無の軌跡 外伝 (ウルハーツ)
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さて、どうなることやら……



第2章 残された特化クラス生徒 フィーの変化

 特別実習と言う大きな行事が終了してから数日。リィン達を待っていたのは学生としての勉強の日々であった。
 彼らの日常はとても忙しい。なので時間なんかあっという間に過ぎて言ってしまう。そして何が言いたいのかと言うと……すぐに放課後になるのだ。
 5月10日の放課後。リィン達は何時もの様に部活に行ったり学院内を回ったりと行動を開始していた。
 実はリィン達の生活で大きく変わったものがある。それは

「ゲイル~!」

『ワン!』

 教室の中に当たり前の様に【犬】が居る事だ。
 ミリュ達が乗っていた列車に同じ様に乗り込んでしまった犬は最終的にミリュから離れる事は無く、仕方が無いと言う事で第3学生寮に連れて帰る事となった。
 流石に犬を買うことは出来ないと思っていたものの、第3学生寮に住んでいるのはⅦ組の10人と教官であるサラだけ。そして呆れはしたものの、誰もこの犬を追い出す様なことはしなかった。
 【ゲイル】と言うのは犬の名前である。最初に飼い主を探そうとした時に首輪をしているのを思いついたミリュは、見てみる事にした。そしてそこには【ゲイル・ライトニング】と言う名前が書かれていたのだ。そしてそれを見たと同時にミリュはそれが名前なのだと思い、それで呼ぶことにしたのだ。
 授業の時等もミリュの横に常に居るゲイル。そのせいで様々な教官が色々と複雑そうな表情であった。最初、教室に犬が居るのは可笑しいと抗議した教官も居たが、ゲイルがミリュから離れない事に引きつった顔をしながらこのまま授業を続ける事を了承した。
 そう、まるでミリュの身体の一部だとでも言うかの様にゲイルはミリュから離れない。何処に行くのも一緒で、寝る時でさえミリュの部屋のミリュのベットの真横で丸まって寝て居るのだ。ゲイルは完全にミリュに懐くを通り越して【依存】しているかの様に見えなくも無かった。
 そして現在。ミリュはゲイルと共に教室から出て行く……姿をまだ教室に残っていたリィン・エリオット・ガイウスの3人は見ていた。

「何かあの光景も見慣れて来ちゃったね?」

「そうだな。最初の頃はかなり戸惑ったがな」

 ミリュとゲイルの後姿が見えなくなったと同時にエリオットが口を開く。
 ガイウスの言うとおり、全員が最初はかなり戸惑っていた。が、数週間経つとまるでこれが当たり前の様な認識に変わっていた。その事に気付いたリィンは苦笑いする。
 ゲイルは犬ではあるものの、特に煩く吠えると言った行動をしないため授業の妨害をすることも無いのだ。そのお陰もあってか、全員は徐々にゲイルの居る生活を普通と感じる様になっていたのだ。【1人】を除いて。
 行き成り椅子の引き摺るような音がし、3人は振り返る。そこには無表情に出口を見つめるフィーの姿があった。
 フィーはしばらく出口を見続けた後、教科書などを全て鞄に入れて出て行ったミリュとゲイルを追う様に教室を出て行った。

「何かゲイルが来てからフィーの雰囲気、少し変わったよな?」

「確かにそうだね。ミリュとも余り話してるところ見なくなったし」

「……むしろそれが理由では無いか?」

 ガイウスの言葉にリィンとエリオットは少し驚いた後、納得した。
 ゲイルが現れるより前は何時もフィーと行動していたミリュ。しかしゲイルが来てからと言うものフィーと行動する時間が極端に減った様にリィン達は思えた。
 ミリュ自身は特に何事も無く何時もどおりに接して居るのだろうが、ゲイルと一緒に常に居るため他の事をする時間が大きく減っているのは確実だろう。

「それ……かもな」

 リィンは茜色に染まった外を見ながらどうにかしたいと考え出すのだった。




 夕食の時間。全員はテーブルを囲み、ゲイルはミリュの横で夕食を食べていた。
 マキアスとユーシスは未だに仲が悪い様で、一切口を聞かない。が、それ以外の者とは普通に話をしているので、現在はこれといって問題は起きていなかった。
 どうやら特別実習の時に随分と喧嘩をした様で、後少しで殴り合いにまで発展しそうになったのだとガイウスは言う。どうやらマキアスの貴族嫌いは相当な様だ。

「ミリュ。こぼれてるわよ」

「ありゃ」

 食べ物が落ちて居るのにアリサが気づくと注意をする。されたミリュはすぐにそれを取り、落ちていた場所を拭く。そんな何気ない光景にリィンは少し違和感を感じた。
 アリサが今行ったこと。それは今までフィーがやっていたことだ。今までミリュの姉の様に何かあれば教えていたりしたのはフィーだ。今の様な時間もミリュは大体フィーと話していた。
 しかし特別実習が終わったことでミリュもリィン・エリオット・アリサ・ラウラの一緒に行った者と少しは話をする様になっていた。そしてゲイルが現れたことでまるで1人立ちしたかの様にフィーとは余り話さなくなった。
 別に嫌っている訳でも喧嘩をしている訳でもないだろう。しかし別の人と話している間フィーとは当然話せない。ミリュが他の人と話している=フィーとの会話が出来ない。と言う事だ。

「ゲイル、御代わり居る?」

『ワン!』

「……」

 フィーは夕食を口に運びながら横目でミリュとゲイルのやり取りを見続ける。全員は会話をしながらも気付いていた。フィーの目に光が無く、とても怖い雰囲気とオーラが出ていると言う事に……。

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