他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第13話 「怪談」

桃子さん捻挫事件は最終的には笑い話で終わったのだが、私には一つ気になることがあった。それはなのはさんが口走っていた「いい子にしていなくちゃいけない」という言葉だった。

 

そう言えば以前、士郎さんが事故に遭ったという話をしていた。当時2歳だったなのはさんを家族が構ってあげる余裕が無かったという話だったか。幼少期に感じたストレスが元で、なのはさんが強いリミッティング・ビリーフを持ってしまっている可能性は高い。ただこれはどちらかというと精神科の範疇で、私も詳しいビリーフ・チェンジ・セラピーの方法は知らなかった。

 

(メンタリストの知識を持っている士郎さんの方が詳しいかも知れない。近いうちに相談してみよう)

 

それに士郎さんなら、もしかしたらなのはさんのリミッティング・ビリーフに気付いているのかもしれない。私はその日の夜に士郎さんと桃子さんが翠屋から戻るのを待って、話を聞いてみた。

 

「話してくれてありがとう。そうか、やっぱり未だ治っていないんだな」

 

士郎さんはため息交じりにそう言った。

 

「でも、なのはは1人で約束を破ってまで魔法の練習をしていたのよね? それっていい傾向じゃないかしら? 」

 

「え? それはどういう…? 」

 

「ヴァニラちゃんには私の事故の話はしたよね? 結局その時に感じた寂しさやストレスがなのはのリミッティング・ビリーフの元になっているんだ。ありのままの自分でいてはいけないと思い込んでしまっている」

 

「言われたことは必ず守って、いつもいい子でいようと無理をしている様子だったの。だから我儘を言うことがあれば、出来るだけ叶えてあげたいと思っていたのよ」

 

なるほど最初に魔法を教える時に、予想以上にあっさり許可が貰えたのはそのためか。

 

「なのはが魔法を覚えたいというのなら、私達としては出来るだけその想いを叶えてやりたいんだ。確かに危険なことはあまりして欲しくはないが、魔法がなのはにとってありのままの自分でいられる手段になり得るなら、それだけでも十分ビリーフ・チェンジ・セラピーになる」

 

「ヴァニラちゃん、なのはのこと、これからもお願いしていいかしら? 私達もサポートできることがあればいつでも言ってくれて構わないから」

 

2人にそう言われては断る理由もない。

 

「そうですね…じゃぁ他にもいくつか魔法を教えてみます。ただ本格的に魔法を勉強するならデバイスは自前の物を持った方がいいでしょうし、更にいうなら地球ではなく、ミッドチルダに来てもらった方が良いのですが」

 

「その辺りはヴァニラちゃんの方が詳しいだろうから、最終的には任せるよ。ただ本人の意思確認も含めて、君達が帰還できる目処が立ったら改めて相談させて欲しい」

 

結局なのはさんの魔法練習は当面の間、現状のメニューにいくつか新メニューを加える程度にした。

私達がミッドチルダに戻ることになった際に改めてデバイスの譲渡やミッドチルダへの留学などについてイグニスお父さんやプレシアさんにも意見を貰ってみようと思う。

 

今後も何かあれば相談に乗ってくれるという士郎さんと桃子さんにお礼を言うと、私も今日は就寝することにした。

 

(士郎さんも桃子さんも、私を信頼してなのはさんのことを任せてくれているんだ。だったらなのはさんのことは私が守らなくちゃ)

 

隣で寝息を立てているアリシアちゃんを起こさないようにそっと布団に潜り込んだ私は、今後アリシアちゃんだけではなく、なのはさんのことも守っていくことを心に決めた。

 

 

 

=====

 

「ヴァニラちゃん、そう言えばクリスマスプレゼント何にするか決めたの? 」

 

翌日、翠屋のお手伝いを終え、部屋で魔法練習の新メニューについて考えていると、不意にアリシアちゃんに声をかけられた。そう言えば一連の騒ぎですっかり忘れてしまっていたが、プレゼントもまだ決まっていなかった。

 

「そうだね…何がいいかなぁ」

 

アリシアちゃんは美由希さんに廃棄予定だった古着を貰っていた様子なので、恐らくはそれを素材にしたぬいぐるみ系だろう。

 

<私も廃材を使って、小物でも作ろうかな。ハーベスター、どこかに廃材とか無いかな? >

 

<≪I found a ruined building yesterday, while you were flying. I guess it was a kind of old factory site. You may be able to obtain some waste materials there.≫>【昨日、飛行中に廃墟を見つけました。恐らく工場か何かの跡地と思われます。そこに行けば何らかの廃材は確保できるでしょう】

 

半分は冗談のつもりだったのだが、ハーベスターは予想外の答えを返してきた。

 

<本当に? どのあたりか判る? >

 

<≪It must have been recorded. Do you want to browse it? ≫>【昨日記録した映像に入っている筈です。ご覧になりますか? 】

 

<うん、見る!…あ、ちょっと待って>

 

アリシアちゃんは相変わらず作業場という名の段ボール部屋に篭って作業している様子だ。

 

「アリシアちゃん、またちょっと出かけてくるね」

 

「はーい、行ってらっしゃい」

 

段ボールの裏からアリシアちゃんの手がひらひらと振られる。私は廊下に出ると、ハーベスターに記録された映像を確認した。

 

「空中からの映像だと正確な位置が掴みにくいなぁ…もう一回、飛んだ方がよさそう」

 

一度庭に出てバリアジャケットを身に纏い、認識阻害の魔法をかけた上で、私は空へ舞い上がった。上空で映像と実際の地形を照合する。

 

「あった。あそこだね」

 

街外れに目的地を見つけると私は高度を落とし、廃墟に降り立った。まずは建物の中に入り、散乱している廃材の中から使えそうなものを探してみることにする。木材の加工工場だったのか、端材が多く見つかった。小さなものを何の気なしに組み合わせてみると、フォトフレームのような形になった。

 

「これは使えそう…他にも何かないかな? 」

 

偶々近くに落ちていた黒い大きな袋に使えそうな端材を入れて、そのまま辺りを回ってみた。ただ端材の種類は多いのだが、何に使えばいいのか判らないようなものが殆どで、最初に見つけたもの以外はなかなかいいものがない。

 

「完成品のイメージをしてから、それに合う端材を探した方がいいよね…」

 

フォトフレームだけだと味気ないし、隣にペン立てをつけてみよう。丸い形は加工が難しいし、四角いのはあまり可愛くないから三角形で、などと思考を重ねる。一度思いつくと、意外なほどスムーズに考えが纏まった。あとは適合する端材を探すだけだった。

 

<≪Caution. Some people are approaching here.≫>【警告。複数の人がこちらに近づいてきます】

 

不意にハーベスターが念話で注意を促した。ハッとして状況確認をする。ここは廃工場で、小学校低学年の女の子が1人でいるような場所ではない。下手に見つかって警察でも呼ばれたりしたら、高町家に迷惑がかかる。ここは隠れて様子を見るのがいいだろうと判断した私は物陰に隠れるとサーチャーを作成した。

 

「『ワイド・エリア・サーチ』」

 

建物の周囲を中心に、敷地内にサーチャーを配置する。近づいてきていたのはあまりガラの良くない4人の男性と、猿轡をされ、後ろ手で手首を縛られた若い女性だった。男性達は俗にいうチンピラのような恰好をしており、ピアスだの刺青だのをしている。女性は普通の大学生かOLっぽい雰囲気だ。彼等は私が隠れている建物と、もう一つ別の建物の間にある中庭のようなところで女性を突き飛ばすと、周りを囲うように立った。

 

「ここなら猿轡を外してもいいぜ。泣いても叫んでも、誰にも聞こえやしねぇよ」

 

サーチャーが男性の声を拾ってくる。猥褻目的なのは明らかだった。男性の1人が女性の猿轡を外し、ブラウスに手をかけると一気に破いてしまった。女性は涙を流し、怯えきった表情で「やめて…」と呟いている。当初は介入しないように考えていたが、これはさすがに止める必要がありそうだった。

 

(まぁ、この状況なら何とかなるかな。要は魔法だと思われなければいいわけだし)

 

一般人の前で魔法を使う訳にはいかないが、幸いなことに私はまだ存在が誰にも認識されていない。

 

「『プラズマ・シューター』」

 

私は誘導弾を6発生成すると、チンピラ達からは見えないように両側の建物の2階あたりに3発ずつ待機させた。部分的に割れてしまってはいるものの、ここにはまだガラスが残っている窓がある。これが一気に割れたら、チンピラ達もさぞ驚くことだろう。念のため破片が女性に降り注ぐことが無いように角度を調整すると、私は一斉に誘導弾を動かして窓を割った。

 

窓が割れる音は中庭に響き渡り、私の思惑通り男性たちは動きを止めた。

 

「何だ? 誰かいるのか? 」

 

「誰だ!出てこい!」

 

口々に叫びながら、全員隠し持っていたと思われるナイフを構えている。こんなものを常時携帯しているような輩には、もう少しお灸を据える必要があるだろう。誘導弾が非殺傷設定になっていることを再確認し、ナイフを握っている男性の手の部分に次々に誘導弾を当てていく。男性たちは次々とナイフを取り落していった。

 

「うわっ、何だこれ!? 」

 

「ひとっ人魂!? 」

 

その言葉を聞いた瞬間、内心でほくそ笑む。これは正に私が誘導したかった反応であった。私は続けてサーチャーの音声伝達機能をリバースさせ、こちらの音声が相手に届くように設定する。

 

『ふふふふふふふふふ…。』

 

出来るだけ低い声で怪しい笑い声を演出した。サーチャーは複数あるため、いい感じに反響し合って更に怪しさを醸し出す。

 

<ハーベスター、ちょっとお願いが>

 

念話でハーベスターに語りかけると、了解の回答があった。

 

『≪What are you doing here…≫』【お前達、ここで何をしている】

 

何だかちょっとイメージと違ったが、チンピラ達には随分と恐ろしく聞こえたらしい。4人で抱き合って怯えたようにきょろきょろとしている姿は傍目に滑稽だった。

 

<ハーベスター、仕上げ行くよ。新しいバリアジャケットデザイン登録>

 

<≪All right. The new design has been registered.≫>【了解。新デザイン登録完了】

 

そのままバリアジャケットを展開する。形状は赤い和服。髪の色は変えられないので、さっき拾った黒い袋を少し破いて頭に巻き付けた。遠目には長い黒髪に見えることだろう。認識阻害魔法はかけずに、そのまま浮遊魔法を使って建物の上空に移動する。

 

私の姿に気付いたチンピラが訳の分からないことを叫びながらこちらを指差していた。6つの誘導弾を全て引き上げ、私の周りを衛星のように回らせる。最後にハーベスターが一言。

 

『≪Get out of here!≫』【出ていけ!】

 

それに合わせて私が目標物も特にないまま四方に『ライトニング・バインド』を放つ。演出としては上々だったようで、チンピラは蜘蛛の子を散らすように走り去った。暫くすると車のドアが閉まるような音と共にエンジン音が聞こえ、そのまま走り去る気配があった。ちなみに女性は置き去りである。

 

女性の方も完全に怯えきってしまっており、腰を抜かして立つことも出来ない様子だった。

 

(ちょっとやり過ぎちゃったかな? )

 

若干反省しつつも、それっぽく締める必要がある。私は芝居がかった口調で続けた。

 

『うぬには危害を加えるつもりはない。だがこのままここに留まることは許さぬ。一時、気を落ち着けたならば立ち去るが良い』

 

そして極小の魔力弾で彼女の手を縛っていた縄を切ると、私はその場で最大出力の認識阻害魔法をかけ、そのまま浮遊して廃墟の中に戻った。恐らく女性には私がその場で消えたように見えたことだろう。暫くすると女性も落ち着いたのかよろよろと立ち上がり、私が浮遊していたあたりに向かって手を合わせ、何度か「ありがとう、ありがとう」と繰り返した後、そこから去って行った。

 

一応念のためサーチャーのうち1つに彼女の後ろをつけさせたが、女性はちゃんと街の方へ向かった上で通行人に助けを求め、交番に行くことにしたようだ。安心してサーチャーを全て回収する。いくら真昼間のこととはいえ、ここまで芝居じみたことをしておけば誰もこれが魔法だなんて思わないだろう。

 

「後は、プレゼントの材料っと」

 

さっきまで頭に巻いていた黒い袋の破いてしまった部分を捨て、残ったところに再び使えそうな端材を入れる作業に戻る。一部魔力刃を使って端材を切断したりもしたが、概ね丁度良いサイズのものを揃えることが出来た。ある程度材料が手に入った時点で、私は廃工場を後にした。尚、バリアジャケットはいつもの白いものに戻し、認識阻害魔法をかけつつ飛行したことは言うまでもない。

 

 

 

=====

 

その日の夕食の席で私は士郎さんにやすりのようなものが無いか聞いてみた。

 

「やすりかぁ。普段使わないからな。何に使うんだい? 」

 

「ちょっと木工細工をやろうと思ったので」

 

すると恭也さんが答えてくれた。

 

「あぁ、そう言うことなら、紙やすりがいいんじゃないかな? 俺の部屋にいくつかあるよ。使うなら出しておくけど? 」

 

「ありがとうございます、恭也さん。助かります」

 

きめの細かい磨き上げに適した魔法は無かったのでやすりを使おうと思ったのだが、普通のやすりよりは紙やすりの方が更に扱いやすいだろう。

 

「それに木工用ボンドとニスもあるけれど。良かったらそっちも使うかい? 」

 

随分と都合よく色々なものが揃っていると思ったら、実は恭也さんは盆栽が趣味で、庭に置いてある盆栽の棚は恭也さんが自分で作ったものなのだそうだ。そう言うことならありがたく使わせてもらうことにする。一応ニスについてはシンナーのようなものなので、使う時は恭也さんに付き合ってもらうことになった。

 

「ヴァニラちゃん、それって例のプレゼントだよね? アリシアちゃんも何か手作りしてるみたいだし、わたしも手作りにすればよかったかなぁ」

 

なのはさんが少し残念そうに言うが、彼女達は既にプレゼントを用意している様子なので、さすがに今から手作りに変更する訳にもいかないだろう。結局なのはさんの手作りプレゼントはまた次の機会と言うことになった。

 

食後、私達が洗い物をしている間に恭也さんがボンドと紙やすりを出してきてくれた。

 

「紙やすりは一応3種類出しておくよ。まずは目の粗いものを使って、仕上げは目の細かいものを使うんだ。それなりに量はあるけれど、使い切っても良いからね」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

お礼を言うと恭也さんは軽く片手をあげて答えた後、翠屋の手伝いに戻って行った。なのはさんやアリシアちゃんと一緒にお風呂に入った後、部屋に戻って作業を始める。

 

「じゃぁ今から寝るまでの間、ヴァニラちゃんは敵だから。覗いちゃダメだよー」

 

「アリシアちゃん、そこはたぶん『敵』じゃなくて『ライバル』って言った方がいいかも」

 

「そうなの? 日本語って難しいね。『強い敵』って書くのに意味が『友達』だったりするし」

 

「何それ? あまり聞いたこと無いよ? 」

 

「うん、今日TVで言ってた。『強敵と書いて友と読む』んだって」

 

そんなやり取りをしながら、アリシアちゃんは段ボール部屋に入っていった。私は椅子に座ると、机の上に拾ってきた端材を並べ、紙やすりで磨き始めた。

 

 

 

結局全部の部品にやすりをかけるのに寝るまでの数時間では足りず、翌日の午前中もやすり掛けに充てることになった。ちなみにアリシアちゃんのぬいぐるみは昨夜無事完成したようで、今日は桃子さんにラッピングに使える包装紙を分けてもらうと言っていた。

 

私の方は仮組みまでは終わったので、今夜恭也さんに付き合って貰ってニスを塗り、その後最終的にボンドで接着する予定だ。

 

「そう言えばそろそろ翠屋の方も忙しくなる時期だね」

 

「そうだね。桃子ママもそんなこと言っていたよ」

 

「一家総出でクリスマスの準備をするんだって。23日は祝日だから、その前日から営業時間延長するって言ってたかな。それに合わせてみんなで作業するみたいよ」

 

「それはそれでお祭りみたいで、きっと楽しいよね」

 

私達も、なのはさんと一緒にポップを作ったり、店内の飾りつけなども手伝って欲しいとお願いされている。今から楽しみだった。

 

「あ、そう言えば今日翠屋にアリサちゃんたちが来るって言っていたよ」

 

「そっか、今日はアリサさんもすずかさんもバイオリンのお稽古ない日だっけ」

 

そろそろいつものお手伝いに行く時間だった。終わった後、みんなでお茶をすることにしよう。私は予め美由希さんに借りておいたデジカメをポケットに忍ばせると、アリシアちゃんと一緒に翠屋に向かった。

 

 

 

「…という訳なのですが、お願いしても良いですか? 」

 

「ええ、任せて」

 

桃子さんに事情を話してデジカメを渡す。プレゼントにするフォトフレームに、みんなの写真をつけておきたかった私は、その写真の撮影を桃子さんに依頼したのだ。

 

お手伝いを終えて暫くすると、なのはさんがアリサさん、すずかさんと一緒に翠屋にやってきた。アリシアちゃんと私も合流して、テラス席でお茶にする。

 

「お、みんな揃ってるな」

 

士郎さんがみんなの飲み物を持ってきてくれた。お礼を言って受け取る。

 

「さて、ヴァニラちゃん、アリシアちゃん。さっき届いたこの試験結果だけど」

 

そう言って士郎さんは2枚の封筒を取り出した。思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。

 

「ちょ、士郎さん!それ、ここで発表するんですか!? 」

 

「あぁ、折角だからみんながいた方が良いだろう? 」

 

「でっ、でも!もし落ちてたらお互い気まずいじゃないですか」

 

「それは大丈夫だよ。一応保護者として、先に検閲しておいたからね」

 

そう言いつつ封筒をひらひらと振る。よく見ると封は確り開いていた。

 

「え…お父さん、それじゃぁ…」

 

「ああ。2人共無事合格だ。おめでとう」

 

「やったー!アリシアちゃん、ヴァニラちゃん、おめでとう!!」

 

なのはさんとすずかさんが抱きついてきた。アリサさんも抱きついてこそ来ないものの満面の笑顔だ。私の顔も自然と緩む。と、突然ピピッという電子音が聞こえた。見ると、桃子さんが例のデジカメを構えている。

 

「みんなこっち向いてね。はい、えがおー」

 

桃子さんの声に、みんなが一斉にカメラの方を向いて笑顔を見せた。再びピピッという音。どうやら頼んでおいた写真を撮ってくれているようだ。

 

「写真撮る時の台詞って、よく『チーズ』っていうけど、あれってやっぱりおかしいわよね。伸ばすところは良いけど、最後の『ズ』のところでシャッター切ったら間抜けじゃない? 」

 

「『1+1は? 』っていうのもあるよね。『2』って答えた時にシャッター切るっていう」

 

「それはそれでちょっと怪しい笑顔になるとおもうよ? むしろ今の『えがおー』は良いかも。私は気に入ったよ。『えがおー』」

 

被写体がコメントする必要がなく、ただ笑顔になればいいのだから。響きもいいし、これからは私も使わせてもらおうと思う。

 

「何にしても2人共合格でよかったわ。じゃぁクリスマスパーティーも予定通り25日ってことでいいわね? 」

 

「「「「問題なーし」」」」

 

アリサさんの問いかけに全員で答える。それからはお泊り会の時にどんなゲームをするか、どんな話をするかなどでまた盛り上がり、結局夕方になってアリサさんの家の執事さんが迎えに来るまで、私達はずっとお喋りを続けていた。

 

 

 

夕食の後、恭也さんが付き合ってくれて、私のフォトフレームには無事ニスが塗られた。

 

「すごい…ニスが塗られると全然違いますね」

 

「高級感っていう程でも無いけど、製品っぽくなるだろう? 」

 

「何だか、『家具』みたいです」

 

「あぁ判るな、その感じ」

 

そう言って、2人でひとしきり笑った。

 

「さて、あとは乾燥させるだけだな。一応軒下に一晩置いておくといいよ。じゃぁ俺は翠屋の方に戻るから」

 

「はい。態々付き合って頂いてありがとうございます」

 

恭也さんが翠屋に戻るのを見送った後、私も部屋に戻った。部屋にはなのはさんが居て、アリシアちゃんと一緒にパソコンをいじっているようだった。

 

「どうしたの? 何か面白いニュースでもあった? 」

 

「あ、ヴァニラちゃん!すごいよ、これ。見てみて」

 

なのはさんに促されてインターネットニュースの記事を見た私は一瞬固まってしまった。そこにはこう書かれていた。

 

『白昼の恐怖!海鳴郊外の廃工場で少女の幽霊!? 』

 

記事の概要からすると、情報提供者はどうやらガラの悪い男達らしい。

 

「肝試ししようとしていたら、本物の幽霊を見ちゃったらしいよ。こんな近くに心霊スポットがあるなんて、すごいよねー」

 

「…どこが肝試しなんだか…」

 

「ん? ヴァニラちゃんどうかした? 」

 

「あ、ううん、冬の、それも真昼間なのに、肝試しなんかやるんだなーって思って」

 

「そうだよね。普通肝試しって言ったら夏の夜だよね」

 

「あ、アリシアちゃんの世界にも肝試しあるの? 」

 

「あるよー、私はまだ実際にやったことはないけど、本で読んだりしてたし。開始前に怪談するんでしょ? 」

 

「そうそう。それが結構怖いんだよ~」

 

なのはさんとアリシアちゃんが怪談談義を始めてしまったので、私は先ほどのインターネットニュースの詳細を確認してみた。何とも信憑性に欠ける話を、何故インターネットニュースで態々取り上げることになったのか不思議に思っていたのだが、読み進めてみると意外な事実が判った。

 

「少女集団強姦殺害事件、ね…」

 

2年程前に、当時小学校4年生だった少女が不良グループにレイプされた上に殺害されるという酷い事件が同じ場所で起こっていた。そして犯人グループと思われるメンバーは悉く不審死しているのだとか。そのため、今回の幽霊騒ぎもメディアが取り上げることにしたのだろう。不審死の部分は若干眉唾ものの話だが、知らなかったとはいえ少女の殺害現場で幽霊を演じた身としては申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

(今度、お花でも持って行ってあげようかな)

 

そんなことを思いながらなのはさんとアリシアちゃんの方を振り返ると、2人は真剣に百物語を始めようとしていた。

 




百物語は、やっていると本当に霊が寄ってくるんだそうです。。
霊感ゼロの私は全く経験がありませんが。。

っていうか、強盗犯に続き暴漢が情けなさすぎです。。

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