無色の加速能力者《バーストリンカー》   作:チャレンジャー

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Phase8

ユウスケは黒雪姫の後ろを歩きながら、淡々と話した。

 

『チユリはシアン・パイルじゃない。シアン・パイルはチユリのニューロリンカーにバックドアを作ってたんだ。チユリがガイドカーソルの軌道上にいたのは、奴がチユリのいる座標から現れてたからだ。』

 

ユウスケの声は低く、ただ説明しているだけのようだった。

 

『..........どうした?何か変だぞ』

 

『何がだ?』

 

『いや........やはり怒っているのか?倉嶋君を悪く言われたことや、今朝の私の態度が気にくわなかったとか......』

 

『そんなわけないだろ。俺はそんなこと思ってない。』

 

『............そう、か』

 

黒雪姫は落胆したようにそう返した。

 

『それで、証拠は......彼女がシアン・パイルじゃないという証拠はあるのかい?』

 

『いや、下手にそれに手を出したらマズいと思ったから、確認しかしてない。だから物的証拠は無いな。』

 

『ほう、なるほど。だが、バックドアを使用したなどという例は私ですら聞いたこともないぞ。どうやって私はキミのその言葉を信じればいいのだ?』

 

黒雪姫の鋭い指摘にユウスケは眉を細めて一層淡々とした音声を送った。

 

『つまりお前は、俺がお前を裏切ってシアン・パイルの側についてお前を罠に嵌めようとしている。ウイルスの話は俺の作り話だと、そう言いたいのか?』

 

『......そうじゃない、そこまで言っていないだろう。』

 

黒雪姫の声からは明らかに動揺が伺えたが、ユウスケは大して気にせずに歩く。するとふいに黒雪姫の脚が止まった。

 

『まさかとは思うが、本気で言っているのか?』

 

黒雪姫はユウスケの制服の胸元を掴み、続けた。

 

『キミが《シアン・パイル》につけば、私はキミを狩る。全てのバーストポイントを奪うぞ。それでいいのか?』

 

『別にいいけど。』

 

『......キミは加速の力を永遠に失うんだぞ、それを理解した上で言っているのか?』

 

『どうぞご自由に。』

 

ユウスケは自分の顔を見上げてくる黒雪姫に無表情で答える。

 

『わかってんだろ?俺はお前の《子》だ。お前の駒で、道具で、従僕で、手足だろ。どうこうするのはお前の自由だ。』

 

『キミは..........やはり怒っているのだろう?私がキミにあんな風に接したから......それについては悪かったと思っている......

 

だが......私は不完全な人間なのだ、苛立ったり不安になったりもしてしまう......キミと、倉嶋君を見ていたら......』

 

『やめろ』

 

『......え?......な、なんで』

 

『さっきも言っただろ、俺はお前の《子》でしかない。命令されて、従うのがルールだ。いちいちそんな感情移入されたら迷惑なんだよ。

 

お前はただ俺に命令して、いらなくなったら狩ればいい。』

 

ユウスケがそこまで発すると同時に、黒雪姫のユウスケの制服の胸元を掴んでいた右手がゆっくりと離れていった。

 

あとは罵倒されて、愛想つかして消えるだけだな──そうだ、これでいい

 

俺とお前じゃ釣り合わない──

 

バシッ!!

 

左頬にジンジンと痛みが伝わってきて、ユウスケは黒雪姫に殴られたのだと気づく。

 

「..........バカ!!」

 

声の主は黒雪姫だ。顔をくしゃくしゃにして、両目からは絶え間なく涙が流れている。ただ呆然とユウスケを見ている。

 

「バカ..........バカぁ......バカぁ..........」

 

ユウスケは呆気にとられるしかなかった。今まで理性的で聡明な彼女が、まるで普通の女子のように泣きじゃくりながら──

 

黒雪姫は両手で涙を何度も拭うがとめどなく涙は溢れ出てくる。

 

 

 

 

直後、とんでもない騒音がユウスケの耳に響いた。

 

目に飛び込んできたのは車、赤い乗用車だ。

 

2人は同時にコマンドを唱えた。

 

「「バースト・リンク!!」」

 

初期加速空間に入った2人は今の状況を確認していた。

 

赤い乗用車が2人めがけて飛んできたのだ。ブレーキ音がしなかったあたり、おそらくリアルアタックをされたのだろう。

 

ユウスケはいつもの黒コートのアバターのフードを外して、運転手を確認した。

 

「こいつは......!」

 

なんとなく見覚えはある。他の中学の制服を着た不良だ。引っ越し前に倒した不良グループの残党だったと記憶しているが、そんなことはどうでもいい。

つまりは、逆恨みによる報復なのだ。

 

「くそっ......」

 

ユウスケは下唇を噛みながら言った。

 

「姫、俺が身代わりになる。お前は後ろにいてくれ。」

 

立ち位置では車の前にいるのはユウスケだ。ユウスケは不幸中の幸いだと考えた。

 

「ダメだ、ユウスケ君。おそらくあの禁断の技を使わなければ助からない。」

 

「禁断の技......って、お前まさか!!」

 

「ああ、あの技はレベル9以上でないと使えない。」

 

「やめろ!!あれを使えばポイントの99%が失われる!それ以前に使った本人もただじゃすまないんだぞ!!」

 

「わかっている......だがな、ユウスケ君。そうするしかない。

それに、今はまだ救いがある。」

 

「救い......?」

 

「ああ、キミにようやく言いたいことが言えるのだからな。」

 

黒雪姫はユウスケの左手を両手で優しく包むと自分の胸元にまで持って行った。

 

そして、

 

「ユウスケ君。私はキミが好きだ。」

 

「..........」

 

ユウスケは驚きのあまり、何も言えない。

 

「な......なんで俺を......」

 

「そうだな......キミが優しくて、格好よくて、いつも私に笑顔を見せてくれていたことも......今思い返せば理由などありすぎてわからないよ。」

 

黒雪姫は目に涙を溜めていたが、笑顔で嬉しそうに言った。

 

「生まれて初めてだよ、こんな気持ちは......気づいたのは昨日のことだ。キミが2年前に引っ越したとき私はとても悲しくなったよ......何度も泣いた。でもキミとまた会えたとき、とても嬉しかった......心に開いた穴が塞がっていったのがわかったよ。好きだとわかったのはそのときだろうな......」

 

「..........」

 

ユウスケは苦々しい顔で歯ぎしりをした。

 

「キミが倉嶋くんの話をして、親密な間柄だと知ったとき.....なんだか........苛立ってしまったよ、嫉妬していたんだ。

 

私がキミに恋していたから──」

 

「姫..........」

 

何も言えない。何を言っても悲しくなるだけだ

 

「..........ユウスケ君、さよならは言わない。私は信じているよ、キミとまた会えるのを。」

 

姫はそう言って手を離し、叫んだ。

 

「フィジカル・フル・バースト!!」

 

黒雪姫のアバターは消滅し、現実の黒雪姫の身体が動き出した。

 

今見ている映像は現実の1000分の1秒で動いている。つまり彼女は現実では通常の100倍で動いているのだ。これが禁断のコマンド。ソーシャルカメラの映像の黒雪姫がユウスケの身体を押した瞬間、ニューロリンカーのセーフティが働きフルダイブが解除される。猛スピードの体当たりにより身体は痛いが、ユウスケはそんなことはお構いなしに辺りを見渡すと、黒雪姫が身体から血を流して横たわっていた。

 

 

 

 

それから救急車がすぐに駆けつけ、ユウスケはただ病院の廊下で赤い手術中のランプを見つめている。

 

ユウスケはもはやどうしたらいいのかわからない。勝手に突き放して巻き込んで、こんな酷い目にあわせて。

 

「あの......」

 

ふいに誰かが声をかけてきた。若い女性看護師だ。

 

「なんですか?」

 

ユウスケは消え入りそうな声で相槌を打った。

 

「容態なんだけれど、臓器に損傷が多くて......今はなんとかして治療を続けています。」

 

「..........そうですか」

 

要するに今あいつは危険な状態にあるのか......聞きたくもないな。

 

「あの.......君はあの子の彼氏くん、よね?」

 

「..........」

 

彼氏........か、俺にそんな資格はないだろうな、少なくとも今の俺には

 

「これ、彼女の持ち物なんだけど......ごめんなさい、ほんとにうっかりみちゃって」

 

そう言われて受け取ったのは梅郷中の生徒手帳だった。うっかり見た?何をだ。

 

「受け取っておきます」

 

生徒手帳の中身なんて興味はない。俺はそれをポケットに入れ、再び待ち続けた。

 

それから数時間後、ようやく手術は終了した。先生の話では今後十二時間が峠だと言っていた。

 

俺はまたもや素っ気なく返した。

 

「もう帰って休んだ方がいいわ。明日にはご家族がどなたか来てくださるでしょうから....」

 

「それじゃあ......意味ないんだよ。」

 

「え?」

 

「俺は待つ。あいつを1人にしたくないんだ。」

 

「......そうね、じゃあ毛布持ってきてあげるから、ちょっと待ってて。」

 

「その......あいつが今どうなってるか、見れますか?」

 

「ええ、院内ネット経由で映像は見られるわ。」

 

すると、しばらくして動画ウィンドウが開いた。カプセルのようなベッドに寝かされた姫の姿があった。

 

「姫........」

 

正直、見ていて痛々しかった。現実を否定してやりたいくらいだった。しかし、急にあることに気づいた。

 

姫のニューロリンカーが装着されたままだ。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

「な、何?」

 

「あいつのニューロリンカーってまさか院内ネットに接続してるんじゃ........」

 

「もちろんよ。」

 

何だと!?だとすれば......

 

看護師がいなくなり、俺はマッチングリストを確認した。そこには、《クリスタル・スパロウ》と《ブラック・ロータス》の名前があった。

 

「ウソ......だろ」

 

最悪だ。姫が車にひかれたことは学校に連絡されている。有名人のあいつが事故にあえば瞬く間に噂は学校に広まる。そうすれば梅郷中の生徒のチユリの視聴覚情報を盗んでいるバーストリンカー《シアン・パイル》に知られるのも時間の問題だ。

 

しかもあいつは今、《フィジカル・フル・バースト》でポイントの99%を失っている。レベル9のあいつがレベル4のシアン・パイルに負ければポイント全損は免れない。今のあいつは意識が無いから狩られるしかない。

 

だとしたら梅郷中の生徒が現れればすぐに加速して、シアン・パイルを見つけ出して倒す。奴もポイント枯渇状態だ。俺が勝てば奴を全損に追い込める。

 

 

 

それから俺はずっと病院のエントランスを見続けている。バーストリンカーは今は最年長でも15歳だ。だからそれくらいの年頃の奴が現れれば迷わず加速する。それを続けてかれこれ10時間近く経過。

 

すると、誰かがエントランスから入ってきた。

 

「タク......」

 

幼なじみであるタク、黛拓武だ。すると、タクはエントランスで止まる。ああ、院内ネットに接続されるのを待ってるのか、マジメだな。

 

でもどうしたんだろう?見たところ別にどこか悪いわけでもないし、ケガや病気じゃなくて何か他の理由で来たのか?

 

 

ん?何か、他の理由?何か引っかかるな......というかチユリにバックドアを仕掛けて学内ローカルネットを経由するのなら梅郷中の生徒の必要があるのか?別に、全く違う誰かがやっていてもおかしくない。それにそもそもどうしてチユなんだ。あいつにバックドアを仕掛けやすいから、だよな。

 

だとするとシアン・パイルは梅郷中の生徒以外でチユと直結が可能なほど親しい人物と考えた方が──

 

まさか!!

 

次の瞬間、タクムは不敵な笑みを見せ口を開いた。それと同時にユウスケも全く同じコマンドを唱えた。

 

「「バースト・リンク!!」」

 

俺はマッチングリストを開き、今までにないスピードで《クリスタル・スパロウ》と《シアン・パイル》の名前を選び、対戦を申し込んだ。




さて、ようやくシアン・パイル戦!バトルは2回目ですね。張り切っていこうと思います。

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