落ちつけ……落ち付け…そうだ、餅つけ俺……餅ついてどうすんだよ! ってあ~!! こんなくだらないこと考えてる場合じゃねえっての!
ここはあの祭壇みたいなもんの近くだし、運が悪くなくても色々巻き込まれちまう! 早く離れて―――
「……孫の……にして……赤玉の…」
うおぉ!? 光りだしたうえに水飛沫も舞ってやがる! 早いとこ逃げないと………
「…朝臣……近衛木乃香の……」
「んぐっ! んんーっ!!」
!? あそこの台に乗っけられてるの、一昨日猿にさらわれてた黒髪ロングの少女か!? …なんか苦しそうな、違うような………。いやいや!? 滅相なこと考えるなよ俺! あいつを助けようなんて―――
「茂しゃく……如く……る」
「んぐぐぅっ!」
そうだ、一時のお人好し感情から来る罪悪感なんざ無視すればいい……
「生く魂・足る魂・神魂なり!!」
「んーーんっ!!」
ぐっ……水飛沫と光の柱の眩しさが強くなってきた…! 出来るだけ遠くに離れるか。
……悪いな黒髪ロング、でもこれ以上厄介事にかかわりたくないんだ。俺は。あばよ…。
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side三人称
天ヶ崎千草が行っている儀式は順調に進み、もう少しという所まで来た。
「まだですか?」
「もうすぐや、新入り!」
「そう………。!? なんだ、この気配……!?」
白髪の少年は頷き、再び光の柱の方を無効として………何かがこちらに来るのを察知し、少し驚く。ものすごいスピードで来ることも驚愕だが、そんなスピードを出しているにもかかわらず、その存在には魔力も気も感じなかったからだ。
「どないしたんや!」
「誰か来ます……あの少年ではない誰かが」
「何!? 誰かって誰や!?」
「魔力や気、それに準ずる力すら感じません」
「……!? なんやそれ! そんな―――」
千草はその無茶苦茶な答えにそんな事は無い、と応えようとしたまさにその瞬間。
〔オオオオオオオォォォォ!!〕
すぐ真横の水面が爆ぜ、聞き覚えのある咆哮と共に―――――
「お、お前……お前はあぁぁっ!?」
見覚えのあるローブの姿が現れた……以前以上に目をぎらつかせて。
side
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side”ザ・ワールド”
俺はアホだ……あいつらにお人好しだのなんだの言っておいて、……自分もこんなにお人好しじゃねぇかよ……!
でも、やっぱ見捨てられねぇんだ! 前世ではこの性分のせいでめっちゃ苦労したけど……この性分を恨んだりもしたけれど―――
―――やっぱり見捨てられないんだよ!! ちくしょう!
こうなった以上、儀式みてぇなのを止めてやる!
「ルビカンテ、あの男を―――」
お前ら何ぞに付き合ってる暇は……
〔無駄あぁっ!〕
『ブゴオ!?』
「…! 拳一発でルビカンテを……!」
無いんだよ、クソったれ!!
ん? ……そういえば、さっきの奇襲に入る時……二秒以上、時止められてたような…。
少しだけ煩悶する俺の耳に、何かが飛んでくる音が聞こえる。振り向くと、そこには眼鏡の少年がいた。
「ディ、ディオさん!? ……まさか、助けに来てくれたんですか!」
「おお! あんたがいれば百人力だぜ!」
……てっきり誤解するものかと―――そうか、あいつらと向かい合っていればそうはみえないよな。
「ディオさん、あなたは儀式停止をお願いします!」
そう言うや否や、眼鏡の少年の拳と白髪の少年の”何か”ががぶつかった。
「行け行け兄貴! さっき小太郎の野郎も倒せたんだ、今の兄貴ならいける!」
よし、こっちは大丈夫そうだ……って、あの黒髪眼鏡がいねぇ!? 一体どこに―――
と、あたりを見回す俺の視界に、ドオオオオオオォォォォォ!!、という轟音を立て、巨大な光の柱が現れた。
で、でけえ! 何だあの光の柱……まさか!?
「儀式は今しがた終わりましたえ……一足遅かったようですなぁ……」
何だ、あのでかい鬼みたいな化けものは……。
「これぞ『リョウメンスクナノカミ』、千六百年に討ち倒された、二面四手の大鬼……大鬼神や」
くそっ……俺が保身ばかり考えなけりゃあ……!!
「
「あ、兄貴やめろ! もう兄貴の魔力は限界なんだ、下手したら!」
うお!? あの時よりもでかい! これならあのデカブツにも少しは……
しかし、化け物は防御すらしていないのに、パチイイィィン、と情けない音を立てて、魔法弾かれてしまった。
効いてねぇ!?!
「それが精一杯か!? まるで効いてヘんなぁ、あははははっ!」
くそ……どうすりゃいい……どうすりゃ……!?
「残念だったね、ネギ君……善戦だったとは思うけど…」
「ぐぅっ……」
少年もピンチかよ!?
「魔力だけでなく体力も限界か……それじゃ終わりにしよう―――」
「
と、眼鏡の少年が呪文らしきものを唱えると同時に地面が光り、オレンジ髪の少女と半デコの少女が現れた。
「あ、あんたはディオさん!」
「来てくれたのですね……しかし、儀式は成功してしまいましたか…」
くそ……めちゃくちゃ罪悪感が……。
「……ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト…
「な! 呪文の始動キー!? しかもこの魔法……!? 早くあいつを止めろ!」
「
「無理です! 間に合わない!」
……いや、
”時よ止まれ!”
無理じゃねぇ!
「トン・クロガバッ!?」
〔無駄ぁ!〕
「ガアッ!?」
止まっている最中にアッパーを一発、動き出したと同時にストレートを一発お見舞いした。白髪は殴られた勢いで遠くへ飛ぶ。
どうだ!
「す、すげえ!? 止めちまったぜ! さすがディオの旦那!」
「相変わらずの”超”瞬間移動ね……」
「有難う…ございま……? 『悪い、止められなかった』……いえ、それは僕の責任でもありますから」
ちがう、保身ばっかり考えていた俺が情けなかったんだ。本当は原作にかかわりたいのに、自分に嘘ばかり付いていた自分が……。
うつむく俺と満身創痍な眼鏡の少年たちに、半デコ剣士が声をかけてきた。
「……お三方はすぐ逃げてください。 お嬢様は私が救いだします。 私なら……千草とお嬢様のいる上空まで行けますから」
「でも! あんな高いところまでどうやって!」
そうだ……ジャンプして届いたとしても、すぐ落ちちまうぞ?
「……実は…このかお嬢様にも秘密にしていた事があるのです……”コレ”を見られたならば、お別れをしなくてはなりません」
「「え……?」」
「ですが……今ならば…っ」
そう言って半デコが身をかがめ、広げた瞬間―――
――背中から白い大きな翼が、淡い光を纏い現れた。
「これが私の正体……醜い姿の…奴らと同じ化け物です」
醜い……だと…? これが…?
「ですが勘違いしないでください! この姿の事を秘密にしていたのは、お嬢様に嫌われるのが怖かっ……あいた!?」
俺は、出来るだけ加減して頭をはたいた。
「ディオさん!?」
「旦那!?」
「いたたっ……な、何を―――」
文句を言う前に、俺は一枚の紙を差し出した。
「……『何処が醜いだ……綺麗じゃねぇか、こんなに白くて綺麗な翼は見たこと無い』……え?」
「そうよ! こんな翼が生えてくるなんてカッコイイじゃん、刹那さん!」
「! 神楽坂さん……」
「それにさ、”このかに嫌われる”? あんたさ、幼馴染なうえ二年間も陰からこのかを見守ってきたのに、あいつの何を見てきたっていうの?
……この程度でこのかが嫌うはず無いじゃない!」
「あ……!」
はっ、とする少女剣士の前に、もう一枚の紙を差し出す。
「…『それに、俺だって飛べる。お前にばかり任せておいては、失敗した償いにならない』…………ディオさん……」
「それじゃ、言って刹那さん! ディオさんは空から、私たちは陸から援護するから!」
「勿論です! アスナさん!」
……なんかいい雰囲気じゃねぇか、これなら正体を明かしても……いや、まだ早いか。
「ネギ先生……このちゃんの為に頑張ってくれてありがとうございます」
「刹那さん……」
「行きますよ! ディオさん!」
少女剣士が飛び出すと同時に、俺も飛ぶ。鬼の見かけはかなりの巨体だが、黒髪眼鏡の所まではそう時間はかからなかった。
「な……お前、空も飛べるんかい!? 反則や!」
反則なんざ知らないな! それに、お前だって大鬼つれてんだから十分反則だ!
「スクナノカミ! 撃ち落としてしまえ!」
命令と同時に鬼が片腕を振り上げ、俺に叩きつけてくる。それを俺は真っ向から迎え撃つ!
〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄ああぁぁっ!!〕
スタンドを……舐めるなああぁぁ!!
〔無駄あぁ!!〕
ドグオン! と、気合いをこめたラッシュと最後の一発により、鬼の腕が跳ね上がる。 腕を大分損傷したが……これぐらいはどうってことない!
「スクナの攻撃を止めて跳ねあげた!? んな、嘘やろ!?」
今だ! 少女剣士!
「天ヶ崎千草! お嬢様を返してもらう!」
「お前、神鳴流の―――――」
黒髪眼鏡が驚いている間に、少女剣士は目的を奪取した。
よっしゃ! 一つ目成功!後はあの大鬼だが……いったいどうすれば……
……そうだ! もし追加特典にアレが追加されているなら……もしかしたらイケるか!?
「鳥族とハーフやったとは……いや、スクナの力をもってすればすぐに!」
頼むぜ………いくぞ!
俺は、こちらから注意が逸れている間に鬼の頭上へと移動する。そして―――
”時よ止まれ!”
両腕を上に掲げ、”何か”を呼び出す。手に感触があったと同時にその”何か”の上に回り、鬼の頭上に落とす。
これこそがぁ―――――
世界最大の……タンクローリーだああぁぁぁ!!
ってでかぁ!? 世界最大のタンクローリーでかすぎるだろ!? でもこれなら……
〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕
ラッシュラッシュラッシュ!!!
「なぁ!? いつの間にこんなもんが―――」
”時止め”が終わったか!? だが……まだまだあぁ!!
〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕
世界最大のタンクローリーに乗られラッシュまでされている大鬼は、堪えているのか段々と屈み気味になっていく。
”時よ止まれ!”
これで最後だ!
〔無駄………無駄あぁぁっ!!〕
タンクローリーに一発、鬼の首に一発でかいのを入れる。
これで…どうだぁ!
時が動き出すのと同時に、バグオオォォ!!! という爆発音が轟き、鬼は仰向けに倒れる。
相手も満身創痍らしく、寝転がったまま動かなくなった。
「そんな……そんなアホな……!?」
ボロボロな俺の耳には、女の驚く声と、
「やった……やったぁ!」
「すげぇぜ、旦那ぁ!」
「あのタンクローリー何処から出したの!?」
「なんかよう分からへんのやけど……」
「大丈夫ですお嬢様……勝ちましたから」
「……私の出番が減った……クソぅ……あのローブ……!」
少年たちの、驚きと喜びの声が聞こえてきた。
……恨みの様なものが聞こえた気がするが―――――まぁ、気のせいだろ。……気のせいに決まってる!