他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第21話 「青い少女」

「桜、満開だね~」

 

お弁当を食べ終えた後、アリシアちゃんが屋上のフェンスから校庭を見下ろしながら言う。私達はつい先日3年生に進級したばかりだ。なのはさん達とはまた同じクラスだったので、お昼は相変わらず屋上だ。

 

「キレイだよね、桜」

 

私もアリシアちゃんの隣に立って校庭の桜を眺める。矢張り日本の桜には、ミッドチルダの春では感じることのできない風情がある。ミッドチルダにも実はソメイヨシノに良く似た桜があるのだが、日本のものとは少し趣が違うようにも感じる。

 

「…何が違うんだろう? 」

 

「何? どうしたの? 」

 

思わず口をついて出た呟きに、アリサさんが反応した。

 

「あ、ちょっとね。イギリスにも桜はあるのに、日本で見ると全然風情が違うなって思って」

 

「あぁ、そう言うこと。そりゃぁ街並みや景色が違えば風情も変わって見えるわよ」

 

「そうだね。日本とイギリスじゃぁ湿度とかも違うだろうし、春霞とかもたぶん日本独特の気がするよ」

 

アリサさんの答えに合わせてすずかさんも説明してくれた。何でも湿度が高いと遠くの景色が霞んで見えるのだとか。

 

「建物の雰囲気も違うんだよね? やっぱり桜って言ったら木造家屋なんじゃないかな? ミ…イギリスって煉瓦造りなんでしょ? 」

 

なのはさんも加わってきた。今、危うく「ミッド」と言いそうになったのは聞かなかったことにしておく。確かにミッドチルダでは木造建築を見ることは殆どなく、それよりも石造建築の方が主流である。私は頷いてなのはさんの質問を肯定する。

 

「うん、良いよね~日本の春…気持ち良すぎて、朝起きれないけど」

 

「春眠暁を覚えずだね」

 

アリシアちゃんが改めて感想を述べるとすずかさんが孟浩然の漢詩を例えに出す。

 

「あれって、そう言う意味だった? あたしはてっきり春だから日の出が早くなって目が醒めた時にはもう明るい、っていう意味かと思ってたけど」

 

「それも解釈の一つだよ、アリサちゃん」

 

「にゃぁぁっ、アリサちゃんとすずかちゃんが未知の言語でお話してるよぅ…」

 

「うん、そうだね~全然わかんないよ」

 

なのはさんとアリシアちゃんは孟浩然を知らないらしい。尤もこれは確か小学校6年生レベル。3年生で教わる内容ではないので、知らなくても今は問題ない筈だ。

 

「でも、それはヴァニラちゃんも知ってるってことだよね!? 」

 

「あ…ほら、私はすずかさんと同じで読書が好きだから」

 

慰めようとしたのだが、逆に藪蛇状態になってしまった。苦し紛れの言い訳で何とかその場を切り抜ける。ついでに話題を逸らせないか試してみた。

 

「と、ところでそろそろ温泉旅行に行くとか、言ってなかったっけ? 」

 

「そっか、もうそんな時期だっけ。今年も行くよね? 」

 

「もちろん。うちは今年も両親の都合がつかないから、あたしだけの参加になるけど」

 

「うちは忍お姉ちゃんも、ノエルもファリンも行く気満々だよ」

 

高町家と月村家は毎年一緒に海鳴温泉郷にある「山の宿」という旅館に1泊2日の旅行に行くのだそうだ。本来ならバニングス家も一緒に、と言いたいところなのだが、残念なことにご両親がお仕事で忙しいらしく、参加するのは毎年アリサさんだけなのだそうだ。

 

何とか話題を逸らせたようでホッとしていると、なのはさんから念話が届いた。

 

<話題を逸らすならもうちょっと自然にした方がいいよ。今日は取り敢えずのっておいてあげるけど>

 

どうやら今回はなのはさんのお情けで見逃して貰えたようだった。がっくりと項垂れたところで予鈴が鳴り、私達は教室に戻った。

 

 

 

3年生に進級して、私の周りで劇的な変化があったかといえばそんなことは全くない。精々半年前と比べて髪が5cm程伸びたことくらいで、他には特に変わったことは無かった。

 

当然ミッドチルダへの帰還方法は判らないままだ。半年前に海鳴に来たばかりの頃はとにかく何とかして帰る方法を見つけられないかハーベスターにも色々訪ねたりしたものだが、最近はその回数も減ってきていた。

 

(別に諦めた訳じゃないけれど)

 

自分で自分に言い訳をしてみる。ただ本当に慣れと言うものは恐ろしいもので、以前と比べて何が何でも帰りたいというような気持ちは明らかに小さくなっていた。これはアリシアちゃんが帰還に対して然程執着していない様子に影響されたこともある。

 

最初のうちは、アリシアちゃんも痩せ我慢しているのではないかと思っていたのだが、注意して様子を見ていても別にホームシックにかかったような素振りもなく、天真爛漫を装う陰で涙したりなどといった様子もない。

 

気になって一度本人に聞いてみたところ、取り敢えずいつか帰れると信じて、今は今で精一杯楽しむのだとの答えがあった。本当に、精神的には私よりもずっと強い子なのだ。

 

 

 

「みんな、そろそろ帰ろう~」

 

午後の授業が終わると、アリシアちゃんが声をかけてくる。

 

「あ、今日わたし達は塾の日だから、途中までね」

 

なのはさんは以前言っていた通り、3年生に進級してからアリサさんやすずかさんと同じ塾に通っている。バイオリンのお稽古の時は鮫島さんが車で迎えに来てくれるのだが、塾はバイオリン教室と比べても割と近いこともあり、学校から桜台公園経由で歩いて行くことが多いのだ。

 

公園内の池畔にある貸しボートの小屋のあたりまでお喋りをしながら歩く。ここは延々と桜並木が続いており、桜の名所としても名高いせいか、辺りにはブルーシートが所狭しと敷かれていた。若い会社員の姿もちらほら見えるが、恐らく場所取りを任されているのだろう。

 

「日本って、お祭りが多いよね~」

 

アリシアちゃんが嬉しそうに言う。言われてみればお花見会場には自治体によるとはいえ、ほぼ例外なく的屋さんが屋台を出すものだし、確かにお祭り的な行事には違いない。

 

「アリシアちゃん、お祭り好き? 」

 

「うん!私自身も楽しいけど、他の人達も楽しそうにしてるから、何か嬉しくなるんだ」

 

会話をしているすずかさんやアリサさん、なのはさんも明らかに雰囲気を楽しんでいる様子だし、第一お祭りが嫌いな子供はいないだろう。

 

「そうそう、一年中何かしらお祭りがあってお酒が飲める歌って知ってる? パパが歌ってたのを聞いたんだけど」

 

「あ、それ聞いたことあるよ。1月がお正月で、2月が節分だっけ? 」

 

「そうそう、そんな感じ。4月はお花見だったわね」

 

「大人ってお酒好きだよね~美味しいのかな? 」

 

「よく判らないよね。美味しいっていう人もいるけど、苦手な人もいるみたいだし」

 

「まぁ、わたし達は20歳になるまで縁のないお話だけどね。そう言えばお父さんやお母さんがお酒飲んでるところもあまり見たこと無いかな」

 

「あ、でもお正月に甘酒っていうのを貰ったよ!」

 

「アリシア、あれは『酒』って名前がついてるけど、本当のお酒じゃないのよ」

 

お祭りの話だった筈なのに、いつの間にかお酒の話になっていた。

 

「お酒って身体にいいのかな? よく『百薬の長』って言うよね」

 

「あ、なのはさん。それね、続きがあるんだよ」

 

酒は百薬の長、されど万病の元。そもそもアルコール自体に発癌性があり、咽頭癌や食道癌、大腸癌、女性であれば乳癌の危険性もある。お酒に弱いと言われる人は尚更リスクが高いと言われている。お酒に強いと言う人は逆に肝臓に中性脂肪が溜まってしまう所謂脂肪肝のリスクが高くなり、ひいては肝臓癌を発症することになる。他にも脳の委縮やアルコール中毒など、挙げ始めたらきりがないのだ。

 

「ふぅ~ん…何だかタバコみたいだね」

 

「じゃぁ何で百薬の長みたいな言葉が出来た訳? 」

 

「タバコは百害あって一利なしって言うんだけどね。お酒の場合は全く飲まない人よりも、少しだけ飲んでいる人の方が長生きするんだって。もちろん、飲みすぎたら逆効果だけどね」

 

「あ、あと美肌効果があるとか聞いたことあるんだけど」

 

「ウイスキーとかだと、メラニン色素を抑制する酵素が含まれていたりするらしいから、そのことじゃないかな? あとすずかさん、この場合だと美肌じゃなくて美白だよ」

 

「ヴァニラってこの手の話になるとやたら饒舌になるわよね」

 

「趣味みたいなものだから」

 

「…何かイヤな趣味よね」

 

本日2度目、がっくり項垂れる。

 

「大丈夫、きっとヴァニラちゃんはいいお医者さんになるよ!」

 

お昼休みに私を項垂れさせた本人は、今度は私のことを慰めてくれた。

 

 

 

 

その後塾に向かうなのはさん達と別れて、私はアリシアちゃんと一緒に桜並木を歩く。なのはさんが塾に通うようになってから、高町家の門限は18時から19時に延長された。塾は18時30分までだそうなので、丁度いい時間ではある。

 

「かといって、別にやることも無ければ早く帰っちゃうよね~」

 

「まぁ、折角だからのんびり桜でも見ながら帰ろうか」

 

「うん!」

 

桜台公園はその名が示す通り桜の名所で、大き目の池の周りをぐるっと桜並木が囲っている。この並木は遊歩道になっており、池の対岸を眺めると桜の花がピンクの帯になって、更にそれが池に映り込んでとてもきれいだった。少しの間立ち止まって景色を眺めた後、私達は帰路についた。

 

駅の方に向かう階段を下りながら、アリシアちゃんが聞いてきた。

 

「ヴァニラちゃんは将来的にはお医者さん希望なの? それとも治癒術師? 」

 

「一応、第一志望は治癒術師だよ」

 

ミッドチルダでは、医者になるということと治癒術師になるということは少し違った意味を持つ。医者はその名の通り病院で治療を行う専門職のことで、治癒術師は魔法による治療を行う。前者は魔力を持たない人でもスキルや知識を身に付けることで就職できる職業だが、後者は当然魔力が必要になる。但し魔力だけでなく一定以上の医療知識が必要になることから、治癒術師は絶対的に数が少ないのだ。

 

「にゃはは、頑張ってね。随分茨の道だって聞くけど」

 

「まぁ、人が少ないってことはその分忙しくなるってことかもだけど…ところでまた出てたよ、『にゃはは』」

 

「秘儀、なのはちゃん笑い~」

 

私達は久し振りになのはさんごっこをしながら帰宅した。

 

 

 

=====

 

翌朝の朝練の時のこと。

 

「ヴァニラちゃん、見て見て!誘導弾、コントロールしつつスピードももっと上げてみたの」

 

嬉しそうに言いながら、なのはさんはプラズマ・シューターを改修して作った独自の誘導弾、ディバイン・シューターを操作する。桜色のシューターは勢いよく空き缶を跳ね上げていった。

 

「53…54…55…アクセル!」

 

なのはさんが念を込めると誘導弾のスピードは更にアップする。

 

「96、97、98、99、100!」

 

「オッケー、なのはちゃん、次フィニッシュ!」

 

なのはさんのシューターは空き缶をはね飛ばし、予めゴールとして設定しておいた箱の中に見事放り込んだ。

 

「凄いね…始めて半年でこの成長…びっくりだよ。コントロールも集中力もばっちりだし」

 

「ヴァニラちゃん、こういう時は『ええい、海鳴の魔法少女は化物か!』っていうんだよ」

 

アリシアちゃんがまたヘンな台詞を身に付けてきた。どうやら今度のはTVアニメで覚えたらしい。

 

「アリシアちゃん、化物だなんてひどいよ~」

 

口ではそう言いつつも、なのはさんも一緒になって同じアニメを観ていたようで元ネタを判っているらしく、表情は苦笑いといったところだった。

 

「あ、そうだヴァニラちゃん、この前教えて貰った直射型の魔法なんだけど」

 

「フォトン・ランサーだよね? 何か問題があった? 」

 

「問題っていう訳じゃないんだけど、ちょっとアレンジできないかなーって思って。出来ればハーベスターに少し協力して貰いたいんだ」

 

「うん、別に構わないよ。ハーベスター」

 

≪Sure. Which form do you prefer? ≫【問題ありません。どの形態がよろしいですか? 】

 

「できれば錫杖形態で。あと念のためフォトン・ランサーの術式のバックアップを取っておいて」

 

≪All right…OK, Please go ahead.≫【了解。完了しました。続けて下さい】

 

「じゃぁ、いくね…」

 

なのはさんが集中すると徐々に彼女の魔力が高まり出し、足元に展開されたフォトン・ランサーの術式が次々に書き換わって行く。

 

≪It is hard to keep the magic circle. I am transitioning to buster mode.≫【現状の維持が困難になりました。砲撃モードに移行します】

 

ハーベスターが見たことのない形状に変形した。

 

「砲撃モード…初めて見るよ」

 

「ヴァニラちゃんは砲撃系の術式持ってないもんね…」

 

呆然と眺める私と違ってアリシアちゃんの表情はとても楽しそうだった。なのはさんの足元に描かれた魔法陣とは別に、ハーベスターの先端部を囲むように更に複数の魔法陣が展開され、次の瞬間膨大な魔力の奔流ともいうべき桜色の砲撃が放たれた。

 

「ひゃぅっ!? 」

 

悲鳴を上げたのは砲撃を放ったなのはさん本人だった。恐らく自分でも想定していなかったであろう砲撃の反動でバランスを崩し、仰向けに引っくり返ってしまっていた。

 

「あいたたた…」

 

「なのはさん、大丈夫? 」

 

「うん、ちょっと背中を打っただけだから」

 

魔力スキャンでも問題なしとの結果が出たが、念のためヒール・スフィアを生成して治療しておく。

 

「軽い打ち身みたい。今はもう痛みもない筈だよ」

 

「もう平気。ありがとう。でもあそこまで威力が出るとは思わなかったな」

 

「砲撃魔法は専門外だからよく判らないけど、ミッド式魔法の花形っていうだけあって凄い魔法だね…見た目も派手だし」

 

「そうだね~実は私も実際に見るのは初めてだけど、すごくかっこよかったよ、なのはちゃん!」

 

「にゃはは、最後の最後で締まらなかったけどね。ハーベスター、協力してくれてありがとう」

 

≪No problem. Just in case, I have kept the magic circle pattern for “Divine Buster”.≫【どういたしまして。念のため、『ディバイン・バスター』の術式を記録しておきました】

 

「ディバイン・バスターかぁ。ちょっと正面からは受け止めたくない魔法だよね…」

 

さっきの威力を見る限り、私のプロテクションくらいは確実に抜けてバリアジャケットにもダメージが来るレベルだろう。

 

「アブソリュート・フィールドでもダメかな? 」

 

「1、2発は防げるかもしれないけど、そんなには持たないと思うよ」

 

「プロテクションの重ね掛けは? 」

 

「それなら有効かもしれないけど、接戦の最中にそこまで魔力を消費させるのは得策じゃないと思う…やっぱりモーション入ったら回避行動に移るのが最善策かな」

 

「何か、2人共わたしと戦う前提で話進めてない? 大丈夫だよ、わたしは絶対にヴァニラちゃんやアリシアちゃんの敵にはならないから」

 

にっこりと笑うなのはさんは天使のように見えた。

 

「あ、それでねヴァニラちゃん。さっき言ってたみたいに回避されないようにするにはどうしたらいいのかな? 」

 

前言撤回。彼女は白い魔王様だった。

 

 

 

その日から、なのはさんは偶にハーベスターと念話でディバイン・バスターの改良をしている様子だった。私もアドバイスを求められたりしたのだが、さすがに砲撃魔法については殆ど答えることが出来ず、砲撃のチャージに入る時には相手をバインドで拘束したら大技も当てやすいよ、といった程度のアドバイスしかできなかった。ただ、これはなのはさんの向上心を大きく煽る結果になったようだった。

 

そうなると今度はバインドの習得だ。バインドなら私もいくつかの術式を持っていたので、なのはさんにも見せてみる。

 

「これがライトニング・バインド。私が一番良く使う術式だよ。それからこっちがチェーン・バインド。魔力の鎖で相手を絡め取る感じだね。あとこれがリング・バインド」

 

「あ!この丸いのかわいい!わたしこれがいいな」

 

実際に自分の手首にバインドを絡める要領で実演して見せたところ、なのはさんはリング・バインドを非常に気に入ったようだった。

 

「ヴァニラちゃんにかけてみてもいい? 」

 

「いいよ。ついでだからバインドブレイクの方法も教えておくね」

 

なのはさんが私の手にリング・バインドをかけてきたので、なのはさんに概要を説明した上でエネルギーを相殺するように魔力を流し込み、バインドを解除する。

 

「!…もう一回いい? 」

 

なのはさんがまたバインドをかけてくる。さっきと同様に解除すると、彼女は少し考えるような素振りを見せた。

 

「ヴァニラちゃん、これって自分の魔力を流し込んで、バインドの魔力を相殺するって言ってたよね? 」

 

「そうだよ。だから破り難くするためには、最初に十分魔力を練っておく必要があるの」

 

するとなのはさんはまた少し考えるような素振りを見せた。

 

「ヴァニラちゃん、もう一回、試してみたいことがあるんだけど」

 

「うん? いいよ」

 

そしてもう一度、バインドがかけられる。私はそれを解除しようとして、違和感に気付いた。

 

「あれ…? 増えてる!? 」

 

最初に感じた魔力よりも明らかにバインド自体の魔力が増えている。注意して見ると、周囲の魔力残滓を取り込みつつ、どんどん魔力が増えていることが判った。通常通りの相殺では追いつかない。私は咄嗟に流し込む魔力を倍にして何とかバインドを解除した。

 

「あ、これでも解除されちゃうんだね」

 

「なのはさん、残念そうに言わないで。今の何? バインド自体が周りの魔力残滓を吸収してどんどん強くなったよ? 」

 

「えっ、それホント!? 」

 

いきなり横で見ていたアリシアちゃんが興奮した様子で話に加わってくる。

 

「それって、もしかして集束系の上位魔法じゃない? なのはちゃん、術式見せて!」

 

「え…うん、いいよ」

 

若干圧倒されながら、なのはさんが術式を展開する。アリシアちゃんはじっと見つめた後、ふっと息を吐いた。

 

「以前ママに見せて貰った術式とよく似てる。やっぱりこれ、『レストリクト・ロック』だよ」

 

魔法名を読み解くと、確かにレストリクト・ロックとの記述があった。

 

「そう言えば以前、魔力集束させて結界破壊とかしてたっけ…」

 

私が呟くと、アリシアちゃんはなのはさんに飛びついた。

 

「なのはちゃん!これはホントに凄い才能だよ!やっぱりここまで来たら夢の集束砲を実現しようよ~」

 

「えっと…その集束砲って、確か前にも言ってたよね? どういう魔法なの? 」

 

「簡単に言えば、戦闘終盤に主人公が放つ、究極奥義とか必殺技とか、そう言ったイメージだよ」

 

「アリシアちゃん、その説明はむしろ判り難いんじゃ…」

 

「ううん、すっごくイメージが湧くよ!そっかぁ、究極奥義かぁ…」

 

実際のところ集束砲というのは術者が発射までに使用した魔力に加え、それ以外の魔導師が使用した魔法の魔力残滓すらも集積することで得た強大な魔力を砲撃として打ち出す魔法だ。術者が使用する魔力はほんの僅かでも、それ以外の滞留魔力や魔力残滓が多ければ多いほど強力な砲撃になる。つまり、相手が強ければ強いほど、戦闘が長引けば長引くほど強力な一発が期待できる。しかも術者はほとんどの魔力を使い切っていたとしても、発動さえ出来れば砲撃が勝手に強力になって行くのだ。所謂、起死回生の一発といったところか。

 

「あ、そう考えればアリシアちゃんの説明で十分イメージが伝わるのか」

 

「何? 何の話? 」

 

「う、んっとね、アリシアちゃんが説明上手だなって思って」

 

それから数日間、私達はなのはさんのディバイン・バスターと集束魔法を結合させる術式を練り上げ、桜の花が完全に散った頃に漸くその魔法は完成した。

 

 

 

桜台公園の高台までやってきて封時結界を展開する。今回はなのはさんの集束砲を試し撃ちする関係で、私の魔力残滓を多めに設定しようということになり、結界の展開も私がすることになった。

 

「なのはちゃんは自分で魔法を使う時に魔力を再利用しやすいような構成にしてるから、普通の魔力を多めにして様子を見たいんだよね…あ、ヴァニラちゃん、なのはちゃんにハーベスターを渡して」

 

アリシアちゃんの指示に従ってハーベスターをなのはさんに渡す。今回は最初から砲撃モードだ。

 

「じゃぁ、私はこれから魔力残滓を出来るだけばら撒けばいいんだよね」

 

「うん、お願い。通常のシューターでの空き缶撃ちでいいから」

 

いつも通りに空き缶をプラズマ・シューターで撃ち続けること100回。

 

「そろそろいいかな…じゃぁ、一発行ってみよう~」

 

「うん!2人共見てて、ディバイン・バスターのバリエーション!」

 

ディバイン・バスターの時とは異なる大きな魔法陣がなのはさんの足元に展開される。そして正面の中央に徐々に集まってくる周囲の滞留魔力と魔力残滓。集束された魔力が巨大なスフィアを形成し、それを取り囲むかのように新たな魔法陣が生成されていく。

 

「…予定より威力が高いような気がする…」

 

アリシアちゃんが呟く。魔力は更に集束を続け、今にも暴発しそうな勢いだった。思わずアリシアちゃんの手を握ると、逆にしがみつかれた。

 

「あんまり威力が高いと、なのはさん本人にかかる反動が心配だよ。なのはさん、一旦中止にしよう」

 

「大丈夫!いっくよ~!!」

 

止めようとしたところでなのはさんが集束砲を発射してしまった。

 

≪”Starlight Breaker”≫【『スターライト・ブレイカー』】

 

暴発しそうなほどに膨れ上がった魔力スフィアから桜色の超極太砲撃が発射されるのと同時に、周囲の地面が抉れ、樹木がなぎ倒される。

 

「ちょ…ちょ…やばいよ、これ!」

 

「結界が…もう持たない…アリシアちゃん!」

 

アリシアちゃんを抱きしめてギュッと目を閉じた瞬間、封時結界が破壊された感覚があった。だが、その後すぐに静寂が訪れる。そっと目を開けてみると、そこには普通の景色が広がっていた。抉れていた地面も、なぎ倒された木もない。封時結界はギリギリその役目を全うしてくれたようだった。

 

ふと空を見上げると雲に不自然で大きな円形の穴が開いていた。

 

「そうだ、なのはさん!」

 

慌ててあたりを見回すと、数メートル程離れたところで引っくり返っているなのはさんを見つけた。アリシアちゃんと一緒に駆け寄る。

 

「大丈夫? 痛いところとかない? 」

 

「ふにゃぁぁ…うん、大丈夫…ちょっと腰が抜けちゃった感じかな」

 

スキャンの結果も特に異常はない。私達はふっと息を吐くと、なのはさんの横に腰を下ろした。

 

「凄い威力だったね…あそこの雲とか、絶対さっきの集束砲のせいだよ」

 

「どのくらいの距離まで届いたんだろう? 」

 

「術式からいって、そんなに射程は長くない筈だけど…っていうか、雲まで届いたのが驚きだよ」

 

「飛行機とか巻き込んでないよね…? 」

 

「あ、それは大丈夫だと思う…念のため事前に調べてはおいたから」

 

改めて空を見上げてみる。そんなに厚い雲ではない。地表からの距離は精々数kmといったところか。

 

「何か、新しい都市伝説とかは生まれそうだよね」

 

「海鳴の上空で怪光現象!宇宙人の攻撃か!? みたいな? 」

 

≪Caution. Magical power has been detected up in the sky.≫【警告。上空に魔力反応を感知】

 

「…え? 」

 

冗談を言い合っていると、不意にハーベスターから予想外の発言があり、一瞬呆気にとられる。

 

≪Something is falling from the sky. Considering its size, it might be a human.≫【何かが空から落ちてきます。サイズからして、恐らく人間ではないかと】

 

一瞬、なのはさんと顔を見合わせる。彼女はまだ完全には回復していない様子だった。

 

「アリシアちゃん、なのはさんをお願い。ハーベスター、セットアップ!」

 

≪Stand by ready. Setup.≫【スタンバイ完了。セットアップ】

 

「どうするの? 」

 

「人が空から落ちてくるなんて、どう考えても不自然だよ。取り敢えず空中でブレーキをかけてみる」

 

「判った…気をつけてね、ヴァニラちゃん」

 

 

 

認識阻害魔法をかけて上空に向かうと、複数の隕石のようなものが降ってくるのが見えた。サイズとしてはとても小さなものだが、それぞれに微弱ながら魔力を感じる。明らかに魔法的な何かであり、大気との摩擦で燃え尽きたりはしないだろう。気にはなるが、今は落ちてくる人を何とかしないといけない。

 

<なのはさん、いくつか魔力を持った小さな隕石みたいなものが落ちてく。何があるか判らないから気をつけて>

 

<判った。アリシアちゃんにも伝えておくね>

 

石はすぐに視界から消え、程なくして今度は上空から青っぽい服を着た、青い髪の人が落ちてくるのが見えた。この位置まで近づくと私でも魔力を感知出来る。魔力量的には私やなのはさんを凌ぐくらいに大きいように思えるのだが、飛行魔法を展開している様子はない。

 

それは私達と同い年くらいの少女だった。気を失っているようだったが、青っぽいバリアジャケットは問題なく展開されていた。片手には確りと錫杖状態のデバイスを握りしめ、もう片方の手でフェレットのような動物を抱きかかえている。この動物も意識を失ってはいるが、矢張り魔力を感じることから、もしかすると使い魔の類かも知れない。

 

落下速度を合せて少女を背後から抱きしめると、私は徐々に落下速度を緩めた。それと同時に身体強化を施して少女の体重を支えられるようにする。地表近くまでたどり着くと、桜台公園の高台でこっちに向かって両手を振るアリシアちゃんとなのはさんが見えた。どうやらなのはさんも完全に復活したらしい。私はゆっくりと高台に着地すると、その場に少女を寝かせて彼女の状態をスキャンした。

 

結果としては少女もフェレットも、ただ単に気を失っているだけの様子だったのでほっと安堵の息を吐く。

 

「そう言えば、さっきの隕石みたいな石、大丈夫だった? 」

 

「あ、うん、ネットニュースとかで見た隕石とは違って、音も衝撃も無かったよ。1個はほら、そこに。怪しい感じだったから触ったりはしてないけど」

 

なのはさんが示した先の茂みにはには先ほど落下していた青い石のようなものが落ちていた。近づけば判る程度の微弱な魔力を発している。別に地中にめり込んでいる訳でもなく、衝撃なども無かったことから、明らかに通常の隕石ではない。

 

「念のため封印しておこう。ハーベスター、お願い」

 

≪Sure. Sealing mode, internalize number 18.≫【了解。封印モード、18番収納】

 

青い石の表面にXVIIIの文字が浮かび上がる。これが18番と言うことなのだろう。その石をハーベスターに取り込ませて少女の方を振り返ると、なのはさんとアリシアちゃんが不思議そうに少女のことを覗き込んでいた。

 

「えっと…女の子、だよね? 何で空から? 」

 

「判らないけど、明らかにミッドの魔導師だよ。デバイスも持ってるし、それにこれ、どう見てもバリアジャケット…だから…? 」

 

その少女が着ている青っぽいバリアジャケットはどこかで見たことがあるような気がした。

 

「って、この肩の部分とか、ヴァニラちゃんのバリアジャケットと似てるよね。基調は青だけど、外側は白だし…」

 

気を失っている少女とフェレットに体力回復の魔法をかけながら、改めて少女の容姿を確認する。

 

内側は青いワンピース状のスカート、外側は私のものとよく似た白い制服のようなバリアジャケット。胸元には大きな青いリボンがあしらわれている。髪色は明るい青で、何よりも特徴的なのは頭に付いている白い…白い…

 

「ヴァニラちゃん、どうしたの? ヴァニラちゃん? 」

 

アリシアちゃんの声に反応出来ない。私はただ、呆然とその青い少女を見つめていた。

 

そう、そこにいたのは容姿こそ若干イメージよりも幼いものの…

 

 

 

明らかに「ミント・ブラマンシュ」だった。

 




前回もお伝えしましたが、今回のお話は第1部の最終話になります。。
次回から第2部がスタートしますが、時間が巻き戻って、主人公も変わります。。

今回のお話から推測はできると思いますが、第2部の主人公はミントです。。
ヴァニラとミントは第3部で本格的に邂逅し、以降はサイドチェンジをしながらストーリーを進めていく予定です。。

あらかじめ申し上げますが、このミントもヴァニラと同様、ギャラクシーエンジェルのミント・ブラマンシュとは全くの別人です。。
容姿と名前が同じだけで、憑依したわけでもありません。。


こうでも言っておかないと、ギャラクシーエンジェルファンの方々から何を言われるかわからないので。。
小心者の作者でごめんなさい。。

※まだ第2部 第1話は投稿されていませんが、先にあらすじ部分を改修しました。。

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