他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第20話 「誕生日」

男女7歳にして席を同じゅうせず、という言葉がある。7歳にもなったらそれぞれの性別の違いを意識して、同じゴザの上で一緒に座ってはいけないという意味の、古い中国の言葉らしい。

 

聖祥小学校では基本的に男女平等に教育されるが、体育だけは男女別のプログラムが組まれ、着替えも専用の更衣室が用意されている。これがエスカレーター式に進級する聖祥中学校では更に顕著になり、男女は校舎すら違うのだが、その話は取り敢えず今は置いておく。

 

つまり私はすずかさんのチームに対抗するために、女子のチームを作らなければならないのだ。既にアリサさんとアリシアちゃんをチームメイトにしていたものの、それ以外の女子にもお誘いをかける必要があった。

 

私はまず、最近仲が良くなった橘月夜さんに声をかけ、仲間に引き込むことに成功した。そのまま誰をチームに誘うかの相談に乗って貰う。

 

「月村さんと勝負だなんて、結構大変だと思うけど頑張ろうね」

 

「うん。すずかさんは運動神経凄いし、なのはさんも最近かなり頑張ってるから、対抗できそうな人があと最低1人欲しいんだよね」

 

正直なところ私は勝敗にはあまり拘っていないのだが、アリサさんはやるからには勝ちに行くタイプだし、アリシアちゃんも結構負けず嫌いなところがある。他のチームメンバーも勝負は白熱した方が楽しめるだろう。

 

「あ、私はあまり戦力になれないかも…ごめんね。でもそうだなぁ…蟹沢さんとかに声をかけてみたら? 」

 

蟹沢きぬさん。いつも元気が良くてアリサさんと共にクラスのムードメーカーになっている女の子だ。可愛らしい外見だが、正直聖祥に入学出来たのが不思議なくらい勉強の方はからっきしなのだそうだ。但し体育に関しては信頼できるとの情報を貰う。

 

蟹沢さんと話をするのは殆ど初めてに近かったが、勇気を出して声をかけてみる。橘さんも一緒に居てくれたが、私が事情を説明してみた。

 

「そう言うことならボクに任せておきなっ!腕が鳴るぜぇっ!」

 

「ありがとう、蟹沢さん」

 

「そんな他人行儀な言い方しないで、ボクのことは『カニっち』って呼んでくれよな。みんなそう呼ぶからさ!その代り名前の方では呼ぶなよ。キレるぞ!? 」

 

どうやら『きぬ』と言う名前にコンプレックスがあるらしい。名前で呼べば親しみやすいというなのはさん達の理論に真っ向から喧嘩を売る形だが、実は彼女達もその辺りは人それぞれと言うことを理解しており、蟹沢さんのことは『カニっち』と呼んでいるとのこと。

 

「じゃぁ、気合入れていこうぜ、バニー」

 

バニーじゃなくてヴァニラなんだけど、という意見はあっさり黙殺されたが、これで頼りになりそうなメンバーを1人確保できた。

 

私達のクラスは女子が18人なので9人のチームが2つ出来る。

 

「9対9なら内野6人、外野3人スタートだよね。H(アッシュ)さんと蟹沢さん、それにバニングスさんが内野にいれば大抵大丈夫そうだけど…」

 

「甘いぜ、つくよん。今回アリサには外野に回って貰う。やっぱりすずにゃんは脅威だし、なのちーも最近ボクが投げたボールをキャッチできるようになったから、外野からも狙えるようにしておかないと!」

 

「あ、私も外野希望ね。あとそろそろ3限目始まるよ? 」

 

いつの間にかアリシアちゃんとアリサさんも戻ってきていた。

 

「続きはお昼休みにしましょう。いい? カニっち。やるからには勝ちを狙うわよ」

 

「おう、もちろんだぜ!」

 

 

 

お昼休みのお弁当は教室で食べ、それから時間ぎりぎりまでメンバーを集めた。当然すずかさんもメンバー確保に動いていたので、何人かは先約ありと言うことで断られたりもしたが、お昼休みが終わるころにはお互いのチームが出来上がっていた。

 

「なかなか頑張ったじゃない、ヴァニラ。ちゃんとみんなと話せた? 」

 

アリサさんの問いに頷いて笑みを返す。更衣室で着替えると、私達はグラウンドに出た。

 

<身体強化は1/10で>

 

なのはさんから念話が入ったので、了解と念話を返す。ついでに負けないよ、と伝えると嬉しそうな声でこっちこそ、との返答があった。

 

「今回はヴァニラがチームリーダーよ。試合前に一言、言っておきなさい」

 

アリサさんに促され、若干戸惑いながらもチームメンバーに向かい合う。

 

「え…と、頑張って勝ちを狙うのは当然だけど、みんなで楽しむのが一番だから」

 

その後に続く言葉が見つからずに迷っていると、アリシアちゃんから助け舟がでた。

 

「じゃぁ、楽しみながら頑張って勝ちに行こう!」

 

メンバーから「おーっ」という答えがあり、何とかその場が締まった。

 

「じゃぁ、始めるわよ」

 

「やぁぁってやるぜ!」

 

気合十分なアリサさんや蟹沢さんの掛け声とともに試合が始まる。私も1/10で身体を強化してボールに備えた。審判を務める先生がボールトスをして、ジャンパーの蟹沢さんとなのはさんが競り合うが、蟹沢さんがわずかに早くボールを自陣に落とした。こちらのチームの攻撃だ。

 

ドッジボールでは内野手同士や外野手同士でのパスは禁止されている。このため狙うのは出来るだけすずかさんやなのはさん以外になるのだが相手チームもそれは想定しているので、少しでも甘いボールを投げてしまうとカバーに入ったすずかさんにボールを取られてしまう。

 

とても素敵な笑みと共にすずかさんがボールを投げる。チームの一人が当たってしまうが、蟹沢さんがフォローに回ってボールをキャッチした。

 

「ありがとう、カニっち。ダブルアウトには気をつけて」

 

「だいじょーぶ。ボクにお任せだよっ!」

 

そう言いつつボールを投げると、蟹沢さんは見事相手の1人をアウトにした。歓声が上がる。こぼれ球を拾ったなのはさんがこちらにボールを投げると、私も負けじとキャッチする。そんな攻防が繰り広げられる。

 

「ヴァニラちゃん!」

 

アリシアちゃんからの声を受けて、外野にパスを回すと、アリシアちゃんも1人にボールを当てる。実はアリシアちゃんはかなり運動神経が良い方なのだが、如何せん体格が小柄なので力で圧倒することは出来ない。その代り相手の足元ギリギリなど、捕球しづらいところを狙ってくるのだ。

 

「にやり。また1人。あ、私は外野のままで」

 

「上手いね…でもこっちも負けないよ!」

 

すずかさんがボールを拾うと、今度は確実にアウトを取ってきた。こぼれ球がそのまま外野に転がっていき、すずかさんチームの外野手が拾った。そのまま鋭いボールを投げ込んで立て続けにアウトを取る。

 

「やるな、クーちゃん!」

 

蟹沢さんが叫ぶ。あれは西崎紀子さんだったか。普段無口であまり存在感は無かったのだが、今の動きは侮れない。西崎さんも内野に戻らないところを見ると、彼女もアリサさんやアリシアちゃんと同じく外野の柱となっているのだろう。

 

攻防はしばらく続き、何人かがアウトになって外野に回ったり、復活して内野に戻ったりを繰り返していたが、気付けば自陣には私と蟹沢さん、敵陣にはすずかさんとなのはさんだけになっていた。アリサさんが外野からパスを送り込んでくる。

 

「なのちー、覚悟!」

 

蟹沢さんの投げたボールは絶妙な位置でなのはさんに当たった。

 

「うー、悔しい!次は絶対捕るんだから!」

 

なのはさんは悔しそうに外野へ向かう。自陣まで跳ね返ったボールをもう一度拾った蟹沢さんは高らかに宣言した。

 

「さぁ、残るはすずにゃんだけだ!この勝負を制してボクが勝つ!」

 

次の瞬間ホイッスルが鳴る。

 

「蟹沢さん、オーバータイム。ボールを月村さんに渡して」

 

「え? 」

 

「知ってるわよね? ボールを拾ったら5秒以内に投げないといけないこと…」

 

「ノオオオォォォォォッ!」

 

先生の言葉に一瞬呆けた後、激しく悶絶する蟹沢さん。結論から言うと、その直後にすずかさんは悶絶し続ける蟹沢さんにボールを当ててアウトを取った。

 

「カニ!あんたバカでしょ!? バカよね!? 」

 

外野に回った蟹沢さんのほっぺたをアリサさんが思いっきり引っ張る。

 

「アリサちゃん、それくらいにしてあげたら…? カニっち泣いてるよ? 」

 

「泣いてない!泣いてないもんね!」

 

 

 

外野で繰り広げられるコントを尻目に、すずかさんと私の一騎打ちは続いていた。すずかさんが投げたボールを私がキャッチし、私が投げたボールをすずかさんがキャッチする。たまにパスを送って相手の動きを牽制したりもするが、基本的に外野陣は応援団と化していた。

 

「やるね、ヴァニラちゃん!」

 

すずかさんが嬉しそうに言う。流石に恭也さんや美由希さんとは比べるべくもないが、正直こちらは強化していてもいっぱいいっぱいの状態だった。

 

「すずかさんこそ」

 

精一杯、強がりを言ってみるが、どこかもやもやしたものが晴れない気がしていた。

 

「そろそろ時間ですよ」

 

先生が言う。もうチャイムが鳴る時間なのだろう。

 

「じゃぁ、最後。思いっきり行くよ」

 

すずかさんが私めがけてボールを投げる。その瞬間、私は身体強化を解いた。すずかさんは魔法を使っている訳ではない。そのすずかさんが思いっきりボールを投げてくるのなら、かなわないまでも強化なしで受け止めるべきだと思ったのだ。

 

<ヴァニラちゃん!? >

 

強化解除に気付いたらしいなのはさんから念話が入るが、それには答えず私は目の前のボールに集中する。だが勢いがついたボールは私の手をはじき飛ばすとそのまま上に跳ね上がった。

 

「ヴァニラ、アシストキャッチ!まだ間に合うわよ!」

 

アリサさんの声が聞こえるのと同時に私は走り始め、落ちてくるボールを今度はファンブルせずにキャッチする。そこでホイッスルが鳴った。

 

「H(アッシュ)さん、オーバーラインキャッチ」

 

足元を見ると、片足がラインを踏んでしまっていた。本来ならこのまま相手チームにボールを渡して試合が続行されるのだが、ここでチャイムが鳴る。

 

「時間なので、これで試合終了ですね。勝敗ですが、今回は最後にH(アッシュ)さんにファールがあったので、月村さんチームの勝ちとします」

 

先生が宣言すると同時に周りから歓声と悲鳴が同時に上がった。

 

「残念、負けちゃったね」

 

「でもまぁいい勝負だったわよ」

 

「ボクは認めないかんね!まだ勝負はついてない!」

 

「蟹沢さん、落ち着いて。次回また頑張ろう? 」

 

チームのみんなが口々に慰めてくれるが、私はむしろすっきりした気分だった。

 

「みんな、ありがとう。とても楽しかった。またやろうね」

 

そう言った途端、なんとなく周りにあった敗戦ムードが払拭された気がした。

 

「次は敵同士かもしれないわよ? 」

 

「あ、そしたら私、今度はヴァニラちゃんと同じチームにしようかな」

 

「すずにゃんとバニーが同じチームでもボクは負けないもんね!」

 

アリサさんが微笑みながら言うと、いつの間にかすずかさんチームの人達も一緒になって話しをしていた。暫くわいわいと騒いでいると、先生がホイッスルを吹く。

 

「はい、いつまでも騒いでないで、教室に戻りなさい。ホームルームが始められないわよ」

 

全員で「はーい」と答えて教室に向かう。ふと周りを見回すと、いつもなら女子が教室に戻るときでもグラウンドでふざけたり遊んだりしている男子の姿が見えない。

 

「あれ? そう言えば男子は? 」

 

「とっくに教室に戻ったわよ」

 

「え、そうなの? いつもならまだ遊んでるのに」

 

「まぁ、今日はね。そう言うことになってるのよ」

 

「そう言うことって、どういうこと? 」

 

「まぁ、教室に行けば判るから」

 

「あ、アリサさん、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「そう? じゃぁ先に行ってるわよ」

 

アリサさんと別れてお手洗いに入ると、さっきボールが当たった手を見る。内出血こそ起こしてはいないが、若干赤く腫れ上がっていた。軽い打撲だろうが、このままにしておくとみんなに心配をかけてしまうだろう。私はヒール・スフィアを生成して治療を済ませておいた。

 

更衣室に行くと、なのはさんが待っていてくれた。

 

「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」

 

「ううん、大丈夫だよ…ねぇ、さっき何で強化を解除したの? 」

 

「強化なしで勝負してみたくなったの。ほら、すずかさんは強化してないのに、私だけ強化してたら、何かズルしてるみたいでイヤだし」

 

「良かった。ちゃんと理由があったんだ」

 

「まぁ、ね。理由もないのに解除なんてしないよ」

 

「体調でも悪くなったのかと思った。あ、そう言えば手、大丈夫だった? 」

 

「全然平気。ほら」

 

治療したばかりの手を見せると、なのはさんも安心した様子だった。

 

着替え終わると丁度ホームルームのチャイムまであと2、3分というところだったので、なのはさんと一緒に急いで教室に戻ることにした。教室の引き戸に手をかけたなのはさんが、一瞬動きを止めると、急に声を上げた。

 

「ヴァニラちゃん到着で~す!」

 

そして引き戸が開けられると、複数のクラッカーがパンパンと音を立てる。何事かと驚いていると、周りから「お誕生日おめでとう!」と声がかけられた。

 

「1日早いけど、明日は土曜日で学校はないし、今日やっちゃおうってことになったんだよ」

 

「え…? 誕生日? 私の? 」

 

「そうよ。今日は何月何日? 」

 

「えっと、1月21日…あっ」

 

晴天の霹靂だったので一瞬まともな思考が出来なくなってしまったが、落ち着いて考えると明日、1月22日は私の誕生日だった。クラスを見渡すと、先に引き上げていた筈の男子も揃っており、教室内には簡単ながら飾り付けもしてあった。中央に集められた机にはケーキこそないものの、お菓子とソフトドリンクが並べられている。

 

「これ、私のために? 」

 

「そうだよ。実際にはクラス全員、誕生日の度にやってるんだけどね」

 

どうやら年明け早々に誕生日を迎えるのが私だったため、折角だからサプライズでやってみようということになったらしい。そのため、体育の授業を早めに切り上げた男子が教室内のセッティングをしてくれていたのだそうだ。

 

「アリシアちゃんは3年になってからだね。サプライズじゃないのは残念だけど、楽しみにしてて」

 

「うん!今回はヴァニラちゃんの驚いた顔が見れたから問題ないよ!」

 

「はいはーい、みなさん、お誕生会はホームルームと掃除の時間を使ってやるので、長くても30分しか時間が取れませんよ。それから他のクラスの迷惑にならないように、騒ぎすぎないこと」

 

先生の注意に全員が「は~い」と返事をし、歓談が始まった。クラスメートが次々に声をかけてくれ、それに笑顔でこたえていく。

 

「H(アッシュ)って体育も出来るんだな。最初はおとなしいイメージだったけど」

 

「ちょっとね。私も最初すずかさんと会った時は同じように思ったよ」

 

「なぁ、何でHって書くのに読みがアッシュなんだ? 」

 

「Hをアッシュって発音するのはフランス語ね。たぶんご先祖様にフランス人がいたんだと思うよ」

 

こんな感じで受け答えをして、10分もすると今まで火鳥くん以外は殆ど会話をしたことが無かった男子生徒も含めて全員と言葉を交わすことが出来た。

 

「どう? 随分と馴染んだんじゃない? 」

 

アリサさんが声をかけてくれる。すずかさん、なのはさん、アリシアちゃんも一緒だった。

 

「そうだね、ありがとう。すごく楽しい」

 

「気に入って貰えて良かったわ。あ、あと私達は明日改めて翠屋でお祝いするから」

 

「え…でもそれって士郎さん達の迷惑になるんじゃない? 」

 

「あ、お父さんやお母さんにはもう言ってあるから大丈夫だよ。それに明日は元々サッカーチームの男の子達が集まることになってたし、あまり気にすることは無いって」

 

「それって、翠屋FCだよね? 士郎パパが監督してるっていう」

 

アリシアちゃんが言う『翠屋FC』というサッカーチームの名称は前にも聞いたことがあるのだが、普段ずっと翠屋にいるイメージの士郎さんがそのサッカーチームの監督っていうのはあまりピンとこなかった。

 

どうやらクラスの男子でも翠屋FCに所属している子が何人かいるそうで、2か月に1度くらいは試合をしたり、翠屋に集まったりしているのだそうだ。

 

「前の時は丁度ヴァニラちゃんもアリシアちゃんも編入試験の勉強してた頃じゃないかな? 試合がある時は私達も応援に行ったりするんだよ」

 

「でも最近は練習ばっかりだな。あー、試合してぇ!」

 

チームの子と思われる男子の言葉が少し引っかかる。

 

「練習…してるの? 士郎さんが監督して? 」

 

「ああ、平日は毎朝やってるぜ。土曜日は練習したり、試合だったりだな」

 

どうやら士郎さんは毎朝恭也さんや美由希さんと朝練して朝食を食べた後、翠屋に行く前に翠屋FCの練習も監督しているらしい。傍目には全く疲れを感じさせないのだが、ハードワークぶりは相当なものだ。

 

ただ、なのはさんとの朝練で気が付いたのだが、早朝のランニングは兎も角、道場では恭也さんや美由希さんへの指導が主で、士郎さん自身はあまり激しく運動しているようには見えない。恐らくサッカーチームの監督も指導や采配がメインなのだろう。そう考えれば運動量は適当だし、あとはちゃんと睡眠をとっていれば問題はなさそうだ。

 

そんなことを考えていると、先生に呼ばれた。何でも誕生会を開いてもらった子は、締めに一言挨拶をするのが恒例なのだそうだ。

 

「えっと、今日はありがとう。とても楽しかったし、みんなとお話しできて嬉しかった」

 

周りから、これからもよろしくー、といった声が上がったので、軽く笑ってそれに答える。

 

「できれば何かお礼をしたいんだけど、何がいいのか…」

 

「じゃぁ、来月のバレンタインデーには是非オレにチョコレートを!」

 

男子の1人がふざけて言った台詞で、周りがドッと笑う。

 

「あんただけ貰っても意味ないでしょうが!」

 

アリサさんがツッコミを入れているが、ツッコむべきところはそこじゃない気がする。

 

(ここ小学校。あなた達2年生。OK? )

 

結局私のお礼については次回他の子の誕生会をやる時に一緒にお祝いするということで収まった。

 

「そもそもお誕生会でお礼とか言い出したらキリが無くなっちゃうよ」

 

なのはさんはにゃははと笑いながらそう言った。ちなみになのはさんの誕生日もこれからで、進級前にお誕生会を開いてもらうことになるのだそうだ。

 

その後はクラスのみんなで後片付けをした。聖祥ではお手洗いや共用教室などの掃除は業者が行うのだが、教室とその前の廊下だけは生徒が掃除をすることになっている。いつもは当番制なのだが、お誕生会をやった日は全員でさっさと終わらせるのだそうだ。

 

「通常のホームルームが精々15分、その後の掃除が30分だったら、お誕生会に30分使って、掃除を15分で終わらせようってこと。みんなでやればすぐに終わるしね」

 

その言葉通り掃除はあっさり終了して、私達は先生に挨拶すると下校した。校門のところで、今日初めて話をしたようなクラスメートからも「また月曜日にね」と声をかけられる。軽く手を振りながら「またね」と返した。

 

すずかさんは予定通り風芽丘図書館に行くそうで、アリサさんが鮫島さんの車で送って行くことになった。

 

「じゃぁね、明日は翠屋に行くから」

 

「うん。また明日」

 

 

 

=====

 

翌日、いつもの朝練メニューを終えて朝食の席に着いた時、私は士郎さんの体調に問題ないか念のため聞いてみたが、本人は至って健康とのことだった。ハーベスターの見立てでも、睡眠不足といった問題点は一切ないらしい。

 

「いつも翠屋が閉店してから帰宅して、お風呂に入って就寝して、翌朝は朝練があるから4時には起きているのに、睡眠不足とか一切なくて、しかもその若々しさ…反則ですね」

 

「ははは。褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「あー、それを言うならかーさんだっていい勝負だよ。お店の仕込みとかで殆ど徹夜状態になったりしても、お化粧のノリとか全く問題ないし」

 

美由希さんがぼやくと、桃子さんが「あらあら」と笑う。最終的に士郎さんと桃子さんは美由希さんによって人外カップルの認定を受けていた。

 

食後、洗い物をしようと思って食器類を纏めていると、アリシアちゃんを含めた高町家全員がにこやかに私のことを見ていた。

 

「あ…あれ? どうかしましたか? 」

 

「「「「「「ヴァニラちゃん、お誕生日おめでとう」」」」」」

 

まさか食後に来るとは思っていなかったので、完全に意表を突かれてしまった。この世界の人はつくづくサプライズが好きらしい。

 

 

 

洗い物を終えた後、私はなのはさん、アリシアちゃんと一緒に翠屋に向かった。アリサさんとすずかさんはお昼前に来ると言っていたのだが、私達が到着した時には既にテラス席に座っていた。

 

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん。中には入らなくていいの? 」

 

「なのはちゃん、おはよう。ヴァニラちゃんとアリシアちゃんも。屋外ヒーターがあるから寒くはないよ」

 

「っていうか、店内は避けたのよ。ほら」

 

苦笑するアリサさんが指し示す先を見ると、店内には翠屋FCのメンバーと思われる男子でごった返していた。別に貸し切りにしている訳ではなく一般のお客さんも入っているようなので、確かに混雑を避けるなら、まだお客さんがいないテラス席の方がよさそうだった。

 

「あれ? ここ2テーブル? 」

 

「あと2人くる予定だから、桃子さんにお願いして席くっつけて貰っちゃった」

 

「2人…っていうことはもしかして月夜ちゃんと火鳥くんかな? 」

 

「アリシアちゃん、惜しい。火鳥くんじゃなくて、蟹沢さんだよ」

 

「あ、カニっち来るんだ」

 

「ちなみに泉行は翠屋FC組だから、もう中にいるわよ」

 

そんな話をしているうちに、橘さんと蟹沢さんも到着した。

 

「おはよう。みんな早いね」

 

「おーっすバニー。このボクが直々に来てやったぜ」

 

「バニーガールみたいで恥ずかしいから、その呼び方やめて欲しいんだけど」

 

一瞬、「きぬさん」と呼んでやろうかと本気で思う。その時、タイミングよく桃子さんがケーキを運んできてくれた。タイミングよく、と言うよりは恐らくみんなが揃うのを待っていてくれたのだろう。

 

「じゃぁ、改めて。ヴァニラ、誕生日おめでとう」

 

「おめでとう、ヴァニラちゃん」

 

口々にお祝いを言われ、ありがとうと答える。少し照れながらケーキに立てられたローソクの火を吹き消した。その後みんなから小物やお花などのプレゼントを貰い、私達はお昼過ぎまでお喋りを続けた。途中で翠屋FCの集まりも解散になったようで、火鳥くんを始め、何人か顔見知りの男子も帰り際に挨拶に来てくれた。

 

それを切欠に、昨日のバレンタインデー発言が話題に上り、散々冷やかしてくれたアリサさん達を巻き込んで、ここにいるメンバー全員で手作りチョコを作ることになったりもした。

 

 

 

ちなみに実際バレンタインデーにはみんなでチョコレートを作ったのだが、男子に渡すのは勿体ないということになり、結局女子だけで全部食べてしまったのはここだけの秘密である。

 




適当に漫画やゲームから登場人物を借りてこようと思ったのですが。。
カニっちは個性が強くなりすぎて、個人的にもやりすぎだったと思います。。
西崎クーちゃんくらいならよかったのですが。。

後悔も反省もしているのでおそらく今回のみのゲストキャラになると思います。。

次回は第1部の最終話になる予定です。。
ヴァニラ達は3年生になって、海鳴にジュエルシードが落ちてきます。。



物語の進展を期待された方はごめんなさい。。

第2部は時間が巻き戻って、主人公も舞台も変更になります。。
ヴァニラの帰還は第3部をお待ちください。。

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