他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第13話 「出航」

「母さん、お疲れさま」

 

筆記試験を終えて会場から出てきたプレシアさんをフェイトが笑顔で迎える。プレシアさんも笑顔で答えてフェイトの頭を撫でた。

 

「出来はどうでしたか? プレシア」

 

「もう自動採点まで終わったわ。昔取った杵柄と言ったところかしら。ほぼ満点だったわね」

 

「あら? 満点じゃなくて『ほぼ』だったの? 」

 

「暫く研究方面に没頭していた所為かしらね。昔の常識は今の非常識ってことよ、リンディ」

 

「まぁその辺りは実務に携わっていればすぐに慣れるでしょう」

 

リニスやリンディさんとも談笑するプレシアさんを交えて、俺たちは本局の食堂に移動した。それぞれ食事をトレイに乗せて空席に座り、雑談を続ける。

 

「C+は素晴らしいわね。さすがは私の娘だわ」

 

「ありがとう、母さん」

 

「そう言えばさっきもリンディさんがC+はなかなか無いと言われてましたが、実際どのくらいのものなのか、ぴんと来ませんわね」

 

ふと俺が漏らした呟きに答えてくれたのはクロノだった。

 

「基本的に君達の年齢だと殆どがFか、良くてEだ。Dですら数える程しかいない。Cはそれこそ数年に1人というレベルじゃないか? 」

 

「2人共クラナガン・セントラル魔法学院だっけ? 学長はきっと大変だろうね。いきなりCランク以上が2人も入学するなんて、そうそう無いだろうから」

 

「そうなのですね。あ、でもそう言えばもう1人、クラナガン・セントラル魔法学院に通う予定のわたくしの友人がCランクだと言っていましたわ」

 

エイミィさんの手がピタッと止まった。

 

「何だ、その友人とやらもブラマンシュなのか? 」

 

「いいえ、スクライアの男の子ですわ。学生寮に入ると言っていましたから、フェイトさんと同じですわね。遅くても入学のときには会うでしょうから、改めて紹介しますわね」

 

「うん。ミントの友達なんだね。楽しみ」

 

そんな話をしていると、漸くエイミィさんが復活したようで、携帯端末で何やら操作を始めた。

 

「エイミィ、端末操作は食事が終わってからにしろ」

 

「ちょっと待って。Cランクオーバーが3人も一緒に同じ学校に入った例が過去にあったかどうかだけ。何か気になっちゃって」

 

「まぁ、僕は構わないが。さっきから母さんがエイミィのプリンを狙っている様子だったからな」

 

「あぁ~ダメです!ごめんなさい、艦長。後にします~」

 

慌てて携帯端末を横にどけると、エイミィさんはすごいスピードで食事を終わらせた。

 

「もう、クロノったら。大丈夫よ、エイミィ。黙って取ったりはしないから」

 

リンディさんは苦笑しながらそう言った。

 

 

 

食後に閲覧した過去のデータによると、Cランク以上の新入生が複数同時に同じ学校に入学した実績はSt.ヒルデ魔法学院で2回あった程度で、クラナガン・セントラル魔法学院では恐らく初だろうとのことだった。もちろん2、3年に1人くらいならCランクの生徒もいた様子だが。

 

「Cランクオーバーで入学した子も、過去にはそれなりにいたみたいね」

 

エイミィさんが操作する端末を横から覗き込んでいた俺は、過去のデータの中に気になる名前を見つけた。

 

「あ、ヴァニラ・H(アッシュ)さん。入学時のランクはC+ですわね」

 

「そう言えばヴァニラちゃんもクラナガン・セントラル魔法学院だったわね。尤も1年生の時に事故に巻き込まれて、それ以来ずっと行方不明だから、さすがにもう退学扱いになっているでしょうけれど」

 

プレシアさんがポツリと言うと、周りの空気が一気に重くなってしまった。そう言えば、このテーブルにいる人達はみんなH(アッシュ)家の関係者だった。これは明らかに俺の失言だ。

 

「申し訳ございません、配慮が足りませんでしたわ」

 

クロノのことを空気が読めないなんて、もう言えないかもしれない。

 

「大丈夫よ、ミントちゃん。気にしないで」

 

プレシアさんが優しく微笑みながら頭を撫でてくれる。それだけで随分空気が軽くなった気がした。

 

「もうそろそろ時間ですね。プレシア、あまり食べていませんでしたが、大丈夫ですか? 」

 

「これから実技試験で模擬戦でしょう? あまり食べ過ぎると動けなくなってしまうわ」

 

恐らく話題を変えてくれたのであろうリニスに対してそう答えると、プレシアさんは立ち上がった。

 

「私が今ここにいられるのはアリアのおかげ。彼女に笑われないように、実技の方も確り取ってくるわ」

 

「期待していますよ。頑張ってきてください」

 

クロノもエイミィもプレシアさんを激励していた。

 

「模擬戦では使い魔との連携も認められていますね。では参りましょう、プレシア」

 

「母さん、リニス、頑張って」

 

リニスがプレシアの隣に立つと、フェイトも両手で握りこぶしを作って応援する。プレシアさんは笑顔でそれに応えると、実技試験会場に向かった。

 

「じゃぁ、私たちも見学に行きましょう」

 

リンディさんがそう言うと、また全員で移動だ。いよいよ今日のメインイベントが始まろうとしていた。

 

 

 

=====

 

プレシアさんも相手を務める局員もお互い空戦タイプで、模擬戦は最初から空中戦になった。魔導師登録の時に使用した訓練施設よりもずっと広い設備に建物や樹木などを模した障害物なども設置されているのだが、まずはそれらを上手く利用しながらの空中射撃戦だった。

 

隣のフェイトは真剣な表情で模擬戦の様子を見ていた。フェイトを挟んで俺とは反対側に立っているクロノの表情も同じく真剣だ。

 

「試験官の方はSランクだそうですわね」

 

「ああ。基本的に受験者のランクと試験官のランクは同じになるように調整されるんだ」

 

「あ、でもそうするとリニスが一緒に戦う母さんの方が有利になるんじゃないかな? 」

 

「使い魔との連携も魔法の内だからな。織り込み済みだよ」

 

「では受験者と試験官のどちらが勝つかは時の運ということでしょうか? 」

 

少し不思議に思ったので聞いてみた。完全に平等な条件で実施するなら、それは試験というよりはむしろ本物の模擬戦だろう。尤も実戦形式でどの程度実力を出せるかという観点での試験という可能性もあるが。

 

「いや、完全に平等というわけじゃない。試験官はこの訓練施設の地形や障害物を熟知しているからな。ほら、今リニスの奇襲を躱しただろう。あれは地形と照合して、奇襲を想定していたんだ」

 

クロノの説明を聞いて改めて訓練施設内を見渡すと、確かに射線を遮ることが出来る障害物は多い。さっきリニスが潜んでいた場所は視線すらも通すことが困難で、予め判っているのでなければ奇襲回避は出来なかっただろう。

 

「では初見でその辺りの地形情報を有効に使っているプレシアさんは相当のものというわけですわね」

 

「当たり前だ。魔法戦闘というのは魔力の大小だけで決まるような単純なものじゃないからな。君達は魔法による戦闘で重要なのは何だか知っているか? 」

 

急にクロノがそう問いかけてきた。フェイトがまずその問いに答える。

 

「えっと、今魔力量の大小は関係ないって言ったよね。じゃぁ戦術とかかな? 」

 

「ミント、君はどう思う? 」

 

「そうですわね。確実に射撃を命中させるコントロール、というのは如何です? 『当たらなければどうということはない』とも言いますし」

 

全員マルチタスクを駆使して会話をしながらも視線はプレシアさんの模擬戦から外していない。

 

「まぁ2人共及第点だな。大事なのはまずミントが言うように相手に確実にヒットさせる射撃のコントロール。あと魔法を使う際の魔力配分や使い魔との連携、直射弾と誘導弾の使い分けなどはコンビネーションという。それからコンセントレーション、集中力だ。これは説明するまでもないと思うが、戦闘への集中だけでなく、マルチタスクでの状況分析なども包括する。そして最後は十分な経験や戦術などに裏打ちされた自信、コンフィデンス。フェイトの意見はここに含まれるな。これを総じて魔法戦で勝利するための4Cと言う」

 

何だかどこかで聞いたことのあるような話だと思ったが、どこで聞いたのかまでは思い出せなかった。そんな話をしているうちに、徐々にプレシアさんが追い詰められてきていた。

 

「さすがは地の利とでも言ったところでしょうか」

 

「でもまだ母さんは諦めてないよ。きっと何か手を打ってくる」

 

フェイトがそう言った時、試験官の動きが少し不自然になった気がした。

 

「幻術か。相手の地の利を逆手に取ったな」

 

クロノがそう呟く。どういうことかと聞こうとした時、プレシアさんの攻撃が見事に試験官を捉えた。

 

「やった!」

 

「だがまだ終わりじゃない。『スティンガー・ブレイド・エクスキューション・シフト』、AAAの広域攻撃魔法だ。対個人に随分と大盤振舞いだな」

 

試験官が膨大な数の魔力刃を形成していた。見た限りでは100本以上ありそうだ。対するプレシアさんもスフィアを大量に生成した。見た目の数で言えば試験官の魔力刃の半分にも満たない感じではあるが、これは間違いなく直射型射撃魔法の発射台。

 

「『フォトンランサー・ファランクス・シフト』。私もまだ練習中なんだけど、凄い威力の魔法だよ」

 

次の瞬間、訓練設備内で2つの強力な攻撃魔法同士がぶつかり合った。まるで爆発でも起きたかのような閃光に、思わず目を閉じてしまう。そして実技試験終了を伝えるブザーが鳴った。

 

 

 

「随分と派手にやったわね、プレシア」

 

「あら、本気を出したらこんなものじゃないわよ? 」

 

試験に見事合格したプレシアさんとリンディさんが笑顔で語り合う。模擬戦の結果は引き分けということになったのだが、嘱託魔導師試験としては上々の出来だったのだそうだ。

 

随分と嬉しそうにしていたので最初は単純に試験に合格出来たことを喜んでいるのかと思ったが、どうやらそうではなくフェイトが笑顔で「お疲れさま」と言ったことに浮かれていたらしい。原作とは打って変わって親バカになっているプレシアさんをみて、こちらも思わず笑みが零れた。

 

リンディさん以外のアースラスタッフも口々にお祝いの言葉をかけている。何とはなしにその景色を眺めていると、不意にクロノから声をかけられた。

 

「君はお祝いしなくていいのか? 」

 

「わたくしはいの一番に、フェイトさんと一緒にお祝いしましたわ。クロノさんこそお祝いに行かれませんの? 」

 

「あぁ、少しタイミングを外してしまった。今から行くのもどうかと思ってね」

 

クロノは苦笑しながら頬をかいている。ふと先程の模擬戦中のことを思い出し、気になったことを聞いてみることにした。

 

「そういえばクロノさん、さっき地の利を逆手に取った、と言われていましたわね? あれはどう言った意味なのですか? 」

 

「言葉通りの意味さ。プレシア女史は訓練設備内の障害物を幻術魔法を使って微妙に作り替えたんだ。視覚と位置覚の齟齬を誘発させて、試験官の空間把握能力を混乱させたんだろう」

 

「幻術、ですか」

 

「ああ。地味な魔法だから使い手も少ないが、ツボに嵌れば戦いを有利に運べる。さすがは大魔導師といったところだな」

 

幻術魔法は確か認識阻害や結界といった魔法から派生したもので、変身魔法などの影響も受けていた筈だ。少なくとも変身魔法に適性の無かった俺には縁の無い魔法だろう。ユーノだったら逆に使いこなせるかもしれないが。

 

「さて、そろそろ時間だな。僕らはアースラに戻るが、君もプレシア女史の見送りには来るんだろう? 」

 

「ええ、もちろん参りますわ」

 

そして俺たちは次元航行艦アースラが係留されているポートに移動した。

 

 

 

=====

 

アースラの正式名称は時空管理局・巡航L級8番艦というらしい。時空管理局が保有する大型次元航行艦であり、余程の事情が無ければ俺やフェイトのような一般民間人が乗艦することは認められない。このため、見送りは必然的に手前のゲートまでとなる…と思ったのだが。

 

「余程の事情って言うけれど、艦長の許可があれば問題ないと思うのよね」

 

リンディさんの鶴の一声で、プレシアさんとリニスはともかく、何故か俺もフェイトもアースラのブリッジにいた。

 

「本当によろしいのですか? こうした場所はあまり公開されるべきではないと思ったのですが」

 

「ミントさん、フェイトさん、ここで目にしたもののうち、何が極秘情報なのか判るかしら? 」

 

思わずフェイトと顔を見合わせ、その後2人揃って「判りません」と答えた。隣に立ったクロノが疲れたような表情で溜息を吐く。

 

「全部だ。ブリッジの形状やオペレーターと艦長席の配置、そこで働く僕達の個人情報までな。艦長も少し自重して下さい」

 

「彼女達なら大丈夫よ。クロノ執務官はこの子たちがスパイに見える? 」

 

「見えませんが、そういう問題ではないです。規則ですから」

 

「だから許可を出したのよ」

 

にっこり微笑むリンディさんと再び溜息を吐くクロノ。奥のオペレーター席ではスタッフが忙しそうに通信をしたりコンソールを操作していたりする。恐らく出航の準備をしているのだろう。ふとエイミィさんと目が合った。どうやらどこかと通信をしている最中のようだったが、にっこり笑って小さく手を振ってきたのでこちらも手を振りかえす。

 

「はぁ、もういいです。出航まであと1時間ほどあるし、少し艦内を案内しよう。プレシア女史にも説明しないといけないし」

 

「気を付けて行ってきてね」

 

いつの間にか取り出したハンカチをひらひらと振るリンディさんに見送られて俺たちはブリッジを後にした。その後、食堂やトレーニングルーム、居住区、メディカルルームなどの主要区画を案内して貰う。午前中に検査で使用したような訓練用の設備もあった。

 

そのうち今まで見てきた部屋のドアよりも若干大きなドアの前に辿り着いた。

 

「ここはスタッフの憩いの場だ」

 

そう言ってクロノがドアを開くと、そこには緑豊かな公園のような景色が広がっていた。

 

「すごい…まるで地上にいるみたいだ」

 

フェイトが感嘆の声を漏らす。プレシアさんとリニスも感心したように周りを見回していた。

 

「長時間次元空間を航行するのだから、こうした場所は乗務員のメンタルケアにも必要なのでしょうね」

 

妙な既視感を覚えた。これは生前プレイしたギャラクシーエンジェルというゲームに登場する儀礼艦エルシオールの銀河展望公園そのままだった。天井は高く、恐らくは映像なのだろうが、本物と見紛うような青空が広がっている。

 

「まさか、アースラにこんな場所があるなんて思ってもいませんでしたわ」

 

「次元展望公園だ。天井の空は映像だが、青空、夕方、星空など多様に変化させることが出来る。芝生や樹木は本物だし、空気もそよ風レベルで循環させているから気持ちいいだろう。食事だけなら食堂でもできるが、スタッフの中には手が空いた時、ここに弁当を持ち込んで食べる者もいるんだ」

 

説明するクロノの表情もどこか安らいで見えた。どうやら似たような設備はL級艦船になると標準装備されるらしいのだが、公園の管理人が違うと雰囲気もそれに応じて変わってくるらしい。

 

「とてもいい場所ね。気に入ったわ」

 

プレシアさんは微笑みながらそう言った。

 

 

 

「これで一通りの場所は回ったな。もうそろそろ時間だし、一度ブリッジに戻ろう。フェイト、ミント、判っているとは思うが」

 

「うん。見せてもらった施設配置も機密事項なんだね」

 

「大丈夫、承知しておりますわ」

 

プレシアさんがそれを横で見て、苦笑していた。

 

「執務官殿は気苦労が絶えないわね。もう少し肩の力を抜いておかないと、胃に穴が開いてしまうわよ」

 

「…ご忠告は心に留めておきますよ」

 

そんな会話をしながらブリッジに戻ってくると、エイミィさんが迎えてくれた。

 

「お帰り、クロノ君。プレシアさん、艦内はどうでした? 」

 

「居心地が良さそうな艦ね。問題はなさそうで良かったわ」

 

「エイミィ、出航準備は? 」

 

「もう殆ど終わってるよ。後は出航する時の管制官との微調整くらいだね。ミントちゃん、フェイトちゃん、楽しめた? 」

 

「ええ、ありがとうございます。堪能致しましたわ」

 

「凄く広いんですね。驚きました」

 

「いつか君達とここで一緒にお仕事が出来ることを、お姉さん楽しみにしているよ」

 

エイミィさんはそう言って笑った。

 

「じゃぁ、フェイト。身体に気を付けてね」

 

「母さんも無理しないで。ミッドチルダに戻るときは連絡して」

 

「勿論よ。リニス、暫くはフェイトのことを頼むわね。あまりサリカさんに迷惑をかけないように注意して。ミントちゃんも、フェイトのことよろしくね」

 

「フェイトが無事入寮したらお手伝いに回ります。プレシアのことですからあまり心配はしていませんが、お気を付けて」

 

「行ってらっしゃいませ、プレシアさん。また戻られたらいつでも遊びに来て下さいませ」

 

魔導師登録でお世話になったリンディさん、エイミィさん、クロノにも挨拶をして、フェイト、リニスと一緒に転送ポートに向かう。

 

「みなさま、お世話になりました。どうか良い航海を」

 

「ありがとう。ミントさんもフェイトさんも、元気でね」

 

転送ポートに光が溢れ転送される瞬間、フェイトがひくっと息を飲んだ。今まで表には出していなかったようだが、母親と暫く会うことが出来ないのは俺でも寂しく思うものだ。年齢通りのフェイトが寂しくない訳がないだろう。本局のゲートに戻り、窓から出航していくアースラを見送りながら、フェイトはずっと黙っていた。

 

「フェイト、寂しいのは判りますがいつまでもここにいる訳にもいきませんし、そろそろ行きましょう」

 

「うん、大丈夫だよリニス。ミントも、ごめんね」

 

「お気になさらず。わたくしも先日母が帰国した時は恥ずかしながら寂しい思いをしましたから、お気持ちは判りますわ」

 

フェイトは少し微笑んで、ありがとうと言った。とは言え、あまり沈んだ気分のまま過ごすのもどうかと思ったので、少しでも気分を盛り上げられないか、少しの間思案する。

 

「そう言えばリニスさんは香辛料も玉葱も、もう大丈夫なのでしたわよね? 」

 

「ええ、もう普通の人間と味覚は変わりませんよ」

 

「フェイトさん、辛い食べ物に抵抗感はあります? 」

 

「え? うん、あまり辛いのは苦手かな。でも昨夜食べた料理くらいなら大丈夫」

 

若干辛味は抑えておいたが、昨夜の麻婆豆腐が大丈夫なら問題はないだろうと考える。今日はサリカさんの帰りが少し遅くなるから食事は適当に済ませるようにと言われていたが、フェイトを慰めるためにも自宅で調理をしようと思ったのだ。ただ、そのためにはサリカさんに火を使う許可を貰う必要があった。

 

「トリックマスター、クラナガン総合病院に通常通信を」

 

≪All right. Connected. Here we go.≫【了解。繋がりました。どうぞ】

 

「もしもし、わたくしミント・ブラマンシュと申します。看護師のサリカ・ブラマンシュをお願いしたいのですが」

 

 

 

結局サリカさんに事情を説明し、リニスに見てもらうことを条件に火を使う許可を貰うことが出来た。ついでにサリカさんの分も作っておいて欲しいと頼まれたので、人数分の食材を購入して帰宅することにした。

 

「ミント、今日は何を作るつもりなのです? 」

 

「昨夜作ったのとはまた少し違うのですが、また管理外世界の料理ですわ。お肉と野菜を適当に切って適当に炒めて、適当に煮込むだけの適当料理なのに、ライスにかけてもパンにかけても美味しい一品ですわよ」

 

「昨夜のは美味しかったよ。ミントは本当に料理が上手いんだね。今日も楽しみ」

 

「おだてられて悪い気はしませんわね。まぁ、今日作るのは味付けも不要な料理なので、誰が作っても美味しくなると思いますが。では参りましょうか。臨界エリアにいいお店がありますのよ」

 

本局からシャトルで地上に戻ると、俺はリニスとフェイトを連れて例の調味料の店に向かった。今日の目的はカレールー。正直カレーは既製品のルーを使うなら味付けも不要で作るのも簡単な割に美味しいという素晴らしいメニューなのだ。

 

 

 

その日以降カレーがフェイトの大好物になり、本人も作り方を憶えようと頑張った結果、数日の間カレーが続くことになってしまったことを、ここに追記しておく。

 




今回から本文のみ「。。。」の代わりに「…」を使っています。。
これは句点を使用した文章が読みにくいとのご指摘を複数の方から受けたためです。。
第1部および第2部12話までについても、近いうちに変換します。。

雪が酷くて出先から帰れない状態です。。こんなとき、タブレットがあって良かったと、つくづく思います。。

※活動報告にも載せましたが、投稿済みの文章については全て…への変換が完了しました。。
 今後ともよろしくお願いします。。

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