俺が、”ザ・ワールド”だあっ!!    作:阿久間嬉嬉

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上手くいくと……思うなよおぉっ!

ホテル嵐山を遠くに見やり、俺は思う。……風呂入りて~な~…と。

 

だって、俺の風呂代わりの場所って川なんだぜ? 排泄しなくていいくせに、頻度は少なくとも体を洗わなくちゃならないって何なんだよ……しかも背中のタンクとか、ハートや鎧部分も含めて俺の体だし。

つまり、転生初日は全裸で立ってたということになるけれども、見た目が見た目なだけに俺も向こうも恥ずかしいという気持ちは無いのが救いだな。

 

よっし、洗浄完了! 筋トレや戦トレ、時間停止延長の特訓再開するとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

特訓を終えた俺は、誰もいない夜の駅にいた。無論ローブ姿で。

 

厄介な人物と再会してしまった以上、また別の場所に行こうと電車に乗りに、終電間近の駅に来たのだ………が、人っ子ひとりいない。

 

おいおい……いくら終電間近とはいえ、人影が全くないのはおかしくないか?

いや……あれか、ひょっとしなくても、巻き込まれたってわけか。―――ちくしょ~……関わりたくねえのに…。あの神が手引きしてんじゃねぇだろうな……?

……こうなったら、これ以上巻き込まれないうちに―――

 

「「待て~っ!」」

「お嬢様を返せ!」

 

―――離れたかった……。結局これかよ。

いや、待て。今からでも遅くない、隠れてしまえば!

 

「…おや、ちょうどいい―――――あんた来てくれたんやな! 後はたのんますえ!」

 

は?

 

「あんた、やっぱり敵だったのね!」

「欺くために、わざと助けたり加減してたってわけかよ!」

「外道が……!」

 

はあ!?

 

「そんな……全部、僕達を騙すために行った事だったなんて……っ」

 

はああぁぁ!?

 

……あの着ぐるみ、こいつらを俺に押し付けて逃げる気かよ! くそっ! 結局戦う羽目に……… 

……ん?

 

・相手を押し付けられる

     ↓

・相手をさせられて、その間にあいつは逃げる

     ↓

・だったら律儀に相手せず、時止め使って逃げればいい

     ↓

・あいつを追ってボコれば、一恨み晴らせて一石二鳥!

 

………

 

 

 

 

”時よ止まれ!”

 

俺は猛スピードで猿が逃げたほうへと走る。

 

〔オオオオォォォォォ!!〕

 

あのクソ猿がぁああぁぁあ~~~っ!!

 

 

 

 

 

side三人称

 

 

「ふふふ……ちょうどいい所に、あんな怪しいのがいて助かったわ」

 

猿の着ぐるみを着て居る女・天ヶ崎 千草は、近衛 木乃香を抱え逃走している。しつこく追ってくるネギ達を何とか捲けないかと思考を巡らせている最中に、都合よく怪しいローブの大男がいた。

その男に押し付けまんまと距離を稼ぐことに成功したのだ。

 

「西洋魔術師も大したことあらへんかったし、お嬢様も楽~に手に入れた。 さっきの大男はもう倒されたとしても別に問題は無い……ふ」

 

ほくそ笑む千草。しかし―――――

 

〔オオオオオォォォォォォ!!〕

 

世の中そう都合よくはいかない。……とんでもない音量の咆哮が、後ろから徐々に迫ってきたのだ。その方向の主は―――

 

「な!? あのローブの大男!?」

 

ネギ達を押しつけ、戦っているはずのローブだった。

しかも常人では考えられない速度で迫ってくるうえ、フードからわずかに見える目は、並みの者なら気絶してもおかしくないほどにギラついていた。

 

「ひっ!? ……え、猿鬼! 熊鬼!」

 

怯えながらも、千草は式神を呼び出し護衛に付ける。

 

「クマ~ッ」

「ウキッ」

 

着ぐるみのような間抜けな外見だが、彼らは呪符使いの善鬼護鬼。少なくとも弱くはないだろう。

 

「ウチの猿鬼、熊鬼はなかなかに強力……どうやって、あのガキどもを捲いたのかは知らへんけど、魔力も気も感じんあんたにかなう相手じゃありまへんえ!」

 

そういって再び逃げようと前を向いた千草は……有り得ないものを目にした。それは―――

 

「は?」

 

今、後ろから追ってきていたはずのローブの男が目の前で腕を引絞っている姿だった。

 

その余りに予想不可能な出来事に、千草は攻撃に反応すらできず思いっきり殴られた。その一撃は、持っていた守りの護符をまるで元から無いかのように貫き、千草を水平に吹っ飛ばして壁に叩きつけた。

 

「おぶほぉっ!?」

「クマッ!?」

「ウキャキャッ!?」

 

最初は守りの護符が効果を発していないのかと思っていた彼女だったが、確かに効いている事が壁への衝突で分かった。つまり、あの男は素のパワーがとんでもないのだ。

式神達も、いきなり目の前から敵が消えたことに驚く間も無く、主が吹っ飛ばされてようやく驚きが来た。

 

(何なんやこいつ、いきなり目の前に……!? こうなったら!)

「はあぁっ!」

 

符を次々と投げ、小さな式神から強力な式神まで、ありとあらゆる式神を出した。

 

「行け! あの男をいてまえ!」

 

その声に応え、式神たちは一斉にローブへと襲いかかった。

 

「ウキキー」

「ムキャー」

「ブモー」

「ワオン」

「クママーッ」

 

そして式神達によりローブの姿が見えなくなり、千草はほっとすると同時に笑い出す。

 

「あははははっ! どうや、一発当てたぐらいで浮かれとるからそうな―――」

 

しかし、その笑みは……

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄あーっ!!〕

 

ローブの猛烈なラッシュにより式神たちが宙を舞い、穴をあけられ、消し飛ばされる様を見て恐怖へと変わった。

 

「な……何なんや……お前…」

 

こちらへ向かってくる男に、千草はもう恐怖以外の感情を持っていなかった。戦うなんてもってのほかと、本能が告げているのだ。

 

(やばい……これは本当にヤバい……。…ん?)

 

と、視界の端……ローブの後ろ側に、先日あたり護衛に雇った神鳴流剣士・月読の姿が見えた。月読は気配を殺し、ローブの大男へと迫っている。どうやらローブは気付いていないようだ。

 

(はは……詰めを誤ったな。 最初の一撃でウチを気絶させとかんからこうなるんや)

 

「えーーい」

 

そして月読は大男に斬りかかり―――

 

「ぶはぉ!?」

「は……?」

 

天高く殴り飛ばされた。………それも後ろから背中を殴られて。

 

「に……逃げ」

 

もう打つ手が無い。千草は式神を出して逃走しようとした。……が、自分が背を向けたはずのローブの姿は……

 

「お…前……何なんやーーっ!?」

 

腕を振り上げ、目の前にいた。

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あっ!!!〕

 

駄目押しとばかりの止めのラッシュにより―――

 

「げおふ!」

「えばっ!」

 

千草と月読はボコボコに殴られ遠くに飛ばされた挙句、地に叩きつけられたのであった。

 

sideout

 

 

side”ザ・ワールド”

 

いや~すっきりした! 無駄無駄ラッシュってこんなに爽快な気分になれるとは思わなかった! さて、我が家に帰るか! ……念のため、

 

”時よ止まれ!”

 

まだ二秒しか止められないし、相手の変な壁みたいなのに威力を意外に緩和されちまうけど、もっと強くなってやるぜ! 俺の為!

 

………しっかし、何かを忘れている気がするんだが……まあいいか、京都の我が家へ!

 

sideout

 

 

 

 

side刹那

 

な、なんだったんだあのローブの大男は……? またいきなり消えた……?

 

ローブの大男を追いかけて居たら、いきなりこのかお嬢様が目の前から飛んできて、何事かと目を見てみれば……

 

猛烈な連撃と察知不能の謎の瞬間移動によって関西呪術協会の刺客を叩きのめすローブの姿が…。

 

あの男は敵ではなかったのか? それにあの後ろから来たもう一人による、回避不能の一撃をよけて見せた瞬間移動はいったいどうなっているんだ?

 

ネギ先生や神楽坂さんもぽかんとしてしまっている。

 

私も正直、ほとんどわけが分からないが、分かっている事は二つある。

 

一つはお嬢様を助けられたのはあの男のおかげだということ。そして二つ目は―――――

 

 

今の私では、切り札を出そうとも絶対に勝てないということだ……。

 

 


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