俺が、”ザ・ワールド”だあっ!!    作:阿久間嬉嬉

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ずいぶん飛んだな……あれから何週間だ?

…京都の事件から数週間後……

 

俺は今、一度出たあの街の(確認したら麻帆良というらしい)山奥に、簡単な住居を構えていた。

好む好まざるに関わらず向こうから災難がやって来るならば、逃げていても仕方ないと思ったからだ。

 

それに元々、原作には関わるつもりだったしな。

 

あれから特訓のメニューも量も増やし、強くなっていると実感も出てきている。時を止めるのも3秒まで延長できるようになったのは、かなりの強みだ。

 

だが、やっぱりネックになっているのは”経験不足”だ。

今の俺は、力任せに殴りつける、蹴りつける事しかできず、連携なんてあったもんじゃない喧嘩殺法だ。ラッシュだってほぼ力任せにやっているだけだしな……。経験豊富な者や、”技”を使う者にあったらちょっと不味いかもしれない。

それに、追加特典の”DIOの使った道具のみなら呼び出せる”も、今は条件が整っていないらしく使えない。

タフネスや傷の治りの速さに頼りっきりなのもまずい。

 

誰か練習相手でもいればなぁ………。

 

そこで俺は、もう食料が少なく、買いに行かなければならない事を思い出す。腹がかなり減りにくいといっても減るもんは減る。金はあるので、そこは安心だ。

 

さーて、買い出しに行きますか…。……ちゃんとローブ来て。

 

 

 

 

 

”食いたいものだけ食ってたら体を壊す”……良く言われる事だが、俺の”ザ・ワールド”となった体にとっては、別にそうでもないらしい。多分、エネルギー補給の意味しかないんだと思う。

ま、好きなもんばかり食っていいってのは嬉しいな。……俺好き嫌い無いからあんまり意味無いが。

 

そういや、この街の人たちってローブ姿の怪しい奴(俺)を見ても、驚きはするが通報はしないんだよな……何故だ? ―――ってあ~……いつの間にか雨降ってやがる…。傘買ってくか。

 

 

ちくしょう、また迷った! この街やっぱり迷路かなんかだろ!? ……愚痴ってても仕方ないか。

ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か、み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……こっちだ!

 

指差した方向に歩いていくが、見えてきたのはボロ屋ではなく立派なスタジアムと巨大な樹の張り巡らされた根。……つまりはずれ。

 

あー! いらつくなオイ!?

 

”バガアッ!!”

 

そして何かの破砕音……災難やってくるの早すぎる!? 

よく見ると、何人か見知った顔が囚われているのが分かる。

 

ってーか、眼鏡の少年の隣で戦ってるあの黒髪は、京都で戦った小太郎少年じゃねぇか。 仲間になったのか?

 

俺はとりあえず、状況を把握するため傍観することにした。

 

 

 

sideout

 

 

 

 

side三人称

 

一見、ただの老人のように見える男が構えを取る。

 

「悪魔アッパー!!」

 

叫ぶと同時に放たれたアッパーカットは、まるで巨大な何かで抉ったよなあとを目の前の観客席に残した。

 

(なんやねんこいつ!? 呪文無しで西洋魔術みたいな攻撃打ちやがった!)

 

殆ど立て直す暇もなく次々と飛んでくる拳に、ネギも小太郎もどんどん押されていく。

 

「うあっ!」

「ぐはぁ!」

 

何とか防ごうとするものの、ガードの上から二人とも弾き飛ばされ、地に伏せてしまう。

 

「ふむ……先ほどの動きは良かったのだが…この程度かね。ネギ君……君は、私が手を下すほどでも無い者のようだね」

 

その告げる男の顔からは、落胆と呆れがありありと見て取れた。

 

「何言うとるんや、まだまだやで! なあネギ、まだ行けるやろ!」

「うん! 当たり前だよ!」

「いくでぇ!!」

 

杖と拳の連続攻撃をしかけるが、またも簡単に防ぎきられてしまう。ネギ達のコンビプレイは、初めてとは思えないほど息が合っているのにもかかわらず……だ。

そして男は、ネギにある一つの事柄を問いかけた。

 

「ネギ君……君は本気で戦っているのかね? 私が思うに、君は手を抜いているのではないのかね?」

「何を言っているんですか!? 僕は本気です、本気で戦っています!」

「やれやれ……サウザンドマスターとはまるで正反対、戦いに向かない性格の息子とは……」

「!?」

 

”サウザンドマスター”……その言葉に反応するネギだが、問いを投げかける前に男の方から問いが来た。

 

「もう一つ問おう……君は”何のため”に戦っているのかね?」

「な、何のため……に?」

「そう、何のためにだ……。小太郎少年を見たまえ、実に……とてもうれしそうに戦う。だが君は? 君が戦うのは仲間の為かね? ……くだらないそんな物では期待はずれもいいところだ」

 

そして一つ置き、また話し始める。

 

「戦う理由は自分だけのものだ、常にそうでなくてはいけない。特に「怒り」や「憎しみ」などはいい……「復讐」も最高だ。もう少し健全に言うならば「強くなる喜び」でもいい、そうでなくては戦いは面白くない」

「戦いが面白い……? 僕…僕が戦うのは―――」

「一般人を巻き込んでしまった責任感と、彼女達を助けなければならないという義務感かね? 義務感なんて、そんなつまらないモノを糧にしても本気になどなれないぞ……?」

 

男は不意ににやりと笑い、帽子に手を当てた。

 

「それとも、君が戦うのは――――

 

…あの雪の舞う、悲劇の夜の記憶から逃げるためかね?」

「な、何故それを…!? ……い、いや違う、違います僕は――」

 

男の口から出た言葉に再び驚愕し、否定しようとするネギ……だが、男はそれを許さない。

 

「それでは……これなどはいかがかね?」

 

そう言って帽子を外した男の顔は………ねじれた二本の角が付き、考えの読めない不気味な目があり、口はジャック・オ・ランタンの口のような形に裂けていた―――異姿の顔だった。

 

「あ、あいつは……!? ネギの村の…!」

 

縛られている状態のアスナ……彼女が驚くのも無理はない。あの顔は、かつてネギの村を壊滅させた悪魔のうちの一人の顔だったからだ。この話を映像媒体として知っていたからこそ、彼女の驚きはかなりのものだった。

 

「そう……君の仇だ、ネギ君。……私はね、あの日に召喚された悪魔たちの中でも、ごくわずかに召喚された爵位急悪魔の一人なんだよ」

「……」

「君のおじさんを、その仲間を石化し、村を壊滅させたのもこの私……ヘルマン伯爵なのだよ。

どうかね? 自分の為に戦いたく―――」

 

その先を言う前に、ネギは恐るべき速度でヘルマンの懐へと入った。その目は……憎しみ一色に染められていた。

 

「むぅ……!」

 

ネギの攻撃の激しさにヘルマンは防御に回るのみ、先ほどとは逆の展開になっていく。

 

「何なんやあの動き!?」

「魔力の暴走(オーバードライブ)か!?」

「お、オーバー……ドラ、え―――」

「それ以上は言うなッ! ………兄貴の最大魔力は膨大なんだ! 今はまだ使いこなせていねーが、何かのきっかけでそれが解放されれば……!」

 

だが、スピードとパワーは申し分ないものの攻め方が無茶苦茶で、このままではそれを利用されてしまう。

 

「ふはははは! すばらしい……すばらしいじゃないか! これが見たかったのだ! 

――――そう、それでこそサウザンドマスターの息子だよ!!」

(ネギ……確かに今のお前はすげぇ……けどそれじゃアカン……そんな戦い方じゃアカン!)

 

嫌な予感がすると同時に、ヘルマンの口が光る。小太郎は駆け出すが、この距離では間に合わない。

 

(惜しい才能だ……将来も見てみたくなる………だが―――)

 

「くそ……ネギイィィーッ!」

「ネギッ!! 危ないっ!!」

 

(才能ある者が潰えるのを見るのも……一つの楽しみだよ!)

 

そしてヘルマンの口から―――

 

〔無駄ぁっ!〕

「ガバァ!?」

 

――石化の光線が放たれる事は無かった……一人の大男の拳によって。

 

 

sideout

 

 

 

side”ザ・ワールド”

 

 

危ねぇ、危ねぇ……少年が光線食らう所だった…。ちょっと呑気に傍観しすぎたな。

 

「むぅ、気配は感じていたが……こんなに近づかれ殴られるまで来ていたとはな」

 

そりゃ時止めて来たからな……今考えても反則だよな”時止め”。

 

「ふむ? 君からは魔力も呪力も感じないが……いったいそれは―――」

「アホがーーーっ!!」

「あだぁ!?」

 

なんだ!? いきなり殴られたような音がしたぞ!? ……小太郎が眼鏡の少年を殴ったのか!

 

「ここ、こた小太郎君!?」

「お前の底力が物凄いんはよう分かった……だけどなぁ! あんな闇雲で強引で最低な戦い方しとったら返り討ちくらうんは当たり前やで!? 結局決めても入れられてへんし、ディオの兄ちゃんが来とらんかったらお前やられてたんやぞ!?」

 

兄ちゃん? 俺の見た目だとおっちゃんが……ああ声か、声の高さか。

 

「ディ、ディオさんが……」

「頭よさそうな外見しとるくせに、仇かなんか知らんけど簡単に挑発に乗ってキレよってからに! このガキ、アホ!!」

「ふむぐ」

 

何だか知らないが……どうやら少し落ち着いたみたいだな。

 

「兄貴たちの方は大丈夫そうだ……ディオの旦那も来てくれたし、こっちはこっちで集中しようぜ」

 

ん? ……うお!? 捕らえられた少女達、素っ裸ばっかじゃねぇか! ……見なかった事にしとこ。

 

「それに、共同戦線っていうたやろ? あのおっちゃん協力して倒すで」

「うん……そうだね、小太郎君。―――――ディオさん、協力を頼めますか?」

 

紙に書いてと……

 

『わかった……だが、とどめはお前たちにまかせる』

 

いきなり乱入してとどめまで持っていくわけにはいかないしな。

 

「へへっ……まかしときぃ!」

「勿論です!」

 

俺たちの会話が終わったのを見計らったのか、数拍おいておっさんが話し始める。

 

「……私としては先ほどまでのネギ君の方がよかったのだが……まあいい。ディオ青年、君の実力に興味がわいたよ……行くぞ!」

 

はっ、来やがれ! 修行してパワーアップしたんだぜ、今までよりも!

 

「連発・悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)ウゥッ!!」

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あっ!!〕

 

おっさんと俺のラッシュが、ドゴゴゴガガガガガガ!! とぶつかり合い、連続で衝撃波を発生させた。

 

「むうぅぅぅぅうううぅぅぅ…ああああああぁぁぁぁああぁっ!!!」

〔無駄あぁ…無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁ!!〕

「む…ぐおおぉぉ!?」

 

初めこそ拮抗していたが、しだいに俺が押して行く。

 

「よし、ペンダントget! お待たせアスナ!」

「朝倉!」

 

向こうでも動きがあったか!

 

「のどか!」

「う、うん!」

「「封印の瓶(ラゲーネ・シグナートーリア)」」

『又瓶ノ中カヨ~~ッ!?』

『悪役デスシネ~……』

『イヤアァ~ンデスゥ~!?』

「む、なんと!?」

 

おっさん……劣勢の時によそ見は禁物だ!

 

〔無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あぁぁ―――無駄ぁ!!〕

「ゴブオおぉぉぉっぐばあ!?」

 

隙を突いて跳ねあげる。

 

今だ、眼鏡の少年! 小太郎!

 

「ナイスや! ……おらぁ!」

 

小太郎がさらにアッパー掌ていを打ち込みそして、さらに

 

「”影分身”からの―――連打やあぁ!!」

「ぐおおっ! ―――ま、まだ――」

 

いや、終わりだ!

 

「どらぁ! ―――ネギ!」

〔無駄あっ!!〕

「ぬあっ!」

 

俺と小太郎二人で打撃を決め、そして出来た大きな隙に眼鏡の少年……ネギが入りこんだ。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 雷の一矢(ウナ・フルグラーリス)……攉打頂肘!」

「ぬぅぅうっ」

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル! 来たれ虚空の雷(ケノテートス・アストラプサトー)薙ぎ払え(・デ・テメトー)――――

 

雷の斧(ディオス・テュコス)!!」

 

ドオォン 、という雷鳴がとどろく音と共に、雷の刃がおっさんの体に直撃した。起き上がってこないところをみると、気絶したようだ。

 

……勝ったか。 この戦い。

 

 

 

 

雨脚が弱くなってきたな……そろそろ止むか。

 

「あ、あのディオさん」

「あの~…ディオはん」

 

ん? ネギと……あの時のお嬢様?

 

「「あの時は、有難うございました!」」

 

すげえ、ハモッた! ……じゃなくて、

 

『いや、御礼は別にいい。御礼を言うのはこっちだからな』

 

そう書いた紙を見せると、二人とも目を丸くした。

そりゃそうだよな、これ個人的な事だもん……じゃ、何で書いたんだ俺? ノリ?

 

「え? いや、感謝されるようなことは何も――――」

『個人的な事だ、気にしなくていい』

「は、はぁ……」

 

何が気にしなくていいだ。俺のバカ野郎……この野郎……。

 

「君たちの勝ちなのだ……止めを刺さなくていいのかね?」

 

倒れているおっさんが、ネギ少年に向かって問いかけた。

 

「……止めは……刺しません」

「このまま放っておいても、私は元の……自分の国へ帰るだけだ。また復活してしまうかもしれんぞ?」

「あのとき……貴方は召喚されただけだし、今日だって人質にそんなにひどい事はしなかった。……それに、僕には貴方の方も本気で戦っているようには見えませんでした……。

ディオさんとの殴り合いの時でさえ、セーブしているようにも見えましたし、貴方はそこまでひどい人には……」

 

マジかよ!? おっさん、まだ本気出せるのか! もっと修行しないとな……。

 

「私は悪魔だよ? 根っからの、そして全くの悪人かも知れんぞ?」

「それでも……です」

 

ホントにお人よしだな、ネギ少年。俺もとどめ刺してたかわかんないけどな…。

 

「ふふふはははは! とんだお人よしだ! やっぱり戦いには向かんなぁ、君は!」

 

まぁ、おっさんみたいな人だったら笑っちまうよな。

 

「コノエコノカ嬢……彼女の極東屈指の魔力をもってすれば、今も治療の当てのないまま眠っている人たちを治す事も、もしかしたら可能やもしれん……ま、彼女が成長すればの話だから、何年先かは分からないがね」

「……!」

「いずれ成長した君をみるのを楽しみに待っている……私を失望させるなよ? ……そして、ディオ青年」

 

うお!? いきなり俺か。

 

「誠に勝手ながら、君の素顔を少しだけ見させてもらった……同族ともいうのかね、君は?」

 

なに!? 俺の素顔…”ザ・ワールド”の顔を見たのかよ!? いや、確かに見方によっちゃ悪魔みたいだけどさぁ……同族て……。

 

「そして君の強さにも感服した、次会うのを楽しみにしているぞ――――はははははははぁ!!」

 

おっさんは笑いながら、煙のように消えて行った。…振っていた雨は、もうすでに止んでいた。

さてと、さっさと帰りますか。じゃないと――

 

「ディ、ディオさん! 同族ってことは貴方もしや――――」

 

ほらな!? やっぱり来た! おっさんがあんなこと言うからだ! ちくしょう!

 

”時よ止まれ!”

 

質問なんて知るか! 逃げてやるぜ!

 

「悪……ってもういない!」

「早! 去るの早いな、あの兄ちゃん!?」

 

 

なーも聞こえへんぞ俺は!

 


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