鎮守府の港湾部署は、いつも忙しい。
それは新しく開設された鎮守府も、有史以前から深海棲艦と戦い続けていた古参鎮守府も変わらなかった。
戦うのがお仕事の艦むすに混じって、戦わない運送艦むすやら民間籍の徴用船むすも毎日入港するのだ。急ぎの荷には輸送機や飛行艇すら使うが、鉄やボーキサイトと言った資源の類は、ほとんどが船で運ばれる。
たったいま鎮守府に到着した運送艦むす『宗谷』も、そんな一隻だった。
「はい、到着よ!」
「あーい!」
「よいしょ……っと」
「はいちにつけー!」
「あーい!」
「あーい!」
「あーい!」
宗谷さんが背中にはみ出していた大きな船倉を埠頭に下ろすと、小さな小さな人影がわらわらと飛び出して荷役の準備をはじめた。
運送艦むすである宗谷さんに配属されている装備妖精は、25ミリ単装機銃を任されている砲術妖精と、船倉を管理する船倉妖精の二人きりだ。……但し、妖精たちは仕事に応じて分身するので、荷役作業ともなれば大層賑やかになる。
鎮守府からも同じ様なサイズの人影───大勢の妖精たちがわらわらとやってきて、それを手伝いはじめた。
こちらは鎮守府の裏方を任されている鎮守府妖精たちで、工廠の運用から補給のお手伝い、艦むす寮のお掃除まで、ありとあらゆるお仕事を引き受けている縁の下の力持ちだ。
ピー!
班長格の妖精がホイッスルを吹いて、部下達を誘導しはじめた。
「ボーキサイトはみぎのれーつ!」
「だんやくはひだりのれーつ!」
「デリックじゅんびよーし!」
「はいちよーし!」
「しょうがいなーし!」
ピピー!
「ばけつりれーはじめー!」
「あーい!」
二列に行儀良く並んで荷役作業を開始した彼女たちに笑顔を向けた宗谷さんは、もうひとつの積み荷を思い出した。
埠頭に下ろした船倉の、一番上あたりをとんとんと叩く。
「葉舟二等兵」
返事がない。
宗谷さんはもう一度、今度は少し強めに叩いた。
「……葉舟二等兵?」
中をのぞき込むと、目当ての妖精は案の定ハンモックですぴーと寝息を立てている。
やれやれと宗谷さんは大きく息を吸い込み、手を口に寄せた。
「認識番号ホ-526952-110!
速秋津鳴加美葉舟二等兵!!」
「あい!?」
びくんとなった妖精はハンモックから飛び上がって低い天井にぶつかり、そのまま埠頭の上へと転がり落ちた。
……妖精の身長は宗谷さんの片手に十分乗るサイズ、落ちた高さはその二十倍ほどになるが、彼女たちはたとえ高度数千メ-トルから落ちても『あいたー!?』の一言で済ませてしまうから、この程度では心配しなくていい。
「あにゃー!?」
速秋津鳴加美葉舟二等兵───葉舟も頭を押さえて転げ回っているが、怪我はない。
「……到着ですよ、葉舟二等兵」
宗谷さんが声を掛けると、はふねはきょろきょろと周囲を見回してから、はっと状況に気付いて敬礼をした。
「あい!
はやあきつなるかみのはふねにとうへい、げせんします!
おつかれさまでしたー!」
本人はきびきびとした動作のつもりなのだろうが、とてとてと言う音が似合いそうな様子で葉舟二等兵は奥へ奥へと歩いていった。
……葉舟二等兵はああ見えて砲術妖精だし、なにより妖精は艦むすよりも丈夫だ。新人でも鎮守府に配属されるなら一人前、立派にお仕事が出来るだろう。
宗谷さんはしばらく心配顔を向けていたが、彼女だけに気を割いていられない。
荷役を妖精たちに任せ、鎮守府に提出する書類を作成しはじめた。