アッシュ・ローラーとの戦いに勝利したユウスケは現実世界に復帰した。直後、
「やったな、クリスタル・スパロウ!見事だったぞ。」
横にいた黒雪姫が微笑んでいた。
「あぁ、久々の対戦で疲れたよ。正直途中で負けるかと思ったけどな。」
「そうだな、でも最後の必殺技を除いてもキミの実力はあるのだ。もっと自信を持て。」
フフンと上機嫌で笑う黒雪姫にユウスケはそうだな、と苦笑いして返す。
「......さてと、そろそろ場所を移すとするか。」
「ああ、そうだn」
「ユウ、ちょっと待って。」
ユウスケの言葉を遮るように、やけに聞き覚えのある声が入る。ユウスケは顔を強ばらせながらゆっくりと首を回して振り向くと、そこにはいかにも不機嫌そうな幼なじみチユリがいた。
「ち......チユ」
「ん?ああ、キミは確か昨日ユウスケくんと一緒にいた生徒か?」
「ユウに何をしてるんですか?何でユウを晒し者にしたりして。」
「ン......、少々意味がわからないな。まさか彼が私と話したり、行動を共にしていることを嫌がっていると言いたいのかい?」
「そうです。先輩にはわからないでしょうけど、私とユウは幼なじみなんですから。」
「ほう、ならば私の勝ちだな。私は彼の昔からの友人であり、今日彼に勇気を出して告白したのだ。これからデートだから邪魔するのは野暮というものだぞ。」
..........何だ、コレは
ユウスケは思考が3秒ほどフリーズしていた。
いやいや、俺昨日転校してきたばっかだぞ....これからどうしよう
「さて、では行こうか。ユウスケ君。」
黒雪姫はユウスケの制服の首のところを掴むと、颯爽と消えていった。
「だらさあ......さっきも言いましたよね姫様。」
「なんだその呼び方は?それにさっきも言ったとは何のことかな?」
なんでこんな嬉しそうな顔!?
「あれだと周りから、転校早々学校一の女子を口説いて、なおかつ付き合わずに遊んでる奴みたいになるだろうが。」
「何を言う。そんなことはないだろう。」
「ああ、だよな。」
「キミが私を口説いているのは初めて会ったときからだ。」
「状況をより悪化させるな!」
「まあ無駄話はさておき」
「無駄話で片づけるな!」
「実は、彼女──倉嶋君には少々確かめたいことがあってね。」
「チユにか?」
「ほう、キミと彼女は愛称で呼び合っているのか。」
「え?ああ、いやあいつは俺の幼なじみだから......それにあいつ彼氏いるから。」
「ふーん」
黒雪姫は口を尖らせて澄まし顔になる。ユウスケはそんな彼女の仕草をただただ疑問に思うだけだったが。
「で、何だ?答えられる範囲なら答えるけど。」
「そうだな、あの店に入るか。そこで話そう。」
そうやって、2人は近くにあったコーヒーショップに入った。
「さて、とりあえず直結だな。」
「とりあえずって......まあいいか。」
ユウスケは直結に抵抗を示したが、半ば諦めて自分のニューロリンカーにプラグを挿した。
『さてと、じゃあ前置きに入るが、キミは今の加速世界のことは知っているかい?』
『いや全然』
『......即答か。まあいい。今現在、加速世界は停滞中にある。』
『停滞?七大レギオンがか?』
『そうだ。二年前、王つまりは、レベル9erたちは領土不可侵条約を結んだのだ。加速世界の維持のためにな。』
『ああ、そうか。』
『私は、黒の王ブラック・ロータスは七王会議で不戦を訴える赤の王の首を跳ねた。だが、他には王は倒せずにリンクアウトした。私はそれ以来、加速世界最大の反逆者だ。』
『お前からネガ・ネビュラス解散のときに大体のことは聞いてたけど、そんなことがあったのか。』
ユウスケは右肘をついて溜め息混じりに言った。
『ふう、まあ前置きが長くなってしまったが、これからが本題だ。実はな、私は今まで王やその刺客を倒してきたわけではない。私は2年間ニューロリンカーをグローバルネットに接続していないのだ。』
『......マジかよ。不便だな。』
『だが、私の社会的身分ゆえにどうしても接続する義務のあるネットが1つある。』
『社会的......身分?』
ユウスケは首を傾げて不思議そうな顔をする。
『どうした?』
『いや、お前ってそんな偉いところのお嬢様だったっけ?って思って。』
『バカモノ。梅郷中の学内ローカルネットだ。』
『ああ、なるほど。』
『実は私は2ヶ月前、ローカルネットを通じて対戦を挑まれた。』
『対戦......?まさかお前』
『そう、そのまさかだ。私はアバターに学内ローカルネット用のものを流用していた。』
『ってことはまさか、《リアル割れ》か!?』
『そう、私は梅郷中では有名だからな。私は奴によるリアルアタックを恐れた。』
『で、何かされたのか?』
ユウスケは少し身を乗り出して尋ねる。
『何も......なかったよ。恐らく奴は私のポイントを独り占めするつもりなのだ。』
『本来のアバターに替えて返り討ちにしたらどうだ?』
『それは無理だな。それをすれば、奴は私のポイントを諦めて王たちからの報奨ポイントですませるだろうからな。』
『じゃあどうすんだ?』
『簡単だ。こちらも奴のリアルを割ればいい。』
『ん?じゃあさ、朝礼の時とかに加速すればいいんじゃないのか?奴も必ず学内ローカルネットに接続してるわけだし。』
『やったよ。そして......愕然とした。奴の名前はなかった。』
『休んでたとかは?』
『欠席者はいなかったよ。しかも、ドローで逃げ切った直後ですら奴の名前はなかった。奴は何らかの手段で対戦をブロックしているのだ。』
『じゃあ、何だ?俺への頼みってのは奴のリアルを割る手助け、ってことか?』
『まぁ、そういうことだ。ちなみに敵の名前は《シアン・パイル》レベルは4だ。』
『シアンって......確か青っぽい色だっけ?ってことは近接型か。てか、どうやってリアルを割るんだ?奴はマッチングリストに出ないんだろ?』
『その方法はある。ガイドカーソルだ。対戦開始直後のカーソルの位置を記憶しておけばその軌道上に生身の敵がいる。という理屈だ。』
『なるほど。試したのか?それ。』
『ああ、十数回の対戦を通してカーソルの軌道上にいた生徒を調べた結果、最もその可能性の高い生徒がいた。キミには次の襲撃を観戦し、カーソルの位置を記憶してもらいたい。』
『どういうこと?』
再度首を傾げる。これは別に難しいことでもないのだが。
『あのな、こんな風に2本の平行ではない線があれば、交点は1つしかないだろう?』
黒雪姫は両手の人差し指を交差させながら言ってみせた。
『ああ、そっか。難しいな。』
『まったく......』
『それはさておき、誰なんだ?その候補は?』
黒雪姫はスッとファイルを寄越した。ユウスケはそれをすぐに開く。
『..........!』
そこにあったのは親しい幼なじみの顔だった。
『倉嶋....千百合..........チユが......シアン・パイルだと?』
ユウスケは驚きを隠せなかったが、すぐに黒雪姫に向き直った。
『いや、これはないだろ!あいつは確かに口うるさかったり、お節介焼きだけど、お前をしつこく付け狙ったり、ポイントを独占しようだとか、そういう奴じゃあ......』
『やけに肩入れするんだな。確かにキミの言い分はわかるが、彼女が先程私に敵意を見せたのは彼女がシアン・パイルでキミを《子》にする。あるいは引き抜こうとしていたが、私に奪われたから突っかかってきた、と考えれば説明がつくだろう。それに、倉嶋くんには彼氏がいるのだろう?』
『いや、シアン・パイルは対戦ブロックをしている時点でかなりの切れ者のはずだろ?だったら自分からリアル割れのリスクを負うなんて.....』
『キミが幼なじみに感情移入するのはわからなくもないが、彼女が幾度もカーソルの軌道上にいたのはどう説明するのだ?』
『..........ハァ、わかった。』
『?』
『あいつと、直結してくる。そして、あいつはシアン・パイルじゃないってことを確かめてくる。』
会話が殆どですね(笑)いつもより区切りまでの文章が多いと思ってたら結構な長さになってました。多分、チユとの絡みである次回は短いです。
それでは、これからもよろしくお願いします。