他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第6話 「入院」

「ミントぉ、ミント…ふぇぇぇ」

 

「お母、さま。わたくしは、大丈夫、ですから。もう、泣きやんで、下さい、ませ」

 

「全然大丈夫に見えないし、聞こえないわよ!」

 

泣くか怒るかどちらかにして欲しいとも思うが、母さまにはそれだけ心配をかけたのだろう。申し訳なく思う気持ちもあったが、不思議なことに、それ以上に嬉しく感じている自分がいた。

 

「お話し中、失礼します。この度はお嬢さんに大怪我を負わせる結果になってしまい誠に申し訳ございません」

 

病室の入り口のところで花束を持ったベアトリスさんが敬礼をしていた。

 

「ああベアトリスさん、そんなに硬くならないで下さい。ミントから聞いていますよ。あなたが命の恩人だって」

 

「恐縮です」

 

実際ベアトリスさんが来てくれなかったら、俺はあの魔導師に殺されていただろう。自分の未熟さを呪うばかりだが、今は養生するしかない。一度母さまから就学を取り止めてブラマンシュに帰るか、とも聞かれたのだが、折角なので就学は予定通りすることにした。原作介入を決めた以上、それなりの実力を身に着けておく必要がある。今の年齢では、同じように高みを目指す人達と一緒に切磋琢磨するのが近道だと思ったのだ。

 

「ミントちゃん、先日の陸士隊の人が少しお話を聞きたいって言ってるんだけど、大丈夫? 」

 

一頻り母さまと話をした後、お見舞いの花束を花瓶に活けながらベアトリスさんが聞いてきた。恐らくは実況見分のようなものだろう。

 

「はい、それは、構いません、が」

 

「ありがとう。じゃぁ連絡しておくわね。ところで、まだ痛むの? 」

 

「はい、少し」

 

「そう…本当にごめんなさいね。私がもう少し早く到着できていたら」

 

そうは言ってもベアトリスさんは俺との念話中に既に陸士隊への第一報を入れており、更には念話が切れた後すぐに市街地内転移魔法使用の申請を出して、許可が下りると同時に転移してきてくれたらしいのだ。

 

「これ以上を、望んでは、罰が、当たり、ますわ」

 

そう言うと、ベアトリスさんも少し微笑んだ。

 

結局陸士隊の人は今日の夕方16時に病室まで来てくれることになった。気を失う直前にぼんやりと考えていた階級差についてベアトリスさんに聞いたところ、現場で会った人は三等陸尉の階級章を付けていたのだそうだ。

 

「私は二等空曹だから、確かに階級で言えばあの人の方が上ね」

 

「初見の、方も、階級章で、判断、されるの、ですか? 」

 

「普通はそうね。他に参考に出来るような情報もないし、階級章があれば一目瞭然だから」

 

なんだか急に時空管理局が軍隊っぽく見えてきて、少しだけ嫌な気分になってしまった。階級社会なのは警察も軍隊も同じ筈なのに、矢張り自分が慣れていない軍隊のような階級の呼び方は忌避感のようなものが働くのかもしれない。

 

ベアトリスさんの用事はお見舞いついでに陸士隊の伝言を伝えることだけだったので、直ぐに仕事に戻ることになった。

 

「ねぇミント。ミントは将来、管理局員になりたい? 」

 

母さまがそんなことを聞いてきた。

 

「そう、ですわね、お給料は、良い、ようですが、階級、制は、あまり、わたくしの、趣味に、合っている、とは、言い難い、ですわ」

 

「あらあら、あまり無理して喋らないでもいいのよ。じゃぁミントは管理局入りはしない? 」

 

「今は、興味が、ありません、わ。嘱託、くらいなら、考え、ますけど」

 

嘱託魔導師というものが存在する。これは管理局の仕事を手伝い、お給金も貰うことが出来るのだが、正式には管理局に所属しているわけではない。あくまで「協力者」というスタイルになるため、あまり細かい規則まで従わなくてもよい反面、いつでも簡単に辞めさせられてしまう可能性があるし、正規の局員と比較したら給与も少なめだ。

 

尤もいくら給与が少な目とはいえ、普通に次元世界で仕事を探すならその中では破格といえる収入があるし、簡単に辞めさせられるというのは裏を返せば簡単に辞められるということだ。ただ聞くところによると時空管理局は随分と人手不足のようだし、辞めさせられるようなことはそうそう無いだろう。

 

「まぁ、いずれに、しても、スカウトの、対象は、初等科、3年以降、ですわよ」

 

魔法学院の初等科では最初の2年間を人格形成期間とし、魔法の授業に先駆けて倫理面や基礎座学を行う。その後3年に進級する時に改めて魔力量の測定を行い、それが公式記録として残るため管理局のスカウトは基本的にはこの時期から始まるのだ。

 

母さまとそんな話をしていると、サリカさんが病室に入ってきた。

 

「ミントちゃん、検温の時間よ」

 

耳に小さな体温計が当てられ、直ぐにホロウインドウが展開される。こうしたところはさすがに地球よりも随分発達しているようだ。

 

「37度2分。ちょっと高めだね。お喋りしすぎちゃったかな? 」

 

「夕方に陸士隊の人が聴取に来るんでしょう? 大丈夫? 」

 

時計を見ると14時少し前だった。今から一眠りすれば多少は体調も良くなるかもしれない。

 

「16時まで、まだ、少し、時間も、あります、から、休むことに、しますわ。三等陸尉が、いらっしゃったら、起こして、下さい、ませ」

 

「そうね、判ったわ。あとイザベルさん、少しお話できます? 」

 

「ええ。じゃぁデイルームの方で。ミント、ゆっくりお休みなさい」

 

母さまとサリカさんが病室を出ていくと、不意に睡魔が襲ってきた。俺は背中の傷に障らないよう、そっとベッドの上で横になると、そのまま意識を手放した。

 

 

 

=====

 

三等陸尉は16時丁度に到着し、俺はサリカさんに起こされた。ルーク・オハラと名乗った陸尉の用向きは思った通り実況見分だったのだが、聴取が終わって報告書を纏める際にちょっとした問題点が発覚した。

 

「魔導師登録がない子供が、街中で魔法を使ったというところが問題だな」

 

「魔導師、登録を、するために、クラナガンに、来たところ、事件に、巻き込まれ、たのですわ」

 

「いや嬢ちゃんの言い分も判るんだが、一応規則があってな。厳重注意ってことになるだろうな」

 

「理不尽、ですわね」

 

「報告書にウソは書けないんだ。すまないな。一応民間協力者っていうことで進言はしておくよ」

 

申し訳なさそうに頭を掻く姿には多少好感が持てた。

 

「別に、わたくしの、ことを、報告書に、書かなければ、済むことでは、ないのですか? 」

 

「それが例の犯人が嬢ちゃんのことまでベラベラと喋っちまってな。書かざるを得ない状況になっちまった。災難だと思って諦めてくれ」

 

「判り、ましたわ。いずれ、犯人を、半殺しに、すると、いうことで、この場は、収めましょう」

 

「ははは。冗談を言えるだけの元気があれば大丈夫だな」

 

勿論冗談なのだが、あの現場で流れた血を思い出すと、あながち冗談では済ませられないような気がした。

 

「あの、被害に、遭った、方々は、大丈夫、ですか? 」

 

「嬢ちゃんを含めた重傷者が38名、軽傷者は72名だ。死者が出なかったのは不幸中の幸いだな」

 

あれだけの流血があって死者がいないというのは奇跡的だろう。俺はホッと安堵の息を吐いた。

 

「だがあのショッピングモールの被害は甚大だ。当分の間、立ち入りは禁止になるだろうな」

 

「あ、鶏、料理の、お店は」

 

「あそこは瓦礫で埋まっちまったな。なんだ、食べたかったのか」

 

項垂れるように頷いた。元々、それが目的であのモールに立ち寄ったのだ。だが暫く営業再開は出来ないだろう。

 

「あそこの店と同じ系列の弁当屋がうちの隊舎にも販売に来るぞ。弁当だけだからガイドとかには載ってないが、味は変わらない筈だ」

 

「え!」

 

反射的に上体を起こすと、またしても激痛に悶絶することになった。

 

「おいおい、あまり無理するなよ。そんなに食べたかったのか。弁当物でよければ明日にでも持ってきてやるよ」

 

「あり、がとう、ござい、ます」

 

痛みのせいで涙をボロボロと流しながらお礼を言うと、ルークさんは若干引いたようだった。とりあえず実況見分のお礼ということにしてくれたので、調子に乗って母さまの分と合わせて2つの『揚げ鶏の香味タレ』弁当をお願いしてしまった。

 

 

 

ルークさんが帰った後、母さまとサリカさんから今後の予定について話を聞いた。結局俺の怪我は全治1か月といったところのようだ。一応2週間程度で背中の抜糸を行い、両腕のギプスを取る予定らしいのだが、経過次第では長引く可能性もあるらしい。

 

ここで非常に困ったのはお手洗いだった。両腕がギプスで固められ、動かせるのは指先くらい。右足の脛にもヒビが入っているため、満足に歩き回ることすら出来ないのだ。

 

尿瓶等を使用するにしても一人で処理をするのは困難で、母さまやサリカさんに手伝ってもらうのはあまりにも恥ずかしすぎた。最終的に用を足す時にはお手洗いまで付き添ってもらい、介助してもらうことで妥協した。

 

「ミントの世話はよっぽどのことがない限りお母さんが見るわよ」

 

「で、イザベルさんが手伝えない時は私が代理で」

 

母さまとサリカさんの間でそういう分担ができたらしい。怪我が完治するまでの1か月間は、母さまもクラナガンに滞在することになったのだが、病院への泊まり込みが認められていないため当面サリカさんの自宅にお世話になることになったのだそうだ。

 

「わたくしが、寝ている、間に、そのことを、話して、いたの、ですわね」

 

「まぁ殆ど雑談だったけどね。今回みたいな事件って頻繁に起きるのか、とか」

 

クラナガンで違法魔導師によるテロ行為が行われるのは、実はあまり珍しいことではないらしい。年間を通しても3、4回は発生するそうで、死傷者の数も無視できないレベルなのだとか。

 

「今回は幸い死者は出なかったけれど、運が良かっただけね。実際かなり危険な状態だった人も何人かいたし」

 

「そういう話を聞いちゃうとやっぱり怖いわ。ミント、学校に通うのは良いんだけど、今からでも他の世界の学校にした方がいいんじゃないかな」

 

「でもイザベルさん、クラナガンは管理局地上本部の御膝元だし、他の世界だともっと治安が悪いところもあるって聞きますよ」

 

結局ブラマンシュと比較したら大抵のところは危険なのだ。クラナガンの人口はブラマンシュの5万倍以上である。つまりそれだけいろいろな人がいる訳で、犯罪の発生率だって高くなって当然だろう。今から改めてクラナガン以外のステイ先を探すのが困難ということもあって、学校については現状維持となった。

 

「あ、サリカさん、そういえば、病室で、お弁当を、食べても、構いませんか? 」

 

ふと思い出したので、念のため聞いてみた。多分大丈夫だろうとは思ったのだが、前世では食品衛生上、外部からの食品の持ち込みを禁止している病院もあったためだ。

 

「お弁当かぁ。まぁミントちゃんの場合、内臓の方は健康だから基本的には問題ないけど、あまり固いものはダメよ」

 

「揚げ鶏の、香味タレ、弁当、ですわ。今日、いらした、ルークさんが、持ってきて、下さる、ので」

 

「揚げ鶏ね。多分大丈夫だとは思うけど、一応確認させて貰うわよ。いつ? 」

 

「明日の、お昼、ですわ」

 

母さまの分も一緒にお願いしたことを伝えると、サリカさんは少し考えるようにした。

 

「それならお弁当食べるの手伝ってあげるわ。イザベルさんも一緒に食べるなら、その方が良いでしょう? 確認も出来るし」

 

「そっか、そうね。そうして貰えると私も助かるわ」

 

言われて初めて気がついたのだが、俺の両腕は今ギプスで固定されていてナイフやフォーク、スプーンも持てないような状態だった。今日はお昼に点滴だけ打って寝てしまったため、気づかなかったのだ。それに母さまも、自分が食べながら俺に食べさせるというのは大変だろう。

 

「丁度今夜から病院食になる予定だったから、後で少し練習してみようか」

 

にっこりと微笑むサリカさんに、俺はこくりと頷いて返した。

 

 

 

=====

 

翌日のお昼に、ルークさんがお弁当を3つ持ってやってきた。

 

「お前さんが凄く期待してるみたいだったから、オレも食べてみたくなって買ってきてみたんだが…1つ足りなかったか? 」

 

病室には俺の他に母さまとサリカさんがいる。

 

「ああ、私は後でちゃんと休憩のシフトが入ってるから心配しないで下さい。今日はミントちゃんのフォローですよ」

 

サリカさんがいつもの笑顔で言う。

 

「そうか。何だか悪いな。で、そっちの嬢ちゃんは姉さんか? お袋さんがいるって聞いたと思っていたが」

 

「はい、母、です」

 

俺に紹介されたイザベル母さまがにっこり挨拶をすると、ルークさんは随分と驚いたようだった。

 

「いや、どう見ても15、6歳にしか見えないんだが。犯罪なら管理局員として取り締まった方がいいのか? 」

 

「わたくし達、ブラマンシュは、そういう、種族、なのですわ」

 

「ええ。見た目はともかく、私ももうすぐ30歳になりますしね」

 

「マジか。いや、すまん。まさかオレと殆ど同い年とは思わなかった」

 

母さまが悪戯っぽく笑うと、ルークさんは若干恐縮した様子でそう言った。

 

「歳の、話は、それくらいに、して、おきましょう。お弁当が、冷めて、しまいますわ」

 

「そうね。じゃぁ、『今日の糧に感謝を』」

 

母さまとルークさんは早速お弁当を開けて食べ始めた。サリカさんも俺の前にあるお弁当の箱を開けてくれる。そこには以前食品サンプルで見たものと同じような揚げ鶏が鎮座していた。

 

「ミントちゃん、先に一口貰うわね」

 

そう言ってサリカさんが端の鶏肉を口に運んだ。

 

「あら、美味しい。甘いようでちょっと辛味もあって…不思議な味ね」

 

「固さは、大丈夫、そうですか? 」

 

「うん。これなら問題ないわね。はい、ミントちゃんもどうぞ」

 

あーん、と言いながらサリカさんが鶏肉を差し出してくれる。口にした瞬間、生姜とニンニクの風味が口の中に広がった。ベースは矢張り醤油のようだが、次元世界にも醤油があったのかと、改めて少し驚いた。

 

「本当に美味しいわね。これ自宅で再現出来ないかしら」

 

母さまがサリカさんとレシピについて相談し始めた。

 

「あぁ、これは管理外世界の『しょーゆ』っていうソースだ。確か臨海エリアの店で売っていたな」

 

「え、そう、なの、ですか? 」

 

醤油が次元世界でも入手できるというのは朗報だった。貴重な情報をくれたルークさんに感謝する。退院したら是非行ってみようと思った。母さまやサリカさんも興味を持ったようだったので、お土産にも良いかもしれない。

 

「じゃぁ、ミントちゃんが良くなったら、イザベルさんがブラマンシュに戻る前にみんなで行ってみましょう」

 

ルークさんにお店の名前や場所を確認したサリカさんがそう言った。醤油があれば料理の幅は大きく広がることになるだろう。今から楽しみだった。

 

 

 

「そう言えばお前さんは随分大きな魔力を持っているようだが、空は飛べないんだったな。空戦適正がないのか? 」

 

食事を終えた後、ルークさんが聞いてきた。

 

「いえ、友人の、話では、適性自体は、あるよう、ですわ」

 

ユーノと浮遊魔法の練習をしていた時のことを思い出す。結局飛行魔法は使えなかったのではなく、使わなかったのだ。

 

「バリア、ジャケットの、管理を、任せられる、デバイスが、ありません、ので」

 

「そうか、残念だな。まぁお前さんは元々シャリエ二等空曹の知り合いだったか」

 

シャリエというのはベアトリスさんの苗字だった。

 

「あら、もしかして三等陸尉殿はミントみたいな小さな子まで管理局に勧誘するおつもりですか? 」

 

母さまが冗談めかして言うと、ルークさんはふっと息を吐いた。

 

「いや、貴女が30歳近いのなら、このお嬢ちゃんももしかしたら15歳くらいとか」

 

「昨日、聴取を、受けた時に、ちゃんと、5歳と、申告、しましたわよ」

 

「ああ、判ってる。冗談だよ」

 

勧誘しようとしたのは冗談ではないようにも思うが、敢えてスルーした。きっと少しでも才能のある人を見かけると勧誘したくなるのは、職業病のようなものなのだろう。

 

「まぁ、今の、ところ、海でも、陸でも、管理局に、入局する、つもりは、ありませんわ」

 

「ん? どうしてだ? お前さんほどの魔力があれば、将来は安泰だろうに」

 

「わたくしは、ルークさんを、オハラ、三等陸尉、と呼ぶのは、抵抗が、あります、から」

 

ルークさんは俺の意図するところを理解しきれてはいない様子だったが、どうやら束縛されるのがイヤらしい、という感じで受け取ったようだった。強ち間違いでもないので突っ込んだ訂正はしないでおいた。

 

「そう言えば、ルークさんは、そんなに、魔力は、高く、ないのですか? 」

 

「判るか? まぁ精々Cランクってところだな。元々オレは魔力よりもこっちでやってきたからな」

 

そう言って力瘤を見せる。ストライクアーツの使い手なのだそうだ。

 

「オレの上司はそれこそ魔力なんて全然ないのに、立派な管理局員だよ。あと数年で佐官だろうな…っと、すまんな、随分長居しちまった。そろそろ仕事に戻るよ」

 

壁の時計に目をやったルークさんが慌てたようにそう言った。お昼を食べ始めてから既に1時間が経過していた。

 

「下まで送りましょう。じゃぁミントちゃん、イザベルさん、また後で」

 

サリカさんがルークさんと一緒に病室を出る。母さまが弁当ガラを分別してビニール袋に分けた。リサイクルするにしても焼却処分するにしても、分別は大事だ。

 

「すみません、お母さま。わたくしも、お手伝い、出来れば、良いのですが」

 

「貴女はまず身体を治すことを考えなさい。そうね、普通に喋れるようになるくらいには」

 

そう言って母さまはふっと笑った。

 

「ミントは昔からいろいろと聞きわけが良くて、殆ど手もかからない子だったけれど、だからこそこうして母親として面倒を見てあげられるのが嬉しいのよ」

 

「お母さま…」

 

「でも!もう二度とムチャはしないで頂戴。今回は本当に寿命が縮んだわよ」

 

「あ、でも、今回は、あくまで、巻き込まれた、だけで」

 

「ミント。返事は? 」

 

「…はい、ごめん、なさい」

 

心配をかけたのは重々承知しているので、素直に謝る。

 

「ミントは、魔法使うのは好き? 」

 

「そう、ですわね。昔は、あまり、興味も、ありません、でしたが。今は、いろいろ、覚えるのも、楽しいですわ」

 

基礎的な構築式を弄って自分のオリジナル魔法を作って、それが発動した時は快感もある。フライヤーの発動が成功した時は感無量だった。

 

「ユーノさんの、影響かも、しれませんわ」

 

「これから学校に行けば、きっともっと沢山のお友達が出来て、いろんな知識を得られるようになるわ。それはきっと貴女にとってとても大切なことよ」

 

「そう、ですわ、お母さま。一つ、お願いが、あるのですが」

 

「なあに? 」

 

「クラナガン、セントラル、魔法学院の、試験、問題集の、ようなものが、あったら、やって、みたいのです」

 

どうせ入院中は暇なのだ。予定していた魔導師資格取得も延期せざるを得なくなってしまったことだし、出来ることから順番にやっていくのが良いだろう。

 

「判った。近くに本屋さんもあるだろうから、今日の帰りにでも買って、明日持って来るわね」

 

そんな話をしているうちに、サリカさんも戻ってきた。

 

「あ、イザベルさん、ゴミ纏めておいてくれたんですね。ありがとうございます」

 

「逆にこれくらいしかできないのよ。気にしないで」

 

母さまからゴミ袋を受け取るとサリカさんは病室を出ようとして、ふと思いついたように振り返った。

 

「そう言えばミントちゃん、さっきデバイスを持ってないって話してたわよね」

 

「はい、高価な、物ですし、子供が、持つような、物では、ありませんから」

 

元々デバイスと言うのは魔導師が魔法を行使する時の補助を行うためのものであり、まだ成長途中の子供が使うといろいろと弊害があると言われている。例えば計算機を使って計算をすることに慣れた子供が暗算出来なくなるとか、オートコレクト機能に頼った文章を書く子供が単語の正確なスペルを覚えていないとか、そう言ったことだろう。

 

「うん、それ良く聞くんだけどね。うちの両親に言わせると、少し違うみたい」

 

「サリカさんの、ご両親、ですか? 」

 

「そう。エルセアで、デバイスのお店をやっているの。デバイスマイスターなんだよ」

 

聞けばサリカさんの父親がA級のデバイスマイスターらしい。母親は元管理局の局員だったのだそうだが、今は引退してお店の手伝いをしているのだとか。

 

「確かに、身体が確り出来ていない子供がデバイスに振り回されると良くないっていう話もあるけど、一部の魔力が大きい子供はむしろデバイスを使った方が良いんだって」

 

「そう、なの、ですか? 」

 

その話は初耳だった。ただサリカさんも詳しい事は判らないらしく、退院後にエルセアに連れて行ってくれることになった。

 

「直接お話しした方が、色々と判るでしょう。私には魔力もないし、魔法のことはさっぱりだから」

 

「ありがとう、ございます。楽しみ、です」

 

エルセアと言えば、ジャンさんの出身地でもあった。お墓参りに寄らせて貰うのも良いだろう。

 

「すみません、わたくしの、ポーチは、ありますか? 」

 

「う、ん。ちょっと壊れちゃったけれど。ここにあるわよ」

 

サリカさんに取ってもらったポーチはベルト部分が引きちぎられたようになっていたものの、中身は無事のようだった。ランスター家の住所が書かれたメモがちゃんと入っていることを確認して、ホッと息を吐く。

 

「ポーチだけじゃなくて、着ていた洋服ももう買い替えないとダメね。さすがにあそこまで酷い状況だと修復は無理だし」

 

「お気に入り、だったのですが。仕方、ありませんわね」

 

殺傷設定の射撃魔法を受けて、更にほこりや流れた血を散々吸ってしまった布地はもう服としては機能しないだろう。元々滞在中の着替えを多く持ってきた訳ではないので、退院したら買い物に行く必要はあった。服もその時に買うことにしよう。そう言うと、母さまもサリカさんもそれは楽しみだといって微笑んだ。

 




今回はいろいろと書き難かったです。。
何度も何度も書き直しているうちに時間だけが過ぎて行きました。。

ルーク・オハラ三等陸尉はオリジナルキャラです。。
ちなみにもう何年も昔にTRPGで私がGMをやったときのシナリオで活躍した
主人公の剣士で、それはもうすごく強くてかっこよかったのですが、
今回は脇役での登場でした。。

もっとも例によって名前だけですが。。

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