他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

44 / 83
第23話 「朱の支配者」

「ごめんなさい、私のせいで…」

 

「いいえ、これはコレットさんのせいではありませんわ。わたくしがもっと早く相手のウイングバックを削り切って、サポートに回れれば良かったのです」

 

数日に亘る魔法競技大会も最終日を迎え、全ての試合と表彰式を終えた。

 

俺達は2回戦以降も順調に勝ち進み、Gブロックの代表として二次トーナメントに進むことが出来たのだが、さすがにそこまで来ると他の二次トーナメント進出チームから徹底的に調査されてしまい、結局準決勝までは何とか辿り着いたものの、そこで相対した5年生の進級チームに敗退してしまったのだ。

 

「でも判定は本当に僅差だったし、あそこで私が落とされなければユーノ君やエステルちゃんに行く攻撃も防げたのに」

 

「まぁ過ぎちまったことを悔やんでも仕方ないさ。3位決定戦では勝てたんだし、初の大会でこの成績は快挙ってもんだ」

 

「そうよ。今回は相手の方が一枚上手だったってだけ。次の機会があったら負けないって思っておけばいいと思うわ」

 

「っていうか、むしろ今回のは僕のミスだよ。コレットに近接攻撃が行っていたのは判っていたのに防ぎきれなかったんだから。本当にゴメン」

 

「ユーノ、それは違うよ。相手のフロントアタッカーを食い止められなかったのは私達、前衛の失敗」

 

準決勝の相手はフロントアタッカー3名、ウイングバック、センターガードが1名ずつという、所謂3-0-2の変則型陣形を用いてきたのだ。フェイトとマリユースはエンゲージが封鎖され、そこにもう1人のフロントアタッカーが突出してきた。それがたまたまコレットの目の前だったというだけの話だ。

 

「なんちゃってディストーションフィールド」は魔法攻撃に対しては高い効果を発揮するが、白兵攻撃などの物理ダメージには逆に効果が薄い。これは予めトリックマスターにも警告されていたことだった。

 

本来ならそこは俺がスイッチするべきだったのだ。コレットは中・遠距離支援攻撃に特化した魔導師なので、近接されると分が悪い。同じように中・遠距離支援攻撃型魔導師である俺も分が悪いのは同じだが、少なくともベルカ式棒術が使える分、コレットよりも持ち堪えられた筈だ。

 

「いえ、やっぱりそこはわたくしが…」

 

スパーン!

 

言いかけたところでエステルに頭を叩かれた。

 

「もう! さっきマリユースも言ったけど、終わったことをいくら悔やんでも仕方ないでしょう? 反省するのは良いけれど、後悔するのは無意味よ」

 

「言っていることは正論ですが、今のはかなり痛かったですわよ」

 

目に涙を浮かべながらエステルに抗議した。隣で苦笑していたフェイトが、何かを思いついたようにポンと手を叩く。

 

「そうだ、打ち上げやろうよ」

 

「いいわね。折角大会3位入賞した訳だし、お祝いしましょう」

 

「うん、そうだね…コレットもミントも泣き止んで。3位入賞なんだから胸を張ろう」

 

「…わたくしが泣いているのは主にエステルさんのせいですわよ」

 

 

 

=====

 

打ち上げはその週の金曜日の夜に行うことになった。サリカさんが開催場所として快く自宅を提供してくれることになり、コレットとエステルも家族の許可を貰って泊まっていくことになった。勿論、ユーノとマリユースも外泊許可申請済みである。

 

「今日の料理はわたくしとフェイトさんの合作ですわ」

 

「私が作ったカレーに、ミントが作った鶏料理だよ」

 

「タンドリーチキンと言いますのよ。ご賞味下さいませ」

 

タンドリーチキンはヨーグルトや生姜、ニンニク、カレー粉等を混ぜ合わせたタレに半日ほど付け込んだ鶏肉をオーブンで焼くだけの簡単レシピだ。先日、もはや常連となりつつある例の臨海エリアにあるお店にカレールーを買いに行った時、たまたま見つけたカレー粉のパックに調理例としてレシピが載っていたのだ。ついでに小麦粉をオリーブオイルやヨーグルトで捏ね、バターで焼き上げたナンも用意してある。

 

最近はアルフもリニスと一緒にキッチンに立つことが多くなり、学院の課題などで忙しい時は代わりに炊事をして貰ったりもしていたのだが、矢張り自分で調理するのは楽しいものだ。配膳すると、友人達からも歓声があがった。

 

残念ながらアルフだけ別メニューなのは相変わらずなのだが。

 

「あたしは別に構わないよ。ちゃんとこうして美味しいお肉が用意されているんだからさ」

 

嬉々として軽く炙った肉に齧り付くアルフに悲壮感は欠片もない。使い魔化してから既に1年半以上が経過しても味覚についてはまだ素体の特性が残っているため、刺激の強いものや葱類などの中毒症状を引き起こすものは食べることが出来ないでいるのだが、本人は全く気にしていない様子だ。

 

一方、カレーとタンドリーチキンも友人達には大好評だった。フェイトの得意料理と言うことで、カレーライスは過去にも何度か振舞ったことはあったのだが、タンドリーチキンとナンについては今日が初披露である。

 

「ほれはふまひ! はいほー! 」

 

「マリユース、口の中にものを入れたまま喋るの止めなさい」

 

「でも言いたいことは判るよ。美味しいよね」

 

みんなでワイワイと食事を楽しみ、食後の後片付けも終えて居間で寛いでいるとリニスが声をかけてきた。

 

「今回はみんなよく頑張りましたね。準決勝は残念でしたが、学院第3位という成績は誇ってよいものですよ」

 

「そうだね。みんなすごいと思うよ。おめでとう」

 

サリカさんも微笑みながらお祝いの言葉を述べ、俺達は声を揃えて「ありがとうございます」と返した。アルフもその様子を嬉しそうに眺めている。

 

「ちょっとここでお話しがあります」

 

リニスが真面目な顔をしてそう言ったので、全員で注目した。

 

「大会前にも言いましたが、今回貴女達の試合は逐一フェイトの母親であるプレシアの希望により、映像データを送信していました」

 

「ええ。また裏技の『ほぼリアルタイム映像』だったのでしょう? 伺っておりますわ」

 

リニスは首肯して続ける。

 

「その映像を一緒に見ていた時空管理局の提督が、貴方達のことを非常に評価しています。出来れば将来、入局して欲しい…と連絡がありました」

 

「リンディさんの悪い癖ですわ。みなさん、あまり本気にする必要はありませんわよ。初等科5年とは言っても、わたくし達は飛び級していますから、実質まだ2年生相当ですし」

 

にこやかに勧誘するリンディさんと、その横で呆れながらツッコミを入れるクロノの姿は容易に想像できた。

 

「でも認めて貰っているっていうのは嬉しいな。オレとしては興味がないわけでもないし」

 

「僕は卒業後、スクライアの発掘現場に戻るつもりだから入局は考えていないけれど」

 

「あ、私は母さんと一緒に仕事してみたいから、卒業したら嘱託の資格を取ろうと思ってるんだ」

 

「私は技術職にも興味があるわ。デバイスマイスターの資格も取ってみたいし、そう言う意味では管理局に入局するのも悪くないかもしれないわね」

 

みんないろいろと将来のことを考えているんだなと思いながら、ふとコレットが全く発言していないことに気付いた。

 

「コレットさんは入局に興味はありませんの? 」

 

「え、私? 私は無理だよ。だって魔法も全然制御出来てないし」

 

「は? いえ、そんな事はないと思いますわよ? 」

 

いつになく自信無さ気に言うコレットに違和感を覚える。彼女が操る中距離射撃は初等科レベルではトップクラスといっても良い。極端に攻撃力が高い訳ではないのだが、とにかく集中力が高くて誘導弾のコントロールも抜群なのだ。魔法の収束率も良いため、効果の高い魔力弾を生成出来る。

 

「コレット、お前何か悩み事あるんじゃね? 」

 

マリユースがそう言うと、コレットは黙り込んでしまった。ソファの上で俯いたコレットの隣にフェイトが腰をおろす。

 

「そうなの? コレット、何か悩みがあるなら相談に乗るよ? 」

 

「そうですわよ。わたくし達はお友達ではありませんか」

 

俺がそう声をかけてもコレットは俯いたままだった。

 

「ああ、もう! 鬱陶しいわね! 折角の打ち上げお泊り会なんだから、その辛気臭い顔を止めなさい! 」

 

エステルがそう言うと、いきなりコレットを押し倒してくすぐり始めた。

 

「きゃっ、エステルちゃん、やだ、止めて、やめ…あはっ、あははっ…ダメっ、止めて~」

 

「どう? 話す気になった? 」

 

「言うよ~言うから~」

 

悶絶しながらそう言ったコレットだったが、落ち着いて話を始めるまで更に数分を要した。尚、ユーノとマリユースは真っ赤な顔をして服装が若干乱れたコレットから視線を外していたことをここに記しておく。

 

 

 

「実はね、大会が終わった日にお母さんに、私が落とされたせいで負けたって言ったのね」

 

「もう、その話は終わった筈でしょう? 」

 

「うん、ゴメン。でもそれは良くて。その後お母さんが『じゃぁ、接近戦を仕掛けられても撃退出来る魔法を教えてあげる』って言って、教えてくれた術式があるんだけど…今日まで何度練習しても上手く出来なくて」

 

「そう言うことなら、もっと早くに言いなさいよ…まずは術式を確認してみましょう」

 

サリカさんの許可を貰ってコレットに術式を展開して貰う。

 

「あら…? コレットさん、これ、『近接されても撃退出来る』と言われたのでしたわよね? 」

 

「うん。だから最初は近距離用の魔法だと思ったんだけど、構築式を見る限り広域魔法みたいなんだよね」

 

「わたくしも同じ見解ですわ。特にここのソースコード多重ループは広域殲滅型魔法によくある特徴ですし」

 

「でもミント、こっちのソートでは対象特定のアルゴリズムが組まれているよ。広域殲滅型だと、対象特定はしないよね? 」

 

「何だ、これ? プレコンディション? 何か前提が必要なのか? 」

 

コレットが展開した魔法陣に記された構築式は今まで見たことの無い複雑なものだった。まるで複数の魔法の良いところを切り取って貼り合せたような不自然さを感じる。

 

「魔法名は…っと。『Lord of Vermilion』ですって。これ、ヴァーミリオン家の秘伝魔法か何か? 」

 

「うーん、特に詳しいことは聞いてないんだよね…」

 

「何だか麻痺系の術式も組み込まれているみたい…リニス、どう思う? 」

 

「…これはどう見てもSランクの大魔法ですね。広域範囲魔法であるにも関わらず、対象を選択出来るようになっています。乱戦エリアで使用可能な範囲魔法と言うことですね。しかもダメージを与えて、尚且つ一時的に対象者の視覚を麻痺させるようです。恐らくエステルの指摘通り、ヴァーミリオン家に伝わる魔法なのでしょう」

 

その場にいた全員が感嘆の声を上げた。古くからある魔導師の家系では、代々伝わる魔法と言うものもあるのだが、いくら魔導師の家系とはいえ、生まれてくる子供が必ずしもリンカーコアを持っているとは限らないため、失伝してしまった魔法も数多くあると聞く。但しこうした魔法は正当な後継者が継承していれば、術者の魔力が魔法ランクに達していなくても発動できたりするのだ。

 

「えっと、そんな大切な魔法を私たちが見ちゃってもいいのかな? 」

 

「大丈夫ですよ、フェイト。前提条件として『ヴァーミリオンの血を継ぐ者』という項目がありました。ここにいる人間で、コレット以外にこの魔法を使える魔導師はいませんよ」

 

そう言うとリニスはコレットに向き直り、彼女を見つめてにっこり微笑んだ。

 

「折角ですから、魔法学のお勉強をしましょう。この魔法の難しいところは効果範囲がとても広いにも関わらず、エリア内にいる全ての人に効果を及ぼすのではなく、術者が対象として指定した人だけに効果を及ぼすところにあります」

 

「それって、ミントの『フライヤー・ダンス』とは違うの? 」

 

「『フライヤー・ダンス』はフライヤー自体の機動性と速射性で広域範囲をカバーしているだけで、元々は単体射撃魔法なのですわ。広域範囲内で素早く標的を切り替えているだけですのよ」

 

勿論同じように広域範囲をカバーした上で対象を選択する以上、いくつか共通する技術はあると考えられる。例えばマルチロックオンやそれぞれの対象への収束率演算などだ。それを伝えると、リニスは満足そうに頷いた。

 

「正解ですよ、ミント。今ミントが言ったのは『魔法制御』と呼ばれる技術です。これはコントロールを的確にし、誤射し難くする『魔法誘導』や、拡散しがちな魔力を一か所に収束させて効果を高める『魔法収束』と言った技術を発展させたものです」

 

「でもそう言う意味では、コレットの『魔法誘導』や『魔法収束』はかなり高いレベルだと思います。それでも発動出来ないのですか? 」

 

さっきリニスが「魔法学の勉強」と言った所為か、ユーノの発言も生徒モードになっていた。

 

「ユーノ、魔法戦闘に必要な4Cと言うものを聞いたことがありますか? 」

 

「はい。コントロール、コンビネーション、集中力(コンセントレーション)、自信(コンフィデンス)ですね」

 

「コレットの場合、コントロールと集中力はとても良いのですが、マルチタスクを多用したコンビネーションに若干の難がありますね。そして、その原因は自信が足りない所為だと推測出来ます」

 

「はい…」

 

コレットは若干俯き気味に頷いた。

 

「でもそれって、これからマルチタスクの練習に重点を置いて、自信をつければいいってことだよな? 」

 

「そうよね。別に期限がある訳でもないし、気長に練習しましょう」

 

「うん! ありがとう、みんな…」

 

こうして何とかコレットの元気も戻り、翌日から「ロード・オブ・ヴァーミリオン」の習得に向けた特訓を始めることで話が纏まった。ふと気が付けば、既に時計は21時を指している。

 

「じゃぁみんなそろそろお風呂に入って寝なさい。夜更かしはダメだよ」

 

サリカさんに促されて「はーい」と返事をすると、みんなで居間を後にした。尤も6人全員で入るにはお風呂の広さに難があったので、女子4人で先に入り、ユーノとマリユースには後から入ってもらうことにした。

 

 

 

翌朝、みんなより少し早めに起き出して、フェイト、アルフと一緒に棒術の練習をしているとユーノが起きてきた。

 

「おはよう。相変わらずそれやってるんだね」

 

「もう完全に日課ですわね。ユーノさんもどうです? 」

 

「いや、僕は遠慮しておくよ。頑張ってね、ミント、フェイト」

 

≪He is spineless, master.≫【彼は軟弱者です】

 

「トリックマスター!? 」

 

ユーノが立ち去った後、いきなりトリックマスターが毒を吐いた。

 

≪He refused also, when I asked him to peep you together at bathroom last night.≫【昨夜もマスター達のお風呂を覗きに行こうと誘ったら断られましたし】

 

「それは断って当然ですわよっ! 」

 

≪Do not worry. I am just joking.≫【冗談です。ご心配なく】

 

「言っていい冗談と悪い冗談があることを、ちゃんと覚えて下さいませ…」

 

苦笑するフェイトとアルフに慰められながら、俺はガックリと項垂れた。

 

その後、エステルやコレット、マリユースも起きてきたので、みんなで朝食にした。日勤のサリカさんが出かけると、リニスが公共の魔法練習場に行くことを提案してきた。昨夜のこともあって、一も二もなく賛成する。リニスも保護者代わりに同行することになった。

 

「じゃぁ、早速行ってみようぜ! 1回でも成功すれば、コツも掴めて自信もつくだろうし」

 

「そんな一朝一夕に行ければ苦労しないわよ」

 

「うん、でもありがとう。私頑張るね」

 

 

 

練習場に到着すると、それぞれデバイスをセットアップし、準備運動代わりに誘導弾のコントロール練習をする。複数の誘導弾を展開すればそれだけ思考を並列させる必要があるので、マルチタスクの練習にもなる。尤も10歳未満の子供に展開できるのは精々6つまでで、それ以上の展開は脳に負担がかかり過ぎるらしい。

 

「コレットさん、調子はどうですか? 」

 

「ありがとう、ミントちゃん。大丈夫だよ」

 

3発の誘導弾を展開し、更に1つ、2つと誘導弾を追加したコレットに声をかけてみると、意外にもまだ余裕がある感じだった。

 

「もう1発、追加してみましょう。合計6発の誘導弾をコントロールしながら、わたくしとお喋り出来るようならマルチタスクには全く問題がありませんわ」

 

「う、うん。やってみる」

 

更に1発の誘導弾を追加すると、途端に制御が乱れた。即座にフライヤーを1基、誘導弾にぶつけて相殺する。

 

≪The cause is definitely the psychological matter.≫【矢張りこれは精神的なものですね】

 

トリックマスターの推測に頷く。

 

「5発なら余裕があるのに、6発にした途端乱れるのですから、まず間違いないですわ」

 

「どうしたらいいと思う? 」

 

「やっぱり、ここは練習あるのみじゃね? 」

 

「そうだね。こればっかりは慣れるしかないと思うよ」

 

「…だそうよ。頑張って、コレット」

 

「う、うん」

 

それから昼食を挟んで午後まで練習してみたのだが、制御が乱れるコレットの癖は直らない。何かいい方法はないかと全員で相談した。

 

「そう言えば、例の『ロード・オブ・ヴァーミリオン』って、最初発動に失敗した時はどんな感じだったんだ? 」

 

「あの時はまだ普通の広域範囲魔法だと思っていたから、そっちのイメージだけで発動しようとして失敗したの。だから何も起こらなかったよ」

 

「でも、今はこの魔法の本質は判っている訳よね…ちゃんと理解しているから正しく発動できる可能性は高いわ」

 

「だな。なぁ、もう一度試しに発動させてみないか? 」

 

マリユースとエステルは結構乗り気でコレットに魔法行使を勧めているが、実際にはどんな魔法なのかを知りたくてうずうずしているのだろう。そう言う俺自身も興味があるので2人を止めはしない。非殺傷設定なわけだし、それ以前に効果範囲に人が入らないようにしておけば良いのだから。

 

「うん。じゃぁやってみるよ」

 

「本当に大丈夫? 無理はしないでね」

 

軽いノリがうつったかのようにそう言うコレットに対して、フェイトが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。場所的なこともあるから、出力はあまり出さないイメージでやってみるし」

 

コレットはそう言って微笑むと、練習場の中央に立った。

 

「一応、念のため封時結界を展開しておくよ。このブース丸々カバーしておけばいいかな」

 

「ありがとう。じゃぁ、やってみるね~」

 

ユーノが結界を展開すると、コレットが集中を始めた。足元には予想していたよりも大きめの魔法陣が3重に展開される。コレットの魔力がどんどん高まっていくのが判った。

 

「たぶん一番外側の魔法陣よりも外にいれば大丈夫だとは思うけれど、一応みんな離れられるだけ離れておいて」

 

封時結界を制御しながらユーノがそう言う。全員がギリギリ後ろまで下がったところで魔法陣内に変化があった。まるでマグマで出来た大蛇がうねるように朱色の炎が地面のあちこちから湧き上ってくる。と、次の瞬間、魔法陣内が巨大な火柱に包まれた。

 

「ひぶっ!? 」

 

同時に聞こえたコレットのあられもない悲鳴に、全員が一瞬固まってしまった。炎はすぐに治まり、ぼろぼろのバリアジャケットで呆然と立っているコレットだけが残された。慌てて全員で駆け寄る。

 

「コレット、大丈夫!? 」

 

「意識はあるか!? 大丈夫か!? 」

 

「う、うん…出力落としていたから。でも目が見えなくて」

 

「あ…そう言えばリニスさんが、視覚麻痺効果があるって言っていましたわね」

 

「そうですね。ただ一時的なものですから、数分もすれば効果は切れると思いますよ」

 

「何にしても無事で良かったよ。バリアジャケットがダメージを殆ど吸収してくれたんだね」

 

「うぅぅ、でもまさか自爆するとは思わなかったよぉ…」

 

コレットが無事なことが判って、みんなホッとしたのか、口々に慰めの言葉をかけていった。暫くすると視覚麻痺効果も切れたようで、コレット自身も元気を取戻し、また頑張る、と宣言した。

 

 

 

=====

 

それから一か月程が経過し、練習に練習を重ねたコレットは自爆することなく「ロード・オブ・ヴァーミリオン」を発動させることに成功した。

 

だがそれで浮かれてしまっていた俺達は、コレット本人も含めてすっかり忘れていたのだ。

 

…コレットがマルチロックオンの練習を全くしていなかった事実を。

 

 

 

久し振りに3on3で模擬戦をやることになった俺達は、コレットの魔法が炸裂した瞬間に、そのことを思い出す。

 

「あ…ゴメン! みんな、逃げてー!! 」

 

コレットの悲鳴と共に、敵も味方も関係なく相当の魔力ダメージと視覚麻痺を受けた俺達は、異口同音に叫んだ。

 

「「「「「次は『魔法制御』の特訓だから(ですわ)!! 」」」」」

 




タイトルだけは若干不穏な雰囲気を醸し出しつつ、内容は全くいつも通りの日常です。。

「ロード・オブ・ヴァーミリオン」の元ネタは某MMORPGの大魔法です。。最近は同名のオンライン対戦型トレカゲームもあるようですが、そちらは残念ながらあまりよく知りません。。

今日、何気にランキングを眺めていたら本作がまた日間の方にランクインしていました。。
そしてついにお気に入り総数が500を超えました。。
みなさまのご愛顧には本当に頭が下がります。。ありがとうございます。。

今後は日間だけでなく、週間や月間の方にも載るようになると嬉しいので、引き続き頑張ります。。
どうぞ末永くよろしくお願いいたします。。

※「ヴァーミリオンの姓」→「ヴァーミリオンの血」に訂正しました。。
 また、一族伝来の魔法は継承していれば魔力ランクが魔法ランクに達していなくても使用可能、という一文を追加しました。。
 ご指摘ありがとうございます。。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。