とある一等空尉の日常   作:オパール

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今回は………修羅場にしようと思ってたのに修羅場にならなかった


一歩だけでも、その先へ

「えーと………」

 

「あ、フェイトさん。ここじゃないですか?」

 

「ん?あ、確かに怪しい。………よし、発見。お手柄だよ、ティアナ」

 

「まったく………何で男性ってその、こういう、いかがわしい本を求めるんでしょうか」

 

「まぁまぁ。その辺は後でじっくり話し合えばいいだけだよ。なのは式で」

 

 

 

………どうも皆さん、おはよう、こんにちは、こんばんは。

デューク・ディノア一等空尉であります。

 

まぁ、挨拶やら何やら色々言いたいことは山ほどあるのですが、まずは状況を確認します。

 

 

………修羅場かと思ったら、自分に好意を寄せる後輩二人に家捜しされていた。

 

 

何を言ってるのかわからないと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった。

幻惑魔法とかそんなチャチなものじゃあ断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気がした。

 

 

「うわぁ、こんなにたくさん………」

 

「意外と胸の大きい女性が好みみたいだね」

 

「………気のせいでなければ、これどことなく私に似て………」

 

「………どうしてこうなった」

 

 

とりあえず、時間を巻き戻してみる。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「フェイト………」

 

「フェイト、さん………」

 

「はぁ………はぁ………大丈夫ですかデュークさん!まだ清い身体ですか!?」

 

 

重苦しい空気の中、叫ぶ金髪執務官。

よほど混乱してるのか、心配するべき相手を間違えている。

 

いや、こいつの事だから素な気もするケド。

 

 

「つか別に清くもないけどな、元々」

 

「あ、それもそうか。………じゃなくて!」

 

 

そこでビシィッ!と、こちらに指を突きつけてくる。

 

 

「何をしてるんですか、二人してうらやまけしからん事を!」

 

「うん、俺に言えた義理じゃないと思うけど落ち着こうか」

 

 

とりあえず、頭に一撃………

 

 

 

「朝から喧しいぞ、主d………失礼」

 

「って、誤解したまま立ち去らないでマイ・サーヴァント!」

 

 

迷惑そうな顔をしながら入ってきた直後に出て行った使い魔をバインドで捕らえる。

 

 

「バインド!?ええい、離せ主殿!男女の睦事を邪魔するつもりは毛頭無い!」

 

「だから誤解だっつってんだろうが!」

 

「デュークさん、いいから説明を………!」

 

 

 

 

「………決まってるじゃないですか」

 

 

 

 

「「「………え?」」」

 

 

聞こえた声に振り向く。

そこには、頬を薄く染め、潤んだ瞳でこちらを見るティアナの姿があった。

 

 

「ティア、ナ………?」

 

「多少年の差はあっても、成人の男女がベッドを共にしてたなら………することなんて、一つですよね?」

 

 

ちょ、何を………

 

 

「誤解ではないではないか主殿」

 

「いや、ちが………」

 

「う、そ………」

 

 

エレウスは冷ややかな視線を送り、フェイトは口元に手を当てて目を見開いている。

 

………まさか、マジで?

俺の記憶が無いだけで、まさか本当に………

 

 

「ふふっ………昨日は結構酔ってたみたいですから、覚えてないのも無理ないですよね」

 

「………」

 

 

妖艶に笑うティアナに、二の句が告げられない。

 

見れば、フェイトの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

 

「………ティアナ、俺は」

 

「いいんですよ、デュークさん。さ、フェイトさん。エレウスさんも。早くここから………」

 

 

 

『そこまでです、ティアナ・ランスター執務官』

 

 

 

「………!」

 

「ウィドウ………?」

 

『申し訳ありません、デューク。寝坊しました』

 

「えっと………」

 

『ランスター執務官。うまいこと既成事実をでっち上げようとしたところ悪いのですが、それは私が許しません』

 

 

でっち上げって………

 

 

『デューク、エレウス、テスタロッサ執務官も。心配せずとも、今のランスター執務官の発言はデタラメです』

 

「「「え………」」」

 

「っ………!」

 

『デュークの眠りが深く、寝相も良い事は周知の事実。酒が回っていたとはいえ、寝ぼけて襲うなどと言った愚行は犯しません』

 

「でも、ティアナは………」

 

『八神二佐か誰かの悪ふざけでしょう。事実、私がスリープモードに入ろうとした時、誰かがランスター執務官をここに転送させてきましたから』

 

「………」

 

「ティアナ………」

 

「………主殿」

 

「………弁解は聞く。場所、移すぞ」

 

 

 

 

所変わって、リビング。

四人掛けのテーブルに、俺、フェイト、エレウス、そしてティアナの姿があった。

 

 

「………で、ティアナ。何であんな事を?」

 

「………」

 

 

俺の問いに、ティアナは俯いたまま。

どことなく、青ざめているように見える。

 

 

「ティアナ、答えて」

 

「………」

 

 

フェイトの問いかけにも答えず、ただ俯いている。

 

 

「………です」

 

「ん?」

 

「貴方が………全部………」

 

「俺が?何でそこで俺が………」

 

 

「貴方が!デュークさんが全部悪いんですよっ!」

 

 

「………」

 

「だって………だってデュークさん、フェイトさんの気持ちも、私の気持ちも全部知ってるのに、なのに変わらずに接し続けてるじゃないですか!そんなの………そんなのって卑怯です!そんな、曖昧な態度………耐えられるわけ、ない………!」

 

「え………」

 

 

待て………じゃあこいつら、俺が気付いてるって知って………

 

 

「嫌われてない、それどころか好意的に思われてるのがわかるから、尚更、辛くて………切なくて………!」

 

「………」

 

 

あぁ………ユーノやクロノ達に言われ続けた事を、ここにきて思い知らされる事になるなんてな………

 

フェイトもティアナも、傷つけたくない、泣かせたくないって思ってたのに………今、ティアナは傷ついて、泣いている。

 

 

「ティアナ………」

 

「………ごめんなさい、勝手なことばかり。………でも私、初めてなんです………誰かを好きになるなんて………」

 

 

そこで涙を拭い、ティアナはまっすぐにこちらを見た。

 

 

「………この際だからはっきり言います」

 

「………」

 

 

 

「あなたが好きです、デュークさん。私と、お付き合いしてください」

 

 

 

「………」

 

 

言った。

ついに、言われてしまった。

 

いつかこうなる事はわかっていたのに、こうなる事を恐れていた。

 

視線を移すと、そこには真剣な面持ちのフェイトがこちらをじっと見据えていた。

 

 

「フェイト………」

 

「………ティアナに先を越されましたけど。………そろそろ、私も我慢の限界だったんです」

 

 

そこまで言い、フェイトは僅かにはにかみ………告げた。

 

 

 

「デュークさん。貴方を、誰よりも愛しています。子供の頃からずっと、変わらず」

 

 

 

「………俺、は」

 

 

二人が本気だということはよくわかってる。

そして、中途半端な答えは許されはしないことも。

 

だから、俺が出す答えは………

 

 

「………ごめん。二人の気持ちには、応えられない」

 

 

「………」

 

「………うっ」

 

 

俺の言葉に、フェイトは静かに目を閉じ、ティアナは小さく嗚咽を漏らす。

 

 

「二人の事は、その………好き、なんだと思う。でも、その方向性が違くて」

 

 

本心でぶつかってくれる二人に、俺も、本心をぶつける。

 

 

「応えられる自信が無いんだ。俺、誰かに慕われたりとか、二人みたいに好かれたりとかもあったけど………俺自身、誰かを好きになった事とか無くて」

 

 

ぽつぽつと話す。

二人は黙って聞いている。

 

 

「それに………たぶん、恐いんだ。誰かを好きになるのが。きっと、すぐには直らない。………この年になって、何言ってんだって話だけど」

 

 

自嘲するように笑ってみせる。

………いや、きっと自嘲してるんだと思う。

 

 

「だから俺は………」

 

 

そこで、下げていた視線を二人に戻す。

 

───そこにあったのは、どこか嬉しそうな二人の顔だった。

 

 

「………え、何その反応」

 

「だって………」

 

「要はデュークさん………自信が持てないだけで、私達を意識してないわけじゃないんですよね?」

 

「えっと………まぁ、そうなるか………?」

 

 

実際、理性崩れかけた事とか何度かあるし。

 

 

「だったら………」

 

「まだ、希望はありますよね………?」

 

「え」

 

 

ちょ、待って。俺今フッたはず………

 

 

「確かに、今はフラれました」

 

「でも、チャンスがあるなら諦める理由はありませんよね」

 

「ちょ、まっ、ええ?」

 

「誤算だったな主殿」

 

『格好付けたつもりでしょうが………まぁ、一言だけ。ざまぁw』

 

 

口々に言う周囲に更に混乱する俺。

 

 

「待て、ちょっと待ってくれ。お前ら、何でそこまで俺を………」

 

「何で、って言われましても」

 

「そうですよね。理由なんて、単純です」

 

 

そこで二人は目を合わせ───これまでにない、満面の笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「「貴方の事が、好きだから」」

 

 

 

「………」

 

 

ついに何も言えなくなって、ただ目を奪われた。

 

その笑顔の美しさに。そして、二人の想いの大きさに。

 

あぁ………これは、ダメだ。

完全に、俺の負けだ。

 

 

「………バカばっかりだ」

 

「あ、ヒドいです」

 

「俺も含めて、って意味だよ」

 

 

頬杖を突いて二人を見る。

 

どちらも、穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

 

「………そうだな。いつになるかは、わからない」

 

 

もう、終わりにしよう。目を背けるのは。

 

 

「でも、いつか。そう遠くない内に、答えを出すから」

 

 

始めるとしよう、今日、ここから。

 

 

「二人が良ければ………それまで待っててくれるか?」

 

 

俺………デューク・ディノアとこの二人………フェイト・T・ハラオウンとティアナ・ランスターとの、恋を。

 

 

「「はい」」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

(我ながら、良い女達に惚れられたもんだよなぁ)

 

 

そこまでの事をした覚えは無いが、しみじみとそう思う。

 

その二人と言えば、何故かあの後俺の趣味嗜好───性癖とも言う───を知りたいとか抜かし、現在家主たる俺の許可無しに家捜ししている。

止めようとしたら威圧感のハンパない笑顔を見せられたので大人しくせざるを得ない。

 

 

(物好き共め)

 

 

そんな事を思いつつ、実に楽しそうに人の家を物色、見つけたそれを顔を赤くしながらも真剣に読みふける二人を見つめる。

 

時折こちらをちらちら見て、その度に耳まで赤くなる二人が異様なほど可愛らしい。

 

やべぇ、マジでそう遠くない内に惚れそう。

 

 

こうして、曖昧だった俺達三人の関係は、一歩だけ前進した。




以上です。

唐突ですが、今作品、次回を以て最終回とさせていただきます。

本編としてはラストですが、その後は男子会の裏側で行われてた女子会、フェイトとティアナがデュークに惚れた経緯、そして個別EDへと繋げていくつもりです。

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