第六試合に間に合うか?
『それでは第六試合―――――ready……Fight!!』
今始まったとこか! ラッキーだな。
ほっとしてステージに目を向けると、今まさに後ろからインファイトに持ち込もうとしている、ネギ少年の姿が映った
うお!? もう後ろとったのかよ、速い!
ネギ少年は、高畑教諭の拳をかわすと同時に、掌底、拳、フェイントを加えての肘と休む暇なく次々打ち込んでいく。
『こ、これは凄い……凄すぎる! 目にも止まらぬ凄まじく、そして素晴らしい攻防! しかも子供先生が……ネギ選手が押している!?』
そして、ネギ少年の手が光ったと思った直後、繰り出された拳により高畑教諭が、まるでトラックに追突されたかのように大きく吹き飛んだ。
うひょー! 魔法ってやっぱり凄いな!! ……俺は使えないけど。
『これも中国拳法なのか!? 吹き飛ばされた高畑選手、水煙で姿が見えませんが湖中に沈んだか、いやそもそも命は無事かーっ!?』
段々水煙がはれてきたな……。 お、人影が見えた。
『おっと高畑選手、無事の上なんと無傷です! あれだけの攻撃を喰らったのにこれだけとは……やはり”デスメガネ高畑”の名は伊達ではない―っ!』
デスメガネって呼ばれてんのか、高畑教諭。
高畑教諭は水面に立った状態(どうやってんのアレ?)から飛びあがりネギ少年もそれに応戦した。
『ちょ、ちょっとお二人さん、そこ場外だって! カウントとるぞ!?』
戦ってたのは場外だけど―――――うわ、ネギ少年蹴っ飛ばされた!
と、ネギ少年がガードの構えを取った瞬間、パパン! という炸裂音と共にガードをすり抜けて弾き飛ばされた。
『やはり……アレは、そうなのか』
『豪徳寺さん、何かお気づきになりましたか?』
『はい。高畑選手が先ほどから使っている、見えない遠距離攻撃の正体。あれは恐らく拳の居合い抜き…、”居合い拳”だと思われます』
『居合い拳……ですか?』
『おそらく、ズボンのポケットを鞘に、拳を刀に見立て、目にも止まらぬスピードでパンチを繰り出しているのでしょう』
『可能なのですか?』
『文献でならば私も見た事はあるのですが、実際にやっている者を見るのは初めてです』
なるほどな。見えないほど速いパンチで”圧”を飛ばして攻撃してるってわけか……しかも、まだ何かありそうだし。
そこからの攻防は序盤とは一転し、見えない打撃”居合い拳”からネギ少年が逃げ回ると言ったものになった。
突貫しようとも、高速移動は一直線しか使えないらしく足をひっかけられる。そのあと間髪いれずに”居合い拳”を連発して体勢を元から崩す。逃げようにも、回りこまれてガードの上から弾き飛ばされる。
誰が見ても、劣勢なのはネギ少年の方だった。
ん? お互いに止まったな。 ……高畑教諭の手が光ってる? そんで光ってる手を合わせたけど、何やる気なんだ? ―――――って、うお!? すげぇ風!
『な、この風圧はーっ!?』
そして、ネギ少年が咄嗟に後ろに下がった瞬間―――――
大きく鈍い音が響き渡り、高畑教諭の”居合い拳”がステージに大砲の着弾跡の様なものを残した。
『何だこれはーっ!? パンチなのか!? まるで大砲の着弾のようだーっ!』
……魔法って本当に何でもありなのな、オイ。
一発目はどうやらサービスだったらしく、続けて放たれた”居合い拳”は、確実にネギ少年を吹き飛ばそうと狙っていた。
『凄まじい連撃、砲撃の嵐! ”超・居合い拳”の連打に次ぐ連打だーっ!!』
空爆でも起きてるのかよこのステージ!? 凄いな”超・居合い拳”! でも、ネギ少年がこんなの喰らったら、骨折じゃ済まなくないか!?
つーか、不味いな……経験差ってやつが出てきてる……。 段々と追い詰められてきちまってるぞ……。
ネギ少年が思わず膝をついた隙を逃さず、高畑教諭はネギ少年の上をとった。
やば……直撃すん――――何かにはじかれた!? っ! けど、あれじゃヤバい!!
うげ、直撃しちまった!?
『決まってしまったー!? ネ、ネギ選手大丈夫か!? ――――あっ……ネギ選手虫の息―――ってネ、ネギ君ほんとに大丈夫!?』
少なくとも大丈夫では無いよな、アレ……。
『も、もう高畑先生の勝ちでいいよ! ほら、高畑選手の勝利!!』
確かにこの状況なら妥当かもしれないが……多分、立つぞネギ少年。
「コラァ! 立ちなさいよ、このバカネギーっ!!」
「が、頑張ってください! ネギ先生!」
「立てぇー! ネギくーん!」
「立ってくださいです! ネギ先生!」
オレンジ髪の少女も観客席の少女達も必死にコールしてるし、周りからの応援もある。そしてネギ少年の(戦いに置いての)性格を考えると、これなら……。
「「「「ワアアアァァーッ!!」」」」
立った! やっぱり、立ち上がった!!
ネギ少年は立ち上がると同時に、自身の周りに渦を巻く球を出現させる。その数は7、いや8……いや9本。そして9本出したところで何かをしたらしく、渦が不自然に消えた。
しかしそれは、高畑教諭の蹴りとほぼ同時だったため、蹴りのせいでキャンセルされたようにも見えた。
そのままネギ少年は”超・居合い拳”を受け、周りの堀へと真っ逆さまに落ちて行く。
『ああっ、ネギ選手リングアウトーッ!! ……ってうわ!? ふ、復活! ネギ選手復活、不屈の闘士だーっ!』
いつの間にか渦も復活してるな。
「最後の勝負だよ! タカミチ!!」
「……分かった、いいだろう! その勝負を受けて立とう!」
『両者フィニッシュ宣言だ! 確かに時間も近づいています! これが最後の勝負となるか!?』
『ネギく―――子供先生の後ろの観客が、巻き添えを恐れて左右に分かれて行くとは……いやはやとんでもない試合ですね』
一瞬の硬直の後、先に仕掛けたのはネギ少年の方だった。
渦がまるでネギ少年を包み込むように激しく回り撃ちだされ、それを纏うかのように突っ込んでいく。
高畑教諭の方も、今までよりも助走をつけ、こちらにまで届くほどの風圧で”超・居合い拳”を打ち出した。
そしてお互いがぶつかり合い、轟音と共に煙と木材の破片が上がり、何も見えなくなった。
『両者激突!! ネギ選手の行った今の攻撃は、体当たりでしょうか!?』
徐々に煙がはれ、二人の姿が見えてくる。そこには――――
後ろをとり、今まさに光る手を振りかぶったネギ少年の姿が―――っ。
『これはあっ!?』
実況とほぼ同時、会場がざわめくと同時にネギ少年は拳を、ステージごと砕かんばかりの勢いと、煙が真上に撃ちあがるほどの威力で叩きつけた。
『ネ、ネギ選手の必殺技と思わしき一撃がクリーンヒットーっ! 物凄い大逆転劇です! ……あーっと! ここで十五分経過し、タイムアップとなりました! 高畑選手、そして勝敗は!?
おっと、先ほどとは真逆! 高畑選手生きているのでしょうか!? まずはカウントを!』
『素晴らしいですネギ選手! あれほどの攻撃に正面から立ち向かい、後ろをとるとは!』
どうだ……!?
『4! 5! 6―――あっ!?』
起き上がった! タフだな、高畑教諭!
『あれほどの攻撃を喰らって立ち上がった!?』
『ここで高畑選手が十カウント前に立ちあがってしまうと、観客のメール投票により、勝敗が決まってしまいます』
『7! 8! 9!』
立ち上がるかのように見えた高畑教諭は、ネギ少年と何か言葉を交わした後、
『――――10!!』
力尽きたように倒れた。
『ネギ選手の勝利です! 齢十歳の子供先生が、デスメガネ高畑を打ち破り、二回戦進出です!!』
「「「「ワアアアアアァァァァッ!!!」」」」
勝ったか、ネギ少年……。辛くも勝利ってとこだな。
『素晴らしい試合を有難うございました! さて次の試合に………入りたい所ですが、ステージがボロボロとなってしまったので、修復を行いたいと思います! 皆さま、しばらくお待ちください!』
まぁ、あんなステージじゃ戦いにくいどころか、途中で崩れそうだしな。
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ステージ修復は終わったのに、第七試合の選手はやけに遅いな? 着替えでもしてんのか………なーんてそんな事があるはず無いか! いくら次の試合が女の子同士の戦いだからって、いくらなんでも――――
『皆さまお待たせしました! 神楽坂選手に桜咲選手、今大会の華がメイド姿というキュートな格好での登場で、会場も色々な意味で大盛り上がりでーす!!』
ぶはっ!? マジで着替えてたのかよ!? 戦う格好じゃないでしょ、それ!?
というかまだステージに上がらないのか? 何やってんだ―――お、やっと上がった。
『両選手のステージへの入場を確認しました! それでは、第七試合―――ready Fight!!』
お! 見た目がイロモノだからどうなるかと思ったけど、結構凄い得物がっせんだ!
『只今、神楽坂選手と桜咲選手の試合をお楽しみいただいていますが……。これは……!?』
両者、得物を振り回し打ちあったと思うと、神楽坂少女が速度を上げて回避先を攻撃。かと思うと桜咲少女が、受け流し、避け、両足で打ち上げる。
そして、宙に飛びあがりなおも打ち合いを続け、お互いに強烈な一撃を放ち一端距離をとった。
『これは凄い! メイド中学生両者、先ほどの試合にも引けを取らない動きです! ………そして予想道理の物が見れた男性陣からも称賛の声と拍手が♡』
クソ……凄い試合だからじーっと見てたら、目に入った……。 目に入るなら、あの時はゴミがよかったのに……!! ふつーに試合見させてくれよ、コンニャロ……。
「そうですね……あなたにはコレを着て、次の試合に出ていただきましょうか」
「ス、スクール水着だと……!?」
「待て! なんだそれは!? 何処から出した!」
何か横で変態集団が騒いでんだけど……つーか次の試合って俺じゃん。 戦うのはさっき待てって言ってた―――――女の子かよ!? 強者決定じゃねぇか、このパターン!? その上、スクール水着で出られたら俺も恥ずかしいって!?
「と、とにかく見てなさいネギ! あたしがちゃんと、パートナーとしてあんたを守って行けるってことを見せて――――あらら?」
なんだ? 何かプシュウって感じに萎れたぞ? ……そんで誰と話してんだってうお!? スカートがいきなり捲れ上がった!? ……見てない見てない!!
「「「オオッ!?」」」
そして盛り上がるな変態共!!
「何をやってるんだ刹那ぁ!! 神楽坂ごときなんぞ五秒で倒せぇ! いや殺れぇ!!」
不吉な単語をぽんぽん使うな! たくよ~…。俺は試合に集中しよ……。
おお、またも攻防入り混じった、いい展開に―――
「ではでは、ネコミミ眼鏡にセーラー服も追加ということで♡」
「うぎゃあ!? ふ、ふざけるなー!!」
あーもう!! 俺いったん外に出る!!
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そういや俺、最終調整とかあるから呑気に試合見てる暇なかったじゃねぇか。 何事も準備やウォーミングアップを怠るなと……よく言うしな。
……もうあの変てこ会話終わったよな?
『桜咲選手勝利ーっ!!』
ああ!? ちくしょう、見逃しちまった! もう少し早く調整終えるべきだった! ……終わっちまったもんは仕方ないか。
さてと、次はいよいよ俺の試合か……何か緊張してきた。
『それでは続きまして第八試合! アメコミヒーローの様な外見の男、”ディエゴ・ブランドー”選手対……麻帆良学園囲碁部所属、”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル”選手!』
よーし、行きますか!
■
side三人称
『格闘家でもなかなかいないであろう程の筋肉と身長を誇るディエゴ選手に対し、マクダウェル選手はまるでお人形のよう! しかし、この大会はどんなどんでん返しがあるか分かりません!』
「エヴァちゃんなんか雰囲気違うわね」
「でも大丈夫でしょうか? 一般人レベルの身体能力があるとはいえ……相手のディエゴという男も、一般人よりは強いはずですよ?」
「大丈夫ダ。幾百年生キテイルッテノハ伊達ジャネーヨ」
「確かに予選でも、自分より大きな男を易々と抑え込んでいたでござるからなぁ」
「こりゃ、相手がかわいそうアルネ」
「ただえさえ咬ませ犬っぽい体型なのにな~…かっこいいと思うけどな。あの仮装はな」
「頑張ってください師匠!」
『それでは第八試合―――』
誰もがどんな戦いが繰り広げられるかを楽しみにしていた。
そして、エヴァンジェリンの強さを知る者たちは、応援しながらも談笑に持ち込んでいた。
『ready―――Fight!』
そんな彼らが次の瞬間見たものは、爆音と共に上がった木材の破片と―――――
「え?」
「は?」
「へ?」
拳を振り下ろした、”ディエゴ・ブランドー”の姿であった。