とある一等空尉の日常   作:オパール

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今回はセリフ無し、全文デュークの独白になります。


閑話「デューク・ディノア」

 

………あ、もしもし。エイミィさん?

 

久しぶり。デュークだけど。

 

………あー、うん。ちょっと相談、っていうか頼みがあるんだわ。

 

………うん。ちょいとさ、お宅の旦那、シメてやってくんない?

 

………そう。あの黒いの。………うん。

 

いやさ、ホラ………例の作戦。………そう、それ。ユーノと高町のあれ。

 

この間さ、デートだったのよ、二人。

結構いい雰囲気でさ。それこそ見てる方が当てられそうになるレベルで。

 

 

………何で知ってるか?言わせんな恥ずかしい。

 

………嘘です。だからそれだけはマジで勘弁して。

 

………うん。でさ、その最後に、起こったわけよ。

 

 

高町が告白しようとした瞬間にあの馬鹿から入ったわけよ、通信が。

 

いや、通信だけなら今まで何度もあったけどさ。 ………長年に渡る作戦の成功直前にそれを阻害ってどうよ?

 

………いや、あいつもそんなつもりじゃなかったのはわかってるけどさ。

でも納得いかないのよ、やっぱり。

そりゃ、久しぶりだからってああいう事にならないように根回しとかしなかった俺達にも非はあるよ。

でも、後一歩だったんだぜ?いや、まだ終わったわけじゃないけどさ。

 

………うん。そういう事だから。

日頃、相手にしてもらえない分も含めて、やっちゃってくださいな。

 

………ん。じゃ、これで。

 

 

 

 

 

………っと、誰だ?

 

もしもし……ティアナ?どうした、こんな時間に。

 

訊きたいこと?一体何………

 

 

 

 

………そうか。そういや、まだ話してなかったか。

 

………わかった。今から外出れるか?電話で話す事でもねぇだろ。

 

場所は………ちょっと待ってろ。お前の端末に転送するから、そこに来てくれ。

ああ。じゃ、また後でな。

 

 

 

 

………お。来たな。

 

ここか?俺………てか、俺達の行きつけのバー。

よくユーノやクロノなんかと飲みに来るんだよ。

 

何でバーかって?

………飲みながらじゃなきゃ、話せねえ内容だからな。

 

………さて。何で俺が世話好きなのか、だったか。

それ話すには、同時に俺の生い立ちも話す必要があるんだよな。

 

 

 

 

 

 

俺さ、孤児だったんだよ。ストリートチルドレンってやつ?

物心付いた時には、家も、親も、何も無かった。あったのは、身一つだけでさ。

 

俺の生まれた世界はさ、戦争やら災害やらで、どんな時でも食料不足だった。

赤ん坊が、子供が。大人まで、気が付いたらバタバタ死んでいってたよ。

 

………あれ、言ってなかったか?俺、ミッド出身じゃ ねぇぞ。

 

まぁ、そんな感じでさ。そんな世界だから、法律だとか秩序だとか、そんな物は全然無い。

盗み、騙し、裏切り………殺しも、やった。

言い訳にもならねぇけどさ、生きるために必死だったんだ。

 

その日の飯にありつけない奴から死んでいく。

大人同士は当たり前。大人が子供を、子供が大人を。

子供同士の殺し合いすら日常だった。

 

そうでもしなきゃ………やってられなかったんだ。俺も、みんなも。

 

………支援なんかねぇよ。管理外世界だったからな。

 

 

………そんなクソッタレだった日常が変わったのは、偶 然………本当に、奇妙な偶然だったんだ。

 

 

六歳くらいの頃だったかな。

いつも通り残飯やら草の根やら、食い物を探してた時にさ。

何か、見慣れない男がいたんだよ。

傷だらけで、携帯食みたいなの食っててさ。

 

 

シメた。そう思った。

 

ケガしてたけど、身なりはキレイでさ。他にも色々持ってると思った。

 

そこからの行動は速かったな。

気ぃ抜いてるだろって高括ってさ、襲いかかったんだ よ、角材持って。

 

 

………でも気付いたら、地面に転がってたのは俺だっ た。

何をされたのかわからなかった。

頭に一撃叩き込んで、食い物全部かっぱらってやろうって思ってたのにさ。

 

で、視線移したら、その男が俺を見下ろしててさ。

 

殺される、って思ったね。

その時、初めて死ぬかもしれないって感じた。

 

情けねぇ話だけど、その時、あまりにビビりすぎて泣いちまったんだよ、俺。

 

………でも、その男は何もしなかった。

それどころか、俺を起こしながらこう言ったんだ。

 

「すまない。咄嗟の事で手加減できなかった。大丈夫 か?」

 

呆気にとられたね。何を言ってるのか理解できなかっ た。

呆然としてた俺にさ。その人………食料、わけてくれたんだ。

 

馬鹿だよな。自分の方がよっぽど優先すべきなのに。

何の関わりも無い、薄汚い一人の餓鬼に、そこまで多くない自分の食料を、さ。

 

で、それを食った時………今度は、恐怖とは別の感情で涙が出てきたんだ。

それまで、親切だとか、そういうのに触れた事が無かったから、きっと、嬉しかったんだと、安心したんだと思う。

したら、今度は頭撫でられてさ。それでもう限界。

恥も外聞もかなぐり捨てて、大声上げて泣いてたよ。

それこそ、泣き疲れて寝ちまうぐらいに。

 

 

 

 

目覚めた時、側にその男がいた。

てっきり、もうどっかに行っちまったと思ってたから驚いたね。

 

「よく眠れたか?」

 

なんて皮肉るもんだから、どうしてくれようかと思ったよ。

 

 

 

………それから、一月は経ったな。

色々と聞いたよ、その人のこと。

 

管理局員でさ。別世界の任務中、確保対象の犯罪者の攻撃受けて、俺の世界に飛ばされたらしくてさ。

で、ケガの手当しつつ空腹満たしてたら、俺に見つかったらしい。

 

良い人だったよ。うん。気付いたら俺、かなり懐いてた。

………ああ。管理外世界だから、本隊の救助とかは望み薄って言って残ってたんだよ、その人。

 

世界が広がった気がしたよ。

初めて信頼できる相手ができた。決して裏切らない、守ってくれる人ができた。

その人に、知らないはずの父親を見た事もあった。

ただ、嬉しかった。そんなことが。そんな日々が。

 

………うん。そんなある日だった。

 

いつも通り食料探してたらさ。見つけたんだよ。

 

 

 

ロストロギア。

 

 

 

………ははっ。これだけで何となくオチはわかっちまったみたいだな、その顔見ると。

そう。かなりの危険物だった。

それを興味本位で起動させたクソ野郎がいた。

 

………ていうか、俺だった。

 

結果は………言わずもがなだ。

 

 

次に気が付いた時には………世界が、死んでた。

元々荒れ果てた土地だったけど、それからはそんな言葉じゃ言い表せないほどの地獄だった。

 

生き残ってたのは………俺達二人だけ。

あの人が守ってくれた。

完全には回復しきってない身体と魔力で、俺を守ってくれた。

 

その時は何とか命拾いできた。けど………本当の地獄はそこからだった。

 

まず一番の問題は食料。

これまで以上に荒廃した土地じゃあ、残飯すら残ってない。

 

野草も、木の実も、根っこも。

今まで食い繋ぐのに使ってたやつも、全部激減した。

俺は多少耐性があったからよかったけど、あの人はそうはいかなかった。

慣れない環境や空腹に加えて、あの人は体力と魔力を著しく消耗してた。

 

必死に駆けずり回ったよ。

死なせたくない。その一念で、飲まず食わずで必死に食えそうな物をかき集めた。

 

………そんな時でも、あの人は俺を気遣うだけだった。

 

「もっと食べろ」

「たまには休め」

「大丈夫だから」

 

そう言って、あの人は自分が食うはずの食料を俺に差し出しやがった。

当然、食わなかったけどな。

 

………そんな生活が、また一月ぐらい続いて。

俺達も、もう限界だった。

 

 

なのに、生き残れた。

目を覚ました時、視界に飛び込んできたのは知らない天井。

見たことの無い機械や設備が周りにあってさ。

 

………で、隣を見たら、あの人が眠ってた。

すごく、安心しきった顔で眠ってた。

 

 

 

 

後から聞いた話だと、俺達はロストロギア反応を探知した次元航行部隊に保護されたらしい。

その世界出身で、当事者だった俺とその場に居合わせたあの人。

色々取り調べられたなぁ………。まぁ、正直に話したけどよ。

 

そんなわけで、俺は本局経由でミッドに到着。

以後、ここが俺の第二の故郷になった。

 

 

 

 

………ここまでで、何となくわかったろ?俺が何で誰かの世話を焼いたり、お節介が好きなのか。

 

そう。あの人の影響だよ。いや、おかげと言った方がいいかな。

見ず知らずの俺のために食料をわけてくれて、それ以降も助けてくれて、色んな事を教えてくれた。

この人のようになりたい。俺にしてくれた事を、誰かに伝えていきたい。

それが………今の俺を形作ったんだ。

 

 

 

 

それから俺は、魔力を持ってた事と、俺の生い立ちから監視目的で管理局に入る事を勧められた。

渡りに船とばかりに飛びついたね。

訓練校を経て、志望部署は当然、次元航行部隊。

クロノやエイミィさんと知り合ったのもこの頃だ。

 

で、そうする内に高町やユーノやフェイト。お前達と出会ってきたってわけさ。

 

 

 

………ん?その恩人はどうなったかって?

生きてるよ、ちゃんと。

 

俺の「デューク」って名前は、その人が付けてくれたんだ。

命を助けてくれて、生きる意味を与えてくれて、そして、俺に名前と帰る場所をくれた。

 

名前はローエン。

 

 

 

ローエン・ディノア。………俺の、親父さ。

 


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