更に言うなら一時日間3位になっていて驚きのあまり変な笑いが出てしまいました。
生き残るという約束。
友人との約束を守るのなら本来ならなんの情け容赦なく殺すべきであろう。ウルドと同じように。
だけど、殺さない。
ただ杖を切り裂き、痛めつけて動けなくして戦闘力を奪うだけ。
「相棒ッ!何故殺さないんだ!?生き残るってロナルの奴と約束したんだろうが?!」
「俺は、嫌だ」
「何言ってんだよ相棒ッ!」
「俺は道具なんかじゃあなくて、自分の意思で戦っているんだ」
「だから、敵だろうとも、自分が生き残るための道具にはしたくないんだ」
呆れたように黙り込むデルフ。
ロナルには悪いがなんと言われようともこれだけは俺は曲げたくない。
だから、殺さない。
魔法を切り払い、杖を破壊して、相手を強かに峰で殴りつけ動けなくする。
繰り返し、繰り返し、気の遠くなるほど繰り返す。
魔法を避けるが、あまりの多さに徐々に身を削られていく。
ただ只管に引っ掻き回して駆け抜けていく。
そうして漸くたどり着いた一番大きな天幕。
入り口を固める騎士を中に弾き飛ばしてそのまま突入する。
勲章のようなものを沢山身につけた一番偉そうな格好で騎士たちに囲まれている奴に目を付けガンダールブの力で神速の域にまで高められた剣閃で騎士達に畳み掛ける。
動き回るには少し狭い天幕の中で縦横無尽に相手を撹乱し、同士討ちを避け狙いを付けられないフルプレートの鎧に身を固めた騎士たちの杖を叩き斬り、強化された力でデルフを力いっぱい叩きつけて装甲ごと相手の骨を砕き、引き倒して鎧の重みで立てなくする。
そうして周りが全部片付いたときに悠然と佇む指揮官と思しき男に剣を突きつけたところで。
(あれ?)
その場で倒れ込んだ。
立ち上がろうとも体は動かない。
ハイになっていたからであろうか。
既に体のいたる所が傷つき血を垂れ流していたり、黒く焦げて炭化している部分が見受けられる。
気付いてみれば痛みが感じられるとも思ったが、そうはならなかった。
体中の感覚が全て鈍化していく。
痛みも感じられぬほどに自身の肉体は限界なのだと漸くそこで気が付いた。
瞼が、重い。
薄れていく意識。
(わりぃ、ロナル。約束、守れそうにないぜ)
遠くなっていく意識の中ロナルへと謝罪する。
聞き届けられることは無いであろうが、それでも。
自分自身が曖昧になりもう駄目なんだなと思った時。
桃色の髪をした少女の姿が浮かんだ気がした。
まるで人形のような動きで暗き森の中を駆け抜ける何者かの影。
暗く足場の悪い森の中を恐ろしいまでの速度で駆けるその影は突然、糸が切れたかのように制御を失い転びながら動きを止める。
「溜め込んだ魔法の分だけ使い手を動かすことができるなんて、そんな能力今更思い出すことになるなんてなあ」
「…」
闇に閉ざされた森の中何者かの声が響き渡り、暗い闇の中に消えていく。。
「もう少しだったんだがなあ、すまねえな、相棒」
「…」
「もう…聞こえちゃいねえか…バカ野郎が」
寂しそうに呟かれた声もまた響いて、消えていった。
必要なことを全てやり終えレッドと共に這う這うの体で森のボロ家に戻る。
ロンディニウムから離脱するときにまたも竜騎士に襲われたがどうやって戦ったのかは良く覚えていない。
気付いたらロンディニウムからかなり離れた地点を飛んでいた。
迂回するようにあのボロ家に向かう途中、レッドもかなり憔悴していたので途中何回か森に身を潜め休息を取った。
増えた"荷物"を時折確認しながらも漸くたどり着いた時には約束していた時間帯のギリギリ前。
人間形態に変身したレッドと共にボロ家の中に身を隠して気付いてみれば既に夜。
お互い死んだように寝ていた為今が何時の夜なのか分からなかった。
森で野生動物を取っては適当に処理してから焼いて食う。
そんな生活を3日続けて、俺達はボロ家を後にした。
トリスタニアの王城に降り立つ俺を待っていたのは当然の如く衛士の皆様方で。
速やかに所属と名前を名乗り、"荷物"の中身を確認してもらう。
偉そうなおっさんが慌てて城内に走り、戻ってきたと思えば風呂に突っ込まれた。
いや、確かにここ数日自然に帰ってたから汚いけどさ。
ある程度体裁が整ったら通されたのは懐かしの玉座の間。
玉座の主である麗しの女王陛下への挨拶はそこそこに本題である"荷物"の件に入る。
「貴方が、単身で捕まえてきたというのですか?」
「いえ、途中まではミス・ヴァリエールに代わり彼女の使い魔であるサイト殿と共に敵軍を足止めしておりました。彼のお蔭で敵軍を乗り越え此の者を捕らえることがことができたため、彼の功績でもあります」
「では、あの少年は…」
「無事であればお互い落ち合う約束をしていましたが…彼は戻っては来ませんでした」
「そう、ですか…」
能面のような固まりきった表情で言葉を紡ぐ女王はまるでガーゴイルのようで気味が悪かった。
彼女は俺の話を聞いてはいるが、その視線は件の"荷物"の方を向いている。
右手は切り落とされ俺が適当に焼いて止血したためグロテスクな断面を覗かせている。
「さて、ご機嫌は如何ですか、"元"神聖アルビオン共和国皇帝、オリバー・クロムウェル殿」
「いやはや最悪ですな、そう、楽しみにしていた茶菓子を目の前にしていながらお預けを喰らうような気持ちと言えばいいのか」
「安心なさい。貴方にはこの世の全ての苦痛を味あわせた後にお望み通り死を頂戴して差し上げますわ」
「それはそれは、とてもトリステインの誇る宝の口から出てくる言葉とは思えないものですな」
何を勘違いしていたのか俺に殺されると思って喜んでいた意味不明な皇帝をふん縛って簀巻きにして袋詰めにしたのもほんの数日前。
いや、あの戦いの後突如ロサイスに現れたガリア両用艦隊によって共和国は瓦解したらしいから元なのか。
まあどっちでも良いが、補給物資から拝借した水の秘薬で眠らせながらここまで連れて来たって次第だ。
自分で首を落とすのも良かったが連合軍が撤退しているような状況でこの首はクロムウェルのものですよと持って行った所で詐欺師扱いされるだけだと考えたからこその行動である。
気味の悪い2人の応酬を聞き流しつつ我関せずを貫いていると楽しいお話が終わったのか女王陛下が此方を向く。
「形はどうであれ敵の首魁を捕らえるという功績を打ち立てたのであればそれ相応の褒美を取らせない訳にはいけませんね…」
「『制約』の完全な解除にエキュー金貨1万枚、それ以外に望むものはありますか?」
「ならば…ウルダールとして、このまま学院で学ぶことを許しては戴けないでしょうか?」
女王陛下の能面のような顔が呆れたような色を帯びる。
「そんなことで良いのですか?」
「はい。私はそのためにこの男を捕らえたのです」
「そんな理由の為に私は責め苦を味会わねばいけないのかね、ウルダール?」
「貴方は黙っていなさい、クロムウェル。…良いでしょう、ウルダール。このまま学院に残ることを許可します。学費も都合をつけて差し上げましょう」
大盤振る舞いに此方がビクビクしてしまいそうだ。
詐欺、いや暗殺か?
アホなことを考えながらも口を開く。
「そこまでして貰ってよろしいので?」
「構いません。貴方は、憎きこの男をわたくしの元に送り届けてくれたのですから…」
話は終わりだと言われ『制約』を解除して貰うべく隣の部屋に向かってお付きの貴族っぽい人の後ろを着いて行く。
そんな俺の背中に不意に声がかけられた。
「本当に、それだけで宜しいのですか?あなたは望めば貴族の地位すら得ることが容易なほど、大きな功績を挙げたのですよ?」
心底不思議そうな気持ちが滲み出ている声に、向き直り返答する。
「私には、貴族の位など大きすぎて背負いきれません。つまり、向いていないのです」
「……気が向いたら何時でもわたくしに申しなさい。いつでも、歓迎いたしますわ」
「ご厚意だけは……戴きます」
その言葉を最後に玉座の間を後にする。
クロムウェルが憎いとか言ってた気がするがいくらなんでも俺の待遇に関する手のひら返しが酷いものだ。
まあ、これが社会ってやつか。
一人納得して『制約』を解除してもらう。
うーん、あんまり違いが分からない。
原隊復帰する必要は無いと有り難いお達しを受けて仕方ないから学院に帰ろうと王城内をてくてく歩く。
「私はウルダール。父はアルビオンのバーミンガム伯。母は普通の平民。よろしくお願いします」
「あの…いきなり、どうしました?」
「いえ、お気になさらず。ちょっとした実験です」
「?」
途中、王城内のそこら辺を歩いていたメイドっぽい服装をした人を捕まえて自己紹介してみた。
結果、普通に全部言えたがメイドさんからはかわいそうな人を見る目で見られました。
メイドさんを見送りながらレッドのいる庭のような所に向かう。
うーむ、実感があまり湧かないが大丈夫そうだ。
『おーいレッド。なんかウルドに戻れたぞ』
『…ウルド、そういう時はもう少し喜ぶものじゃないのか?』
『言いたいことは分かるが、実感が湧かないんだよ。んじゃ学院に帰るぞ』
『…言いたいことも聞きたいことも沢山あるが飛びながらで良いか』
警備してる衛士の人に敬礼してから離陸。
久しぶりの何の警戒もいらない空に安心感が得られる。
戦争が終わったからなのかどことなく活気が戻ってきてる気がする。
ボロ負けだが、共和国も瓦解したしね。
これから我が祖国はそれこそ切り分けられたケーキやチーズの様に各国に領土を取り分けられるのだろう。
結局親父にも自慢の異母弟にも会わなかったが元気にしてるかね。
…もう少し、俺も、アルビオンも落ち着いてから帰ってみるのもあり、かな?
根掘り葉掘りレッドに聞かれながら風に揺られて学院にたどり着いた俺を待ち構えていたものは。
人の気配が感じられない校舎だった。
…そうだよね。戦争、終わったばっかりだからね。
仕方ないから『アンロック』で窓から入って荷物置いて、数日掛かりで森の中の泉から水を引いて露天風呂を作ることにした。
学院のは空いてないし、そもそも俺はあの香水漬けの風呂が嫌いなんだ。
「はあああああ…」
「うむ…」
レッドの巨体が入れるくらい広く、一部深くなっているかなりの大作が出来て初めての入浴。
掘るのは何も考えなくて良かったが苦手な錬金で石畳の浴槽にするのに時間が嫌にかかってしまった。
魔法で適当に熱した石何個か突っ込み泉から水を引きつつ温度を調整。
レッドは俺が作業しているうちに掘立小屋を風呂の近くに引っ越ししていた。手伝って欲しかったという気持ちも無い訳ではない。
しかし、まあ。
結構、良い。
レッドの厳つい顔も心なしか緩んでいる気がする。
思い付きでこんなアホなことやったのも動いていた方が余計な事を考えずに済むからで。
思い出されるのは7万の軍勢が蠢く陣地。
夜襲とは言えデルフリンガーを握りしめ、たった一人で敵陣中央に殴り込みをかけた大バカ野郎。
相手を殺さないことを選択して結局戻ってこなかった大バカ野郎。
何より。
友人になりたかったその大バカ野郎を、自分の都合を優先して助けなかった俺の方がよっぽど大バカ野郎だ。
トリスタニアで適当に買い込んだ安いワインをグイッとラッパ飲みする。
喉が焼けそうだ。
「ウルド、まだあの少年、サイトの事を気にしているのか?」
「そりゃ、気にするだろうさ。俺は生き残って本懐を遂げてついでに色々貰ってさ、でもアイツには、死んじまったアイツにはしっかり殿を勤め上げたって名誉しかないんだぜ?!」
「…」
「そりゃあ、好きな女守れてある意味満足かもしれねえが、本人が一番望まない名誉とお嬢への消えない傷しか残らなかったんだ。…やってられるかよ…」
八つ当たりにも程がある。
覚悟していた筈なのに。
死を覚悟して臨んだ決戦だったってのに。
終わってみれば後悔しか残らなかった。
「ウルド」
「…」
「サイトは自分の為に、ウルドもウルド自身の為に戦ったのだろう?だから、ウルドがサイトの死に責任を感じる必要なんてない」
「そんなの、分かってるさ。でも、俺にもさ…わかっててもままならない時が、あるみたいなんだ…」
言い終わりワインの瓶を傾げ流しこむ。
風呂に入りながらバカに飲み過ぎたのか酔いが回るのが早い。
アルコールに焼かれた喉で呼吸をすると何をする訳でも無くむせてしまう。
風呂の熱と体に回ったアルコールのせいか、熱い。
ザバっと立ち上がり風呂の縁に腰掛ける。
足だけお湯に浸かったまま風呂の縁に座れば冬の寒さが茹った俺の頭を冷やしていく。
情けない姿を見せる俺に、レッドは湯の中でぬくぬくしながらその大きな口を開いて言葉を発する。
「ならば、此処で燻っていないでサイトを探しに行けば良いのではないか?」
「え?」
「彼の亡骸は見つかってはいないのだろう。ならばまだ生きているの可能性は僅かながら在るのではないか?」
「それは、そうだが、しかし…」
確かに、あのボロ家に来なかったというだけでサイトが死んだものだと決めつけてた。
動けないから来なかっただけで、死んだから来なかったという訳ではないかもしれない。
もしかしたら、底抜けのお人好しがサイトを助けたのかもしれない。
場合によっては道が分からなくなって諦めたという可能性もあるかもしれない。
「なんで俺は死んだものだと決めつけていたのかね…」
「目先の事に囚われ過ぎると他の物には目がいかなくなるということだな。まあ生きている保証は無いがな」
「折角人が立ち直ったのに萎えそうになること言うなよ」
「むう。すまない」
何となくスッキリした。
風に当たったからか酔いもいきなり醒めた気がする。
「よーし、善は急げだ。明日からまたアルビオンだ。頼むぞ、レッド」
「うむ」
学院に人が戻らぬまま、誰の見送りも無くアルビオンに行くことを決めた。
まあ湯冷めしたせいで酷い風邪引いて出発が暫く延期になったんだが。
…やっぱり、寒空の下で風呂から体出すもんじゃ無いな。
金貨1万枚って多すぎですかね?
オリ主ってなんか露天風呂とか作ってるイメージがあります。
そんな訳で爬虫類と筋肉質な男による誰得温泉回でした。