他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第10話 「新しい友達」

アリア・H(アッシュ)さんはかつてクラナガンでテスタロッサ家の隣に住んでいたらしい。お互い家族ぐるみでの付き合いがあったのだが、23年前に発生した魔力駆動炉の暴走事故でプレシアさんとアリアさんは共に娘さんが行方不明になっているのだそうだ。

 

当時、暴走事故を起こした魔力駆動炉のプロジェクトリーダーだったプレシアさんは査問会議にかけられたが、アリアさんの夫であるイグニス・H(アッシュ)提督(当時は執務官だったらしい)の調査により、アレクトロ社というプレシアさんが勤めていた会社の暗部が次々と公開されて信用も失墜し会社は倒産。むしろ他の社員を守るために事故前から最後まで上層部に抗議を続けていたプレシアさんは世論も味方につけて実質無罪を勝ち取ったらしい。

 

その後プレシアさんはアルトセイムに、H(アッシュ)夫妻はエルセアにそれぞれ引っ越したが、付き合いはそれからも続いていたのだそうだ。

 

一方、アリアさんの夫であるイグニスさんはリンディさんの夫であるクライドさんの上司だったのだそうだ。結婚前からずっとイグニスさんの補佐をしていたクライドさんはプライベートでも交流があり、リンディさんと結婚してクロノが生まれた後も頻繁に付き合いをしていたとのこと。テスタロッサ家ともそうした流れの中で親しくなったらしい。

 

クロノが言っていた「8年前の事故」については詳しいことは教えてもらえなかったが、前世の知識から察するに、恐らく闇の書事件だろう。魔力駆動炉の暴走で娘が行方不明になり、闇の書事件で夫を亡くし、更に自分自身も事故で命を落としてしまうなんて、H(アッシュ)家は呪われているのではないだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、空中浮遊するトリックマスターに興味津々のフェイトを眺める。

 

「デバイスを持っているということは、貴女も魔導師よね。学校はやっぱり魔法学院かしら? 」

 

不意にプレシアさんが聞いてきた。

 

「はい、来年からクラナガンの魔法学院に通う予定ですわ」

 

「あら奇遇ね。フェイトも来年からクラナガンの魔法学院なのよ。確かクラナガン・セントラル魔法学院といったかしら」

 

「わたくしもその学院ですわ。ですが、お住まいはアルトセイムだと伺っておりますが」

 

「ちょっと事情があって、私自身がなかなかミッドに戻ってこれなそうなのよ。あの子は寮に入るのだけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

なんでも現在プレシアさんは近々嘱託魔導師の試験を受けることが決定しており、合格した暁にはリンディさんの次元航行艦アースラに配属されるのだとか。

 

「あら、でも入寮できるようになるのは基本的に入学後ですわよね? 次元航行艦配属はそんなに先ですの? 」

 

「それまではリニス…私の使い魔を残していくわ。フェイトが入寮したらリニスには私のところに戻ってもらうけれど」

 

そんな話をしているとフェイトがトリックマスターを抱えて戻ってきた。

 

「ありがとう。良いデバイスだね」

 

「堪能できましたか? 」

 

「うん。私のデバイスももうすぐ出来上がるんだ。今、母さんの使い魔が作ってくれてて」

 

「そういえば、クラナガン・セントラル魔法学院に通われるのですね。デバイスができたら魔導師登録を? 」

 

「そのつもり」

 

フェイトからトリックマスターを受け取ると、改めてフェイトに微笑みかけた。

 

「わたくしも来年からクラナガン・セントラル魔法学院に通う予定ですの。よかったらお友達になって頂けると嬉しいですわ」

 

フェイトは若干不思議そうに首を傾げた。

 

「本で読んだりしたことはあるんだけど、その、お友達ってどうしたらなれるのかな? 」

 

「簡単ですわ。まずは名前を呼んで下さいませ。君とかではなく、ちゃんと相手の目を見て」

 

思わず口をついて出てきた言葉に、内心でまだ見ぬなのはに謝っておく。あなたの名台詞を盗ってしまってごめんなさい。

 

原作ではそれなりに感動的だったシーンが特に盛り上がることもなくあっさり終わってしまったことに若干寂しさを感じるが、兎にも角にも俺はこうしてフェイトと友達になったのだった。

 

「ミントもまだ魔導師登録していないんだよね? もしよかったら、一緒に登録に行ってくれないかな」

 

「ええ、構いませんわよ。ではフェイトさんのデバイスが完成したら、こちらの識別コードに連絡して下さいませ」

 

「うん。ありがとう、ミント」

 

フェイトにトリックマスターの識別コードを渡す。デバイスは2、3週間のうちに完成するだろうとのことだったので、その完成を待って2人で魔導師登録を行うことにした。その頃には松葉杖なしでも歩けるようになっていると嬉しいのだが。

 

暫くフェイトと話をしていて、ふと気が付くと母さまとプレシアさんが意気投合していた。クロノとリンディさんは少し離れたところでティーダと話をしているようだ。改めて原作とのズレを認識する。

 

(これはもうバタフライなんてものではありませんわ。原作知識は殆ど当てにならないと思った方がよさそうですわね)

 

原作改変などと意気込んでいたが、特に自分が関わらなくても既にこの世界は原作と異なる展開を見せている。発端は恐らく魔力駆動炉暴走事故に於けるヴァニラ・H(アッシュ)の存在だろう。現在は行方不明とのことだが、23年前に彼女がアリシア・テスタロッサと共に姿を消したことで、プレシアさんは原作ほどにはアリシア復活の妄執に取り憑かれることはなかった。理由として挙げられるのが、同じ境遇の母親であるアリアさんの存在と、そもそもアリシアの遺体が存在しないという事実だ。

 

同時に娘が行方不明になったアリアさんとプレシアさんはお互いの気持ちが判る関係になっただろう。先にプレシアさんが言っていた『間違った道に進みそうになったのを正してくれた』という言葉からも、2人の間に強い絆があったのは間違いない。

 

それにアリシアの遺体が無ければ記憶の抽出も出来ないだろうから、仮にフェイトがアリシアのクローンだったとしても、プレシアさんがフェイトを『アリシアの偽物』のような見方をすることはないだろう。

 

フェイトがクローンなのかどうかについてだが、これは正直どうでもいい。何故なら現状プレシアさんとの関係は良好に見えるし、何よりも今彼女は現実に存在しているのだから、クローンかどうかという議論自体に価値がない。

 

(それよりもヴァニラさんですわ。同じ世界に同じゲームのキャラクターとして存在していたのですから、もしかすると彼女も転生者だったのかもしれませんわね)

 

そして時代も同じであれば、会話もできたかもしれない。そう思うとこの物理的なジェネレーションギャップがとても歯痒く感じられたが、居ないものは仕方ない。無い袖は振れないのだ。

 

(いずれにしても原作の流れに捕らわれ過ぎず、最善と思う行動を取れば良いのでしょうね)

 

話の展開を知っているのに話すことが出来ないというシチュエーションは、気付かないうちにストレスになっていたのかもしれない。もともと他言できない原作知識ならいっそ知らない方が良かったと思うこともあったが、それが知識として確実ではないと判った瞬間、逆に何だか罪悪感が晴れたような、そんな気がした。

 

 

 

=====

 

アルトセイムに帰るフェイトやプレシアさんとはエルセアの駅で別れ、俺は母さまと一緒にクラナガン行きの快速レールに乗った。

 

何故か同じコンパートメントにクロノとリンディさんもいたりするのだが。

 

「遅ればせながら、デバイス入手おめでとう」

 

「ありがとうございます。時空管理局の方でも移動は快速レールを使われるのですね」

 

「まぁ、今日はプライベートだからな。市街地での魔法行使はよっぽどのことが無い限り許可が下りることはないよ」

 

「車を使っても良かったんだけど、結構距離があるのがネックよね。運転するのも大変だし」

 

本局に戻るのならエルセアの空港から直接シャトルを使えばいいのかと思っていたが、クロノ達はこの後一度クラナガンの時空管理局地上本部に寄る用事があるのだとか。なんでも最近次元世界を又にかけてテロを企てるかなり大規模な次元犯罪者集団がいるとのことで陸と海が一部協力体制を敷いており、その打ち合わせがあるのだそうだ。

 

ショッピングモールでのテロとは比べ物にならないような、質量兵器を使った爆破テロが管理世界、管理外世界を問わずに横行していれば忙しいのも判るのだが、プライベートでエルセアに来ている筈なのに、その帰り道に仕事を入れるなんて、どれだけ人員が足りないのだろう。いや、むしろクロノ達はマゾなのかもしれない。

 

「何だか今、随分と失礼なことを考えていなかったか? 」

 

「いいえ、お仕事が忙しそうだと思っただけですわよ? 」

 

「疑問形で返さないでくれ。まぁ、忙しいのは確かだな。もっと人手が欲しいよ」

 

その言葉で、先程プレシアさんも嘱託魔導師として働くと言っていたのを思い出す。

 

「そういえば嘱託魔導師になるのに年齢制限はないのですか? 」

 

「あら、ミントさん嘱託になってくれるの? 」

 

「いえ、逆に上限年齢をお伺いしたかったのですわ。プレシアさんが嘱託になるようでしたので」

 

「あら残念。そうね、特に年齢制限はないわよ。さすがに運動能力に難があるほど高齢な場合は配属先も限定されてしまうけれど。ミントさんも折角大きな魔力を持っているみたいだし、将来の進路として考えてもらえると嬉しいかしら」

 

「母さん、初等科にも上がっていないような子供をスカウトしようとしないでくれ。おまけに彼女はブラマンシュだし」

 

「ブラマンシュだって、希望があれば受け入れるわよ。そうだ、イザベルさんはどうかしら? 」

 

「ごめんなさい、私は魔法のこととかあまり詳しくなくて」

 

ブラマンシュの人達はテレパスファーの恩恵で大きな魔力を持ってはいるものの、基本的に魔法音痴である。俺のように魔法の勉強をしている方が珍しいのだ。おまけにのんびりとした田舎の風土にあって、争い事にも慣れていない。スカウトされても母さまのような反応をするのが普通だろう。

 

「凄い逸材だと思うんだけど、残念ね」

 

「魔力が大きいだけでは即戦力にはなりませんわよ。先日身を以て知りましたわ」

 

思わずそう呟くと、リンディさんもクロノもすこしバツが悪そうな表情をした。別に責めるつもりは毛頭なかったのでフォローも入れておく。

 

「嘱託魔導師に全く興味がないわけではありませんのよ。ただ今はまだ就学どころか魔導師登録もしていませんし、仮に嘱託の試験を受けるとしても何年も先になると思いますわ」

 

「じゃぁ、その時は期待しているわね」

 

リンディさんはそう言って微笑んだ。

 

 

 

日没前にクラナガンに到着すると、クロノ達は早速管理局の地上本部に向かった。本当に仕事熱心なことだ。軽く挨拶をして別れた後、俺と母さまはサリカさんの家に戻った。

 

「おかえり、ミントちゃん。思ってたより早かったね。イザベルさんもおかえりなさい」

 

既に寛いでいた様子のサリカさんにただいま、と声をかける。

 

「あ、晩御飯どうします? もう少し遅くなると思ってたから、完全に外食のつもりでいたけど、この時間なら何か作れますよね」

 

「そうね。冷蔵庫の中、見せてもらっても? 」

 

「あ、はい」

 

「それならわたくしが見てまいりますわ」

 

カウンター式のキッチンに入り、冷蔵庫を開ける。ぱっと目についたのは牛乳と卵だった。

 

「ハンバーグ、は昨夜頂いたばかりでしたわね」

 

「そうだね。それに確か挽肉は買い置きがなかった筈だよ」

 

それなら、と他の食材を手早く確認する。粉状にしたパルメザンチーズとベーコンがあった。一度冷蔵庫を閉めて、乾物の棚を開け、お目当てのパスタがあることを確認した。

 

「サリカさん、生クリームはありますか? 」

 

「生クリームかぁ。買った記憶はないかな」

 

「ならマヨネーズで代用しましょう。クリームパスタでよければ20分程で出来上がりますわよ」

 

所謂スパゲッティカルボナーラである。これはただ材料を混ぜるだけで準備にも殆ど時間がかからず、とても簡単なレシピだ。唯一包丁を使うのがベーコンを適当な大きさに切りそろえることくらいなので、以前から手を抜きたいときに偶に作っていた料理でもある。

 

「じゃぁベーコンを炒めるのはお母さんがやっておくわね」

 

母さまがベーコンを切って炒めてくれている間に卵、牛乳、粉パルメザンチーズ、マヨネーズをボウルに入れて攪拌する。ついでなのでレタスを千切ってプチトマトを乗せた簡易サラダも作っておいた。

 

パスタを並行して茹でておくとだいぶ時間を短縮できる。炒めたベーコンを一度小皿に除けておき、ベーコンの脂がたっぷり残ったフライパンにそのまま攪拌した卵ソースを注ぎ込んで少しだけ温める。そして茹であがったパスタをソースの中に直接移してよく絡めたらお皿に取り分け、ベーコンと粗挽き胡椒を適量乗せて完成だ。

 

「我ながら早いですわね」

 

「うん、本当に20分くらいでできちゃったね。あ、私持っていくよ」

 

≪It looks appetizing.≫【おいしそうですね】

 

サリカさんが配膳したお皿を見たのか、テーブル脇の椅子に座らせておいたトリックマスターがそう言った。

 

「トリックマスターに味覚があるとは思えませんが」

 

≪I have collated the web site information. It looks similar to the meal at restaurant.≫【ネット情報と照合しました。これは普通に飲食店で提供されるものと同じレベルに見えます】

 

レストランで出される料理と見た目が同じだからおいしそう、という認識らしい。

 

≪I want to eat. I want to eat. I want to eat.≫【食べたい食べたい食べたい】

 

腕をぶんぶんと振り回す。一体どれだけのモーションパターンが登録されているのやら。

 

「食べられないでしょうに。あとアンティークドールの見た目でそれを繰り返すのはおやめなさい。ホラーのようですわ。今度食品サンプルでも用意してあげますから」

 

≪What a shame.≫【残念です】

 

落ち込むトリックマスターを放置して、3人で晩御飯を食べた。

 

 

 

=====

 

「サリカさん、もしかしたらそのうちお友達を連れてくることがあるかもしれませんが、大丈夫ですか? 」

 

食後、洗い物をしながらふとそう聞いてみた。

 

「大歓迎よ。なんならお泊りしてもらっても構わないし。でもどうしたの? 急に」

 

「追悼式典で知り合った女の子がいるのですわ。今はアルトセイムに住んでいるようなのですが、来年から同じ学院に通いますので」

 

「ふーん。こっちに引っ越してくるの? 」

 

「ええ、学生寮に入るそうですわ」

 

フェイトのことを簡単に説明すると、サリカさんは少し顔を顰めた。

 

「他人の家庭のことだからあまり口出しはできないけれど、母親がお仕事で家に帰れないのに、使い魔と2人きりって寂しくないのかな。アルトセイムにお友達はいない感じだったんでしょう? 」

 

「ええ、わたくしが最初のお友達のような雰囲気でしたわ」

 

「プレシアさんから聞いた限りだと、街からは少し離れたところに家があって、遊び相手もその使い魔くらいらしいわよ」

 

母さまも話に加わってきた。どうやら俺が言い出さなかったら、同じことでサリカさんに打診しようと思っていたらしい。洗い物を終わらせ、みんなで居間に移動しても、話は続いていた。松葉杖を傍らに置いてソファに座る。「トリックマスター」と声を掛けると、人形状態のままふわふわと浮遊してきて、俺の腕の中に収まった。

 

「学校が始まるまでは、うちにステイしてもらっても全然構わないわよ」

 

「そうね、私も来週にはブラマンシュに帰るから、部屋は問題ないわよね」

 

「あの、先方に無断でそういうお話を進めるのは如何なものかと」

 

それからも色々と話したが、むしろサリカさんがリニス込みでフェイトを連れてきて欲しいと言うので、結局その方向で話が纏まりつつあった。

 

「フェイトちゃんのデバイスが出来上がったら連絡が来るんでしょう? そしたらその時にでもちょっと聞いてみてよ」

 

「判りましたわ」

 

軽く息を吐く。とりあえずフェイトについては連絡待ちで良いだろう。

 

「ミントちゃん、お風呂入る? 」

 

「ありがとうございます。後で入りますわ」

 

サリカさんにお礼を言うと、一度あてがわれた部屋に戻ることにした。

 

 

 

「トリックマスター、デバイス通信をしますわよ」

 

≪All right. Please enter the identification code.≫【了解。識別コードを入力して下さい】

 

俺は荷物の中からレイジングハートの識別コードを取り出して読み上げた。

 

「今のコードは登録しておいて下さいませ。登録名はレイジングハート、使用者はユーノ・スクライアですわ」

 

≪Sure. The information has been registered.≫【判りました。登録完了】

 

そのままレイジングハートへの回線を開いてもらう。

 

『もしもし? 』

 

「ユーノさん、お久しぶりですわね」

 

『ミント!? うん、久しぶり!デバイスを手に入れたんだね。元気そうで良かった。最近連絡がなかったから心配してたんだよ』

 

「申し訳ありません。色々とあって、結局ブラマンシュには戻らずにクラナガンにおりますのよ」

 

デバイス通信はここ十数年で急激に普及したシステムらしい。デバイス間でのデータ送受信の応用で音声データを特定アドレス宛に送信する、所謂ケータイのようなものだが電波の代わりに魔力が使われていて通信業者のようなものは存在しない。念話だと精々数十km程度の距離しかカバーできないが、デバイス通信であれば若干のタイムラグはあるものの、次元を超えて音声通信が可能なのだ。

 

『ミントはクラナガン・セントラル魔法学院だったよね』

 

「ええ、わたくしの場合、先にクラナガンにステイすることが決まってしまいましたので、その中で一番よさそうな学校を選んだのですが、パンフレットを見る限りは特に問題なさそうですわね」

 

『もうクラナガンに行ってから1か月くらい経つよね? まだ下見には行って無いの? 』

 

「本当に色々あって、時間が取れなかったのですわ。魔導師登録もまだ済んでいませんし。ユーノさんは魔導師登録は? 」

 

『僕は少し前に済ませたよ。魔力量はAだったけれど、攻撃魔法がからっきしだったから、まずはCランクでの登録だけどね』

 

「初等科3年に上がる頃にはもう少し上がっていそうですわね。きっと管理局からスカウトが来ますわよ。ご愁傷さま」

 

『今のところ管理局に入る予定はないけれどね。学校を卒業したらやっぱり考古学方面に進みたいし』

 

「そうですか。それで、肝心の学校は決まりましたの? 」

 

『うん。僕もクラナガン・セントラル魔法学院にしたよ。来年からまた一緒だね』

 

大丈夫。ユーノのことだからきっと色々と調べた上で、自分に一番合っている学院を選択した筈だ。以前と同じように軽く頭を振って妙な考えを追い払うと、ユーノと他愛もない雑談を続ける。少しすると部屋のドアがノックされ、サリカさんが顔をのぞかせた。

 

「ミントちゃん、お風呂沸いたけれど、すぐに入れる? 」

 

「ありがとうございます。すぐに参りますわ」

 

ふと時計を見ると軽く1時間が経過していた。

 

「じゃぁ、ユーノさん、また近いうちに連絡しますわね」

 

『わかった。僕もそろそろ休むことにするよ。おやすみ、ミント』

 

「お休みなさいませ」

 

 

 

お風呂で湯船に浸かりながら、エルセアでのことを思い返す。デバイスを入手できたことも大きかったのだが、それよりもいろいろな人達と知り合ったことが驚きだった。本当にいきなり原作キャラとの接点が増えたものだ。ティーダに始まり、リンディさん、フェイト、プレシアさん。クロノは前から顔見知りではあったが、今日話をしたことで、一層馴染めた気がする。

 

ふと頭の中に、長い緑色の髪の少女のイメージが過った。

 

「ヴァニラ・H(アッシュ)…ヴァニラさんですわね。直接お話し出来なかったのは残念ですが」

 

本人に直接会ったわけではないので、そのイメージはあくまでもゲームのビジュアルだ。大体23年前の事故で行方不明になったのなら、仮に生きていたとしてもゲーム通りの容姿ということはないだろう。

 

(もしかして転生者はみんなギャラクシーエンジェルのキャラクターの名前や容姿を持っているとか? いえ、そう考えるのは聊か早計ですわね)

 

考えてみれば、ヴァニラですら転生者だという確証は持てていないのだ。

 

(というより、そもそもアレイスターさんの話がどこまでが本当のことなのかすら判りませんし)

 

実際に転生しているのだから、転生の話自体は本当なのだろう。だが、それ以外に聞いたことは全て検証するにはリスクが大きすぎた。筆頭は転生者同士なら転生の話をしても呪いは発動しないということ。実際に試そうにも、結果「間違っていました」では済まされない。

 

(転生のことはこれからもずっと、誰にも言わない方が良いですわね)

 

非殺傷設定にも出来ず、確実に相手を殺してしまう魔法のようなものだ。中には俺自身のように転生を喜んで受け入れるような人間もいるが、それはあくまでも条件が整った場合のレアケースだろう。

 

何気なく両手でお湯を掬ってみる。とても小さい、子供の手だ。お湯から上がって風呂場の姿見を見れば、そこには幼いミント・ブラマンシュの姿がある。見た目はこんなに小さいのに、あっさり人を殺せる力がその中にあるのだ。

 

「まぁ、それは魔法も同じですわね。使い方を間違えないようにしないと、わたくしもテロリストと同じになり下がってしまいますわ」

 

そう呟くと、背中の傷痕を鏡に映してみる。普段はあまり目立たないが、お風呂に入って肌が上気すると若干浮き上がって見えた。

 

≪Why do not you fight against terrorists, swearing on your scar?≫【その傷に誓って、テロリスト達と戦うという設定は如何です? 】

 

「キャラじゃありませんわよ。っていうか、いつから見ていたのです? 」

 

≪From the beginning. I heard that a little girl was having a bath.≫【最初からです。幼女が入浴していると聞いて】

 

俺は黙って浴室のドアを開けると、いつの間にかその場にいたトリックマスターを、怪我をしていない左足で蹴り出した。

 




重ねて言いますが、トリックマスターにサンプリングされているのは女性の音声です。。

少し体調が良くないと思っていたのですが、どうやら風邪をひいてしまったようです。。
昨夜から38度弱の微熱が続いています。。

最近寒いですから、みなさまも寒暖差には十分お気をつけ下さいませ。。

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