ直後にはちょっとした騒ぎになり、ヴァニラのことを省いて報告していた俺達が言外にとても責められた。まぁ尤もそれは完全に余談だが。

 

「ひとまず、今はアースラに帰りましょう。リンディさんへの報告が終わったら、シャワーを浴びたいですわね」

 

「そうだね。じゃぁ、帰ろっか」

 

もやもやする気分を振り払うように頭を振ると、俺はなのはと一緒にアースラに向かった。だがリンディさんへの報告を終えても、シャワーを浴びても、この日は一日中もやもやが晴れることは無かった。

 

 

 

原作でもアースラに協力してジュエルシード回収を手伝っていたなのはだったが、原作とは異なり基本的には学校を休まないで済むようにスケジュールを調整している。これはヴァニラについても同じで、彼女達が学校に行っている間は俺とフェイトがメインで出動することになっていた。

 

ただ12番のジュエルシードを回収した翌日、5月6日だけは、なのはもアリシアもヴァニラも学校を休んでいた。午後にリンディさんとプレシアさんが高町家に挨拶に行くことになり、それに同席するために当初は早退する予定になっていたのだが、士郎さん達にも事前に連休中の報告を入れておく必要が出てきたことから、結局1日休むことになったのだ。

 

アリサとすずかは通常通り登校するが、「家庭の事情」であることは彼女達も判っていることなので、心配されるようなこともない。

 

「ミントちゃんも行くでしょ? 」

 

早朝の訓練を終えた後、不意になのはがそう聞いてきて、一瞬だけ返答に詰まった。

 

「…まだジュエルシードが見つかるかもしれませんし、わたくしはアースラで待機していますわ」

 

「どうせジュエルシードが見つかるとすれば海鳴だろう? 僕や艦長も一緒にいるし、フェイトだってプレシア女史の説明のために同席する。通信環境も問題ないのだから別に一緒に行っても構わないと思うが」

 

こんな時に限ってクロノが気を回したような物言いをする。特に理由もなく苛立ってしまい、少し文句を言おうかと思ったが、彼の目の下にうっすらと出来たクマを見て言葉を止めた。そう言えばここの所クロノは本局に出向いたり、無限書庫に行ったりしており、休んでいるところを見た記憶が無かった。アースラにいる時も殆ど執務室で報告書を纏めていると聞く。

 

「クロノさん、ちゃんと寝ています? 」

 

「仮眠はちゃんと取っている。問題は無いよ」

 

「…疲れが溜まっていると、肝心な時に本来の力を出せなくなりますわよ」

 

クロノは深く溜息を吐いた。

 

「忠告はありがたく受け取っておくよ。だがそれは君にも言えることだろう? 守護騎士が顕現してからはずっとアースラに詰めっぱなしじゃないか。はやてへの魔力譲渡もここ2、3日はヴァニラがやっているようだし、息抜きも兼ねて顔合わせくらいはしてきてもいいんじゃないか」

 

確かにジュエルシード回収で何度か地上に降りてはいるものの、回収を終えればすぐに帰還。海鳴でのんびりするような時間は無かった。だが一度くらい顔を出しておかないと、ヴォルケンリッターに不審者扱いされかねない。それに元々はやてへの魔力譲渡は俺が請け負った仕事だ。

 

「…そうですわね。確かに最近はやてさんのことはヴァニラさんに任せっぱなしになっていましたし、今日はわたくしが八神家に伺うことに致しますわ」

 

「じゃぁ、その後で翠屋の方に来てね。待ってるから」

 

なのはは元気そうに笑うと、転送ポートの方に駆けていく。どうやらヴァニラも一緒のようで、13時頃に現着予定のアースラ組よりも先に海鳴に向かうようだ。その後ろ姿を眺めながら、俺はポツリと呟いた。

 

「…なのはさんにも、あまり無理はさせないようにしないといけませんわね」

 

「そうだな。彼女はどうも魔法が使うのが楽しくて仕方がないようだし才能もあるようだが、まだ練習を始めてから半年程度だと言っていたからな。自分の限界が判らないうちは、あまり無茶させられないよ。尤もヴァニラがサポートしてくれているおかげで今のところ体調は万全のようだが」

 

そう言うと、クロノは俺の方に向き直った。

 

「むしろ心配なのはヴァニラの方だ。一昨日の報告にもあったが、小規模とはいえ素手で次元震を止めようとするなんて、無謀とかそう言う次元の話じゃない。どうも彼女は、周りを護るためなら自己犠牲すら厭わない性格のようだな」

 

そう言えば「ギャラクシーエンジェルのヴァニラ」は艦内に蔓延した花粉症の治療や調査に力を入れ過ぎて、結局自分が倒れることになったエピソードがあった筈だった。この世界のヴァニラは原作と比べて表情も豊かだし、自分の意見をはっきり述べることが多いのであまり意識していなかったが、根本的な性格は似たようなものなのかもしれない。

 

「…お医者さまとは概して不養生なものですしね」

 

「それで済むようなことじゃない。あまりいい例とは言えないだろうが、例えば君が敵の攻撃に晒された時、近くにヴァニラがいたとしようか。彼女はどう行動すると思う? 」

 

今までのヴァニラの行動を見る限り、恐らく彼女は傷ついた俺を癒す以前に、そもそも俺が傷つかないようにサポートに入ろうとするだろう。それこそ、自分の身を顧みずに、だ。それを伝えると、クロノは頷いた。

 

「打算的に言えば、例えその場で撃墜されたとしても、ヴァニラがすぐに治癒魔法を使えば君は問題なく回復する筈だ。だが彼女はきっとそこまで考えずに、まず君を攻撃から守ろうとするだろうな」

 

「…その結果、ヴァニラさんが傷つく…下手をしたら2人共撃墜されてしまいますわね」

 

回復役が先に撃墜されてしまったら、残された方はジリ貧になる可能性が高い。回復役は、兎に角自身の安全を確保した上で仲間の治療を行うのが鉄則なのだ。

 

「僕の方からも彼女には釘を刺しておくが、念のため君も気にしておいてくれると助かる」

 

「了解ですわ。ではわたくしもそろそろ、はやてさんのところに行って参りますわね」

 

「ああ。じゃぁまた後で」

 

俺はクロノと別れると、ブリッジに向かった。そしてリンディさんに事情を話して八神家に向かう許可を貰うと、転送ポートから海鳴に転移した。

 

 

 

はやてには事前に念話で訪問を伝えておいたのだが、玄関に到着して呼び鈴を鳴らすと、ドアを開けたのはシャマルだった。

 

「貴女がミントちゃんね。はやてちゃんから話は聞いているわ。さぁ、どうぞ」

 

「ありがとうございます。お邪魔させて頂きますわ」

 

「あー、あかんよ、ミントちゃん。まだちょっとしか生活しとらんけど、ここはミントちゃんの家でもあるんやで? そこは『ただいま』やろ」

 

奥から室内用の車椅子に乗ったはやてが出てきて、嬉しそうにそう言う。その笑顔につられてこちらも笑みを返すが、その時はやてが少し不思議そうな表情をみせた。

 

「どうしたん、ミントちゃん? 何や元気ないようやけど…? 」

 

「…は? いえ、そんなことはありませんわよ」

 

不意を突かれる形になってしまったが、特に事情を知らない筈のはやてにまでそんなことを言われるというのは、もしかすると自分で思っている以上にジュエルシードが奪われてしまったことを引き摺っているのかもしれない。俺は改めてはやてに微笑みかけた。

 

「本当に、何でもありませんわ。別に疲れている訳でもありませんし」

 

「…気のせいやったんかなぁ? 何や違和感があったんやけど。まぁええわ。ほなみんなに紹介するから居間に来て」

 

「判りました。では改めて、ただいま戻りましたわ」

 

満面の笑みで「おかえり」と言うと、はやては俺を先導して居間に戻った。

 

「みんな、紹介するわ。みんなよりちょっと前にこの家に住むことになっとった、ミントちゃんや。ここ数日管理局のお手伝いをしとって家におらんかったけど、よろしくな」

 

「厳密に言えば、管理局がわたくしのお手伝いをして下さっているのですけれどね。ミント・ブラマンシュですわ。よろしくお願い致します」

 

居間には俺達と一緒に入ってきたシャマルを含め、ヴォルケンリッターが全員揃っていた。恐らく先日買い物に行った際に購入したのであろう、それぞれに良く似合った私服を着ている。

 

「ブラマンシュ…あぁ、お前が主はやてに魔力を譲渡してくれていたという…改めて礼を言う。烈火の騎士、シグナムだ」

 

思っていた以上に友好的なヴォルケンリッターにホッと胸をなで下ろす。どうやらはやてが予め俺のことを説明しておいてくれたようだ。

 

「私はシャマルよ。よろしくね、ミントちゃん」

 

「盾の守護獣、ザフィーラだ」

 

「……ヴィータ」

 

こちらは予想していた通りのヴィータの反応に、思わずクスリと笑みが零れた。

 

「あーっ、お前、今笑ったな? 」

 

「申し訳ございません。改めてよろしくお願いしますわね、ヴィータさん」

 

少しだけ赤くなって俺のことを睨んではいるが、威圧感は全くない。というより、ヴィータの目線は俺に抱かれているトリックマスターに向いている様子だった。

 

「…ご覧になります? 」

 

「良いのか? それ、お前のデバイスなんだろ? 」

 

≪No problem. Nice to meet you, little lady.≫【大丈夫です。よろしく、お嬢さん】

 

格納してあったジュエルシードを1つ取り出し、人形状態のトリックマスターはヴィータに手渡した。この状態でも魔力譲渡のサポートが確り出来るのは、さすがクアッドコアと言ったところか。ヴィータは興味深そうにトリックマスターを弄り回している。

 

「ん…ドロワーズか」

 

≪This is pretty. Do not you think so? ≫【可愛いでしょう? 】

 

妙な会話をしているヴィータとトリックマスターを傍目に、はやてに魔力を譲渡する作業を始める。右手でジュエルシードを軽く握り、流れてくる膨大な魔力を制御しながら左手を介してはやてに流し込んでいく。暫くその状態を維持していると、横で見ていたシグナムがポツリと呟いた。

 

「それがジュエルシードとかいうロストロギアか。主はやてから聞いてはいたが…本当に魔力を感知し辛いのだな」

 

「…安定している時はこんなものですわ。ですが一度暴走してしまうと、とんでもない魔力を放出しますわよ」

 

「だろうな…実際主の身体に流れ込んでいる魔力は感知できる。既にかなりの量の魔力が譲渡されているようだ」

 

シグナムとそんな話をしながら譲渡を続け、5分程経過したところでジュエルシードを再封印する。

 

「はやてさん、調子は如何です? 」

 

「うん、いつも通りええ感じや。ありがとうな、ミントちゃん」

 

話を聞いたところ昨日も病院で検査をしたようなのだが、麻痺は回復こそしていないものの進行はしていない状態らしい。

 

「石田先生も悪化はしていない以上、今の治療を続けて行く方針だと言っていたし、魔力譲渡はこれからも続けて貰えると嬉しいのだけど」

 

「ええ、勿論そのつもりですわ」

 

シャマルも「ディバイド・エナジー」のベルカ版のような魔法を使えるらしいのだが、さすがにジュエルシードの力を借りることが出来る俺や、治療目的限定とは言えSSSオーバーの魔力を扱うことが出来るヴァニラとは比べるべくもない。

 

(ですが古代ベルカ式魔法には、確か瞬時に体力と魔力を回復させるものがあった筈ですわね)

 

今では失伝とされる術式だが、魔法学院にいた頃にそういう術式があったらしいことは習っていたし、何より前世の記憶ではシャマルが使用していたように思う。ヴァニラが見たら、さぞ驚くことだろう。そんなことを考えていると、はやてが声をかけてきた。

 

「なぁ、ミントちゃん。今日はこれから何か用事あるの? 」

 

「午後に翠屋に参りますわ。リンディさん達が高町家に挨拶に行く予定ですのよ」

 

時計を見るとまだ午前11時前。まだ多少時間があった。

 

「もし良かったら、みんなで一緒に散歩に行かへん? ちょっと表に出たい気分なんよ」

 

「ええ。構いませんわよ」

 

はやての誘いに頷いて返す。守護騎士達も全員付き添うことになり、俺達は全員で家を出た。

 

 

 

家を出て向かった先は、桜台公園だった。後で翠屋に向かうにしても行き易い場所なので問題はない。車椅子はシャマルが押してくれているので、俺ははやての左隣を歩くことにした。ちなみにシグナムははやての右隣、ヴィータは燥ぐような素振りを見せながら少し前方を歩いている。ザフィーラは少し後ろについて来ている感じだった。

 

(何かあった時に主を護るには、良い陣形なのかもしれませんわね)

 

何となくそんなことを思っていると、シグナムから声をかけられた。

 

「ブラマンシュ、お前は辺境世界の出身だったな」

 

「ええ。一応管理世界ではありますが。第73管理世界ですわ」

 

「そうか…すまないな。随分と大きな魔力を持っているようだから、少し気になっただけだ」

 

そう言えば守護騎士達は今でこそはやてに蒐集を止められてはいるが、もし蒐集を行うことになったとしたら、俺は最有力候補だろう。勿論原作で蒐集されていたなのはとフェイト、それにヴァニラだって例外ではない。

 

「…テレパスファーの影響ですわね。ブラマンシュ一族にのみ恩恵を与えてくれる寄生生物ですわ」

 

少しイヤな考えになりそうだったのを忘れるようにそう答えると、はやてが驚いたような声を出した。

 

「え! ミントちゃんのそれって、寄生生物やったん!? 今の今まで、何かの飾りかと思っとったわ」

 

「動かすことも出来ますわよ。ご覧になります? 」

 

テレパスファーをぴょんと立てると、はやては手を叩いて喜んでいた。それから暫くテレパスファーの特性やブラマンシュの風土などについて話をしているうちに、俺達は桜台公園にある池の畔に到着した。平日の午前中ということもあってか、人は少ない。

 

「連休の合間やから、もうちょっと人もおるかと思うとったけど、まぁこんなもんやろか」

 

はやてが辺りを見渡して少し残念そうに言った。

 

「人が多い方が良かったですか? 何なら駅前の方まで下りてみます? 」

 

「あー、いや、別にええんやけどな。そう言えばヴァニラちゃんはまだ桜、ダメなん? 」

 

ふと見上げると、青々とした葉を生い茂らせた桜並木が池の周りに立ち並んでいた。連休中は基本的にアースラにいたため現在のヴァニラの症状は判らなかったが、最後に聞いた話ではまだ桜台公園を避けて通学しているという話だった筈だ。

 

「先月に比べたら大分マシになったと思いますが、まだ桜の木の下は歩きたくない様子ですわね」

 

「そっか。アースラでも真っ先に桜の木から一番遠いところに座っとったしなぁ。早く良うなるとええんやけど」

 

はやてがそう言った瞬間、ドクン、とジュエルシードの発動を示す魔力反応があった。

 

「ミントちゃん、今のって…」

 

「ええ、間違いありません。ジュエルシードですわね」

 

桜台公園では既に4つのジュエルシードを封印しているが、5つ目があるとは思ってもみなかった。その反応は池の中からのようだ。さすがに池の中まではエリア・サーチでも探していなかったことだろう。辺りを見渡すと、少ないながらも人の姿がある。

 

「ヴィータちゃん、池を中心に結界お願いできる? 」

 

「ああ、任せな」

 

≪"Gefängnis der Magie".≫【『封鎖領域』】

 

シャマルの言葉に答え、ヴィータが結界を展開する。おかげで人目を気にする必要も無くなった。

 

「助かりますわ。トリックマスター、セットアップ! 」

 

≪Setup, device mode. Barrier jacket deployed.≫【セットアップ、錫杖形態。バリアジャケット展開】

 

見ると守護騎士達もそれぞれ装いが変わっている。はやてがデザインした騎士甲冑なのだろう。

 

「はやてさんは後ろに」

 

「うん、みんな気を付けてな」

 

はやての傍らにはシャマルとザフィーラが付き、シグナムとヴィータはそれぞれのデバイスを構える。と、池の水面が大きく盛り上がった。

 

「何だ? あれ…」

 

ヴィータがポツリと呟く。浮かびあがったのは10メートルはあろうかという、巨大な半透明の丸い物体だった。周囲に無数の触手が蠢いている。

 

「あれ、真水水母やろ! 普通、2cmくらいのサイズやのに…っていうか、真水水母って確か発生するの秋やった筈やけど」

 

「ジュエルシードが絡んだ時点で、常識は通用しませんわよ! 」

 

水母が触手を伸ばしてくる。高機動飛翔を行使して躱すと、フライヤーで触手を弾き飛ばした。すると千切れた触手が無数の不気味なモノに変化して襲い掛かってきた。

 

「くっ、厄介ですわねっ! 」

 

単体としては然程強くないようで、簡単な衝撃でも倒せるようなのだが、如何せん数が多い。いくつかが俺の攻撃を掻い潜って、はやての方に向かった。

 

「やらせんっ! 」

 

ザフィーラがはやての前に障壁を展開すると、不気味なモノはそこにぶつかった衝撃だけで次々と消えて行った。

 

「防御は私達に任せて、攻撃に専念して! 触手は再生するみたいだから、狙うのは本体よ」

 

シャマルに言われて、改めて水母の本体を見る。触手をむちゃくちゃに振り回すことで、敵の接近を防いでいるようにも見えた。近接攻撃を得意とするベルカの騎士達には相性が良くないかもしれないと思い、フライヤーを展開する。

 

「随分柔らかそうだな…叩きダメージはあまり通らないかも」

 

「敗北宣言か、ヴィータ? 」

 

ヴィータの呟きに対して、シグナムがからかうような口調で言った。それと同時に彼女のデバイスが鞭のようにしなる。

 

≪Schlange form.≫【シュランゲフォルム】

 

シグナムの長剣がその名の通り蛇のようになって触手を躱しつつ、水母の本体に食らいついた。

 

「敗北だぁ? はっ、冗談! あたしにだって攻撃手段くらいあるぜ! 」

 

≪"Schwalbefliegen".≫【シュワルベフリーゲン】

 

対するヴィータは複数の鉄球を取り出すと、それを手にしたハンマー型デバイスで打ち出した。ベルカ式には珍しい、誘導弾攻撃だ。これもまた触手を掻い潜ると、水母本体に突き刺さった。

 

この2人の過剰とも言える攻撃で、真水水母はあっさりと霧散し、後にはIXの刻印があるジュエルシードだけが遺された。展開したフライヤーの振り下ろし先を無くしてしまった俺は、そのまま上空で固まっていた。

 

「どうした、ブラマンシュ。封印するのだろう? 」

 

シグナムの言葉に、はっと我に返る。

 

「そ、そうですわね。ありがとうございます」

 

≪Internalize number 9. I appreciate your kind cooperation.≫【9番収納。ご協力に感謝します】

 

ジュエルシードを封印し、バリアジャケットや騎士甲冑を解除すると、ヴィータが結界を解いた。周囲の雰囲気がガラリと変わる。それと同時にクロノから念話が入った。

 

<…ジュエルシードか>

 

<ええ。ですが守護騎士達に協力して頂いて、無事封印出来ましたわ>

 

<そうか、何よりだ。ただ…次回からは行動する前にも一報入れてくれると助かるな>

 

言われてみれば、急に街中でベルカ式の結界が展開されたのだ。アースラチームもそれは驚いたことだろう。ただ結果的に手伝って貰えたことに対しては直接お礼が言いたいとのことだったので、午後の翠屋訪問ははやてとヴォルケンリッターも連れて行くことになった。

 

<そう言えばクロノさんは今どちらに? >

 

<僕達は一足先に翠屋に来ているよ。艦長やプレシア女史達も一緒にね。正式な挨拶の前に、翠屋の美味しい美味しい料理を食べたいんだそうだ>

 

溜息を吐くクロノの顔が容易に想像出来てしまい、思わず苦笑した。

 

「ミントちゃん、どないしたん? 急に百面相し出したりして」

 

「あ…失礼しました。クロノさんと念話で話していたのですわ。みなさん、約束の時間よりも早めに到着して、翠屋でお昼を食べているそうですわよ」

 

「そっかぁ、ほな折角やし私達も翠屋でお昼にしよか? 時間的にも丁度ええやろ」

 

元々お昼の混雑する時間を避けて挨拶に行くという話だった筈なのだが、最初からその前提が崩れているのならこちらが気にすることもない。幸いなのはに念話で空席状況を確認すると、まだ十分余裕があるとのことだった。

 

「早く行こうぜ。桃子さんの料理はギガうまだからな! 」

 

「そうだな。では階段を使うとしようか。主はやて、こちらへ」

 

シグナムがはやてを抱き上げると、ザフィーラが車椅子を軽々と持ち上げた。俺達はそのまま階段を下りると、翠屋に向かった。

 

 

 

翠屋に到着すると、美由希さんが奥の席に案内してくれた。お昼時ということもあって店内は賑わっていたが、連休の合間である所為か、空席もいくつかあった。

 

奥の席には既にリンディさんやプレシアさん、クロノ達がいて、なのは達と談笑していた。一応、簡単な認識阻害の魔法が席周辺にかけられている様子だ。俺達が近づくと、リンディさんが立ちあがって、にこやかに手を差し出した。

 

「守護騎士のみなさんね。私はリンディ・ハラオウンといいます。今回はロストロギア、ジュエルシードの封印に協力して下さってありがとうございます」

 

「…ヴォルケンリッターが将、烈火の騎士シグナムだ」

 

多少緊張しているようではあるものの、ファーストコンタクトとしては上等な部類だろう。全員が簡単に挨拶を済ませると、まずは昼食を頂くことになった。

 

その時、偶々俺の隣に座っていたヴァニラが、俺の顔を見て不思議そうに首を傾げた。

 

「? どうかなさいましたか? 」

 

「ミントさん、もしかして疲れてたりする? リラクゼーション・ヒール、かけようか? 」

 

「いえ、別に大丈夫ですわよ。というか、疲れているように見えます? 」

 

そう言うと、ヴァニラは少し考えるような素振りを見せた。

 

「元気が無いように見える…かな。ちょっと違和感があったから」

 

「……」

 

どうやら気のせいではないようだ。少し気晴らしでもした方が良いのかもしれない。はやてを誘って料理大会でもやってみようか、と半ば本気で考えた。

 




守護騎士達やなのは、フェイト、ヴァニラなども審査員に迎えて○極VS○高の対決を。。

ごめんなさい、嘘です。。

でも第4部まで行ったら、やってみてもいいかもしれません。。

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