他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第3話 「呪い」

「なんだ、ヴァニラまだ起きているのか? 」

 

お父さんが声をかけてきた時、私は丁度図書館で借りてきた医学書を読んでいるところだった。時計を見ると、もう22時になろうとしている。

 

「あ、もうこんな時間だったんだ…うん、もう寝る」

 

「勉強に精を出すのはいいが、あまり無理はするんじゃないぞ。お前くらいの年齢だと確り食べて、よく寝て、身体を作ることの方が大事なんだからな」

 

少し呆れたような表情でお父さんが言う。前世ではよく徹夜で勉強などもしたものだが、6歳になったばかりの今の身体は矢張り睡眠を必要としているようで、瞼はかなり重くなっていた。

 

≪Your awareness level is currently 1, master. You would be better to have asleep at once.≫【意識レベル1です。即刻お休みになることを推奨します】

 

「ほら、ハーベスターもこう言っていることだし、明日も学校があるんだろう? 」

 

「大丈夫、もう寝る…よ」

 

一度意識してしまうと眠気はどんどん強くなり、私はそのままベッドに倒れこんだ。お父さんがため息をついた記憶を最後に、私の意識は途絶えた。

 

 

 

翌朝、学校に行く支度を整えて朝食を摂っていると、お母さんとお父さんが話しかけてきた。

 

「ねぇヴァニラ。昨夜お父さんとも話したんだけど、やっぱり貴女くらいの年齢の子はちゃんと寝ないとダメだとおもうのよ」

 

「勉強自体が悪いとは言わないが、これからは21時を過ぎたら読書禁止だぞ」

 

「うん…ごめんなさい」

 

自業自得な訳だから返す言葉もない。転生前とちがって正に育ち盛りの今、勉強すればするほど身につくのが楽しくて、ついつい時間が経つのを忘れてしまいがちになってしまうのだが、それで身体を壊してしまっては元も子もない。両親の言い分は正論だろう。

 

「それにしてもヴァニラはすごいな。昨夜読んでいた本、お父さん少し見てみたんだが、全く判らなかったよ」

 

「また医学書なんでしょう? どんなものを借りてきたの? 」

 

「えっとね、脳神経外科学の間脳や下垂体、傍鞍部に特化した…」

 

「…もう、その時点で何を言っているのか意味不明だよ…」

 

お父さんは頭を抱えてしまった。

 

「なぁ、ヴァニラ。医学書が悪いっていう訳じゃないんだが、お父さんとしては、出来ればもうちょっと歳相応の…そうだなぁ、童話とか絵本とかも読んで欲しいものなんだがなぁ」

 

「そうねぇ。学校の先生からも、学業は優秀だけど、他の子達と遊んでいるところを見たことがないって言われてるし」

 

それは事実だった。クラスメートとはジェネレーションギャップというか、あまり話が合わず、必要最低限の話しかしていない。友達と呼べるのは無条件に慕ってきてくれるアリシアちゃんくらいで、学校には友達はいなかった。

 

「お父さんとしては、ヴァニラが天才だって騒がれているのが嬉しくない訳じゃないが、出来れば普通の子達と一緒に元気に育ってくれる方が嬉しいんだ。これはお母さんも同じ意見だよ」

 

お父さんの言葉にお母さんも頷く。それにしても、ちょっと学業の出来がいいと天才扱いされるのはこの世界でも同じようだ。チートのようなものなのに天才扱いされるのは胸がチクチクと痛んだ。恐らく晶も同じように思っていたのだろう。

 

「お父さん、お母さん、『10歳で神童、15歳で才子、20歳を過ぎるとただの人』っていう言葉、知ってる? 」

 

2人共、聞いたことが無い様子で、顔を見合わせている。

 

「あのね、20歳くらいの人がやっても当たり前のことを、10歳の子供がやると周りは天才だって騒ぐの。でも、それは他の人より成熟が早いだけで、その子が20歳になって同じことをやっても、それは普通のことなんだって」

 

両親はよく判っていない様子だったが、さすがに転生のことまで話すのには未だ躊躇いがあった。『貴方達が育ててくれた子供は、実は中の人が違うんです』などと言ってもいい気分はしないだろうし、それが元で親子関係を壊してしまうこともイヤだった。

私はこの時既にヴァニラ・H(アッシュ)として生きていく覚悟を決めていたし、今の両親のことは大好きだったからだ。

 

「私はちょっとだけ他の人より精神的な成熟が早かっただけ。天才っていうのとは違うと思うんだよね」

 

苦笑しつつそう言って、この話はお開きになった。朝食を終えると私は学校に向かい、お父さんは管理局に出勤した。

 

 

 

その日の放課後、帰宅するとアリシアちゃんが家にいた。どうやらプレシアさんがまた仕事の都合で少し遅くなるとのことで、晩御飯までは家で過ごすらしい。

 

「ヴァニラちゃん、おかえりー。一緒に本読もう!」

 

「うん、いいよ」

 

そう言ってアリシアちゃんが持ってきたのは1冊の童話だった。私の書架に置いてあるのは魔導書や医学書の類が殆どで、アリシアちゃんに読み聞かせても面白くないだろうと思い、2人で一緒に童話を読むことにしたのだが、読んでみて驚いた。

 

童話の内容は、次のようなものだ。旧暦よりも前の時代に、とある世界から転送事故で未開の世界に漂着してしまった女の子が現地の老夫婦に拾われて育てられることになる。この女の子はブライトナイト(輝く夜)と名付けられ、美しく成長するのだが、その後何人もの求婚者を退けて、最終的には元の世界に戻ってくるのだ。

 

(輝く夜って…どう考えても輝夜…かぐや姫だよね)

 

おまけに元の世界に戻った後も、彼女を諦めきれなかった未開世界の男性の一人が、彼女を追いかけてくるなんて言う後日談まで記載されていた。ここにこんな童話があるっていうことは、私が中野琴だった頃に住んでいた世界とミッドチルダに何らかの関係がある可能性がある。

 

別に今更戻りたいとは思わないが、何らかの繋がりがあるのなら、知っておきたかった。

 

「ヴァニラちゃん、ヴァニラちゃん大丈夫? 」

 

集中し過ぎていた所為か、アリシアちゃんが声を掛けてくれていたのに気付かなかったようだ。

 

「あ…うん、大丈夫だよ」

 

「ホントに? 何かお顔が真っ青だよ? アリアママ~」

 

ちなみに、アリシアちゃんは最近プレシアさんのことを「ママ」と呼び、うちのお母さんのことを「アリアママ」と呼ぶようになっている。

アリシアちゃんは、私が止める間もなくお母さんのところにかけて行ってしまった。

 

お母さんはすぐにやってくると、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 

「本当、顔色が悪いわ。ヴァニラ、少し休みなさい」

 

「ご飯になったら、起こしてあげるね」

 

お母さんとアリシアちゃんに、半ば強引に寝室に連れてこられた私はとりあえずベッドに横になった。

 

(竹取物語が実話だったって考えるよりは、作者の人が琴と同じ世界の出身って考えた方が自然よね…私と同じように転生しているのかもしれないし、もしかしたら行き来する手段があったりするのかも)

 

横になっていると多少落ち着いてきた。そう言えば時空管理局は数多の世界を管理していると聞いている。その中の一つが元の世界だっていう可能性もある。

 

「ハーベスター、『ブライトナイト』について、何か知ってる? 」

 

≪Sorry, but I do not have any knowledge regarding “Bright Night”.≫【申し訳ありませんが、その知識はありません。】

 

アリシアちゃん達が退室した後、ハーベスターに確認してみたが、返事は芳しくなかった。尤も魔法行使のサポートに特化したデバイスなのだから、童話の知識なんて最初からあまりあてにはしていなかったけれど。

 

(今夜にでもお父さんに聞いてみようかな)

 

そう思い目を閉じると、私はいつしか眠りについていた。

 

 

 

アリシアちゃんに起こされて、ご飯を食べにダイニングに向かうと、お父さんも帰宅していた。

 

「お父さん、お帰りなさい」

 

「ただいま。もう体調はいいのか? 」

 

「うん。もう平気。でね、あとでちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「ああ、じゃぁ食後にな」

 

その後プレシアさんも戻って、みんなで食事をした。

 

 

 

元々執務官というのは事件捜査や各種調査などを取り仕切る職業で、所属部隊における事件及び法務案件の統括担当者となる。執務官となるための認定試験は難関であり、資格を持つ者は重宝されるのだそうだ。ただその反面、仕事量は非常に多くなる…らしい。

 

「っていう話を聞いたことがあるんだけど、お父さんって結構家にいるよね? 」

 

「凶悪事件が起こればそうも言っていられないけれど、最近は平和だからな。回ってくる仕事も簡単なものばかりで楽だよ。でも来週から二か月くらいは家に帰れなくなりそうなんだ」

 

「あら、もしかして次元航行艦にでも? 」

 

「ええ、次元航行部隊への出向が決まりまして。手当は多くなりますが、家族に会えなくなるのはつらいものですな」

 

「あら、でも次元航行部隊に出向って言うことは、それまでの実績が認められたっていうことでしょう? 」

 

どうやらお父さんは、私が思っていた以上に優秀な局員だったらしい。そう言うとプレシアさんは「執務官だと言うだけでも十分エリートなのよ」と教えてくれた。

 

その後、食事を終えたプレシアさんとアリシアちゃんは自宅へと帰って行った。洗い物は殆ど私とアリシアちゃんで終わらせていたので、お父さんとお母さん、私はリビングで寛いでいた。

 

「で、何だい? お父さんに聞きたいことって」

 

「お父さんは、『ブライトナイト』って知ってる? 」

 

「ああ、有名な古典童話だからな」

 

「古典…そんなに古くからあるお話なの? 」

 

「ああ、少なくとも100年、200年といったレベルじゃないかな」

 

「それじゃぁ作者の人は…」

 

「『ブライトナイト』の作者は不詳だった筈だよ」

 

そういえばアリシアちゃんが持ってきた本にも作者名は記載されていなかった気がする。これでは舞台になった世界のこともきっと判らないだろうと思っていると、お母さんから予想外の答えが返ってきた。

 

「確かいろんな童話の研究をしている人がいて、以前何かで読んだんだけど『ブライトナイト』の舞台になったのは第97管理外世界なんだって」

 

「管理…外? 」

 

「ああ、魔法文明が存在していない、管理局が不干渉の世界のことだよ。第97は確か『地球』と言ったかな」

 

まるでハンマーで殴られたようなショックを受け、私は思わず立ち上がっていた。

 

「ねぇ、そこ!そこって行くこと出来るのかな!? 」

 

「ん? 何だ、そんなに『ブライトナイト』が気に入ったのか? 」

 

「違うの、そうじゃない、そうじゃないの!」

 

「少し落ち着きなさい、ヴァニラ。貴女、今日ちょっと変よ」

 

お母さんに宥められ、改めてソファに腰を下ろす。お父さんは私の顔をじっと見て、話し始めた。

 

「基本的に別の世界への一般人の渡航は禁止されている。管理世界であっても、許可が必要なんだ。これが管理外世界となると、許可が下りる可能性は極めて低いだろうな」

 

「そうなんだ…」

 

「なぁ、そんなに『ブライトナイト』に入れ込む理由を教えてくれないか? 」

 

渡航許可を貰うにはよっぽどの理由が必要なのだろうが、両親に転生のことを伝えるのは相変わらず躊躇われた。私は取り敢えず、物語の舞台に興味を持ったというような曖昧な答えをしてお茶を濁すことにした。お父さんは完全には納得していないだろうが、その場はそれで何とか収まった。

 

「じゃぁ、その童話研究家の人に会うことって出来ないかな? 」

 

「うーん、それくらいなら何とかなるかな。明日にでも局のデータベースで調べてみるよ」

 

「ありがとう、お父さん!」

 

翌日お父さんは約束通り研究者の人に週末のアポイントメントを取ってくれて、私はその研究者の人と会うことが出来るようになった。両親も同行しようと申し出てくれたが、どのような話になるのか判らないこともあり、お父さんに仕事を休ませるわけにもいかなかったので、今回は私が我儘を通して1人で会いに行くことにした。

 

 

 

その週末、私はプレシアさんとの魔法の練習をお休みして、童話研究者の人に会うためにミッドチルダ西部にあるエルセアというところに向かった。

その人はアレイスター・スクライアという人で、元々は遺跡などを発掘して出土品を売ることで生計を立てている一族の人らしい。発掘中の事故で両足を失い、その後は古文書の調査をしていたそうだが、そのうち色々な童話のルーツに興味を持ったのだそうだ。

 

話の内容から、念のためハーベスターもスリープモードにしておき、記録を残さないようにする。

 

「それにしても随分と可愛らしいお嬢さんが訪ねてきたものだね。初めまして。僕がアレイスター。アレイスター・スクライアだよ」

 

車椅子の男性が差し出してきた手を握り返す。

 

「初めまして。ヴァニラ・H(アッシュ)といいます」

 

「さてと…H(アッシュ)執務官から少し話は聞いているよ。『ブライトナイト』のことについてだったかな」

 

「えっと、『ブライトナイト』と言うよりは、その舞台と思われる世界についてお伺いしたいのですが」

 

「第97管理外世界だね。どうしてそんなことに興味を持ったんだい? 」

 

私はとりあえず転生のことを少しぼかして話すことにした。

 

「実は私には別の人格の記憶があります。その記憶では、私は『地球』の『日本』という国に住んでいました」

 

アレイスターさんは少し目を細めるて私のことを見つめた。

 

「成程、『日本』か。それで『ブライトナイト』を読んで驚いた訳だね。あちらには『タケトリモノガタリ』っていう、似たような話があるらしいからね」

 

「そこまでご存じなんですね」

 

「ああ、この世界にも第97管理外世界の出身者はいるからね。大方、昔『日本』からこちらに来た人が広めた話を、更に脚色したものが『ブライトナイト』の原型だろうね」

 

「でも渡航は難しいという話を聞きましたが」

 

「そりゃぁ、申請してもまず許可は下りないだろうね。でも『ブライトナイト』のような転送事故もないわけじゃないし、それに現地にもごく稀に魔力を持っている人がいるらしくてね。そうした人が管理局にスカウトされたりすることもあると思うよ」

 

「じゃぁ、管理局には『地球』から来た人もいると…」

 

「ああ。僕が知っているだけでも、『インゲリス』だったかな? そう言う名前の国から来たっていう人がいた筈だ」

 

「…『イギリス』でしょうか」

 

「そうそう!『イギリス』だったよ。僕は直接面識がある訳じゃないんだけれどね。もし会いたいなら、H(アッシュ)執務官に仲介して貰ったらいいんじゃないかな? 」

 

「ありがとうございます。その方のお名前は判りますか? 」

 

「ああ…確かギル・グレアム執務官長だったかな」

 

グレアム執務官長…長が付くのだから、お父さんの上司に当たる人なのだろう。出身はイギリスのようだが、その内お話しできれば、と思う。

 

「ところで君のその…別の人格の記憶っていうのは、どうやって手に入れたんだい? 記憶転写の理論はどこかの論文で読んだことがあるけれど、あれは元々人工生命体に別の人間の記憶を転写するというような内容で、そもそも倫理的にも問題があったし…」

 

「記憶の転写…そんなことが出来るんですか? 」

 

「ああ。確か『Fabrication of Artificial-life and Transferring-memory Engineering』(人工生命体の構築及び記憶の転写工程)っていう論文だったかな。でも君は見たところ普通の人間だし、仮にも法を守るべき管理局の、それも執務官の娘が法に触れる人工生命体とは考えにくいからね」

 

少し逡巡した後、私は晶から聞いた話と、中野琴としての私に起こったことを纏めて伝えることにした。アレイスターさんは更に目を細めつつ、私の話を真剣に聞いてくれた。

 

「あの…この話は他言無用でお願いします。特にうちの両親には内密にお願いしたいのですが」

 

「転生か…にわかには信じられない話だけれど…まぁ、あまり他人に吹聴するような話じゃないとは思うけど、どうしてご両親にまで? 」

 

「今の私はヴァニラ・H(アッシュ)で、中野琴ではありません。私は今の両親が好きですし、こんな話をしたら今の関係が壊れてしまうかも知れないと思うと、とても切り出せません」

 

「成程、そう言う事ならこの話は内密に」

 

アレイスターさんは悪戯っぽく笑ってウインクをした。

その後、私はアレイスターさんに自分が知っている日本のことを色々と教えて、アレイスターさんは管理外世界だけでなく、色々な管理世界についても話してくれた。お話をしながら、アレイスターさんはメモのようなものを書いていた。

 

「いろいろありがとうございます。学校でもこういったことはあまり教えて貰えないので、助かります。またその内、お話を聞きに来てもよろしいでしょうか? 」

 

「次か…うん、次があればね。構わないよ。さて、今日は少し遅くなってしまったし、そろそろ帰った方がいいね。生憎と僕はこの足だから駅まで送ってあげることは出来ないが」

 

「いえ、お気になさらないで下さい。それよりも今日はありがとうございました」

 

お別れを言う私にアレイスターさんは一枚のメモを渡してくれた。

 

「これは? 」

 

「大したものじゃないよ。さっき話をしていた時に思いついて書いたものだ。帰宅したら読んでくれればいい」

 

「判りました。ありがとうございます。では失礼しますね」

 

態々家の前まで出てくれたアレイスターさんに見送られ、駅へと向かう。エルセア駅で両親に帰宅する旨を伝えると、私はクラナガン行きの快速レールの発車時刻を確認し、切符を買ってから列車に乗った。

 

「ハーベスター、もういいよ。スリープモード解除」

 

≪Good morning, my master. Have you spent a fruitful time? ≫【おはようございます、マスター。有意義な時間を過ごせましたか? 】

 

「もう夕方だけどね。色々なお話を聞けて良かったよ。ちょっと疲れたから少し寝るね。クラナガンに着く前に起こしてくれる? 」

 

≪Sure. Please take a rest well.≫【了解しました。ゆっくりお休み下さい】

 

快速レールの心地良い揺れも相まって、私は直ぐに眠りについた。

 

 

 

夢を見ていた。アレイスターさんが優しく微笑みながら、私に手を振っている。ただそれだけの夢。でも何故か言いようのない不安に襲われて私は目を醒ました。

 

≪Are you OK? It will take around 30 more minutes to arrive Cranagan.≫【もうよろしいのですか? クラナガンまではまだ30分ほどかかりますが】

 

「うん、ありがとう。大丈夫だよ」

 

ハーベスターに答えると、私は別れ際に手渡されたメモを開いてみた。

 

---今日は貴重な話を聞かせてくれてありがとう。ふと思ったんだけど、転生の話はもしかすると何らかの魔力か、呪いのような力を持っているのかもしれない。君はもうこの話を他の人にすべきじゃないね。実証するには検証例が少なすぎるし、偶然と言うことも十分考えられるが、この話を聞いた人が漏れなく直後に転生していることが気にかかる。

 

もしかすると近いうちに僕に万が一のことがあるかもしれない。でもそうなったとしても、君には一切の非はないから気にしないようにね。むしろ今の記憶を保持したまま、新しい人生が送れるかと思うと、わくわくするよ。足も治るかもしれないしね。

 

もし僕が生きていたら、その時はまたお話しでもしよう。では元気で---

 

メモを読み終えた私は晶が話をしてくれた内容を思い返してみた。彼女は話を聞いたその日のうちに事故で転生したと言っていた。私も晶から話を聞いたその日のうちに事故で転生している。もし本当に転生の話が呪いのようなものであれば、アレイスターさんも今日中に他界してしまう可能性があるということだ。不安が大きくなり、気が焦る。

 

本人はそれを望んでいるような感じでもあったし、気にするなとも言われたが、私の話のせいで人が亡くなるのは矢張り複雑だった。

 

(考えすぎだったらいいな…またお話ししたいし)

 

≪Master, we will arrive Cranagan in 5 minutes. Please get ready.≫【5分ほどでクラナガンに到着します。支度して下さい】

 

ハッと我に返る。ハーベスターにお礼を言うと私は荷物を纏めた。アレイスターさんに渡されたメモは4つ折りにして私以外が開けないように封印魔法をかけておく。

 

快速レールを降り、改札を抜けるとお父さんが迎えに来てくれていた。

 

「ヴァニラ!大丈夫だったか? 」

 

「初めてのお遣いじゃないし、一人でも快速レールくらい乗れるよ」

 

「そうじゃなくて、さっきニュースでスクライア氏の自宅にトラックが突っ込んで、彼が亡くなったって」

 

予想していなかった訳では無いが、こんなにも早くに事態が動いたことには驚いた。だが考えてみれば私の時も話を聞いて晶と別れた直後に事故が起きている訳だし、かなり即効性が高い呪いなのかもしれない。

さっきまでお話をしていたアレイスターさんの笑顔が脳裏をよぎり、思わず涙がこぼれる。今となっては、アレイスターさんが幸せな転生をしていることを祈るばかりだった。一度涙が溢れると、私はそのまま暫く泣き続けた。お父さんはそんな私の肩を優しく抱いて、車に連れて行ってくれる。

 

そして私は二度と転生の話を他の人にしないことを心に誓った。

 




プロジェクトFATEの元になる論文名はオリジナルです。。
「ブライトナイト」は「Bright Night」です。「Bright Knight」ではありませんので、別に巨大ロボットに乗ったりはしません。。

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