とある一等空尉の日常   作:オパール

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むしゃくしゃしてやったわけではない
でも反省はしている



破滅へと向かう幸福の中で

「あの人よ、ほら」

「あぁ、二股かけた挙句両方フッて別の女に走ったと思ったら………」

「結局その二人に乗り換えたっていう………」

「あの子達も可哀相にねぇ。まだ若いのに」

 

本局通路を歩く俺にかけられる陰口………いや、聞こえてるから陰口ですらねぇか。

だがまぁ言いたい奴には言わせておくようにしてる。実害があるわけでもねぇし。

………まぁ、時間の問題だけどな

 

(呑気なもんだよ、凡俗どもが)

 

人の苦労も苦悩も知らず、ただ一方的に詰る連中。

あぁ、そうだよ。俺、デューク・ディノアはどうしようもないクズ野郎さ。

まともな答えも出せず、ただ流されるだけで………大切な二人を、壊してしまった。

 

けどまぁ

 

(生憎俺達は今幸せなんでな)

 

そんな歪んだ結果を粛々と受け入れている自分に反吐が出る。

でも………もうどうしようもない。

それが俺が選んだ結末なんだから

 

「デューク」

「………どうも、クロノ提督」

 

俺に声をかけたのは、元、親友。

俺を恨み、憎んで然るべき人物の一人。

 

「聞いたぞ、昇進の件」

「あぁ、それっすか。何考えてんでしょうね上は」

「今の君の人柄云々はともかく、功績は讃えられて当然のことだからな」

「………とっとと飛ばしてくれりゃあいいのによ」

「それは逃げだぞ」

「言ってみただけっすよ」

 

クロノは表面上は以前と変わらない、だがその胸中は俺への侮蔑に満たされているだろう。

 

かつて、この男にお節介を焼いて、想い人と結びつけた俺。

他にも多くの男女の仲を取り持った俺が………自分の伴侶一人決められなかった。

 

「………んじゃ、俺そろそろ失礼します」

「………ああ。引き止めてすまなかった」

 

そう言ったかつての親友に会釈して、立ち去る。

そうして、耳に入ってきたのは他の局員達の声と

 

「………デューク」

 

そんな、クロノの心配そうな声だった

 

 

 

 

 

 

「ただいま………」

 

夜、自宅。

明かりを点けて鞄をテーブルに放り投げる。

 

寝室に入り、着替えようとしたところで………何かに押し倒された。

 

「うおっ!?」

 

薄暗い部屋の中で、俺に覆い被さる暖かい何か。

引き離すと、ぼんやりとその輪郭が視界に映り込んだ。

 

「………ティア」

「はぁ、あぁぁ………おかえりなさい、デュークさん………」

 

ティアナ・ランスター

本局執務官で、俺に好意を持った一人。

肌蹴たYシャツ一枚の姿のまま、俺の首筋に顔を埋める彼女には、かつてのような理知的な姿は欠片もない。

 

「早かったんだな、今日は」

「思った以上に早く片付いたので、ずっと待ってました………」

「着替えもせずにか?」

「ごめんなさい………でもっ」

「いいよ。寂しがらせた俺の責任だ」

「あっ………」

 

不安げな声を上げるティアナ。

その髪を優しく撫でてやると、途端にふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべた。

 

………ここまで弱く、不安定になったのか

 

それもこれも、全て俺の責任だ。

やんわりと頭を撫でる度に、ティアナはむず痒そうに身体を捩る。

 

「………そういえば、聞きました。昇進、おめでとうございます」

「あぁ、ありがとな」

 

笑みを見せてそう答える。

やがて、頬を染めたティアナがゆっくりと俺に顔を近付けてきて………

 

ドタドタと、何かが走ってくる音に、中断された。

 

「ぁ………」

 

その何かは、蹴破る勢いで部屋のドアを開いて、俺達の姿を確認すると勢いそのままに俺に飛びかかってきた。

 

「デュークさんっ………!」

 

艶やかな金砂の髪、ルビー色の瞳。

フェイト・T・ハラオウンだった。

 

「フェイトか。おかえ………んっ」

「んんっ、ふぅ」

「ずるいですよフェイトさん、私が先にぃ………」

 

俺の言葉を待たず、貪るように唇を重ねてくるフェイト。

そして、それを皮切りに俺達の一日の終わり………そして、溺れる夜が、始まる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

事の始まりは数ヶ月前、俺に告げられた事案。

 

「お見合い?俺が?」

 

親父とその秘書を介して俺に伝えられたその話。

当然断ろうとしたが、親父曰く懇意にしている管理局の上役の娘らしい。

形だけでも、と考えていた俺だったが………相手が悪かった。

 

親が上役ならその子供も然り、クロノや俺がそうであるように。

加えて、その親子は出世欲の塊のような二人で………是が非でも、ディノアに近づきたかったらしい。

 

権力争いに利用されるのはごめんだし、それに答えを出さないといけない二人がいた。

だが、断ろうとした俺に告げられたのは………端的に言って、脅しだった。

 

『あの二人と縁を切れ、さもなくば』

 

簡潔に言えばそういうこと。

俺だけに何かがあるなら安いもの、だがあの二人に矛先が向くとなれば話は別だ。

 

結果、俺が取った………取らざるを得なかった行動は、二人に別れを告げること。

泣かれ、罵倒され、殴られもした。

去り際に見た二人の顔は、この上ない程の絶望に染まっていて。

 

………それでも、その選択をした理由は………不誠実、身勝手極まりないことに、俺は疲れていた。

二人の女性から想いを告げられ、その答えを出さなければならないということ。

自分の性分に、愛想を尽かしていたからかもしれない

 

 

 

結果として、見合いは行われた。

その場で見た相手側の顔は、勝ち誇ったような、欲にまみれた不愉快な笑み。

向こうには俺への感情は無く、俺の感情は嫌悪。

 

内容なんて覚えてない、ただ気付けば俺は自宅のベッドで仰向けになっていた。

 

 

 

その連絡が来たのはそれから一週間が過ぎた頃。

相手方から縁談は無かったことにさせてくれと、恐怖に震える声で、俺に直接伝えられた。

願ってもないことだったが、今更何なのだろう。

 

そんな俺に答えるかのように、家の呼び鈴が鳴って

 

そこにいたのは、眼から光を無くした二人の姿。

 

そこで俺は全て察した。

この二人は、恐らくあの親子を脅すなりなんなり………下手したら、痛めつけるまでやったかもしれないと。

 

聞けば、俺の突然の言葉に納得できず調べたのだという。

そして、あの親子に行き着いた。

己の欲のために他者を容易く蹴落とす二人のことを

俺が脅しに屈したことと俺の真意は、知られてないようで

 

………そして、その時から俺も壊れた

いや、もしかしたらこの二人を泣かせたあの時から、俺はきっと壊れていたのかもしれない

 

自分の信念、信条、理念や誇り。

その全てを投げ捨てて、ただ楽になる道を選んでしまった、あの時から

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

自宅、寝室。

時刻は既に日付を跨いだ時間。

 

視線の先には一糸纏わぬ姿の二人の美女。

俺に寄り添い、逃がさないとばかりに俺の手を握りしめている。

 

もう、こういう時間を過ごすのは何度目になるのか

毎晩のように二人は俺を求め、そして俺もそれに応えている

少なくとも、俺は今幸福を感じている。

二人がどうかはわからない。けど、俺と同じなら………最低だと自覚はしているが、俺の手で幸せに出来ているという、救いようの無い自己満足に浸れるだろう

 

「いつまで続くかわかんねぇけど、な」

 

ぽつりと呟いて、手に僅かに力をこめる。

それに気付いたのか、二人の瞼が薄く開かれた。

 

「っと、悪い」

「いえ………」

「大丈夫、です」

 

二人は起きあがると、そのまま俺の腕に抱きついてくる。

焦点の合わない、暗い瞳で俺を見上げる二人。

その顔を見る度に胸の奥が締め上げられるように軋み、後悔の念が奥底から湧き上がってくる

 

「大丈夫ですよ、デュークさん」

「え?」

 

ティアナが呟き、より強く抱き締めてくるフェイトが続く。

 

「もう、何があっても私達は離れませんから」

「愛を覚えた人間は、強くもなるけどそれよりずっと狂ってしまうって、本当なんですね」

 

狂う。

確かにそうかもしれない。

現に俺自身………この二人を想ったからこそ、全てを捨て、彼女達だけしか見えなくなってしまったのだから

 

「だから………私達をこんな風にした責任、ちゃんと取ってくださいね?」

「嫌だって言っても、逃げ出しても………絶対、逃がしませんから」

 

………あぁ。なんて

 

なんて………心地いい、絶望だろうか

 

「はぁ………デュークさぁん………」

「大好きです………ずっと、貴方だけ………」

 

 

 

 

そして、俺たちはまた溺れていく。

 

幸せで、なにもかもどうでもよくなるこんな時がいつまでも続くわけがないのに

 

それでも、俺達は落ちて、墜ちて、オチていく

 

いつか訪れる破滅を思いながら、何度も、何度も

 

 

いつまでも───

 

 

 

BAD END『破滅へと向かう幸福の中で』




ヒロインが複数いる以上ハーレムENDもやるべきだよね
求める声もあったし
でもこの主人公の性格上、ハーレムはだめじゃね?っていう声もあった


じゃあハーレムをバッドエンドにすればいんじゃね?


そんなわけで浮かんだのが今回の話でした
お人好しも聖人ではない、誠実な人も肉体的、精神的疲労が溜まれば不誠実な面も出る
あくまで「平凡」でしかないデュークという男が取った一つの不誠実、その結果がこうなりました

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