非常に情けない話だが、あの後本当にとどめを刺したのは金髪少女の氷の魔法だった。
鬼はまだ生きてたし、倒れたのも攻撃のショックのせいらしいしな。……その事をやたら繰り返し繰り返し金髪少女は言っていたが……そんなに最初から最後まで戦りたかったのか?
「いいかローブ! お前は弱らせただけ、とどめを刺したのは私だからな!」
「エヴァちゃん、そんなにムキにならなくても……」
「ムキになるわ! …久しぶりに全開でやれると思ったのに……」
「でも、とどめの美味しいところは持って行けて―――」
「途中のあのローブの方が目立っていた気がするがな! 私は!」
あ~…確かこいつ、あの街の中じゃ力を封印されてたんだっけ? …確かに全開でやれると思った矢先に一番最後のとどめだけ刺したら、そら消化不良だな。
「でも凄いですよエヴァンジェリンさん! 扱いの難しい極低温の魔法をあんなに簡単に、しかも高等な魔法まで使ってしまうなんて!」
「そ、そーか?」
「はい! 思わず見とれてしまいまうほど凄かったです!」
「そーかそーか! それは―――」
「でも俺的にはタンクローリーからの無駄無駄無駄! の方がすげえと思うけどな」
「……何か言ったか白ネズミ?」
「いいいえ、なな何も!!?」
たっく……さっきまでの乱戦が嘘みたいにドタバタしてんなこいつら………。
……ん……!?
ふいに金髪少女の後ろ何かを感じそこに視線を向けると、今まさに水たまりから飛び出ようとしている白髪の姿が見えた。
「危ない! エヴァンジェリンさん!」
「な!? ぼーや、お前何抱きついて……。……!」
「
「退けボーや!」
「うわっ!?」
「
”時よ止まれ!”
俺は白髪の顔面に思いっきりストレートをぶち込んだ。
しつこいんだよ、白髪!
「ペト――――っ!」
白髪は吹っ飛びこそしなかったものの、大きく後ろにずれた。
「……やはり君は脅威だね。呼び動作すらない瞬間移動と攻撃。今は威力が落ちているみたいだけどそれでも、障壁越しでも確かに感じる攻撃の威力。そしてスピードと正確性……。
やれやれ……ようやく本当に終わっ―――
「うぐっ……!」
「どっ、どどどうしたぼーや!?」
「ネギ!?」
「ひでぇ……石化がえらい所まで進んでやがる…」
「右側がほぼ石に……」
あの白髪最後の最後まで難題残しやがって!
「ネギ先生の魔法抵抗力が、石化の速度を遅くしているのですが……このままでは、首が石化した時点で息が止まり、窒息してしまいます」
マジかよ……! 如何したらいいんだ……!?
「……アスナ、ウチ…ネギ君にチューしてもええかな?」
「何言ってんの、このか!? 何でこんな時にチューなんか―――」
「ちゃうってアスナ……パクティオーとか言うや。それなら何とかなれへん?」
「あ……!」
「
……駄目だ、話の内容が分からない…。
「ウチ……せっちゃんから今日の事聞きました。…ありがとうな。こんなにたくさんのクラスのみんなに助けてもろうて……。……ありがとう」
そういって、黒髪少女は眼鏡の少年を抱きかかえ、唇にキスをした。とたんに眩い光を発し、鬼が現れたのとは違う温かな光が辺りを照らす。そして―――
「この…か……さん? …無事なんですね、よかった。本当に」
少年は目を覚まし、その場にいた少女たちは歓声を上げた。
さてと……。
”時よ止まれ”
俺は時を止め、猛スピードでこの場を去る。
普通じゃない体と力を持つ以上、無理やり”普通”であろうとするのは逃げでしかないし、何時かばれる時が来る。……転生前の性分もあって、簡単には見捨てられないしな……。
それに”スタンド使いは引かれあう”っていうし、その基準が厄介事にも通じるなら、逃げたとしてもまた厄介事に関わっちまうだろう。なら……その時の為に力付けとかなくちゃな。
今回勝てたのは精神が物凄く高揚していた……つまり一時的に“精神パワー”が高かったからだ。現に、二回目にあの少年に拳を入れたときは威力が落ちていたしな。魔法や“気”が使え無い体だからこそ、もっと強くならにゃあな。
sideout
■
side三人称
「本当によかった……心配させないでよネギ…」
「あはは…すみません…」
「でも、無事でよかったわー…ネギ君」
談笑する皆を見ていた刹那が、ふとある事に気付く。
「そう言えば……ディオさんの姿が見えないのですが……」
「マジだ! ディオの旦那の姿が無い!」
そう、ローブの男・ディオの姿が、いつの間にやら消えていたのだ。
「もう行っちゃんたんですか…ディオさん…」
「…ウチを助けるのに協力してくれた人やろ? 御礼言いそびれてしもうた…」
少々しんみりする皆に、龍宮と明日菜が声をかけた。
「その男……ディオの目的が何であれ、味方には違いないのだろ? まだ怪しい部分もあるが……とにかく、味方ならまた会えるんじゃないか?」
「そうよ! これが今生の別れじゃないんだし、今日お礼が言えなかったぐらいでへこまない!」
その言葉を聞いて、少々沈んでいた者たちは頷き立ち上がる。
「そうですね……!」
そしてネギは空を見やり、思う。
(ディオさん……また会いましょう!)
それはそう遠くない、再開への誓いだった。