絶え間なく続く砲撃。
眼下に砲撃戦を望みながら敵艦隊に向かい突撃する。
近くを飛翔する僚騎は全騎火竜乗りである。
艦隊戦において対艦攻撃時の火力が低くなりがちな風竜はよっぽどの理由がない限り用いられず、また連合軍は消耗を避けているらしく火竜に乗る竜騎士の一部しか出撃していない。
ゼロ戦と共に何処かに飛び去った風竜で構成された部隊は恐らくは別の任務であろう。
敵の艦から出撃した竜騎士の数はこちらとほぼ同数。
しかし敵はアルビオンの竜騎士。
見習い上がりを含む此方の方が分が悪い。
敢えて自身が突出し敵を惹き付ける。
早速食いついてくる前方の2騎。
1騎で2騎を相手取るという基本的な戦術理論を崩さずに逸ることなく対処してくる。
レッドに体を少し傾けさせ敵騎からの『マジック・アロー』と火竜のブレスを回避。
そのまますれ違う直後に後方からくるもう一騎に牽制代わりの分裂火球を御馳走し傾いた姿勢のまま斜め上方に後方宙返りし向きを反転。
高度を得て最初の1騎を追撃する。
急旋回などで必死に尻に付かれるのを防ごうとする敵機だが甘い甘い。
こちとらルーンのお蔭で手綱要らずなんだ。反応速度で勝てると思うなよ。
必死の抵抗も虚しく俺に後ろを取られてしまい苦し紛れに攻撃を避けようと蛇行するような軌道で飛行する哀れな敵騎に『マジック・アロー』を撃ち…込まずに右側面から来る敵僚騎の騎手の心臓にブチ込む。
ポッカリと胸に開いた穴から溢れる様に血を吹き出し真っ逆さまに落ちていく。
哀れ僚騎を撃ち落とされ自身も後ろから仲良く同じ魔法で永遠の眠りにつく敵竜騎士。
背後を取られた方が僚騎の前をS字飛行し、僚騎は逆S字に飛行することで敵騎と交差する際に攻撃を叩き込む。
地球に於いて
俺が過ごしていた現代ですら基本的な空中戦術として存在していたものである。
本来は太平洋戦争時2機で編隊を組むロッテ戦術から一撃離脱戦法を敢行し、ゼロ戦に攻撃を回避あるいは後ろを取られた際にこの戦術を用い罠に陥れるという手法で使われたもの。
敵は俺を罠に掛けたつもりだったようだが逆に最初からそう来るように仕向けていた俺の罠に掛かってしまったという訳だ。
主人に先立たれ残された火竜2匹。
片方は落ち行く主人の亡骸を抱き留め慟哭し、もう一方は主人が死んだことにすら気づいていない。
どちらもかわいそうなのでレッドのブレスと俺の魔法で同じところに送ってやる。
一方は脳髄を貫かれ腕に抱き留めた主人と共に雲の下の大海原に魚の餌になるべく落ちていき、もう一方はまだ背に乗ったままの主人共々消し炭になった。
意外と主が死んだ後に竜が怒り狂って襲い掛かってくることってあるからね、容赦はしない。
今更2人と2匹殺したところで何も感じることなどない。
月並みな表現だが同情すれば次にそうなるのは自分自身だ。
『体は温まったか。次行くぞレッド。いつも通り油断せずに、な』
『応ともさ、ウルド!』
咆哮と共に答えるレッド。
人竜一体となって眼前の敵を排除するべく飛翔する。
俺は、アルビオンの、懐かしき闘争の空に帰ってきた。
連合軍の竜騎士を振りきり対艦攻撃に夢中で自身の存在に気付かない奴らには容赦なくレッドのブレスで撃墜し。
一撃を避けられれば即座に離脱し、追いすがられている時に急制動と同時に『エア・ハンマー』で無理矢理レッドの体を持ち上げ自身の下方を通り過ぎ前に出た竜の騎手を撃ち殺す。
纏わり付かれれば精神力を過剰供給し刀身をスーパーでロボットな大戦に出てくる刀の如く無理矢理伸ばした『ブレイド』をハルバードの穂先に展開、すれ違いざまに主従共々切り捨てる。
追い立てていると敵竜騎士が雲に紛れつつ回避行動に移る。
即座に追撃してやろうと思ったが…これは。
良く見れば他にも雲から出たり入ったり紛れつつ攻撃を加えてきている奴らが居る。
思い立ったが吉日レッドに高度を取る様に指示する。
同意の意思と共に速度を上げてから緩やかに大きく円を描く様に高度を上げるレッド。
徐々に高度が上がり此処で良いかと思ったところで下方を見やる。
ほぼ同じような高さからは分からなかったが、雲に隠されている所があるが思った通り複数の竜が円を描く様に飛んでいる。
明らかに防御陣形である。
敵を撃ち落とそうと下手に後ろに着けば後続からの一撃でやられる。
見れば同じことを思いついたのか2騎同じように高度を取っていた。
ハンドサインで一番槍を貰うことを提案、了承を貰いすぐさま速度を上げ降下体勢を取る。
魔法による加速補助と自由落下とで自身に掛かる強烈な風圧。
顔の肉が風圧で波打ちレッドから引き剥がされそうになるも常日頃から鍛え上げた自慢の肉体で抑え込む。
低くした体勢はそのままに風圧に負けることなくルーンを紡ぐ。
急降下による速度より劣る為発動すれば自分に当たることとなる魔法は避け、近接攻撃用の魔法を発動する。
再びは得物の穂先から延びる輝く刀身。
振り回す必要などなくすれ違うだけで速度の恩恵を受けた魔法の刃は敵を切り裂く。
ドチャア。
何とも形容しがたい何かを潰した様な音が鳴る。
降りしきる血と臓物のシャワーが降り注ぐ。
汚物が雨霰と体を汚すのを気にすることなく降下をやめるべく徐々に角度を緩めようとする俺たちの真後ろを肉塊に成り果てたものが落ちていく。
竜の方は間違いなく真っ二つだがもしかしたら乗り手は生きているかもしれない。
最期の足掻きを警戒しチラリと落ちていくものを見る。
大きい塊2つに小さい塊2つ。
速度の所為か最早切断面が切断面と言えないような、爆裂したようになっているがこれで一安心。
後に続いた2騎の追撃に完全に陣形を破壊された敵だが、それを苦にすることも無く即座に散開し急降下をかけた俺を含む3騎に追撃を仕掛けてくる。
俺には大盤振る舞いなのか4騎も来やがった。
これは流石にヤバいかも。
頭の中ではそう考えるが即座に判断を下し、降下再開。
敵味方両方の艦隊からの砲撃を避ける為、艦隊の上方または下方で戦闘を行う竜騎士であるがその限度スレスレを飛ぶ。
砲撃を恐れたのか1騎が手近な獲物に狙いを切り換えた。
散々喰い散らかしてやったのと意外なまでの連合側の竜騎士たちの奮戦でアルビオン側の竜騎士の数は此方を下回っている。
堅実に戦えれば問題なかろう。他人の心配ができるような状況ではない。
こいつら纏めて叩き落したらそろそろ対艦攻撃でもするか。
獲らぬ狸の何とやらではあるがその前に一仕事気を引き締める。
2騎で追い立て、残る1騎がケツを狙ってくる。
悪いが掘られて喜ぶような趣味は無いんだ。
ちょっと勿体無いがトライアングル・スペルを使うことにする。
「ラグーズ・カーノ・ラーク・ソル・ウィンデ!」
余裕はあるがガリガリと何かが減るような抜けていくような感覚。
メイジなら大小あるだろうが誰でも持っている、精神力と呼ばれる曖昧なものが消費される。
直後俺の後方に発生する炎を纏うつむじ風。
火1つ、風2つのトライアングル・スペル。
『火炎旋風』。
発生直後は大した大きさではないが直ぐに大きく成長し炎と共に対象を巻き上げる。
今回は壁として発生させたがスクエアの精神力を受けたそれは巨大なもので、かなりの速度で突っ込んでしまった竜2頭を飲み込んで離さない。
チラリと後方を確認すると巻き上げられあらぬ方向に飛ばされていく2騎。
どうせこの程度では致命傷足りえないが邪魔者が両方纏めて一時戦線離脱となった為問題なし。
突っ込んでくる騎士の攻撃をバレルロールで位置をずらして回避、すぐさまレッドに体を135度、殆ど背面飛行に近い状態まで傾けさせ斜め下方に宙返りし反転。
高度が更に下がり限界ラインを超えるがその代わりに上昇する速度に物を言わせて相手に追いすがる。
魔法の大盤振る舞いで無理矢理速度を下げずに高度を上げる敵騎と同じ高さまで戻る。
追い風を吹かせ此方側を優速にし嫌がる敵から一旦離れ上がった速度のままに高度を取る。
良い感じに上がったところで後方に宙返りし背面飛行のまま敵騎に猛然と迫る。
降下し速度が上がり近づく敵騎。
気付いて迎撃しようと杖を構えるももう遅い。
例え天地が逆転していようと外しはしない。
既に詠唱を済ませていた『マジック・アロー』に撃ち抜かれ、レッドのブレスによって止めを刺され黒焦げになりながら落ちていく竜騎士から目を話す。
周囲を確認してみれば所々焦げている竜騎士2騎が群がる味方にボコボコにされ落ちていく。
ご愁傷様。
残る精神力は体感にして約半分程だが充分だろう。
さて、お待ちかねの大物を狩りに参りますか。
奴は、何なのだ。
神聖アルビオン共和国のとある艦の艦長である男は自身の視界に映る光景に目を疑っていた。
僚艦が一つまた一つと立て続けに2隻の艦が高度を下げ遥か下方の海上に落下していく。
これが敵艦隊からの砲撃によるものであれば理解できる光景であった。
艦の上空より飛来する数多の竜騎士に群がられた結果で有っても理解できたはずである。
それが、たった1騎の竜騎士によって引き起こされた光景で無ければ。
砲撃の合間を掻い潜り火竜のブレスで正確に風石の力を抜き出し艦を動かしている機関部を正確に打ち抜き風石を暴走させ艦の航行能力を喪失させる。
言葉にすれば簡単だが実際には敵の砲撃と共に味方からの誤射も気にしないといけない針の穴を通すような困難なものだ。
ハッ、と放心状態から立ち直り叫ぶかのように声を上げる。
「味方の竜騎士はどうしたっ!何故奴の攻撃を許しているのだ!?直ぐに指示を送れ!!」
「そ、それが…」
言いよどむ士官に苛立ちも隠さずに怒鳴りつける。
「はっきり物を言わんか、早くしろ!」
「は!それが、我が方の竜騎士隊は壊滅、生き残りもいますが現在敗走中とのことです!」
「バカな…」
誉れ高いアルビオンの竜騎士隊が弱小のトリステインと成り上がりのゲルマニアの混成竜騎士隊に敗れたと?
思わず乾いた笑いが出る。
それでは、あの竜騎士にとって我々は鴨のようなものでは無いか。
艦橋に居る者の間にも動揺が広がっていく。
現在唯でさえトリステイン・ゲルマニア連合艦隊に押され気味なのだ。
これでは。
士気が下がり始めている周囲に叱咤激励する。
それは自分自身にも言い聞かせるようなものであった。
「狼狽えるな、我々は誇り高きアルビオン軍人だ!もう少し経てば時期増援が来る。冷静に対処すればこの程度どうという…」
「ウルドだ…」
一人の士官が呟いた言葉が艦橋中に波を打ったように広がっていく。
「ウルドが、帰って来たんだ」
「そうだ…。あの男が、敵として…」
ウルド。
そう呼ばれる人物に心当たりがあった。
ウルダール・シュヴァリエ・オブ・ウィーバー。
元は貴族と平民の間に生まれた妾腹の子とされるメイジ。
そのメイジとして、竜騎士としての卓越した技量にと冷徹なまでの判断力で次々と王党派の貴族を討ち取り総司令官たるオリバー・クロムウェル閣下の計らいでシュヴァリエの、貴族の位を手に入れた男。
平民上がりで様々な方面から嫉妬を買っていたが本人は全く気にせず黙々と功績を上げ続けるその姿勢には唸らされるものがあった。
そんな男が必ず勝てるであろうとされていたタルブでの戦闘で生死不明、信じられないことだが恐らくは死んだものだろうとされていた。
それが、生きていてしかも我らにその研ぎ澄まされた牙を向けると。
魔法で心を操られたかのようなまるでガーゴイルの如き忠誠心を閣下に向けていたあの男が?
何を馬鹿なことを。
「何を馬鹿なことを言っているのだ、奴は死んだのだ!それに奴の忠誠心を忘れたのか!」
「それは…っ!ヒィいいッ!」
「な、何が!?」
突如怯えだす士官につられ後ろを振り向く。
自身が討ち果たした竜騎士の返り血に塗れた、この世のものとは思えない悪鬼の如き形相で口元を動かす男。
男の騎乗する火竜もブレスを放たんと口を開け開いた口からはチロチロと炎が見えている。
「何をしている!?応戦しっ」
艦長である男がそれ以上言葉を紡ぐことは無く膨大な熱量を孕む2つの炎で跡形も無く焼き尽くされる。
放たれた炎はそれだけに飽き足らず艦橋内に居たすべての人間を等しく塵に変えていった。
直後1騎の竜騎士が艦橋であったには目もくれず飛び上がる。
その数十秒後。艦橋からの連絡が途絶え完全に指揮系統が崩壊したとある艦が機関部を破壊され航行不能となり炎を上げながら雲海の中に消えていった
艦隊の数を半分以下にして逃げ帰ることとなった神聖アルビオン共和国艦隊と勝利し意気揚々とロサイスに攻め込むトリステイン・ゲルマニア同盟艦隊。
両軍の中にはとある竜騎士を指してこう呼ぶものが居た。
敵の血潮に濡れたその姿から。
血塗れの悪魔と。
10話にして漸く戦闘に突入。無双だけど。
長かった(小並感)
そろそろチートタグでも入れたほうが良いですかね?
オリジナルスペル紹介
『火炎旋風』
火風風のトライアングル・スペル。『アイス・ストーム』の炎版みたいな感じ。
オリジナルと言いつつぶっちゃけパクリ。
スペルは「ラグーズ・カーノ・ラーク・ソル・ウィンデ」。
色々見つつそれっぽく適当につくった。