そんなわけでティアナ回想編です。
次回以降はもう二つほど番外編、そして個別EDに行きたいと思います
───それは、初めての感情で
───決して、触れることのないと思っていた優しさで
───だから、私は貴方に伝えたい
───ありがとう、と
「フェイトさん、どこにいるんでしょうか?」
「んー………本局で待ってるとは言ってたんだけど………」
機動六課が解散して少しして。
私、ティアナ・ランスターは私が補佐をしているフェイトさんを探しに、同じく執務官補佐のシャーリーさんと共に本局を歩いていた。
「どんな方なんですか?その、フェイトさんを指導した人って………」
「うん。私も何度かあったことあるけど………なんて言うか、子供っぽい人、かな?」
「子供っぽいって………その人、フェイトさんより年上なんですよね?」
「そうなんだけど………まぁ、会った方が早いと思う」
「はぁ………」
「あ、いた」
シャーリーさんの声に、視線をそちらに向ける。
そこには、赤い髪の男性と話しているフェイトさんの姿があった。
「ふふっ。相変わらずなんですね」
「お互いにな。エリオとキャロはどうしてる?」
「不慣れなことも多くて大変だって、この間エリオから」
「ま、自然保護隊なんてこれまでと勝手が違うからな」
「でも、自然に触れる機会が増えたとも言ってました」
「そっか。………もうずっと会ってねぇなぁ………」
「伝えておきますよ。きっと、あの子達も会いたがってるはずですから」
「ん、サンキュ。………それよか、向こうの二人は連れじゃないのか?」
「へ?………ああ、忘れてた!」
こちらを見るなり、慌てた様子で駆け寄ってくるフェイトさんだった。
「ご、ごめんね、シャーリー。ティアナも。つい話し込んじゃって………」
「いえいえ、今に始まったことじゃないので別に気にしてませんよー」
「うぅ………」
「………それで、フェイトさん。あちらの方は………」
「あ、うん。紹介するから、こっちに」
そう言って、私達を先導する。
「よう酢飯」
「………ご挨拶ですね」
「あ、ごめん。………久しぶりだな、フィニーノ」
「はい。お久しぶりです、デューク一尉」
「………んで、そっちが新しい補佐官、か」
こちらを向き、穏やかな笑みを浮かべながら続ける、その男性。
「デューク・ディノア。次元航行部隊所属で、階級は一等空尉だ」
「ティアナ・ランスターです。今はフェイトさ………ハラオウン執務官の補佐を務めさせて頂いています」
「………高町の下にいただけあって、ただの一等空尉には物怖じしない、か。………ま、いいや。これから顔合わせることもあるだろうからな。よろしくな、ランスター」
僅かに苦笑を見せた後、子供のような明るい笑みを浮かべたデュークさん。
それを見て、先程のシャーリーさんの言葉………子供っぽい人、というのを思い出した。
これが、私達のファーストコンタクト。
この時は、今のような気持ちを持つことになるなんて………想像もしてなかった。
◇◆◇
「おろ」
ある日のこと、本局の廊下でばったりと出くわした。
「ディノア一尉。こんにちは」
「おう。どうした、一人で?」
「いえ、無限書庫の方に、捜査資料をと」
「ふーん。なら、一緒に行くか?俺もちょっと用あるし」
「あ、はい」
そうして、先に進むデュークさんの後に続く。
「他の二人はどうしたんだ?」
「フェイトさんは所用で少しクラナガンの方に。シャーリーさんはデバイスのメンテ中です」
「そっか。………別にそんなお堅くならんでも」
「………気を悪くされたのなら、申し訳ありません。ですが、性分ですので」
………よくもまぁ、会って間もない人にこんな態度取れたなとは思う。
それでも、これまでと勝手の違う本局の人との交流、それもずっと上の階級の人相手に、いつもの態度なんて取れるわけがなかった。
「テスタロッサから色々聞いてるぜ。努力の天才だとか指揮官タイプとしても優秀だとか凡人(笑)とか」
「最後のは何なんですか………それは誇張しすぎですよ。他の人達の方が………」
「今はお前さんの話をしてるんだけどな。………他の奴なんか知らん。精々エリキャロが夫婦してたってことぐらいだ」
「夫婦て」
思わず素でツッコんでしまうほどの言い分だった。
「もう誰かに言われてるかもしんねぇけど、謙遜と卑下はカスりもしねぇ。するだけ無駄だ」
「………」
言い分はわかる。
確かに自分を過小評価しているらしい私だが、自分では正当な評価をしているつもりだ。
それでも、この人の言葉にはどこか感じるところがあった。
………その内に秘められた諦観は、当時の私にはわからなかったが。
「っと、着いたか」
話している内に、無限書庫の前にいた。
「失礼しまー………」
『あんたって人はァァァァ!!』
扉が開いた瞬間、野太い声の大合唱だった。
「………なんぞ?」
『裏切った!裏切ったね!?』
『俺達の………何より、司書長の気持ちを裏切ったんだ!』
『外道だ!ド外道だよアンタ!』
『まさに魔王!』
『これが人間のやることかよぉー!!』
「いったい何………あ」
視線の先、騒動の中心には、見慣れた大人二人と子供一人の姿が。
なのはさんとフェイトさん、それにヴィヴィオ。三人の正面には引きつった笑顔を浮かべているスクライア司書長の姿があった。
「あっ!デューク一尉!」
「ランスター補佐官連れとは珍しいですね!」
「………ああ。てか、これ何?」
「聞いてください!それがですね………!」
『ユ、ユーノくん!違うよ!違うからね!?』
『そうだよ!私達そんなんじゃないって何度も言ったよね!?第一私、他に好きな人いるし!男性で!』
『なのはママもフェイトママもどうしたの?』
『ほらやっぱりそうじゃないですかやだー!』
『『だから違うんだってばぁ!!』』
「………なのはママにフェイトママ?」
「最初は高町一尉とあの子………ヴィヴィオちゃんでしたか。その二人だけだったんです。司書長にあの子を紹介した辺りでハラオウン執務官が来て………」
「で、ダブルママ、と」
「ええ。結局世の中見目麗しい女性が勝つんですよ。司書長は………司書長だって!」
「いや、泣かんでも。………これじゃあ第三次も失敗か………」
「………あの、ヴィヴィオのことは………」
頃合いを見計らって訪ねてみる。
「いや、何も聞いてねぇ。ったく、早く言ってくれりゃ良いのによ、テスタロッサの奴………」
あ、ダメだ。完全に誤解してる。
「えっとですね、あの子は………」
『って、デュークさん!?あ、やっ、違う!これは違うんですぅ!!』
と、こちら(というかデュークさん)に気付いたフェイトさんが、ソニックムーブも真っ青な速度で飛んでくる。
ちょっと涙目だった。
ちなみにこの後、ちゃんと誤解は解けた。
◇◆◇
「おつー。どうよ、調子は」
「………あ、どうも」
「………グロッキーだな、おい」
仕事の疲れ、ままならない勉強で疲労とストレスがピークに達しつつあったある日のこと。
「どうもこうも………全然ですよ。勉強も捗らないですし」
「ま、そんなもんだわなぁ。てなわけで、ほれ」
「?………これは?」
「クロノ………ハラオウン提督やテスタロッサなんかの手伝いしてきた経験から、俺なりに纏めてみた執務官試験の要点。参考にはなると思うから一応持っとけ」
「え?」
言って、やや薄めの冊子が私の目の前に置かれる。
目を通してみると、フェイトさんから教わったところの他、法律やあらゆる事例への対処法、試験でよく出される問題などに関して、わかりやすく纏められていた。
「これ………」
「クロノやテスタロッサも行き詰まることがあったからな。お前さんもそうなるだろうと予測立ててたんだよ。………タイミング的にはベストだったな」
「………どうして、こんな」
「夢に向かって頑張る若手を応援するのは古参の務め、ってな。まぁ、俺がこういうの好きなんだよ」
言って、いつも通りの笑みを浮かべる。
………これだけのことをして、それでも尚平然と語る彼に、思わず言ってしまった。
「………さすが、エリートは違いますね」
「は?」
「私みたいな凡人にも気を遣って………それで、自分のやりたいことも貫いて………本当に………」
「………」
頭が回らず、理性も働かず、感じてしまった嫉妬が口から止めどなく溢れていく。
そんな私を見て、デュークさんは、一つの画面を私の前に表示した。
「………?」
「………見てみろ」
「え………」
「いいから」
そこにあったのは、魔力や身体能力のデータ、どれも軒並みAランクの中でも中の上、といったレベル。
名前は………デューク・ディノア。
「これ………」
「俺の今の総合データ。誰にも見せてないんだがな………んで、こっち」
もう一つの画面が表示される。それを見て………私の思考は停止した。
「………そん、な」
「見てわかったろ?俺の魔導師としての能力は………十年前から変わってない。それどころか」
「劣化、してる………?」
十年前と今の能力の差。
変わるどころか下がっていて、それでもギリギリと言ったラインで、同じレベルを保っている。
データには、それが事細かに記されていた。
「一度頂点まで行っちまえば後は下がるだけ。現状維持で精一杯で、上げるなんざまず無理だ。………そして、そう言う奴はごまんといる」
「………」
「エリートなんかじゃない。俺だって凡人だよ………お前さんより下の、な」
「私………そんな………」
「………言っとくけど、このこと教えるのお前が初めてだからな?」
諦めたような苦笑い。
それを見て、この事実を突き付けられて、私は自分がどれだけ恵まれて、それに甘えていたか、そして、それが原因でどれだけこの人を傷付けていたか思い知らされた。
「………なさい」
「え?」
「ごめんなさい………ごめんなさい!私、わたし今まで………わたし………!」
「え、いや何で謝って………いやいやいや泣くな泣くな!」
眼からは涙、口からは謝罪が溢れ出る。
それを見て慌てていたデュークさんは………おもむろに、私の頭に手を置いて、そのまま優しく撫で始めた。
「ふぇ………?」
「いや、その………小さい子とか、昔のテスタロッサとか、こうしてやったら落ち着いてたから………嫌ならやめる」
そう、申し訳無さそうな顔で言うデュークさん。
またしても、悪くもないのに気を遣わせてしまって………私はもう、限界だった。
「………ひっく」
「え゛」
「うぁぁぁぁぁん………!」
「マジ泣き!?ちょっ、そんなに嫌か!?」
「ちがいまず………そうじゃ………ふぇぇぇん」
「あぁもうどうしたら………テスタロッサー!ヘループ!」
「………すみませんでした」
「お、おう………落ち着いたか?」
「はい………」
数分後。周囲からの視線が痛い。
「まぁ、その、なんだ。要するに、支えてくれる奴もいるんだから、焦る必要は無いって言うか」
「はい………」
「人生、ままならない事の方が多いんだ。慌てるのはいい、でも焦るな。難しかったり折れそうな時は周りを頼れ。テスタロッサもフィニーノも、お前さんの親友も………無論、俺も協力は惜しまないからさ」
「………」
そして、笑顔。子供のような、けれど確かな”男性”のそれ。
「………っ」
顔が熱を持つ。
うるさいくらいに心臓が高鳴って、彼から眼が離せなくなる。
そして、気付けば言っていた。
「………あの」
「ん?」
「これから………名前で呼んでも、いいですか?」
「名前?」
「はい………デュークさん、って呼んでも………」
「………おう、いいぜ」
「ぁ………で、では、これからも、色々とよろしくお願いします、デュークさんっ」
これが、芽生え。
私、ティアナ・ランスターの初恋の始まり。
この後も、デュークさんは親身になって、色んなことを教えてくれた。
もちろん重要なことはフェイトさんが中心で、だけど、どんな時でも優しく、厳しく。
それが本当に嬉しくて、楽しくて………私は、どんどん貴方に惹かれていきました。
合格したときも、自分のことのように喜んでくれて。
デュークさん。私は、貴方がくれた無償の愛に報いたい。
貴方の過去を知った今、その想いはもっと強くなっていて。
貴方は、気にしなくていいって言うでしょうけど。
それでも、私は貴方への恩義に報いたいんです。
何があっても、必ず………
◇◆◇
「デュークさんっ」
「おぅ、ティアナ………っと」
「すみません、遅くなってしまって………」
「いや、俺も来たとこだったが………いきなり腕組むとは、吹っ切れすぎだろ」
「むっ………いいじゃないですか。この間のフェイトさんとのデートの時は腕組んでたんでしょう?」
「それを言われちゃ何も言えないな………んじゃ、今日は精一杯エスコートさせてもらいますよ、お嬢様」
「あぅ………こ、子供扱いしないでください。もう撫でられるような歳じゃ………」
「すまん、癖だ」
「………まぁ、嫌じゃないので、別にいいです。さっ、行きましょう!」
ずっと、ずっと………大好きですよ、デュークさんっ
以上です。
理由の差違はあれど泣かせた上で惚れさせるとかデュークさんマジ鬼畜。いやまぁ、泣かせたのは作者ですけど