「あ、ユーノくん!あれあれ!」
「ん?………へー、面白い装飾だね」
「ヴィヴィオに買っていったら喜ぶかな?」
「………いや、子供が喜びそうなデザインではないと思うよ」
「そうかなぁ………」
「………あ。これなんてどうかな?」
「どれどれ………わぁ、可愛い」
「これならきっと喜ぶよ、ヴィヴィオ」
「うんっ。じゃあ、これくださーい」
「毎度ー。仲良いね、お二人さん」
「えへへっ」
「ははっ………」
「良いなぁ、なのは………幸せそう(チラッ)」
「確かに………凄く幸せオーラっていうか、そんな感じのが………(チラッ)」
「同じ行動なのに内面から滲み出るものが違いすぎる件について」
「言うなエレウス」
『デュークが女難で飯がうまい』
「黙ってろウィドウ」
ハイディングD開始から30分。
俺達は目立たない位置からユーノと高町の監視を続け ていた。
「デュークさん。私達も何かしら買い物した方がいい かと思いますけど」
「ふむ………」
ティアナの言葉にしばし考える。
確かに、このままびk………監視を続けていたらやがてボロが出る可能性も出てくる。
「………そうだな。適当に見て回ろう。わかってるとは思うけど、あの二人を見失わない範囲でな」
「あ。でしたら私のしたふぐぅん!」
妙な事を口走りかけたフェイトに、昨日買っておいたパッキー(期間限定バナナミルク味)を3本ほど突っ込んで黙らせておく。
「うぐむぐ………あ、おいしい」
「ったく………」
ポリポリと一本ずつ咀嚼していくフェイトを尻目に、 監視を続行。
「あ。建物に」
「入っていったな………」
「ポリポリ………あれ。ここってこの間リニューアルしたばかりの大型デパートだ」
「なるほど。ここで更に色々買い揃える算段のようだな」
ティアナ、俺、フェイトにエレウスが続く。
「行くか」
「はい」
「はい。………あ、でもエレウスさんは」
「問題ない」
言うと、ティアナの肩から降りたエレウスの身体が光り始める。
それが晴れると、そこには黒いシャツとズボンを着た青と白い髪の少年がいた。
「これでいいだろう」
「は、はぁ………」
「どうした?」
「いえ。声質と姿が噛み合ってないなぁ、と………」
「………言うな」
「服屋ですね」
「ヴィヴィオの服でも買うのかな?」
「さぁな。さて、行くぞ」
「「え?」」
「え?じゃねぇよ。適当に回るって言ったろ」
「あ、はい………」
「そういうことなら、行きましょうデュークさん。服、見繕ってください」
言うなり、フェイトが腕を組んでくる。というか、密着してきた。
「フェイトさ………!」
「大声はダメだよティアナ。なのは達にバレちゃうから」
「ぐっ………じ、じゃあ!」
すると、ティアナはフェイトに対抗するように反対側の腕に抱きついてきた。
うわあ………すげぇ。何て言うか、すげぇ。
右から伝わるフェイトの感触は既に何度も経験してきたがそれでも尚心地良く感じてしまう。
対して左から感じるティアナの感触といえば、こっちは完全に初体験だ。 着痩せするタイプなのか、服の上からではわかりにくかったが確かに実ったその女性特有の柔らかさがはっきりと伝わってくる。
出逢ったばかりの頃が嘘みたく育ったなぁ、この子も………
極めつけに、二人して顔赤いんだもの。しかも真っ赤じゃなくて、ほんのり染まってるタイプだから実に色っぽい。
結論。
このままではマジでヤバい。俺の理性が。
だって最後にそういうことしたのってもう何年も前だもの。
「主殿。邪念に囚われるな。俺にも伝わる」
「はっ」
傍らにいたエレウスの冷めた、だがどこか切羽詰まったような声で我に返る。
「すまねぇ、助かったぜエレウス」
「身の危険を感じましたから」
「マジでごめん。………行こう」
「「はい」」
そうして、二人を腕に抱えたまま歩き出す。
………距離があったとはいえ、このやり取りをユーノ達にバレなかったのは奇跡に近いだろう。
「おいしいね、ここのパスタ」
「そうだね。ヴィヴィオにも作ってあげたいなぁ………」
「でもあの子なら、「なのはママのご飯なら何でもおいしい!」とか言いそうだけど」
「あははっ。今のちょっと似てたよ、ユーノくん」
「あ、そう?まぁ、何だか声も似てるしね」
「それにしても………今日、色々買ってもらっちゃったけど、本当によかったの?」
「うん?ああ、大丈夫だよ。お金の使い道なんてあんまり無いから、有り余ってるし」
「でも………」
「それにね。君とヴィヴィオが喜んでくれるなら、このくらいの出費なんて安いもんだよ」
「ユーノくん………」
「羨まスィ………」
「いいなぁ………私もデュークさんと………って、違くて!」
主殿が用足しに行っているので、ここは俺、エレウスがお送りさせていただく。
俺達が今いる場所は、デパート内のレストラン。
目標の二人、高町一尉とスクライア司書長から離れた場所にて食事を摂っている。
遠くからでもわかるほどに仲睦まじい二人を見て、テスタロッサ執務官は歯軋りし、ランスター執務官は当てられたのか主殿との睦事を空想しては真っ赤になって打ち消している。
主がここまで想われる。
使い魔としては少なからず嬉しいものだ。
「………フェイトさん」
「やっぱり押し倒………何、ティアナ?」
「今の不穏な発言は空耳ということにします」
脳内でナニを想像していた、テスタロッサ執務官。
「お聞きしたいことがあるんですが………」
「?」
「その………フェイトさんは、デュークさんによくアプローチをかけてますよね ?」
「うん」
「それでその………バレる、とか考えては」
「ああ、大丈夫。もうバレてるから」
「………え?」
「結構鋭いんだよ、デュークさん」
言って、テスタロッサ執務官は穏やかに微笑む。 ………並の男ならば、それだけで墜ちるであろう優しい笑みだった。
「え、え?じ、じゃあ、デュークさんは知ってて………」
「いや、デュークさんは私の気持ちに気づいてるけど、「私がそれを知ってるって事に気づいてない」んだ」
………なんと。それは俺も初耳だ。
「………えっと………」
「ああ、わかりにくかったかな?えっとね。………デュークさんは、私がデュークさんを好きだと知ってる。でも、私がそれを知られてないだろうって思ってるんだ」
「………」
「もうバレてるんだから、もう押せ押せでいこうかなって思って」
「………そう、ですか」
「………ティアナは?」
「え………」
「デュークさんにアプローチ、かけたりしないの?」
「………っ!」
ランスター執務官の顔が目に見えて赤くなる。
「わ、私は………!」
「でも、隠しててもその内バレるよ?」
「………」
「それに」
言って、テスタロッサ執務官は真面目な表情でランスター執務官を見る。
「こういう場では、素直になるべきだと思う」
「フェイトさん………」
「………ね?」
「………」
「………ティアナは、デューク・ディノアさんのことが?」
「………すき………だとおも………いえ。すき、です」
「そっか。よかった」
「よかった………ですか?」
「うん。だって、私の大事な後輩で、同じ人のお世話になった子だもん。同じ人を好きになってくれて、よかったなって」
「フェイトさん………」
「それだけ、あの人が魅力的だってことにもなるし」
「………あははっ」
小さく吹き出すランスター執務官。
その顔は、さきほどまでと違い、どこかさっぱりとしていた。
「………やっぱり、適いませんね」
「そうかな?」
「………でも、負けません」
「………」
「戦闘技能や執務官としてのキャリア、人間的にも劣っていても。これだけは絶対に」
「いいよ。その方が、私としても張り合いがあって楽しいし、嬉しいから」
二人の顔に浮かぶは笑み。ただし挑戦的な。
………精神リンク。断っておいて正解だったな。
「………でも」
「?」
ランスター執務官が、別の疑問を浮かべる。
「デュークさんは、どうしてあそこまでお節介焼きというか………世話好きなんでしょうか?」
「………」
………やがては行き着くであろう、当然の疑問。
「………それは」
「知ってるんですか?」
「………私の口からは言えない、かな」
「え?」
「断っておくが、俺からも言えん。主殿に訊けば教えてくれるハズだが」
「そう、ですか………」
その後、主殿が戻って来たためにその話はお開きとなった。
「今日は楽しかった」
「僕もだよ」
「今度はヴィヴィオと3人でお出かけしたいなぁ」
「いいかもね、そういうのも」
もう夜も遅い時間。
「そろそろ終わり、だな」
「結局、何も起こりませんでしたね」
「トラブルが無いならそれに越したことはないよ」
『あの二人の進展は起きてもよかったですけど』
口々に言うみんなを尻目に、監視を続ける。
「ヴィヴィオはどう?」
「元気いっぱいだよ。いつも夜になると、学校であったこととか話してくれたり」
「そっか。………君も、ちゃんと母親ができてるみたいで、安心したよ」
「安心?」
「うん。だって、大事な幼馴染とその娘だもの」
「……そっか」
「うん」
「………」
「………」
「………ねぇ、ユーノくん」
「ん?」
「あのね………」
「うん………」
「………あれ?何か良い感じじゃね?」
「これは、まさか………」
「………」
「ユーノくん………ユーノくんさえよかったら、ね?」
「う、うん」
「あの子の………ううん。私達の………!」
pipipipi! pipipipi!
「「「「「……………………」」」」」
甲高い電子音。その発信源は。
「っ。ご、ごめん」
ユーノの端末だった。
「はい………」
『ああ、ユーノか。今、いいか?』
案の定、クロノだった。
「やっぱお前か………で、何?」
『いや、その………』
「いや、いい。その反応でわかった」
『すまないな、休暇中………』
「もう終わるよ」
『………ん?何だ、外にいるのか?』
「ああ。なのはと出かけてたんだよ」
『………なのはは、いるのか?』
「隣にね」
『………』
「………なのは?」
「………」ぽろぽろ
「うえっ!?ちょっ、何で泣いて………」
「あっ………ご、ごめんね、ユーノくん………わたし………」
「なの………」
「そ、それじゃ、先に帰るね!今日は本当にありがとう!」
「えっ、なの………!」
『………なのはは?』
「………行っちゃった………泣きながら」
『………』
「………クロノ?」
『………やばい』
「………デュークさん」
「………何だフェイト」
「この後クロノをボコりに行きますけど、かまいませんねっ!!」
「許可する!!」
「するな!」
「しないでください!」
走り出す俺とフェイトをエレウスとティアナが羽交い締めに。
「落ち着いてくださいフェイトさん!ハラオウン提督も悪気があったわけじゃ!」
「そういう問題じゃないんだよティアナ!!」
「押さえろ主殿!」
「いいや、限界だ!殺るねッ!今度こそ!!」
このやり取りはおよそ10分続いた辺りで通報されたらしく、俺達は各々自由解散となった。
ハイディングD結果報告。
問題………無し
進展………無し
第四次ユーなのCP成立作戦第一波………失敗。
以上です。
次回はデュークについて詳しく語ります。